西洋画・日本画比較シリーズ!バッラvs平治物語絵巻・加山又造
西洋画でも日本画でも、ときどきびっくりするような描写に出合うことがある。今日はその絵を軸にして、意外な類似性をお見せしたい。
★バッラの‘綱でひかれた犬のダイナミズム’:バッファロー、オルブライト=ノックス美(上)
★平治物語絵巻(信西巻):静嘉堂文庫(真ん中)
★加山又造の‘駆ける’:個人(下)
未来派の絵が好きで、3年前ローマの国立近代美にあったバッラ(1891~1958)やボッチョーニ(1882~1916)らの作品をむさぼるようにして見た(拙ブログ06/5/27)。バッラの犬の絵(1912)はまだ本物をみてなく、図版で眺めているだけなのだが、とても惹かれている。
画面には犬だけでなく、上にドレスを着た女性の下半身もみえ、犬と女性の足の動きが連続写真のように描かれている。疾走する馬の運動を分解写真でみせられると、その躍動感がより強く伝わってくるように、この犬も女性もかなりのスピードで前に進んでいることがうかがえる。
問題の絵は真ん中。これは3つある‘平治物語絵巻’の‘信西巻’(重文)。国宝のものが東博にあり、ボストン美にもある(06/2/20、08/8/8)。もともとは15巻の長編大作で、13世紀後半に制作されたと考えられている。まだ見てなかった‘信西巻’が静嘉堂文庫で展示されたのは4年前。
美術本に載っている長刀に掛けられた信西の首が見れると思って、足どりも軽く入館した。ところが、展示してあったのはお目当ての場面ではなく、真ん中の公家の牛車のところ。巻き替えがあるとは予想もしてなかった。当てが外れたと溜息まじりでみていたら、目の前にすごい描写があった。
ぱっと見るとこれはあまりおもしろくない場面。牛車が休憩している。だが、手前右の牛車をよくみてもらいたい。牛が猛然と右のほうへ進もうとしているのである。牛車が動いていることは大きな車輪の内側に描かれた3つの黒い輪をみるとわかる(クリックした拡大図でどうぞ)。絵師はここで牛車が走り出すところまでの動きを異時同図法の手法で描いているのである。
車輪が勢いよく回転する様をスポークの黒い輪で表すのをみて、すぐバッラの犬の足を連想した。未来派の画家たちが表現しようとしたスピード感が日本の絵巻のなかでこんな風に描かれていたとは!これには200%参った。
わが愛する加山又造(1927~2004)は若いころ相当未来派にのめり込んだようで、馬の走る姿を連続的に重ねたフォルムで表現した‘駆ける’(1955、部分)は日本のバッラを思わせる。
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