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2009.05.01

日本の美術館名品展は夢の競演?

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東京都美で開催中の‘日本の美術館名品展’(4/25~7/5)を見た。テーマ設定型の企画展にはあまり関心がなく、ひとりの作家の回顧展とか‘自慢のお宝見せます!’という美術館名品展のほうが目に力が入る。だが、この名品展への期待値は普通。

チラシは東京都美のいつもの悪い癖で‘夢の競演 公立100館のコレクション’、‘選りすぐりの名品を一堂に公開します’などPRしまくり。がっかりするような展覧会では決してなく○だが、美術館が宣伝していることのまあ半分がいいところ。夢の競演にわくわくするほどの名品がそれほど沢山ある?という感じ。

公立美術館のネットワーク組織、美術館連絡協議会というのがあってその創立25周年を記念するイベントあるいはお祭りと思ったほうがわかりやすい。だから、数はやたらと多い。協議会から美術館へ‘ご自慢の名品を出品してください。こちらからは指定しませんので、貴美術館の選択にお任せします’という業務連絡メールが入り、100の美術館が応じ、220点が集まったのだろう。

テーマがあるわけではないから、美術館側も楽といえば楽。こういうNO指定の場合は美術館の顔になっているような絵は絶対出さない。だから、夢の競演にはならない。いくつか例をあげると、名古屋市美からの出品はユトリロの‘ノルヴァン通り’で、有名なモディリアーニの‘お下げ髪の少女’ではない。

宮崎県近美にはマグリットの‘白紙委任状’とか‘現実の感覚’といった一級のシュルレアリスム絵画があるのに、でているのはこれではなくてシニャックの絵。シニャックもいい絵だが、やはりマグリットを見たい。山梨県立美だって、‘ミレーの種まく人はとてもとても、ポーリーヌ・V・オノの肖像で回答しとこう’といった具合だろう。

日本の美術館で西洋絵画のいい絵があるのは大原美、ひろしま美、ブリジストン美、国立西洋美、ポーラ美、損保ジャパン美、大阪市立近美準備室、村内美、川村美。また、日本の洋画コレクションで質の高さを誇るのは東近美、東博、ブリジストン、ウッドワン。資金力に制約のある公立の美術館が人気の西洋画を手に入れるのはそう簡単なことではなく、有名な美術館にくらべると数が少ない。

だから、こういう記念展のとき上にあげたような名画がでてくると、この展覧会は気合いが入っているなということになる。だが、実際は予想していた通り。手元にある美術本をいろいろみてみると、100の美術館のうち規模の大きなところでランキング1位の絵を出品したのは少ないのではないか。あまり期待しすぎてもいけないのだが。

が、サプライズの絵が二、三あった。その筆頭が上のバーン=ジョーンズの‘フローラ’。これを所蔵しているのは郡山市美。最近、読み終えた‘バーン=ジョーンズの芸術’(ビル・ウォーターズ著、晶文社、1997年5月)にこの美術館が‘アヴァロンのアーサー王の眠り’のための大型スケッチの所有者としてでてくる。油彩までもっていたとは!どういう縁でこの絵を手に入れたかは知らないが、とにかくすばらしい。これまで日本で見たラファエロ前派の作品は西洋美にあるロセッティの‘愛の杯’しかないから、感心しながら見ていた。

もう一点、初見の絵で足がとまったのがある。エゴン・シーレの大きな絵‘カール・グリュンヴァルトの肖像’(豊田市美)。これは相当の資金を要したであろう。再会を楽しんだのは日本にあるミロ作品で一番いいと思っている福岡市美蔵の‘ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子’、イブ・クラインの‘人体測定ANT66’(いわき市美)、バルラッハの‘母なる大地Ⅱ’(愛知県美)、ブランクーシの抽象彫刻‘空間の鳥’(滋賀県近美)。

日本画は例によって前期(4/25~5/31)、後期(6/2~7/5)に分けて展示される。西洋画に較べると当たり前のことだが、質のいいのが揃っている。でも、秘かに期待していたのは全部ダメだった。普段は行けそうにない佐久市近美にある横山操の‘雪原’とか鹿児島市美蔵の西山英雄作、‘噴煙’とか和歌山県近美の稗田一穂作、‘帰り路’など。やはり、どこも西洋画同様、自慢の代表作は出したがらない。

真ん中は竹内栖鳳の‘絵になる最初’(京都市美)。ここへ足を運んだのは実はこの絵と対面するため。女性画を見るのは絵画鑑賞の大きな楽しみだから、西洋画でも日本画でも女性を描いた絵には目がない。この左手で顔を隠すしぐさをする女性が気になって仕方がなかったが、これまで展示替えとかで縁がなかった。やっと会ったが、こういう女性はあまりじっとはみれない。でも、それで満足。

下の小杉放庵の‘金太郎遊行’(栃木県美)と遭遇したのは幸運だった。出光美にもいい金太郎の絵があるが、これにもすごく魅了される。下期に狩野芳崖のお目当ての絵がでてくるので、また出かけるつもり。

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コメント

こんにちは。
せっかくのGWに、とっておきの一枚を
東京に持って行ってしまったら、その間の集客は
どうなるんだと考えた美術館もあったのでしょうね。
その辺の各館内でのやり取りを想像するのも楽しいです。

投稿: 一村雨 | 2009.05.03 05:54

to 一村雨さん
おっしゃる通りの心配を美術館はしたでしょうね。

この展覧会を知ったとき、すごく期待してました。
地方の美術館にある名画が現地に出向かずに
見れるのは有難いことですから。

でも、出展リストをみて、その願いはもろくも崩
れました。手元にある美術本をみる限り、‘それ
よりはいい絵があるでしょう、それを出して下さい
よ!’という感じです。

例えば、西洋画で上に書かなかった館自慢の絵を
あげてみますと、

★岩手県美 萬鉄五郎の‘赤い目の自画像’
★山形美  ルノワールの‘幼年期’(拙ブログ05/11/11)
★宇都宮美 マグリットの‘大家族’(07/10/27)
★神奈川県近美 古賀春江の‘窓外の化粧’
★横須賀市美 中村つねの‘少女’

★愛知県美 クリムトの‘黄金の騎士’
★豊田市美 クリムトの‘オイゲニア・プリマヴェージの肖像’
★岐阜県美 ルドンの絵 or 山本芳翆の‘浦島図’
★島根県石見美 藤田嗣治の‘婦人像’
★広島県美 靉光の‘帽子をかむる自画像’
★福岡市美 ダリの‘ポルト・リガトの聖母’

折角の記念展ですからこうした名画を展示してほし
かったのですが。GWが入りますから開催の時期も
悪いですね。

投稿: いづつや | 2009.05.03 11:24

始めまして。凄い知識の量に圧倒されてます。そう言う方に対してコメントを書くなどおこがましいのですが、私のような美術のど素人が感じたことをちょっと書きます。

この展覧会に前期・後期と行ってきました。一流品が展示されていないとのことですが、私にはそこまで判らなくて、それでも十分に楽しめました。好きな作品はいくつか見つかりました。

紫禁城」とか「羊を抱く男(シャガール)」。後者は、丁度50mmか100mのマクロレンズで撮った写真みたいで好きです。

紫禁城は、何度も仕事でいった北京を思い出すのでこれまた好きですね。北京にはラマ寺もあるのでそっちを誰か描いてないのかなとも思いました。

素人には素人なりに役に立つ展覧会というか、これだけたくさんの画家が展示されているおかげで、別世界を知った気分です。もっと見てみよう勉強してみようと言う気になりました。

実際、前期作品を見たあとから数ヶ月間に、出光、三井、国立博、畠山、静嘉堂、泉屋博古、大倉集古など他もたくさん見て回りました

要は、ぐるっと2009の切符を買ったら次々と見たくなったという感じです。三の丸もいったし、各美術館では海外の友人達にいいお土産をお手頃価格で買えたのも嬉しかったです。

ということで、この展覧会前期を見たあと、ネットで情報を探しているうちにこちらのサイトを見つけ、この春から初夏に開催中の展覧会を評価されたいづつやさんの記事がとっても勉強になりました。それを言いたかったです。

有難うございます。今後も楽しみに読ませていただきたくお思っています。もし、西洋美術や日本美術でお薦めの雑誌や本がありましたら、いつかご紹介いただけると嬉しいです。

美術のことなどさっぱり判りませんでしたが、ローマ旅行の要としてボルゲーゼ美術館は4年前に行きました。中に入って圧倒され虜になりました。また、あの都は街全体のいたるところが工芸品であり美術品ですね。

長文失礼いたしました。

投稿: ミネラル | 2009.06.02 22:54

to ミネラルさん
はじめまして。書き込み有難うございます。

日本の美術館名品展に対する期待値が高すぎた
のかもしれません。私が知っているかぎり、
公立の美術館にはもっといい西洋画があります。

記念展なので、そういう目玉となるような作品
を見たかったのですが、当てがはずれたという
感じです。でも、入館される方はそれぞれの
楽しみ方がありますから、聞き流して下さい。

梅原龍三郎の紫禁城の絵は東近美蔵のものと同様、
とても気に入ってます。

ボルゲーゼ美には本当に質の高い作品がありますね。
カラヴァッジョの絵やベルニーニの彫刻を見れたのは
一生の思い出です。

これからもよろしくお願いします。また、気軽に
お越し下さい。

投稿: いづつや | 2009.06.03 17:46

こんにちは。楽しく読ませていただきました。この展覧会のことを絶賛してる人が多く?、え~と思っていた私の感性がおかしいのかなと思っていたのですが、同じことを思ってる方がいて嬉しかったです。わかるわかるその通りと読んでて思いました。

出品に関しては協会からこれ貸してとお達しはあったそうです。やだっていうのがきっと多かったから今回のラインナップになったのでしょうね。叶っていない一例を言うとルドンコレクションで有名な岐阜県美術館からなぜルドンがないの?と思っていたのですが、ルドンの「眼をとじて」はこの展覧会の要請の前に横浜美術館のフランス絵画の19世紀の方に出品が決まっていたので貸し出せなかったとのことです。そういったかけひきも裏にあったと知るとまた面白いですね。でも他にもルドンあるだろ!とは思いましたが。
基本的にその美術館が収集の基本にしてるのをもっと忠実に集めて欲しかったなと思いました。

愛知のクリムト、名古屋のモディリアーニ、宇都宮のマグリットとか期待してたんですけどね。

一世一代?の展覧会なのですから貸し出す方も自慢の作品をどうだって感じで送り出すことはできなかったのですかねぇ。年中常設されてる作品を少し留守にさせても別にいいと思うんですけど。埼玉県立近代美術館はモネの積み藁を近場でもしょちゅう貸し出していてえらいと思います。一昨年は国立新美術館のモネ展、去年は国内をずっと巡回もしてたし。近県だと貸さない美術館多いですからね。出し惜しみすんなと言いたいです。コンディションが悪ければ話は別ですが。

会場も最悪でしたな。国立新美術館でひろびろとやっていただきたかったです。参加美術館のパネルでの紹介や各館のパンフレットを置いたコーナーとかあればよかったのに。数年前に東京都現代美術館でフランス近代絵画の展覧会やった時、参加館のパネルでの地図やパンフレットがあれこれ置いてあるコーナーがあって嬉しかったです。ここは場所がないですからね。個々の美術館の紹介には特に触れてなくて残念でした。文句ぶーたれましたがいい物も見れて面白い展覧会でした。次は西洋美術編、日本美術編で分けてやってほしいです。

投稿: ぽぽ | 2009.06.22 03:54

to ぼぼさん
協会はリクエストを出したのですか?期待の絵
がでてこなかったのは、協会そのものが緩い組織
だということなのでしょうね。

とにかく、この展覧会はこれぞという目玉がない
から、なにか充実したものがないです。愛知県美
のクリムトとかモデイリアーニのお下げ髪の少女
などがあれば、見ごたえがあったのですが。

美術館の性として、いい作品はやはり出したがら
ないですね。東京にいて、国内にある名画を見よ
うというのは虫がよすぎるかもしれないですが、
主催者が選りすぐりというから、じゃあ期待しよ
うかという気になりますよね。それがこのくらいの
競演では満足できませんね。

投稿: いづつや | 2009.06.22 18:13

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