マーク・ロスコのシーグラム壁画
千葉の佐倉まで足をのばし、川村記念美で行われている‘マーク・ロスコ 瞑想する絵画’(2/21~6/7)を見てきた。前回ここに来たのは所蔵のステラ作品が展示されたときだから、久し振り。展示の部屋が一部改装されたあと、いくつか企画展があったが、なかなか気が向かなかった。
だが、今回のマーク・ロスコ展は見逃すわけにはいかない。ここのマーク・ロスコルームにある‘シーグラム壁画’7点がテート・モダンにある3点、ワシントンナショナル・ギャラリー蔵の5点と一緒に展示されるのだからすごい。まさに抽象絵画の世界では画期的な展示。これが日本で実現したというのがすばらしい。
平常展示をどんどんとばして、最後の大きな部屋を目指した。部屋の4面にありました、ありました! 入って左に5点、正面に5点、その隣に2点、そして最後に3点、全部で15点。作品の大きさはこの順番でデカくなる。
1958年から59年に制作された‘シーグラム壁画’は30点。計画ではNYにあるビルの一角にはいるレストランの壁に掛けられることになっていた。だが、ロスコはその部屋の雰囲気が気に入らず、キャンセルしてしまった。壁画はすでに完成しているのに、ドタキャンってあり? ロスコは絵画だけでなく、絵画の置かれる場とか空間までこだわる芸術家だから、契約を破棄することに躊躇しない。
さて30点はどうなったか?9点はその後テートに寄贈され、7点は川村へ、ほかはワシントンナショナルギャラリーなどへおさまる。昨年訪問したテート・モダンでロスコ・ルームを体験するのを楽しみにしていたのだが、どういうわけかどこにも見当たらなかった。開館した当時、館を紹介したNHKの番組にはちゃんとでてきたのに、今は常設の部屋はないのだろうか?
この壁画シリーズに限らず、ロスコの絵は大きな画面が少ない色面で構成され、長方形や四角形の輪郭はぼやけているのが特徴。今回ある15点の色合いはほとんど同じ。茶褐色の地に赤を塗り、窓枠のような形をひとつか二つつくっている。
上は正面にある大きな作品のひとつ(ワシントンナショナルギャラリー)で、四角い赤は全点のなかで最も明るく、橙色のようにみえる。絵の具がにじんだようで輪郭がぼやけていたり、赤も均質ではなくところどころで微妙に違うところは、日本画で使われる墨のたらし込みと似ている。
真ん中はテートにある横長の絵(4.57m)。この絵の窓枠の作り方は上とは逆。茶色の地が四角になるように残して、そのまわりを赤で塗りこみ、その色面が地にみえるようにしている。テートから出品されたのは9点のうち3点だった。残りの6点はいつか現地のロスコルーム(存在すれば?)で見てみたい。
ぐるっとまわって最後の3点。いずれも馬鹿デカい。下は川村記念美のもの。縦2.67m、横4.56mの大きな画面に圧倒される。四角の太い枠はテートのものと同じ描き方。図版では茶褐色のようにみえるが、実際は黒と深い青緑が混ざったような色。これと同じ色のものがほかに2点ある。
抽象表現主義を主導したスティル、バーネット・ニューマン、マーク・ロスコのなかでは、ロスコの作品に最も魅了される。形の境界をぼかし、少ない色面を重ね合わす画面構成からは、ロスコが表現しようとした作品のテーマとか深い精神性が伝わってくる。
と同時に、画面いっぱいに広がる茶褐色をみていると、‘なだれ’の即興的なフォルムに惹きつけられる肩衝茶入の名品が頭をよぎり、大きな壁画と小さな茶入がどこかで響き合っているような気がした。
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コメント
こんばんは。
おっ!行かれましたね~佐倉。
投稿: Tak | 2009.03.12 22:43
to Takさん
川村記念は料金が高いので、いつもは足が向か
いませんが、このロスコ展は特別ですから、
見てきました。
投稿: いづつや | 2009.03.13 00:21
いづつやさん、こんばんは
私も行ってきました!!!
少ない色で無限の広がり(色々な解釈と言ってもいいかもしれませんが)を見せるロスコの絵画が見れて良かったです。
(TBが何故かダブってしまいました。お手数ですが、一つ消してください。お願いします。)
投稿: アイレ | 2009.04.05 02:54
to アイレさん
マーク・ロスコはやはり特別の存在ですね。
数の増えたシーグラム壁画をこういう形で
みられるのですから嬉しいです。
日本人は墨のかすれに慣れてますから、ロスコ
の境界のぼかしにもすっと入っていけますね。
そして、広がる空間に心がつつみこまれます。
投稿: いづつや | 2009.04.05 10:55
私もこの展示を観てきました。
抽象画はかなり無知なので、どれくらい貴重な展示かもよく分かっていませんでしたが、15点の堂々たる雰囲気に呑まれて帰ってきましたw
この美術館はもうちょい都心に近ければ通えるんだけどなあ
^^;
投稿: 21世紀のxxx者 | 2009.05.05 01:26
to 21世紀の×××者さん
川村美術館は料金が高いのと館内の対応がよく
ないので普段は敬遠しているのですが、ロスコ展
だけは特別です。こういう機会はめったにない
ことですから、しっかり見ました。
近場の東近美とか国立新美とかでロスコ展が
あれば嬉しいのですが(実現の可能性は極めて
低い)。
投稿: いづつや | 2009.05.05 16:29