これぞ菊池コレクション 藤本能道の色絵磁器!
展覧会へ出かけるとき、内容に関する情報はいつもチラシのみ。ひたすら作家の作品への美欲(My造語)をふくらませている。大倉集古館と目と鼻の先にある智美術館で現在行われている‘藤本能道展’(10/31~4/18)は期待のやきもの展。
藤本能道(よしみち)は色絵磁器の名手(1986年人間国宝)。その作品は近現代陶芸展でよく見るので、どういう特徴をもったやきものかはおおよそインプットされている。でも、回顧展に縁がなかったから作家との距離は近くはなかった。その関係がようやく解消された。
菊池コレクションのなかで一番の自慢がこの藤本能道の色絵磁器。今回、56点でている。作風は1970年前後から1990年までのものと最晩年の1990年・91年では大きく変わる。上と真ん中はこれまでよく見かけた写実的な表現のもので、下は写実を離れ幻想的な印象を与える作品。
藤本の色絵が好きなのは花鳥画をみているような気分にさせてくれるから。絵のような絵付けというと‘そういうやきものはどこにでもあるのでは?’と思われるかもしれないが、藤本のようなものはそうないのである。
上の長四角筥はぱっとみると花鳥画そのもの。川の上を飛ぶ一羽の鳥を俯瞰の視点で描いている。川の流れを斜めにして鳥を左右の草木ではさみこむように配置する構成と岩のまわりにできるリアルな白い泡が心を揺すぶる。
色彩で目を楽しませてくれるのが翡翠の青。真ん中の六角筥や扁壺に描かれた色鮮やかな翡翠をじっとみつめていた。
扁壺は10点あるのだが、形がどうもしっくりこない。で、お気に入りの筥を重点的にみた。とくに惹きつけられるのが画画中央、横にのびる枝にみみずくがとまっている大きな八角筥。また、2羽の鴉が寄り添っている四角筥にも魅せられる。
1990年までの色絵が自然のいのちを愛でる写実的な描写だったのに対し、90年・
91年の作品はまさにサブタイトル‘命の残照のなかで’制作されたもの。藤本は癌におかされ1992年の5月、73歳で亡くなる。
作風はがらっと変わり、辰砂の赤や金が多用される。下の六角筥では透き通る白磁に赤い花がひろがり、そこに金色の昆虫や蝶が戯れている。隣の扁壺は吹き上がる赤い炎のなかで蛾が舞う。
ここが所蔵する藤本作品は質量ともにすごい!展示室が新しくなったのはこの回顧展のためだった。わざわざアメリカのデザイナーに依頼するほどの力の入れようだが、藤本とコレクター菊池智の交友を考えればその気持ちはよくわかる。年が明けたらまた足を運ぶつもり。
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