ビバ!イタリア ご機嫌なアート空間 ペギー・グッゲンハイム(1)
アカデミア美とサルーテ教会のちょうど真ん中あたりにシュルレアリスムや抽象美術の傑作が揃っているペギー・グッゲンハイム・コレクションがある。10年前に訪問し200%感激したので、また出かけた。
前回、図録に載っている作品のうち展示されてなかったものがあり、いつかリカバリーをしたいと願ってきた。その機会がやっとめぐってきたというので、館に入る前から少し興奮気味。展示室は6室くらいで、各部屋はそれほど広くない。ここはペギー・グッゲンハイム(1898~1979)が生前暮らしていた館なので一般的な美術館とは違って、とてもくだけた気分でアートを楽しめる。
その作品がなんとも贅沢。ビッグネーム作家の一級の絵画や彫刻がずらっとある。また、建物の外のテラスや庭にもマリーノ・マリーニの‘町の天使’とかジャコメッティの‘レオーニ宮の貴婦人’などの彫刻が展示されており、館全体がコンテンポラリー・アートを満喫できる展示空間になっている。
追っかけリストの筆頭がエルンスト(1891~1976)の‘花嫁の着付け’。18年前手に入れた画集にこの絵が載っていた。シュルレアリスム作品の鑑賞をルネサンス、印象派同様、ライフワークにしているのだが、ダリ、ミロ、マグリットに較べるとエルンストへの接近度は半分。でも、この絵にはすごく惹かれている。
これはよくみると怖い絵。ボスの‘快楽の園’を彷彿とさせるような魔術的な雰囲気が漂っている。目の覚める真っ赤なマントは不思議なことに鋭い目と嘴をした猛禽のものでもあり、その下で小さな顔をちょこんと出している裸婦のものでもある。裸婦の手が顔にくらべて異様に大きいのが不気味。
先が尖った槍をもった左の白鳥人間が威圧的な構えをしている。この絵で唯一官能的な美を感じさせてくれるのが蝶々の羽を広げたような髪形をした女。だが、うっとりするのはほんの数秒。女の足元に目をやると、腹が大きく膨らみオッパイが4つあるブロテククな化け物にまた心がザワザワする。
ミロ(1893~1983)の‘オランダの室内Ⅱ’もみたくてしょうがなかった絵。これはミロが1928年オランダを訪問したとき魅せられた17世紀の画家ヤン・スターンの‘猫の踊りの稽古’(アムステルダム国立美)に着想を得て描いたもの。浮世絵で例えると春信の見立絵と同じ発想。
原画もおもしろい絵で、男の子が猫を二本足で立たせ、女の子の吹く笛に合わせて躍らせている。左では幼な子が腹を抱えて大笑い、また犬も楽しそうに吼えている。ミロ流のバリエーションでは、最も視線が集中するインパクトのある顔は幼児からおっさん風になり、笛を吹く少女はよじれた青の鉄アームに変わっている。
ミロは原画の写実的に描かれた対象はどれも平面的に転換しており、下の横向きの犬もだいたいイメージできる。では、無理やり踊らされている猫はどこ? 踊っているようには見えないが青のアームの隣にいるのがそれ。白と土色と黒で描かれ、尻尾がみえる。ユーモラスで遊び心にあふれるミロの絵をみると心が明るくなり元気がでる。
‘液状の欲望の誕生’はダリ(1904~1989)の画集に載っている代表作のひとつ。目を奪われるのが強烈な色彩と穴があいたり、表面を穿たれた意味不明の大きな岩のようなもの。人物は中央に抱き合っている男女?裸の人物はその筋肉からみて男だが、胸には豊かなオッパイがついている?左にはくぼみに入ろうとしている裸の男がおり、右では顔を手で隠した女が皿のなかへ瓶の水を注いでいる。
ダリの絵を理解しようてなんて端から思ってない。ダリの超デッサン力とやわらかくてぬめっとした触感のマチエールが楽しめればそれで十分。いい絵をみた。
| 固定リンク
コメント