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2009.06.16

いまだに国芳の寄せ絵はアンチンボルドの影響を受けてないと思っているの?

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歌川国芳を好きになって20年くらいになる。96年、97年と二度あった回顧展は迫力満点の武者絵や視点が巧みな風景画、そしてユーモラスな戯画を夢中になって見た。目に焼き付いている絵のなかで、いつも特別な思いでみているのが裸の人を寄せあつめて顔や手にしたおもしろい人物画。

この寄せ絵は‘だまし絵展’にも目玉のひとつとして展示されている。なかでも、‘みかけはこわいがとんだいい人だ’(真ん中の画像、Bunkamuraでは展示なし)が一番おもしろい。この絵の存在を知ったころは、国芳はアンチンボルドの‘四季・夏’(上)を真似たのではなく、独自にこの絵を発想したと思い、この考えを長く持ち続けていた。

ところが、04年末、東芸大美であった‘HANGA 東西交流の波’を見て、国芳の独創説を捨てた。それ以来、国芳はかぎりなく高い確率でアンチンボルドの絵に霊感をうけて、寄せ絵を描いたということを200%確信している。そのように強く導いてくれたのはこの展覧会に出品された国芳の‘唐土廿四孝・ゆきんろう’を解説された東芸大美教授の新関公子氏。

国芳のこの絵は新関氏が載せておられるダヴィッドの有名な絵‘サン=ベルナール峠を越えるボナパルト’(拙ブログ06/6/20)とそっくり。また、同じシリーズの絵でカラヴァッジョの‘ナルシス’(2/11)やティツィアーノの‘聖愛と俗愛’(06/5/22)を想定したとみられるものがあるという。

そして、‘アンチンボルドを連想させる<人をばかにした人だ>などの作品もあり、西洋画(おそらく銅版画であろう)を数百枚傍らにおいて自慢していたという飯島虚心<歌川国芳伝>の記述は、根拠のないものではない’と書いておられる。まさに目から鱗が落ちる感じだった。

さらに、国芳が西洋画をもとに浮世絵を描いていたことを強力に裏付ける話が08年2月、新日曜美術館にでてきた。神戸市立博物館学芸員の勝盛典子氏が国芳が手本にした本を発見されたのである。それは17世紀のオランダで出版された旅行家ニューホフの‘東西海陸紀行’(1682年刊)。

下の絵は‘忠臣蔵十一段目夜討之図’であるが、これはこの本にでてくる当時のバダビア(現在のジャカルタ)の町を描いた挿絵の構図とよく似ている。国芳は原画のやしの木を雪の積もった松の木(画面右の真ん中)、バダビアの有力者と思われる人物を屋敷の前で指揮をとっている大石内蔵助に変えている。この絵だけでなく、‘赤穂浪士の肖像’でも、バダビアのジャングルで毒矢を吹いている男のポーズをまねて浪士の一人を描いている。

番組にゲストで出演していた国芳好きで有名な小説家、高橋克彦さんは‘私も驚きました。これまで夜討之図はリアルな江戸の町だと思っていたが、国芳にだまされました!’と語っていた。そして、番組の冒頭に紹介された国芳の言葉がずしんときた。
‘西洋画は本当の絵だ。自分はいつもこれを習おうと思っているのだが、まだ、それができない’

東京美術から08年3月に刊行された人気シリーズ‘もっと知りたい歌川国芳’(著者悳俊彦・いさおとしひこ、洋画家、国芳コレクター)でも、悳氏がこの言葉を引用し、‘東西海陸旅行’の銅版挿絵が大量に使われていたことにもふれている。

専門家によるこうした地道な調査を通して、寄せ絵がアンチンボルドの絵の影響を受けて描かれたものと考えてもおかしくない状況になっているにもかかわらず、‘だまし絵展’の図録には素人美術愛好家が思うようなことが書いてある。

‘同種の作品の名手アンチンボルドとの関係が話題となることがある。時代的にはアンチンボルドが先行するが、その作品に国芳が出会っていたのだろうか。あったとすればオランダから輸入された本からであろうが、今のところ両者を結び付けるものは見つかっていないようである。ここは、国芳の戯画における発想の豊かさに敬意を表し、独自に考案されたものと考えたい’(名古屋市美、神谷浩氏)。

神谷氏は西洋画の専門家で日本画は知らないのであろうが、それにしてもこれはひどい! これでは誰とはいわないが20年前から美術史家がいっていたのと変わらない。しかも、日本人の独創性コンプレックスの裏返しみたいな情緒的な感想そのまま、美大や大学の文学部でちゃんと美術史を学んだ学芸員の文章とはとても思えない。

神戸市博の女性学芸員が立派な仕事をされ、この驚きの新事実を1年前NHKが全国放送し、また有名な国芳コレクターがそれにも言及されているのに、これらの最新情報を無視して(学芸員なのだからこの情報は知っているはず)、あるいはまったく知らず(だったら、これを担当するのはお門違い)、こんなことを平気で書いている。図録を読んだ瞬間、あきれてひっくり返った。日本のだまし絵は散々だった!

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コメント

驚きました。赤穂浪士の討ち入りの絵の乾いた感じは、オックスフォードの東南アジアシリーズに登場する当時の風景画や建物の絵に似ている、と感じてましたが、それ以上のことは全く知りませんでした。
江戸時代といえども、世界に開いた唯一の窓(出島)などからかなりのものが流れ込んできていたと言うことなんでしょうか。
司馬江漢の絵を見ても、何故かデジャブを感じていたのですが、世界は思っているよりも狭いんですね。
素人の浅はかな感想で、申し訳ありません。

太田美に行ってみたら、月岡芳年特集で感激しました。これは、いづつやさんがおっしゃるミューズが合わせてくれたんだと思います。図録を眺めてへらへらしている毎日です。

投稿: ミネラル | 2009.06.21 22:15

to ミネラルさん
国芳はわれわれが思っている以上に熱心に
西洋画の描き方を取り入れ、表現の幅を広げ
ようとしたのだと思います。

日本の浮世絵がゴッホ、ゴーギャン、ドガ、
ロートレック、マネ、モネらに強い衝撃を与
えたように、北斎、広重、国芳にとって、
西洋画の描き方が新鮮だったのではないで
しょうか。

投稿: いづつや | 2009.06.22 17:55

来年は、国立西洋美術館で『アルチンボルド展』があるそうです! まだ内密情報らしいですが、日本でアルチンボルドがまとめて見られるのは、画期的ですね。

投稿: ケンスケ | 2016.10.26 22:20

to ケンスケさん
それはビッグな話ですね。日本でアンチンボルト展
とは。西洋美は老舗のプライドで東京都美、国立新美
に負けられないという意識が強いのでしょうね。

西洋画は来年もすごいですね。ブリューゲルの
‘バベルの塔’、ミュシャの‘スラブ叙事詩’、そして
アンチンボルト、ワクワクしますね。

投稿: いづつや | 2016.10.27 00:08

最近知ったのですが、大阪市はアルチンボルドの『ウェイタ―』という作品を購入していたようです!

artrip museum という大阪新美術館の準備室にあるそうです。

http://www.city.osaka.lg.jp/contents/wdu120/artrip/pickup/pickup_201411.html

ほかにもartrip museum は、モディリアニや佐伯祐三など充実した作品があるようですね。いづつやさんは、行かれたことがありますか。

投稿: ケンスケ | 2016.11.05 19:26

to ケンスケさん
大阪新美はいつできるのですかね、大阪のビルの
一角にあるのは知ってますが、まだ縁がありません。

作品はこれまでせっせと集めてきましたね、モデイ
リアーニ、キスリング、福田平八郎、そしてアンチン
ボルトの‘ウエイター’、この絵は2014年の8月、
Bunkamuraであっただまし絵展でみました。

投稿: いづつや | 2016.11.06 01:43

Bunkamura のだまし絵展に行ったのですが、どうしてアルチンボルド作品を見た記憶がないのか、と思ったら、前期後期とあったようですね。私は、見逃してしまいました!

投稿: ケンスケ | 2016.11.06 08:07

to ケンスケさん
だまし絵展は1回目が2009年6月にあり、
パート2が2014年8月にありましたが、こちらは
みられなかったのでしょうか?このとき‘司書’と
‘ウエイター’の2点が展示されました。

投稿: いづつや | 2016.11.07 01:17

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