静嘉堂文庫の筆墨の美ー水墨画展
静嘉堂文庫では今年2回、所蔵品による水墨画展が開かれる。パートⅠは現在行われており(4/4~5/17)、秋にパートⅡ(10/24~12/20)がある。
ここへは結構通っているから、すでに見たものも多い。中国絵画で4/29~5/6に展示される国宝、馬遠の‘風雨山水図’は見たことがあるので、長らく待っている夏珪の‘山水図’が登場してくれるのを願っていたが、今回も縁がなかった。中国の人物画や山水画は20点。日本ではトップクラスの質を誇るコレクションである。
上はもう一つの国宝、因陀羅(いんだら)の‘禅機図断簡 智常禅師図’。国宝に指定されている‘禅機図断簡’はほかに4つある。所蔵しているのは東博、石橋家、根津美、畠山美。因陀羅は元時代の禅僧で、地位も高かった。この絵で木の下に座っているのは唐の高僧、智常禅師、そして前にいる髭の濃い男は文官。
ほかの絵も禅林(禅宗の寺のこと)とその周辺の人物にかかわる逸話が描かれている。幸いにも5点全部みているのだが、人物の描き方がいずれもユーモラスでのんびりした感じなので、見てて楽しい。表情とともに惹きこまれるのが顔の口とか衣装の襟とか点苔にみられる濃い墨。墨で描かれた絵を見る楽しみはのびやかな線とこうした墨の濃淡。またいい気分になった。
ほかの絵で見逃せないのは牧谿(もっけい)の‘羅漢図’(南宋時代、重文)。画面が明るくないのでちょっと見づらいところがあるが、ガッと!なるのが描かれている。見てのお楽しみ。また、天然パーマのような頭をした‘寒山図’にも心がゆるむ。
初見で収穫だったのは真ん中の日本の山水画、‘四季山水図屏風’(室町時代、重文)。描いたのは関東で活躍した式部輝忠。これは右隻(部分)のほう。なかなか見ごたえのある山水画なので、見入ってしまった。
人物がいて、山々の重なりが墨の調子を変えてきっちり描かれている。視線が集まるのが二つの滝。こういうのは想像して描いたのだろうが、その滝の流れを追っていくと自然に対象への関心が左の鮮やかな緑青で彩色された松のほうへ移っていく。その巧みな構成は見事というほかない。
また、同じ室町時代の絵、岳翁蔵丘の‘洞山良价禅師図’や‘聴松軒図’(ともに重文)にも足がとまる。
下は英一蝶の‘朝暾曳馬図’(ちょうとんえいばず)。これはお気に入りの絵。はじめて見たとき、目が点になったのが川面に映った馬と童の影。これが描かれたのは17世紀後半だが、一蝶がはじめて影を絵に表わしたと言われている。
展覧会情報をひとつ。この秋待望の‘英一蝶展’(9/5~10/12)が板橋区美で開催される。今から待ち遠しい。
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