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2009.03.02

茨城県近美の安田靫彦展

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水戸市にある茨城県近美で開催中の‘安田靫彦展’(2/7~3/22)を見た。安田靫彦(1884~1978)の大きな回顧展は16年前、愛知県美で体験したから、今回の出品作(86点)のなかには再会するものが多い。

東京で安田の名作を見る機会というと、東近美と東博の平常展と山種美の所蔵展。代表作のひとつ‘黄瀬川陣’は東近美に通っていると年に一回はみれるが、今回はなぜかお出ましになってない。でも、ほかはずらっと展示されている。山種美蔵では織田信長を描いた‘出陣の舞’(出品)と‘平泉の義経’が有名。

東博には‘夢殿’、‘御産の禱’、‘御夢’、‘ニ少女’といった大きな絵があるのだが、ここからの出展は盟友の‘今村紫紅像’一点のみ。

安田靫彦が描く絵の大半は日本や中国における文学や歴史上の人物や事件を題材にした、いわゆる歴史画と花の絵、そして人物画。風景画は富士山の絵ぐらいしか見たことがない。

歴史画のなかで一番多いのは一人の人物を描いたもの。最も気に入っているのが久しぶりの対面となる上の‘飛鳥の春の額田王’(1964、滋賀県近美)。これは勝手に日本版‘モナリザ’と思っている。手首のところまでのびた衣装の橙色がものすごく目に沁み、肩にかけている青緑の布をつかむ右手のしぐさがとても優雅。茨城県近美蔵の‘卑弥呼’(1968)とも会いたかったが、展示は3/9~22とのこと。当てがはずれた。残念だが、大好きな‘木花之佐久夜毘売’があったから満足々。

男性の肖像画で群を抜いていいのが真ん中の‘伏見の茶亭’(1956、東近美)。図版では絵の大きさが直に伝わってこないが、絵の前に立つと本当に圧倒される。派手好みの秀吉を一層惹きたてているのが衣装の花柄模様。華やかでかつ粋な感じのする衣装である。安田は秀吉を数点描いており、今回はもう一点、紅梅を背景にした‘豊太閤’がでている。

少年の美しさみたいなものが胸の中を通りぬけていくのが屏風絵‘風神雷神’
(1929、遠山記念館)と‘森蘭丸’(1969、ウッドワン美)。前回同様、画面構成に感心しながら眺めていた。

西洋歴史画では、ルーベンス、レンブラント、プッサン、ダヴィッドなどの作品に聖書やギリシャ神話における話とか古代ローマに起きた事件を劇的に描いた傑作が沢山ある。その劇的な瞬間をリアルな筆致で迫真的に描いたルーベンスの‘サブニの女たちの掠奪’とかレンブラントの‘目を潰されるサムソン’を見ると体がガアーッと熱くなる。

靫彦の歴史画にも、緊張した面持ちで見てしまう傑作がある。‘鴻門会’(1955、東近美)と‘孫子勒姫兵’(展示なし、1938、拙ブログ07/8/1)。‘鴻門会’は劉邦と項羽の話。画面右にいるのが項羽で、左から三番目の顔が見えないのが劉邦。宴席で三人の男が剣舞で座を盛り上げている。この宴は劉邦と項羽が和解するためにセットされたものだから、楽しいはず。でも、様子が違う。緊迫した雰囲気が漂っている。

剣を大きく上にあげ正面をむいている男の目つきが異常に鋭い。こういう目になるのも無理はない。この男は前にいる男が劉邦を舞とみせかけて暗殺するのを阻止しようとしているのである。左の空いた扉から飛び込んで来たのは主君を守るため駆けつけた劉邦の家臣。歴史的に有名な場面を安田は人物を巧みに配置し、臨場感のある画面に仕上げた。流石である。

こんないい展覧会が東京に巡回しないのはなんとももったいない。

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コメント

コメント遅くて恐縮です。

>こんないい展覧会が東京に巡回しないのはなんとももったいない。

⇒全く同感。
 常設も含めて、茨城近美は内容が濃いですね。

私は卑弥呼は見たのですが、額田王と出会えませんでした。
次の機会を狙います。

投稿: meme | 2009.03.08 20:14

to memeさん
久し振りの靫彦展を満喫しました。卑弥呼とも
再会したかったですが、これは茨城県近美蔵です
から、いずれまた展示されるでしょう。そのとき
出かけるつもりです。

ここは加山又造展もやりましたし、実力美術館で
すね。感心します。

投稿: いづつや | 2009.03.08 21:12

茨城に来て、私もこんなに素晴らしい美術館が
あることに驚きと喜びを感じています。
料金の安さもありがたいですね。
しかも私は年間ぐるっとパス(4館3000円)を
持っているので、陶器美術館もつくば美術館も
五浦美術館の企画展もすべてOKなんですよ。
いづつやさんもこれほど回数来られるのでしたら
年間パスをお勧めします。

投稿: リセ | 2009.03.12 01:54

to リセさん
茨城県にある美術館は好感度が高いです。
すごく割安感があります。年間パス券がある
のですか。うまく運営してますね。感心し
ます。

投稿: いづつや | 2009.03.13 00:17

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「没後30年 安田靫彦展」を観に、茨城県立近代美術館に行って来ました。 没後30年と言っても、安田靫彦が亡くなったのは1978年。2008年の昨年が... [続きを読む]

受信: 2009.03.08 20:15

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