ビバ!イタリア ほっとするフラ・アンジェリコの‘受胎告知’!
27年ぶりにサン・マルコ美を訪れた。ここにあるフラ・アンジェリコ(1395~1455)の‘受胎告知’は美術の教科書にも載っている有名な絵なので、前回息を呑んでみたことをよく覚えている。でも、ほかの絵についてはちゃんとみたのかどうかもあやふや。画家の画集をみるたびに、もう一度しっかりみなくてはいけないと思っていた。
その機会が巡ってきたので、気を引き締めて教会へやってきた。どこが入り口か迷っていると、ツアー参加者でわれわれ同様、名所観光をパスして美術館めぐりをされているHさんに出会った。彼女も大の美術好きだから、話がはずむ。で、一緒に回ることにした。
一度来たことがあるから中に入れば記憶が戻るだろうと思って進んでいくが、まったく忘れている。昔の記憶がトレースできたのは‘受胎告知’がある2階へあがる階段だけ。この階段の真正面に‘受胎告知’がある。久しぶりに会いに来ました、という感じ。天使とマリアの姿をみるとほっとする。
同じテーマで描かれた絵は数え切れないほど沢山あるが、受胎告知というとこの絵をすぐ思い起こす。まさに‘THE 受胎告知’。とくに惹きつけられるのが鮮やか色で羽一本々まで精緻に描かれた天使の翼。細いゴールド線とグラデーションをきかせたえんじ色、薄青、黄色がえもいわれず美しい。どうでもいいことだが、マリアをみると何故かアグネス・チャンを連想する。
修道士が暮らした僧房にアンジェリコが描いた絵を今回は1点々じっくりみた。このキリストの生涯のなかで再会したようなそうでもないようなのが第1僧房の‘われに触れるな’。身をかわすキリストと悔い改めたマグダラのマリアのポーズが目に焼きつくが、それと同時に釘づけになるのが背景一面に咲く草花と中景・遠景の木々。実に細かく描写されており、‘受胎告知’の天使の後ろと較べても花の数が多く、大きくはっきり描かれている。
ドキッとするのが第7僧房の‘キリストの嘲笑’。空中にキリストに唾をはきかける男の顔と手が4つ浮かんでいる。これは一体何なの?マグリットやクレーのシュールな絵のなかにこういう風に描かれた手がある(拙ブログ05/4/25、06/7/4)。あるフラ・アンジェリコ本にはアンジェリコはキリストへの平手打ちの暴行を写実的に描きたくないから、このように象徴的な表現にしたとあった。なるほどネ。この表現をマグリット、クレーはひょっとしてみたのかも?
もうひとつ収穫があった。記憶がまったく飛んでいるオスピツィオの間(1階入ってすぐの部屋)に飾ってあった‘最後の審判’。目が点になるのが画面右の地獄の世界。最下部では悪魔の親分が口を大きく開けて、人間を食べている。その上では鉄の鍋に入れられた者たちが火に炙られている。
こういう西洋の地獄絵は一度、サン・ジミニャーノでみたことがある(06/5/12)。‘受胎告知’のような静謐でやさしい絵を描いたフラ・アンジェリコがこんなおぞましい地獄絵もてがけていたとは思ってもみなかった。
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