とても渋い柴田是真の漆×絵!
江戸末から明治初めの漆芸の第一人者だった柴田是真(1807~1891)の漆工や漆絵をまとまった形でみたいと願っていたが、ようやくそれが実現した。三井記念美では今、アメリカからの里帰り作品を中心にした‘柴田是真の漆×絵’(12/5~2/7)が開かれている。
作品の数はエドソンコレクション66点に国内の20点が加わり全部で86点。これに
1/4ないしは1/13から登場するのがプラス14点。是真の作品を見る機会はこの先
20年くらいはないだろうから、年が明けてもう1回出かけようと思っている。
過去、是真の絵や漆器と縁があったのはほんの数回。1/13から展示される皇居宮殿の杉戸絵(三の丸尚蔵館)は10年前あった‘皇室の名宝展’で、東博蔵の‘蓮鴨蒔絵額’(通期展示)は03年の‘工芸の世紀展’(東芸大美)で遭遇した。
紙や絹の上に色漆で描く漆絵を最初にみたのは新潟の敦井コレクション。20年くらい前のこと。油絵のような絵肌と黒っぽくて茶褐色の色合いはとてもインパクトがあった。そして何よりも惹きつけられたのが余白のとり方と巧みな構図。2度目は山種美。
今回の収穫は漆器。これほどすばらしいものがあったのか!というのが率直な感想。とくに息を呑んで見たのがエドソンコレクションの‘柳に水車文重箱’。コレクションのなかでも群をぬいていい。視線が集中するのが重の中央に流れる海青波の文様。文様そのものは慣れ親しんだものだが、この波文の描き方ははじめてみた。
これは青海波塗と呼ばれるもので、絞漆を鋸歯の箆で掻いて表現する波には光の加減で白黒の濃淡がつき、一般的な様式化された青海波とはちがったフォルムになっている。
同じくエドソンコレクションの黒地に朱色が目に飛びこんでくる‘稲穂に薬缶角盆’(真ん中)にも魅せられる。黄金色をした稲穂はボリューム感たっぷりで、注ぎ口には虫や塵が入るのを防ぐため藁が詰められている。ぼやっとしていると見逃すのが薬缶の堤手に彫られたキリギリス。どれもこれもすごい技である。
いくつかある印籠にはその意匠にうっとりするのとギョッとするのが混じっている。見てのお楽しみ!また、‘だまし漆器’もあるのでお見逃し無く。
漆器に較べれば目がすこし慣れている漆絵は下のユーモラスなカエルの絵に足がとまった。これは山種美蔵の画帖‘墨林筆哥’で2度目の対面。一点々味わい深い花鳥画と風景画なのだが、赤や黄色がでてくるとはいえ画面の大半は黒と茶褐色で占められているから、ブルーな気分になる人がいるかもしれない。好みが分かれるところである。
是真の作品は金銀粉がふんだんに使われた華やかな金蒔絵ではなく、渋い、どちらかというと通好みの漆芸。たまにはこんな渋い蒔絵や漆絵を見て‘黒や茶色の美’に浸るのも悪くない。すごく印象深い展覧会だった。
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