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2008.12.31

08年感動の美術鑑賞プレイバック! メトロポリタン

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今回のMETでの絵画鑑賞は本当に充実していた。館内に3時間いれたこともあるが、なによりも嬉しかったのが予定のクールベ展のほかに想定外のニコラ・プッサンの回顧展に遭遇したこと。だから、必見リストの作品だけでなく、プッサンも目をかっと見なくてはいけないし、また最後にミュージアムショップで重い図録や絵ハガキを購入する時間も確保しなければいけないから、もう滅茶苦茶忙しかった。

16回にわたって感動した絵を紹介したから、図録に載っている有名な絵はおおよそカバーしているのだが、心に残っている名画の中からもう3点取り上げることにした。

★グレコの‘枢機卿の肖像’(上の画像)
★セザンヌの‘温室内のセザンヌ夫人’(真ん中)
★ルノワールの‘沐浴する若い女’(下)

ボストン美でグレコ(1541~1614)のいい肖像画をみたが、METで200%サプライズしたのが‘枢機卿の肖像’。大きな画面に描かれたこの枢機卿はものすごく存在感がある。目に焼きつくのが丸い眼鏡とまばゆいばかりの濃い赤紫の衣装。そして、滑らかな布のひだの精緻な描写が見事!馴染みの幻想的な宗教画のほかに、モデルの内面をしっかり捉えたこんなすばらしい肖像画を見れたことが嬉しくてたまらない。まさにエポック的な出会いだった。

ここにはセザンヌ(1839~1906)の有名な人物画が二つある。‘赤いドレスを着たセザンヌ夫人’と真ん中の絵。お気に入りは‘温室内’のほう。妻オンタンスの顔は彫像のような感じはするものの、ほかと較べるとかなり写実的に描かれているから、夫人は物静かな性格の女性だったように思えてくる。ほかにも静物画、‘レスタックから見たマルセユ湾’とか‘ベルヴューカから見たサント=ヴィクトワール山’などのいい風景画、二作目の‘カード遊びの人たち’などが目を楽しませてくれる。まったく質の高いコレクションである。

ルノワール(1841~1919)が描いた裸婦像にどれも魅せられているわけではないが、ここにある‘沐浴する若い女’とまだ見る機会のないフィラデルフィア美蔵‘大きな浴女たち’にはぞっこん参っている。‘大きな浴女たち’との対面はまだ時間がかかりそうだから、当分はMETの裸婦像をながめ続けることになりそう。惹きつけられるのは透きとおるような白い肌と美しい横顔。小さな顔とは対照的に腰回りは大きくふくよかなこと。

今年は1~3月、海外の美術館でみた名画に大変感動し、年末までその余韻に浸っておりました。この感動を皆様と共有できたことを嬉しく思っております。拙ブログをいつも見ていただき誠に有難うございます。良いお年をお迎え下さい。

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2008.12.30

08年感動の美術鑑賞プレイバック! ワシントン・ナショナル・ギャラリー

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アメリカのトップクラスの美術館、シカゴ、ワシントン・ナショナルギャラリー、ボストン、メトロポリタンは印象派の名画を沢山所蔵していることは画集に載った作品などで知っているが、今回はじめてのシカゴ、過去に訪問したことのある3館、いずれもじっくり見て回ったので、そのコレクションのすばらしさがよくわかった。

印象派が好きな方はパリ(オルセー、オランジュリーなど)、ロンドン(ナショナル・ギャラリー、コートールドコレクション)にまず出かけねばと思われるかもしれないが、アメリカの美術館巡りからスタートしても印象派絵画の魅力が同じくらいのインパクトでもって体の中に入ってくる。だから、印象派の旅をアメリカからはじめるのもひとつのオプション。

とにかくこの4つの美術館には名画がキラ星のごとくある! 例えば、シカゴではスーラの代表作‘グランド・ジャット島の日曜日の午後’、モネの連作‘積みわら’、ルノワールの‘テラスにて’、ロートレックの‘ムーラン・ルージュにて’、ワシントンではマネの‘サン・ラザール駅’、モネの‘パラソルを持つ婦人’、ボストンではゴーギャンの‘われわれは何処から来たのか、われわれは何者か、われわれは何処へ行くのか’(4/23)、ルノワールの‘ブージヴァルの踊り’、ゴッホの‘郵便配達夫ルーラン’、METではドガの‘ダンス教室’、ゴーギャンの‘マリアを拝す’、セザンヌの‘赤いドレスを着たセザンヌ夫人’などなど。

感想記にその館自慢の名画を相当数紹介したが、まだいい絵がいくつか残っている。で、ワシントンナショナルギャラリーから3点を特別貸出してもらった。明日はMETから2点がやってくることになっている。

★セザンヌの‘画家の父’(上の画像)
★マネの‘プラム’(真ん中)
★ゴーギャンの‘自画像’(下)

セザンヌ(1839~1906)が27歳のとき描いた父の絵がとても気に入っている。これは画集には必ず載っており、必見リストに入れていたが、じわじわその魅力が体に沁み込んでいる。縦2m、横1.2mの大作で、花柄の肘掛椅子に座り、新聞を読んでいる父親の姿は威厳に満ちており、絵にとても力がある。セザンヌのお気に入り人物画はオルセーにある‘婦人とコーヒー沸かし’とMETの‘温室のセザンヌ夫人’だったが、早速これを登録した。

真ん中のマネ(1832~1883)の‘プラム’にもすごく魅せられた。この女性は娼婦。片手で頬杖をつき、もう一方の手にタバコをもち、考え込んでいる。ドガの‘アプサント’に描かれた女性ほどはやつれてないし、娼婦らしくない可愛い顔をしているから、つい声をかけたくなるが、ここは外国だからグッとこらえた(ウソです)。

必見リストに入れていたゴーギャン(1848~1903)の自画像は不思議な絵。黄色と赤の色面で画面は二分されており、ゴーギャンの頭上には光輪があり、顔の横にはリンゴがみえる。手前には大きく曲がる草花の枝が描かれ、右手は蛇をもっている。これは一度見たら忘れられない絵。

ゴーギャンの絵を紹介したついでに、来年東近美で開かれる‘ボストン美蔵ゴーギャン展’のことを少し。代表作の‘われわれは、、、’が7/3~9/23に展示される。日本でこれが公開されるのははじめてのことだから、すごく楽しみなのだけれどちょっと気がかりなことが。それは‘われわれは’のほかにゴーギャンの絵が何点もあった?という素朴な疑問。まあ、天下のボストン美がヘンな絵を展示することはないから、期待して待ちたい。

もうひとつモネの絵のことも。あの‘印象・日の出’(マルモッタン美)が名古屋市美
12/23から展示されている(来年の2/8まで)。一度見ているからパスなのだが、年が明けると気が変わるかしれない。

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2008.12.29

08年感動の美術鑑賞プレイバック! ルーヴル

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例年、元旦に国内の美術館で開催される展覧会情報を載せているが、来年の2月28日から国立西洋美で‘ルーヴル美展ー17世紀ヨーロッパ絵画’がはじまる。出品作71点がずらっとでているチラシをみると、現地で足がとまった名画がいくつも含まれているから、展覧会としてはかなり楽しめそう。

目玉はまたまたフェルメールで、人気の‘レースを編む女’。感想記でとりあげたものも3点ある。ラ・トゥールの‘大工ヨセフ’(3/30)、ダイクの‘パラティナ選挙侯たちの肖像’(3/29)とクロード・ロランの‘クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス’(3/31)。‘レースを編む女’同様、多くの視線を集めそうなのが‘大工ヨセフ’。これがまた見れるのは嬉しい限り。

ほかで、注目の作品はプッサンの‘川から救われるモーセ’、ル・ナン兄弟の‘農民の家族’。パリに行かないで、これほどの名画が鑑賞できるのだから有難い。同じ時期、国立新美でもルーヴルの工芸品が展示されるが、景気の悪化で節約志向が強くなっているから、こちらはパスされる?

話が少し横にそれるが、来年の展覧会環境は大変厳しいのではないかと思っている。一般的にいって、1400円の観覧料を数の多さで納得させるような企画展には人が集まらないことは目に見えている。展示内容は厳しくチェックされるはずだから、海外からやってくる西洋絵画の場合だと、いつも言っているが画集に載っているような作品が最低3点くらいないとダメだと思う。

それが見せられない展覧会だと話題にならず、その結果、多くの人を集める美術館と人がさっぱり入らない美術館の二極化現象が進む。来年はこういう傾向が一層強まるような気がする。

ルーヴルで是非取り上げておきたい感動の名画は次の3つ。
★カルパッチオの‘エルサレムでの聖ステパノの説教’(上の画像)
★レンブラントの‘バテシバ’(真ん中)
★ドラクロアの‘民衆を導く自由の女神’(下)

ナショナルギャラリーにあったジョルダーノの‘ペルセウス’と同じくらいのサプライズだったのが、カルパッチオ(1455~1525)の聖人画。このヴェネツィア生まれの画家の作品はミラノのブレラ美やヴェネツィアのアカデミア美で見た経験はあるが、それほど強く印象に残ってない。

でも、‘聖ステパノの説教’には200%参った! 明るい色調とエルサレムの町を広々ととらえる画面構成におもわず惹きこまれる。前景に説教をする聖ステパノとそれを取り囲む人々を大きく描き、その向こうに小さく人物を配し、空間の広がりをつくっている。聖ステパノはユダヤ教の律法をおかしたとされ、人々に町から連れ出され石打ちの刑で殉教した。

‘バテシバ’はルーヴルにあるレンブラント(1606~1669)作品では一番印象深い。その気持ちは最初にここで見てからずっと変わってない。美しい顔と豊満な肉体をもったバテシバは聖書にでてくる女性という感じではなく、レンブラントと同時代を生きた女性そのもの。

バテシバのまわりは闇につつまれ、彼女の足を手入れしている年老いた女性が左下にみえるだけ。自然と視線が集中するのが左からの光が照らし出すバテシバの滑らかな肌。この絵が目に焼きついているのはバテシバが顔を横向きにしているからかもしれない。

ルーヴルの定番、ドラクロア(1798~1863)の‘自由の女神’はじっとながめているとだんだん気分が高揚してくる。革命の熱気がひしひしと感じられる人物の動感描写と女神がもつ旗の目の覚める赤と青のコントラストが心を揺すぶる。そして、あのフランス国歌♪♪が聞こえてきた。

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2008.12.28

08年感動の美術鑑賞プレイバック! オルセー

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今年のパリ滞在は名所観光がまったくなかったから、便利な地下鉄を利用してオルセーやルーヴル、ポンピドーへ出かけるのは東京で美術館へ展覧会を見に行くのと同じ感覚だった。久し振りに地下鉄に乗ったので、はじめはドギマギしたが、徐々に慣れ、丸の内線から銀座線に乗り換えるみたいに体が動き出した。

印象派が好きな方なら誰しも願われるように、パリへは毎年でも訪問したい! まず、オルセーに行き、次がモネの名画が沢山あるマルモッタン、そしてオランジュリー。プラス、オプションツアーでモネの家があるジヴェルニーまで足をのばす。

モネ大好き人間としてはジヴェルニー訪問はMUSTなのだが、まだ実現できてない。また、新装なったオランジュリーへもまだ。今回、‘睡蓮’と再会する予定だったが、大混雑のクールベ展(グランパレ)を優先したため、これも次回へ持ち越しになった。

お楽しみ第一のオルセーが所蔵する印象派の作品は数限りなくあるのに対し、展示スペースは同じだから、手元にある館の図録や画集、美術本に掲載されている作品が全部が全部見れるわけではない。事前に作成した必見リストのヒット率は9割くらいだったので、満足々といったところ。オルセーでのプレイバック名画は再会した次の3点。

★セザンヌの‘リンゴとオレンジ’(上の画像)
★ドガの‘アプサント’(真ん中)
★ゴッホの‘昼寝’(下)

いずれもお気に入りの絵なのだが、2月のときはほかの画家とのバランスで紹介できなかった。‘リンゴとオレンジ’はセザンヌ(1839~1906)の静物画というよりは世の中にある静物画のなかで最も好きな絵。はじめてこれをみたときは‘ワー、なんとすばらしい絵!’という感じで、その感激度は半端ではなかった。

とにかく驚愕するのが燃え立つような果物の豊かな色彩と不思議なんだけどその不思議さが気にならずすごく惹きつけられる画面構成。普通の静物画とちがって、この絵の果物はおとなしくしてないし、テーブルクロスは今にも下にずれ落ちそう。ぱっと見ると平板な画面だが、真ん中のボウルとその隣のリンゴがおかれた皿はあきらかに別々の角度から描かれているから、対象にボリューム感があり、奥行きのある構図になっている。

ドガ(1834~1917)の‘アプサント’を見るといつも胸にズキンとくる。じっとみていると、こちらまで落ち込んでしまいそう。キツイ目をした右の男の表情からはそれほど孤独感は感じられないが、前をじっと見ている撫で肩の女は本当に寂しそうで、悲しげな顔をしている。恋愛映画では閉店間際のカフェのこんなシーンがよくでてくるが、ドガは男女の様子をそのままの顔、体で表現している。

人生の断片がこれほどストレート伝わってくる絵はほかにみたことがない。二つのテーブルの端が画面からはみ出し、そして手前と女との間隔を大きくあける構図は浮世絵にヒントを得たのだろうが、これにより2人が座っているところが広い部屋の一部であることがイメージできる。

ゴッホ(1853~1890)の‘昼寝’は‘収穫’(国立ゴッホ美、拙ブログ05/4/12)とともにゴッホの絵の特徴である‘イエローパワー’を存分に感じさせてくれる絵。辛い農作業の合間のひとときの休みなのだろうが、このままずっと寝らせてあげたい気がする。

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2008.12.23

お知らせ

拙ブログはしばらくお休みします。

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2008.12.22

08年感動の展覧会・ベスト10! 日本美術

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今年、国内および海外の美術館を訪問したのは全部で165回。回数としては06年の282回をピークに、07年は247回に減少し、今年はさら少なくなった。昨年と比べ大幅に減ったのは、日本美術を鑑賞するために出かける回数が少なくなったから。理由は単純で、東近美のように代表的な所蔵作をほぼ見終わった美術館が多くなり、平常展へ駆り立てるものが無いのである。

現在、コンスタントに足を運んでいるのは東博のみ。また、企画展も‘大琳派展’や‘対決ー巨匠たちの日本美術’のように一点たりとも見逃せない名品がある場合をのぞいて、以前のように展示替えにあわせて何度も出かけることをしなくなったことも影響している。

165回のうち、絵画、やきもの、工芸品など日本美術関連の展覧会(平常展も含む)は103。このなかから感動の度合がとびきり大きかった10の展覧会を選んだ。西洋絵画でも、日本美術でも、①展覧会のタイプとしては‘テーマ型’よりは‘回顧展’②はじめて見る作品と追っかけ作品が多くあること、つまり大きなサプライズがある展覧会、という点から選んでいる。

だから、多くの来場者があった薬師寺展や横山大観、東山魁夷の回顧展でも、過去に何度も作品を鑑賞しているので選からもれる。順番は開催時期の早いほうから並んでいる。上の画像は200%しびれている‘宮女図’だが、これが出品された‘室町将軍家の至宝を探す展’をベスト1と思っているわけではない。

★‘王子江展’           2/23~3/6    上野の森美術館

★‘与謝蕪村展’         3/15~6/8    MIHO MUSEUM

★‘暁斎Kyosai展’        4/8~5/11    京博

★‘対決ー巨匠たちの日本美術’ 7/8~8/17   東博

★‘浮世絵ベルギーロイヤルコレクション展’9/2~9/28  太田記念美術館

★‘高山辰雄展’         9/13~11/3   練馬区立美術館

★‘速水御舟展’         10/4~11/9    平塚市美術館

★‘岩崎家の古伊万里展’   10/4~12/7    静嘉堂文庫

★‘室町将軍家の至宝を探る展’10/4~11/9   徳川美術館

★‘大琳派展’          10/7~11/16   東博

待ちに待った王子江さんの回顧展に大変感動した。王さんの描く水墨画にぞっこん惚れている。近代の日本画家で、水墨画の名手は横山大観、横山操、東山魁夷、加山又造の4人。王さんは日本人ではないが、この4人にも勝るとも劣らぬ技量をもっている大きな画家。心に響く王さんの絵と一生つき合っていこうと思っている。

関西で開催された与謝蕪村と河鍋暁斎の大回顧展も忘れられない。長年追っかけていた‘夜色楼台図’を見るため、立地条件の悪いMIHO MUSEUMまでクルマを走らせた。辻のお父さんが企画された蕪村展だけあって、多くの代表作が出ていた。皆の期待にしっかり応えてくれるのだから、流石である。

京博の充実した特別展を楽しまれている関西在住の日本美術ファンの方は今年は東博がうらやましかったにちがいない。‘対決’と‘大琳派展’は何回も通い全点見た。雪舟、雪村、永徳、等伯、宗達、光琳、応挙、芦雪、若冲、蕭白、大雅、蕪村、抱一、其一といった日本絵画のど真ん中にいる絵師の作品や長次郎、光悦、仁清、乾山のやきもの、そして歌麿や写楽の浮世絵などが半年のあいだにこれだけ沢山みれたのである。多くの方が効率よく日本美術の通になったことだろう。

海外からの里帰りした浮世絵では、ベルギーロイヤルコレクションがこれほどすばらしいものとは思わなかった。毎年、海外のコレクターが集めた摺りの状態のいい浮世絵が心を揺すぶる。ここ数年、浮世絵鑑賞への出動は里帰り作品と東博の平常展、ららぽー豊洲の平木コレクションに絞っているが、これだけで充分エンジョイしている。

徳川美の‘室町将軍家の至宝’は迂闊にも前期を見逃してしまったが、諦めていた国宝‘宮女図’に会えたから言うことなし。

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2008.12.21

08年感動の展覧会・ベスト10! 西洋絵画

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拙ブログでレビューする‘今年の展覧会・ベスト10!’はいつものように順番をつけない。今年は西洋絵画と日本美術に分けて心に残る展覧会を選んだ。まず、西洋絵画から。

国内で開催されたものに1~3月海外の美術館めぐりをした際、幸運にも遭遇した展覧回を加え、そのなかから選んだベスト10は次の通り。上から開催時期の順で並んでいる。画像はコローの絵だが、この展覧会が一番よかったということではない。

★‘クールベ展’ 07/10/13~08/1/28   パリ・グランパレ

★‘ホドラー展’ 07/11/13~08/2/3    パリ・オルセー美術館

★‘ニコラ・プッサン展’  2/12~5/11     NY・メトロポリタン美術館

★‘ホッパー展’     2/16~5/11     シカゴ美術館

★‘ホーマー展’     2/16~5/11     シカゴ美術館
 
★‘モディリアーニ展’  4/5~6/1       名古屋市美術館

★‘エミリー・ウングワレー展’5/28~7/28   国立新美術館

★‘コロー展’      6/14~8/31      国立西洋美術館

★‘フェルメール展’   8/2~12/14     東京都美術館

★‘ミレイ展’       8/30~10/26     Bunkamura

昨年、日本美術の追っかけ作品をかなり見たから、今年は西洋絵画に鑑賞の軸足を移し、海外の美術館や国内で重点画家の作品を中心に目に力を入れて見た。パリ、シカゴ、NYで跳びあがるほどうれしい回顧展に遭遇したので、今年はエポック的な美術鑑賞の年になった。

上から五番目までのうち、日本で情報を得ていたのはクールベ展だけ。ほかは美術館についてから知った。関心の高い画家なので、天にも昇るような気持ち。アドレナリン
200%放出状態で見た。どれも日本では絶対みられない回顧展だから、一生の思い出になる。

これで‘本物の絵7割鑑賞’に到達したので、日本に戻ってからは買いためておいた画家のモノブラフを精力的に読んだ。ご参考までにそれらをあげると、
■崇高なるプッサン : ルイ・マラン著 みすず書房 00年12月
■岩波世界の美術 クールベ : ルービン著 04年11月
■ホッパー : レンナー著 TASCHEN 04年

また、今回の海外美術館訪問で好きな画家の追っかけ作品をかなりみたから、その画家の本も一気に読んだ。
■マネの絵画 : シェル・フーコー著 筑摩書房 06年12月
■コロー 名画に隠れた謎を解く!: 高橋明也著 中央公論新社 08年6月
■フェルメール : 小林頼子著 角川文庫 08年9月
■D・G・ロセッティ : ラングラード著 みすず書房 90年9月

■岩波世界の美術 レンブラント : ヴェステルマン著 05年3月
■   々       モネ : ラックマン著 03年12月
■   々       セザンヌ : ルイス著 05年1月
■西洋絵画の巨匠 ファン・エイク : 元木幸一著 小学館 07年1月
■ロマン主義の反逆 : ケネス・クラーク著 総合社 88年12月
■アングル、クールベ、マネ、ルノワール、ドガ、ロートレック、スーラ、モディリアーニ、オキーフ : TASCHEN

国内の展覧会でもすばらしいのがいくつもあった。コロー、ミレイ展は代表作が沢山揃った一級の回顧展。コロー展は日本だけの開催だが、パリでも行われたら大勢の人を集めたのではなかろうか。西洋絵画分野のキュレーターではこの展覧会を企画された高橋氏がトップ。ラ・トゥール展に続いて、また大ホームラン。感謝しても感謝しきれない。

フェルメール展もすごかった。7点も日本にやってくるのだからすばらしいの一言。今年は、フェルメールの名画を沢山見た。こんな幸せなことはない。世界中の美術館からモディリアーニの名作を集めてくれた名古屋市美にも拍手々!

また、アボリジニ絵画の‘エミリー・ウングワレー展’との出会いは衝撃的だった。赤や白の点々や太い線で表現された画面には太古の土の匂いと現代的な抽象美の入り混じった不思議な世界が広がっており、息を呑んでみた。

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2008.12.20

横浜美のセザンヌ主義展にガッカリ!

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横浜美の‘セザンヌ主義展’(11/15~1/25)を見た。損保ジャパンのジョット展を鑑賞した際、この展覧会とのペア券を当日価格1400円より割安で発売していたので即座に購入した。ところが、これが高いものについた。

開幕が近くなりチラシの情報から、あまり期待できないことはうすうす気づいていたが、中に入ってみるとその悪い直感が当たっていた。ここは99年、オルセーやフィラデルフィア美などから一級の作品を集めたすばらしいセザンヌ展を開催したのに、今回は全然ダメ。どうして、こんな手抜きなの?という印象がぬぐえない。

‘セザンヌ主義’と名がついているように、セザンヌの回顧展でないことはわかっているが、こちらとしてはまた海外のブランド美術館から画集に載っているような名画をミニマム3点はみせてくれるだろうと期待する。でも、これに応えてくれない。となると、これは行かないほうがよかった展覧会になり下がってしまう。今年は出かける企画展を絞り込んでいたのだが、つまんなかった展覧会が3つでた。国立新美の‘モディリアーニ展’、東京都美の‘芸術都市 パリの100年展’、そしてここ。

これから足を運ぼうと思われている方は、セザンヌの名品は期待されないほうがいい。出品作の大半は国内の美術館から集めたもの。セザンヌが近代絵画の父と呼ばれるすごい画家であることは間違いないし、国内にもセザンヌの絵はいくつもある。でも、それらは一部のものを除いて大半はアベレージクラス。これは西洋絵画ファンなら誰でもわかっている。

印象派作品の鑑賞はライフワーク。だから、こういう展覧会でまだみてないセザンヌの傑作が一点でもみれないものかと夢見ているのである。前回は大好きな‘りんごとオレンジ’をはじめ、‘首吊りの家’、‘オーヴェール=シュル=オワーズの医師ガシェの家’などワクワクするような絵が目白押しだった。日本でこんなにセザンヌの名画が揃ったのは後にも先にも‘バーンズ・コレクション展’(94年、国立西洋美)とこの回顧展だけ。

セザンヌ展の実績をつくった横浜美が今回海外からはこの程度の作品しか集められなかった原因は一体何なの?上はヒューストン美から出品された‘青い衣装のセザンヌ夫人’。これはチラシに使われている絵。とびっきりいいというわけではないが、ほかと較べれば足がとまる。いつもは画像は3点なのだが、これしか載せる気にならない。

METとフィラデルフィアから4点でているが、はっきりいって所蔵コレクションのなかでは7,8番バッタークラスの絵。セザンヌが好きな方は日本にあるセザンヌ作品、例えばブリジストンの‘帽子をかぶった自画像’とかひろしま美の‘曲がった木’のようないい絵は当然みられているだろうから、それほど感激されないと思う。

しいて楽しみ方があるとすれば、安井會太郎の名作‘婦人像’(京近美)や岸田劉生の‘静物’(島根県立石見美)、佐伯祐三の‘パレットを持つ自画像’、中村つねの静物画などがあるので、日本の洋画家の作品をまとまったかたちでみるいい機会と頭を切り替える。でも、これに1400円はもったいない。

横浜美はアクセスのよくない美術館。‘近代絵画の父、セザンヌ’(そんなことは皆知っている!)を仰々しくかかげるのもいいが、肝心の手本となるセザンヌのいい絵がなくては話にならない。こんな手抜きの企画展をやっているようでは美術愛好家から見放される。99年のころのパワーはどこへ行ったの?

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2008.12.19

東博平常展の名品!

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16日、今年最後の東博平常展を見てきた。HPで展示内容を確認せず入館したら、その日から2階書画と浮世絵のコーナーが展示替えになっていた。

スタートは国宝室の‘一遍上人伝絵巻 巻第七’(~1/4)から。この絵巻は一度十二巻全部を京博でじっくりみたことがあるから、その後何回かあった展示ではさらっと流していた。でも、今回は時間もたっぷりあったから、また画面全体を隅から隅までみた。名作は見る度に新たな発見があるといわれるとおり、おもしろい画面をいくつか見つけた。

まず、驚くのが人物の表情が豊かなこと。前回気付かなかったが、女たちが笑っている場面があった。生き物は屋根の上の鶏、川にいる鵜、空を飛ぶ鳥の群、米俵を引く牛、そして白い犬。この絵が描かれたのは1299年だが、猫は出てこない。よく考えてみると、戦国期後半から登場する洛中洛外図でも僧侶を追っかける犬などには目が慣れているが、猫を見た記憶がない。猫のでてくる風俗画はいつごろから?concernしておこう。

書画の部屋にあらたに展示された作品(12/16~1/25)は新春ヴァージョン。上は住吉具慶の‘洛中洛外図巻’。後半の秋冬の場面に正月の獅子舞が描かれており、これがチラシ‘博物館に初もうで’に使われている。たしか昨年も展示された。

俯瞰の視点が‘洛中洛外図屏風’に比べると低いので、店先での商いの光景や通りを歩いている人々の身なり、また、農村のおける仕事の様子などがこと細かにうかがえる。風俗画には人物、建物、風景がびっちり描きこまれているから、色がよく残ったコンディションのいいものでないと腹の底から楽しめない。その点ではこれはご機嫌の絵。

若冲の‘松梅群鶏図屏風’は05年の正月以来、久し振りにみた。200%メタボの鶏がみせるポーズが本当に可笑しい!若冲作品でこんなに笑える絵はほかにない。応挙の定番‘雪中老松図’と又兵衛の二重あごの女(羅浮仙図)をさらっとみて、浮世絵の部屋に入ったら、予想だにしなかった着物が飾ってあった。

真ん中の‘小袖 黒綸子地波鴛鴦模様’(展示は12/21まで)は美術史家、辻惟雄お父さんが書かれた‘日本美術の歴史’(東大出版会、05年12月)で知って以来、展示されるのを今か今かと待っていた。漸く見ることができた。目を引くのが黒の地にダイナミックに動く網干模様。こんなモダン感覚にあふれるフォルムが寛永年間(1661~1673)に生み出されたというのがすごい。

気分がハイになったまま、お楽しみの浮世絵をみた(12/16~1/12)。下は昨年の
10月にも登場した菱川師宣の‘北楼および演劇図巻’(拙ブログ07/10/31)。今回の場面は吉原の大門を入って、茶屋の前の大夫道中のところ。鮮やかな赤や黄色の衣装や師宣の得意とする人物の動感描写を目をこらしてみた。

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2008.12.18

千年紀ー源氏物語の色

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日本橋高島屋8階ギャラリーで行われていた‘千年紀ー源氏物語の色’(12/11~
12/16、入場無料)の余韻に浸っている。染織家吉岡幸雄氏が源氏物語の色を10年がかりで再現したという記事が12/9の朝日に載っていたので興味深々で日本橋に出かけたが、展示してあった布、和服100点の鮮やかな色彩に200%魅了された。

源氏物語54帖で色が表現された箇所(368色)を抽出し、その色を伝統的な植物染の技法にのっとって再現したのだという。まったくすごい仕事をされたものである。54帖の色は10月に出版された‘源氏物語の色辞典’(紫紅社)に掲載されているから、当分は毎日これを楽しもうと思っている。

今年は横浜美の‘源氏物語の1000年展’(拙ブログ9/1110/22)に2回通い、また、NHKの関連番組をしっかり見るなど、源氏物語に最接近していたので、ちょうどいいタイミングで平安王朝における衣装の色を目にすることができた。

徳川美と五島美が所蔵する国宝‘源氏物語絵巻’の復元模写が完成したとき(05/11/1406/2/1907/11/30)、そのすばらしい色合いに心を奪われた。と同時に、これを実現した修復家や最新の機器やCPを使って色の分析をし、側面から修復家の作業を支援した人たちに感謝しても感謝しきれないという気持をつよく持ったが、吉岡氏のこの偉業にたいしても頭が下がる思いである。

上は最初の‘桐壺’の帖。往時の女人たちは衣装を何枚も重ねて着、その襲(かさね)の色目を楽しんでいた。その色目は四季折々の草花の彩りを映しており、春は紅梅、桐、柳、桜、夏は藤、撫子、秋は女郎花、萩、菊、紅葉といったふうに多彩を極めている。

‘桐壺の襲’では五月に咲く桐の紫の花と葉の緑が再現されている。紫系の色は根が染料となる多年草・ムラサキは入手が困難で、染めが安定してないので思った紫を出すのは大変難しいそうだ。源氏物語では‘紫’が主役。諧調を変えた紫をじっとみていると、雅で高貴な雰囲気が伝わってくる。

真ん中の‘紅葉賀’の帖では、目の覚めるような赤と明るい黄色にぐぐっと惹きこまれた。染料のもとになる植物を変えて色の差を出している。紅葉というと赤のバリエーションはあまり無いように思うのだが、人々は自分の感性で紅葉をイメージし、色を変えて衣装を重ねていたようだ。

下は‘澪標’の帖に飾ってあった布の左半分。住吉詣をした源氏の一行にはさまざまな官位の人たちが随行していたことを想定し、一位から八位までの色を見せている。右半分が一位の色‘深紫’から四位の‘深緋’で、画像は五位から八位までの色。再現された八位の明るい青‘深縹’に目を奪われた。

会場には源氏物語の色が使われたショールとか風呂敷、ハンカチ、和紙、バッグ、眼鏡入れなども販売されていた。伝統の色がこういうふうに現代感覚のファッションにもうまく生かされているのをみると、日本というのはつくづく美術大国だなと思う。

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2008.12.17

08年感動の美術鑑賞プレイバック! テート・ブリテン

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つい最近、ふと立ち寄った古本屋でいい本が目にとまったので即購入し、一気に読んだ。それはラングラート著‘D.G.ロセッティ’(90年9月、みすず書房)。この本は以前どこかの本屋で手にとったことはあるが、価格が4944円と高く、また画家のモノグラフを読む基準としている‘本物の絵7割鑑賞’に届いてないので、買うのをやめていた。

ところが運よく、2000円の格安で立派なロセッティ本が手に入った。1月、テート・ブリテンでこの画家の作品を沢山みたから、本に書かれていることが真綿に水が染み込むように頭の中に入っていく。で、テート・ブリテンで見た感動の絵画プレイバック!はロセッティとこの本により理解が進んだミレイ、ホイッスラーの作品を取り上げることこにした。

★ロセッティの‘受胎告知(見よ、われは主のはした女なり)’(上の画像)
★ミレイの‘両親の家のキリスト(大工の仕事場)’(真ん中)
★ホイッスラーの‘ノクターン:青と金色ーオールド・バタシー・ブリッジ’(下)

ロセッティ(1828~1882)がミレイ(1829~1896)らと共にラファエロ前派を結成したのは1948年、ロセッテイが20歳のとき。ラファエロ前派の活動はわずか3年で終わるが、このとき描かれた代表作が‘聖母マリアの少女時代’(1849)と‘受胎告知’
(1850)。‘受胎告知’のマリアのモデルをつとめたのはロセッテイが女神として恋するエリザベス・シダルで、‘ベアタ・ベアトリクス’(拙ブログ9/15)もこのエリザベス。

ダンテにとってのベアトリーチェのような存在がエリザベスなのに対し、‘プロセルピナ’(2/9)をはじめロセッティが数多く描いた女性が魔性的な美貌のジェイン・バーデン。ジェインはウィリアム・モリスの妻なのだが、ロセッティはエリザベスが死んだのちはジェインの虜になる。

ロセッテイにはこの二人のほかにも最後の最後まで縁が切れなかった娼婦ファニー・コンフォースや最高傑作‘モンナ・ヴァンナ’(テート・ブリテン)のモデルになったアレクサ・ワイルディングなどの愛人がいるが、これらの女性画は歌麿の美人画のように一見すると皆同じ女性に見える。

ふさふさした金髪にはウエーブがかかり、透けるような白い肌が口紅の赤を印象づけ、衣装の緑や赤はステンドグラスのような輝きを放っている。驚愕するのはロセッテイは麻薬中毒で健康状態が終始不安定だったのに、作品は死ぬ間際までしっかり描いていること。やはり、この画家は天才。

真ん中のミレイの絵はテート・ブリテンには展示されてなく、Bunkamuraの回顧展(9/12)ではじめて対面した。‘マリアナ’や‘木こりの娘’同様、マリアやヨセフ、キリストの肉体の精緻な描写と木の質感の見事さにしばらく立ち止まってみていた。この絵で忘れられないのが右にいる幼い洗礼者ヨハネの目つき。日本画家の土田麦僊の絵に、女の子を泣かせた男の子が申し訳なさそうにその女の子を横目にみている絵があるが、これがヨハネがキリストを横目でみるところとそっくり。

ホイッスラー(1834~1903)の絵は日本であった展覧会でもみたから二度目の鑑賞。構図は広重の‘江戸名所百景・京橋竹がし’を参考にしているのは明らか。青一色の背景に光る黄金の点々が視線を引き付け、対象のぼやけた描写や船頭や上の橋を渡る人々のシルエットはノククターンの題名がぴったりの詩情を漂わせている。

ラスキンの侮辱的な批評を訴えた裁判で裁判官からは橋の上の影をさして‘これは人間なのか?’と尋ねられ、ホイッスラーは‘お好きなようにお考えください’と答えている。何であれ先駆者の心は普通の人にはなかなかわかってもらえない。

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2008.12.16

08年感動の美術鑑賞プレイバック! ナショナル・ギャラリーⅡ

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西洋絵画の有名な絵はほとんど海外の美術館にあり、鑑賞の機会はそう何回もないから、その絵との対面は‘一期一会’みたいなところがある。たとえ幸運にも複数回みたとしても、関心のある画家だとよく覚えているが、そうでない場合は前回みてからの間隔が長くなれば、前の印象はまったく消えてしまっていることが多い。

今回取り上げる3点は見たことは見たのだろうが、絵の前に立ったという実感のとぼしかった絵と17年経ってもまだその絵のすばらしさが心に刻み込まれていた絵の組み合わせ。

★ティツィアーノの‘キルトの袖をつけた男の肖像’(上の画像)
★ゴヤの‘ドーニャ・イサベル・デ・ポルセール’(真ん中)
★マネの‘ビヤホールのウェイトレス’(下)

今でこそティツィアーノ(1506~1576)の絵にのめり込んでいるが、前回ここを訪問したときはティツィアーノとティントレットの絵の区別がはっきりつかないくらいヴェネツィア派にはうとかったから、この肖像画をしっかりみたという記憶がなかった。当時購入した図録(日本語版)の表紙にこの絵が使われており、これを本棚から引っ張り出して見る度に‘豚に真珠だったな’と思っていた。

でも、おもしろいことに実際は見たイメージがないのに、図録のお陰でこの絵は目に焼きつき、最近はそのすばらしさが体に沁みわたっている。だから、絵の前では‘また来たよ!’という感じ。図版でいつも仰天させられていたキルティングされたサテンの袖の見事な質感描写を息を呑んでみた。

この横向きでこちらを見ている男は若いころのティツィアーノといわれている。肖像画のモデルは普通こちらに見られているという感じでポーズをとるのに、この男はこちらを見ているという印象が強い。しかもその表情が自信に満ちているので、見てるこちらが心理的に圧迫される。

ティツィアーノの兄貴分にあたるジョルジョーネが描いた男の肖像画で同じように視線をこちらに投げかける絵‘ヴェネツィアの紳士の肖像’をワシントンナショナルギャラリーで見たが、こちらのほうがティツイアーノの自画像より目がきつく、あくの強そうな顔をしていた。

ゴヤ(1746~1828)とマネ(1823~1883)の女性の絵はすごく印象深い絵で、とても気に入っている。‘ドーニャ・イサベル’をはじめて見たとき、彼女の瞳と白い肌を引き立てている黒いレースのマンティーリに釘付けになったことを今でも鮮烈に覚えている。この絵と同じくらい魅了されたのがベラスケスの傑作‘ヴィーナスの化粧’で、再会を楽しみにしていたのに、どういうわけは姿を消していた。残念でならなかったが、すぐ気持ちを切り替えて‘ドーニャ・イサベル’に集中した。何度見てもこの絵は心を揺すぶる。

マネの絵では、ジョッキを客の前におきながら、もう一方の手に二つのジョッキをもっているウェイトレスのあまり楽しそうにない表情がすごく気になる。また、手前のパイプを吸っている男も静かに前を見ている。こうした都会の生活に疲れた男女のメランコリー気分の漂う絵をみているとドガの絵が目の前をよぎる。

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2008.12.15

08年感動の美術鑑賞プレイバック! ナショナル・ギャラリーⅠ 

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2月~5月にかけて、拙ブログは海外の美術館めぐりの感想記を書き続けた。取り上げた作品は全部で217点にもなるので、ナショナルギャラリー、ルーヴル、メトロポロタンなどブランド美術館の誇る自慢の名画をかなり紹介できたのではないかと思っている。

でも、これらの美術館にある絵画の数は膨大だから、いい絵はまだまだ沢山ある。で、このプレイバック!では紹介したいのに他の画家との関係で割愛せざるをえなかった作品に光を当てることにした。予算づくりでいうと復活折衝みたいなもの。まずは、ロンドンのナショナルギャラリーから。

こういうビッグな美術館を訪問すると感動の名画にいくつも遭遇するが、そのサプライズの仕方にはいろいろある。ひとつは、館の図録や画集、美術本から画像をコピーし、絵の雰囲気を頭に入れた上で鑑賞したのだが、実際の絵は期待値以上に色が輝いていたとか、描写が精緻だったとか、また、ものすごく大きい絵だったような場合(仮にこれをAタイプとする)。もうひとつは、事前には絵の情報が全くなく、絵の前でそのすばらしさにびっくり仰天するケース(Bタイプ)。

この美術館のサプライズは次の3点。
★プッサンの‘黄金の子牛の礼拝’(上の画像)
★ジョルダーノの‘ピネウスとその一味を石に変えるペルセウス’(真ん中)
★シャヴァンヌの‘洗礼者聖ヨハネの斬首’(下)

Aタイプがプッサンとジョルダーノの絵で、シャヴァンヌはBタイプ。ニコラ・プッサン
(1594~1665)は今年の海外美術館巡りで収穫の多かった画家のひとり。ロンドンナショナルギャラリー、ルーヴル、ワシントンナショナルギャラリー、メトロポリタンと行く先々で画集に載っている名画が待ち受けてくれた。嬉しいことにMETではプッサン展という想定外のオマケまであった。

ナショナルギャラリーにはこの絵のほかに‘パンの勝利’や‘モーセの発見’もある。聖書の物語や神話を題材にした作品をプッサンは数多く描いた。この‘黄金の子牛の礼拝’は旧約聖書の‘出エジプト記’の物語を絵画化したもの。チャールトン・ヘストンがモーセを演じた映画「十戒」で人々が黄金の子牛を偶像化して狂乱的に踊っているシーンが目に焼きついているので、この絵にすぐ入り込めた。誇張された身振りやティツィアーノの絵を思い起こさせる鮮やかな色彩が目を釘付けにさせる。

ルカ・ジョルダーノ(1634~1705)の絵はほかの美術館でも見た経験はあり、また、この絵も事前にコピーして必見リストに張り付けていたが、特別期待値が高かったわけではない。が、絵の大きさと緊迫感のある画面に度肝を抜かれた。これはこの美術館で最大の神話画であり、縦2.75m、横3.65mある。

‘ジョルダーノにこんなすごい絵があったの!’という感じで、ジョルダーノをいっぺんに見直した。ちょうど、小学校の生徒たちが見学中で、先生が熱心に解説していた。以前2回もここを訪れているのにこの大作を見逃していたとは。自分が情けなくなった。

バロック絵画の特徴であるかちっとした構図、明暗の対比、リアルな動感描写が本当に見事!これは一生の思い出になる。真ん中に描かれているのがメデューサの首。英雄ペルセウスは顔をそむけながらこの首を持ち、敵方の左端にいるピネウスや部下たちのほうに向けている。どうして、ペルセウスは目をそむけているのか?これは見てはダメなの。この首に見られたら最後、すぐ石になってしまう。

水戸黄門漫遊記の助さん、格さんのように‘この印籠が目に入らぬか!’とカッコよくきめられないが、メデューサの首は抜群の魔力をもっているのである。ペルセウスと結婚披露宴の真っ最中だったアンドロメダは怒号と悲鳴が飛び交うなか、後ろのドアのほうへ逃げようとしている。

下のシャヴァンヌ(1824~1898)の絵はまったく知らなかったから、唖然として見ていた。聖ヨハネは首をはねられる寸前。顔を少し横に向け、両手を腰のあたりで左右に広げるポーズと剣を思いっきり後ろにまわし、気持ちを集中している男の姿にすごく惹きつけられる。この絵も忘れることはないだろう。

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2008.12.14

美術専門家による08年展覧会レビュー!

229_3本日の朝日新聞に美術専門家による今年開催された展覧会の回顧記事が載っていた。評者5人の顔ぶれは昨年と同じ。

この人たちがあげた‘私の3点’だけが評価の高い展覧会というわけではないだろうが、専門家がどんな展覧会に熱い視線を送っていたかを知っておくのも悪くないので、昨年同様リストアップしてみた。

<編集委員>
★ロン・ミュエック展:金沢21世紀美
★液晶絵画展:東京都写真美
★北斎展:江戸東博
★五姓田のすべて展:神奈川県歴博
★狩野芳崖展:東芸大美
★河鍋暁斎展:京博
★朝鮮王朝の絵画と日本展:栃木県美
★黄金町バザール:横浜市
★取手アートプロジェクト2008:茨城県

★アートプラットホーム:金沢21世紀美
★アヴァンギャルド・チャイナー展:国立新美
★ネオ・トロピカリア展:東現美
★チャロー・インディア展:森美
★第三回横浜トリエンナーレ:横浜市
★フェルメール展:東京都美
★薬師寺展:東博
★対決ー巨匠たちの日本美術展:東博
★巨匠ピカソ展:国立新美&サントリー美

<柏木博>
★アヴァンギャルド・チャイナー展
★液晶絵画展
★デイーター・ラムスの時代展:大阪サントリーミュージアム

<北澤憲昭>
★美術家たちの南洋群島展:町田市立国際版画美
★五姓田のすべて展
★岡村桂三郎展:神奈川県近美鎌倉

<高階秀爾>
★ウルビーノのヴィーナス展:国立西洋美
★対決ー巨匠たちの日本美術
★フェルメール展

<馬渕明子>
★ガレとジャポニスム展:サントリー美
★コロー展:国立西洋美
★アネット・メサジュ:森美

<山下祐二>
★井上雄彦 最後のマンガ展:上野の森美
★河鍋暁斎展
★朝鮮王朝の絵画と日本展

専門分野の違う5人が選んでいるので、日本画、浮世絵、西洋絵画、現代アートと一応美術全般をカバーしている。でも、やきもの展など工芸部門はぬけている。ここに取り上げられた26の展覧会のうち、出かけたのは半分くらい。関心の薄い現代アート関連は唯一アネット・メサジュを知るのみ。西洋絵画のコロー展、フェルメール展はどこから見ても二重丸。ピカソ展もパリのピカソ美から主要作品がごっそり出品されたので、ビッグな展覧会だったことは間違いない。

日本画ではなぜか‘大琳派展’がでてこない。これは読売の主催。朝日の回顧には読売主催の展覧会はいくら話題を集めても取り上げず、読売は読売で自分のところのレビューでは朝日主催の‘対決’は無視するのであろう。日本における美術ジャーナリズムは無いも同然だから、この手の回顧記事は真剣に読まない方がいい。

西洋美術は高階氏や馬渕氏がいるからまだいいが、日本美術のレビューはまるっきりダメ。昨年、狩野永徳展にコメントしなかった山下氏は今年も大琳派展を無視している。また、徳川美であった‘室町将軍家の至宝を探る展’や大阪市立美の‘三井寺展’、‘与謝蕪村展’(MIHO MUSEUM)などもでてこない。

十年に一回クラスの大展覧会があってもこれらを真正面から取り上げないでも日本画の評論をやっていられるのだから、美術史家というのはなんとも楽な仕事だこと!

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2008.12.13

食べたい郷土料理 ベスト10!

228一ヶ月前、朝日新聞の夕刊に載るアンケート‘日本一の○○’から‘食べたいカキ’を紹介したが、今月のテーマは‘食べたい郷土料理’だった。

郷土料理は土地々に昔からあるものだから、比較するのは難しいが、アスパラクラブの会員2万549人による回答(複数回答)は次のようになっている。きりたんぽ鍋、愛知のひつまぶしが上位にランクされ、これに山口のふぐ、北海道のジンギスカンが続く。

1位  きりたんぽ鍋(秋田)     4548人
2位  ひつまぶし(愛知)      4223人
3位  ふぐ料理(山口)       3791人
4位  ジンギスカン(北海道)    3516人
5位  あんこう料理(茨城)     2359人
6位  いも煮(山形)         2059人
7位  サクラエビのかき揚げ(静岡) 2043人
8位  ほうとう(山梨)        2039人
9位  わんこそば(岩手)      2008人
10位  京漬物(京都)        1855人

このアンケートが冬に行われたためかもしれないが、寒い冬にぴったりの秋田のきりたんぽ鍋が1位に輝いた。どのTV局でも‘全国うまいもの旅歩き!’をよくやっているので、きりたんぽがどんな料理かは知っていたが、実際に食べたのは2年前東北を旅行したとき。噂に違わずとても美味しかったから、おかわりを何度もした。あきたこまちを棒にさして焼いてつくるきりたんぽはおもちみたいだから、結構腹がいっぱいになる。また、比内地鶏がおいしい。どうでもいいことだが、隣の方は鶏がダメ。だから、我が家では鶏料理は出ない。

ひつまぶしも人気が高い。名古屋に3年くらい住んでいたから、熱田神宮のところにある‘あつた蓬莱軒’で美味しくいただいた。ここはひつまぶしをはじめた有名な店で、いつも満員だから、すぐには席に着けない。時間帯にもよるだろうが、20、30分待つことを覚悟していたほうがいい。

食べ方が変わっている。ご飯のうえに刻んだ鰻がのったままでてくる。これをしゃもじでお椀にとるのだが、一杯目はそのまま食べ、二杯目はわさびとかのりなどの薬味をのせて食べる。そして、三杯目はお茶をかけお茶漬にして食べる。このお茶漬がさっぱりとしておいしい。ひつまぶしは一度味をしめると癖になる。

街中にある本店ではいつものひつまぶしにご機嫌だったが、名古屋弁丸出しの女将のしゃべりが笑えた。南利行(もう亡くなったが名古屋弁を売りにしていた喜劇俳優、知っている人は知っている)のように、‘ミャアー、ミャアー’言っている感じで、このときだけは名古屋に住んでいることを実感した。

3位に入ったふぐ料理にも楽しい思い出がある。冬になると広島から山口県の周南市にあるふぐ料理専門店‘栄ふく’に何回となく通った。ここは日本TVの番組で紹介され、客がどっと押し寄せるようになった知る人ぞ知る人気のお店。だから、早めに予約しないとなかなか席がとれない。有名人もよく来るそうで、店の人からは‘昨日は巨人軍の松井選手が来た’とか‘長嶋監督の予約が入っていたのにドタキャンになった’といった話をよく聞かされた。

1.2万円のコースは天然とらふぐの刺身、から揚げ、鍋と一般的なものだが、量が多いのである。これだけいっぱいふぐ刺しが食べられると本当にニコニコ顔になる。東京の銀座で同じものを食べたら3万円はとられるだろう。また、ひれ酒が絶品!ふぐがお好きな方は是非。‘栄ふく’の電話番号は(0834)25-0575

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2008.12.12

MOAの琳派展

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大琳派展の余韻がまだかなり残っているなか、再度MOAで琳派作品を楽しんだ。MOAは光琳の国宝‘紅白梅図’を所蔵していることで有名だが(今回は展示なし)、ほかにも琳派の名品を沢山コレクションしており、それらのほとんどが展示されている(12/6~12/24)。こういう機会は滅多にないから、大琳派展を見た勢いで熱海まで足を運ばれると、一気に琳派の通になれることは請け合い。

作品は全部で62点。内訳は光悦7点。宗達8点、光琳27点、乾山10点、抱一8点、其一2点。流石に東博のように‘大’はつかないが、‘大’と‘中’の間くらいの質の高さはある。このうち、はじめて見るものは宗達が3点、光琳2点、抱一6点、其一2点。

琳派狂いの心の中は一点でも多く、宗達、光琳らの絵が見たいという美欲(My造語)に占領されている。だから、数は13点と少なくてもヴァリエーションが増えたことで満ち足りた気分になる。

光悦&宗達のコラボ作品‘鹿下絵古今集和歌巻断簡’(拙ブログ05/12/5)や花卉摺絵新古今集和歌巻などをみていると、大琳派展における出だしの展示の続きを見ている感じ。普段は巻の一部だけなのに今回はどの作品も全部見せている。今年は東博とここで光悦の和歌巻を200%楽しんだ。また、大琳派展にも出品された蒔絵硯箱‘樵夫’と‘竹’も見られるから、もう完璧な展示。

宗達では浮世絵の‘大首絵’のような‘龍虎図’に圧倒される。そして、たらしこみで描かれた横向きの‘軍鶏図’の存在感にも目を奪われる。収穫ははじめて見る源氏物語の‘紅梅図’、‘末摘花・手習図’、‘早蕨’。館の図録にも載っていないこういう絵がさらっと登場するのだから、ここのコレクションは本当にすごい。

数の一番多い光琳は名品がずらっと揃っている。これは圧巻!上の‘虎図屏風’はお気に入りの絵。宗達の‘虎図’(出光美、05/9/8)同様、思わず口元がゆるむ。また、宗達を写した‘唐子に犬図’にも肩の力がぬける。これははじめて見た。そして、お馴染みのかわいい顔をした‘寿老人図’や‘大黒天図’、‘兼好法師図’。

真ん中の‘佐野渡図’は今回最も見たかった絵。この展覧会も実は‘一点買い’で、この絵のために熱海までクルマを走らせた。視線は自然と躍動感のある馬にむかう。黒々とした体、白い毛、目の覚める赤のひもや布を釘付けになってみた。そして、騎乗している男と従者の衣装の鮮やかな色と綺麗な模様にも惹きつけられる。

乾山も‘色絵吉野山図透彫反鉢’(10/12)や‘色絵十二ヶ月歌絵皿’、‘若松椿文枡鉢’、光琳が絵付けをした‘銹絵寿老人図角皿’など定番の名品があるので、気分がだんだんハイになってきた。

抱一の見どころは大琳派展にもでていた‘雪月花図’(05/7/2)と‘藤蓮楓図’。下は‘藤蓮楓’の‘楓’。明快な赤の楓とたらし込みの幹が心に響く。初期の作品‘月に秋草図’とは初対面。抱一の作品も数をこなしてきたが、最も魅了されるのはやはり花鳥図。これにくらべると人物画や風神雷神図、波などの動感描写はイマイチぐっとこない。

今年は琳派の当たり年で、追っかけ作品にかなり済みマークがついた。琳派とのお付き合いはライフワークだが、これからはリラックスモードで作品と向かい合えそう。

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2008.12.11

08年感動の美術鑑賞プレイバック! 小林かいち展

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今年も20日を残すのみとなり、予定の展覧会もほぼ終わりかけているので、拙ブログは本日より08年美術鑑賞の振り返りモードにフェイズイン。振り返りと言っても、そのとき取り上げた作品のリフレインではない。

国内では今年も大きな感動が得られた展覧会がいくつもあり、また、海外の美術館でも名作の数々に遭遇したが、画像3点という内規やほかの画家とのバランスで割愛せざるを得なかった作品がある。で、そんな絵にスポットを当てようというわけ。題して‘08年感動の美術鑑賞プレイバック!’。一番バッターは1~3月、竹久夢二美で行われた‘小林かいち展’(1/14)。

‘犬も歩けば棒にあたる’とはよく言ったもので、つい最近、過去に一度しか行ったことのない有燐堂本店(伊勢佐木町)に別の用件で行ったら、跳びあがるほどうれしくなる美術本があった。それは10月に出版された生田誠、石川桂子共編‘甦る小林かいち 都モダンの絵封筒’(二玄社)。

‘小林かいち展’では図録が無く、感激した絵葉書や絵封筒が常時見れなくて残念な思いをしていたが、この本にはここに出た絵封筒(75点)を含めて魅力的な意匠の絵封筒が244点紹介されている。山田俊幸編の‘小林かいちの世界 まぼろしの京都アールデコ’(国書刊行会、07年5月、07/8/28)とこの本が手に入ったので、これまで以上に‘小林かいちワールド’を楽しむことができる。これほど嬉しいことはない!

本を見て展覧会での感激が蘇えってきた。グッとくるのがあまりに多いので選択に迷うが、とくに惹かれたものを3点を取り上げた。
★舞妓シリーズの一点 (上の画像)
★七曜日シリーズの水曜 (真ん中)
★京名所十二ヶ月の五月鴨川 (下)

上の舞妓の衣装には200%KOされる。現代でも通用するモダンなデザインが1940年代に生み出されていたことに強い衝撃を受ける。こうした模様は着物(帯など)にも使われていたようだ。京都文化というのはやはりすごい!‘水曜’も心を揺すぶる。金で縁取った青の水面がゆらゆらしている感じで、そこに裸婦が横向きで浸かっている。まさにアールデコ調。

絵封筒のモティーフとしてはモダンガールや舞妓のほかに、花、ゴンドラ、キリスト教、風景、蝋燭、トランプ、クロスワード、流行歌などがある。初期の色使いは淡いものが多かったが、赤黒の2色を使い、金銀でアクセントをつける色彩へと変化し、さらに色数を増し、一層華やかな色調になっていく。

かいちの意匠のすばらしいところは、西洋のモダン感覚と余白をとる日本美術のエッセンスがうまく融け合っていること。京都風景を描いた‘京名所シリーズ’でうっとりするのが‘五月鴨川’。画面上に赤い提灯をみせ、真ん中からすこし右にずらした所に後ろ姿の舞妓を描いている。巧み構成にほとほと感心する。

ミューズが昨年、小林かいちに引き合わせてくれたことを心から喜んでいる。また、かいちの作品に出会えればいいのだが。

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2008.12.10

赤壁画の名品

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‘三国志’はこれまで書物を読んだり、人形劇、TV映画、絵画などを見て慣れ親しんできた。この物語にのめりこむベースをつくってくれたのが高校生の頃読んだ吉川栄治の‘三国志’。分厚くて何冊もある全集をそれこそ夢中になって読んだ。

この小説で覚えた言葉や故事成語がいくつもある。張飛が怒ったときに必ず使われる‘怒髪天をつく’とか‘三顧の礼’、‘水魚の交わり’、‘白眉’、‘苦肉の策’、‘泣いて馬謖(ばしょく)を斬る’、‘死せる孔明、生ける仲達を走らす’など。

この本で登場人物のイメージが出来上がった。凶暴な曹操が悪の権化であるのに対し、劉備は忠義の人。そして、劉備が‘三顧の礼’をもって迎え入れた孔明は天才軍略家。この男の口からは‘困った!’という言葉はでてこない。次から次に相手を打ちまかす戦略を考えつき、難局を乗り越える。兵法を知り尽しているだけでなく、相手の心理を読んで策を立て、実行するから、いつもサプライズな成果をもたらす。

合戦現場で大活躍する関羽、張飛、趙雲(ちょううん)、馬超らはスーパー武人。彼らは兵士が何百人、何千人かかっても傷ひとつつけられないほど、圧倒的に強い!三国志がお好きな方はたぶん同じようなイメージをもっておられるはず。

社会人になってからは、この‘吉川三国志’でインプットされた知識をベースにして新たな情報を付け加えたり、また昔のイメージを修正したりして、My三国志像をつくりあげてきた。この十年くらいのスパンで楽しんだのは、NHKの人形劇(島田紳助が声優で出演)や中国が人気俳優やエキストラを総動員し、多くの資金と時間をかけて製作した三国志(BSで放映)。

本では、ハードボイルド小説作家の北方謙三が独自の視点から書いた‘北方版三国志’が多くの人に読まれているようだ。小説は読んでないが、文庫の‘三国志読本’(ハルキ文庫、02年6月)に目を通した。しっかり読んだのは高島俊夫著‘三国志 きらめく群像’(ちくま文庫、00年11月)。これはとても面白い本。史実と作り話のギャップを史料にもとづいてわかりやすく書いてあるから、これまでの三国志像が随分修正させられた。

前おきが長くなったが、‘赤壁の戦い’に関連する絵で過去見たもののなかから3点ピックアップした。
★長沢芦雪の‘赤壁図’: 根津美、重美(上の画像)
★池大雅の‘洞庭赤壁図巻’: ニューオータニ美、重文(真ん中)
★横山大観の‘赤壁の月’: 新潟市敦井美(下)

芦雪の絵は北宋の詩人蘇軾(そしょく)の‘赤壁賦’(1082年)を絵画化した六曲一双の屏風。これは蘇軾が友人と二人で舟遊びをした‘前赤壁賦’を描いた右隻で、左隻にはその三か月後、陸路に遊んだ‘後赤壁賦’が描かれている。が、蘇軾が詩にした赤壁は曹操軍と連合軍が実際に戦ったところではなく、別の場所。

大胆にデフォルメした奇岩やそこに打ち寄せる荒々しい波からは斬新な構図が真骨頂の芦雪の鬼才ぶりが窺える。この絵にはもう一つヴァージョン(個人蔵)があるが、これは2年前、奈良県美であった‘応挙と芦雪展’に出品された。

応挙も同じくこの詩に想を得て赤壁図’(プライスコレクション展)を描いている。応挙の描く岩や木の幹には峻厳さはみられるが、芦雪ほどダイナミックではない。大観の絵(部分)は縦長の掛け軸で、画題はこの詩。

池大雅の作品は長江の中流にある洞庭湖を中心とした名勝地を鮮やかな朱、緑、群青、金泥を使って細密に描いている。大雅は洞庭湖を見たことがないので、琵琶湖に数度通い参考にした。いかにも南画といった感じのこの絵はニューオータニで2年に一回くらい展示される。

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2008.12.09

映画「レッドクリフ PartⅠ」

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映画「レッドクリフ」を楽しんだ。英語のレッドクリフでいわれると、すぐイメージできないかもしれないが、あの‘三国志’で最も有名な‘赤壁の戦い’(上の画像は曹操軍)を映画化したものである。前編と後編の二部構成で来年4月に後編が上映される。

ネタばらしをして、これからこの映画を見に行こうと計画されている方の楽しみを奪ってもいけないので、内容について細かく感想をのべるのはやめて、監督や俳優のことに少しふれてみたい。

この映画は今年の北京五輪に合わせて製作費100億円を投入してつくられた。上映がはじまって、まだ1か月くらいしかたってないのに300万人が見たというからすごい人気である。監督はジョン・ウー。1946年の生まれだから今年62歳。

過去、この監督が指揮した映画は見たことがない。チョウ・ユンファ主演の‘男たちの挽歌’(86年香港)は名前だけはインプットされているが、この監督の映画だということはプロフィルで知った。ハリウッドでも2000年に公開された‘M:1-2’などいくつもヒット作をつくっているから、アジア人の監督としてはトップクラスに位置する巨匠と言っていいのだろう。確かに‘レッドクリフ’を見ると、監督の高い才能があますところなく発揮されている。

日本映画が幼い頃から大好きだったようで、黒澤明、深作欣二がお気に入りとのこと。映画のパンフレットによると‘黒澤監督のような人情味溢れる武侠映画を撮りたい’と黒澤ファンには泣かせることを言ってくれる。

208年に起こった‘赤壁の戦い’は強者、曹操軍(80万)とこれに対抗する弱者、孫権・劉備連合軍(5万)との戦い。ところが蓋を開けてみると、曹操軍の大敗に終わった。どういう作戦で連合軍が勝利したかは、来年の4月まで待たないとわからない。連合軍の主たる戦力は孫権軍の水軍で、これを指揮したのが周瑜(しゅうゆ、真ん中の画像)。

映画の主役はこの周瑜で、香港の人気俳優トニー・レオンが演じている。周瑜は美男で、笛を吹いたり、琴を弾いたりする風流人。だから、同い年である孫策(孫権の兄)とともに大喬・小喬の美人姉妹を娶った。トニー・レオンは名作、‘非情城市’(89年台湾、ホウ・シャオシュン監督)に出演していたので、知っている。このときは耳が聞こえず、言葉も不自由な難しい役を好演していた。

周瑜の妻、小喬は映画初出演のリン・チーリン。台北出身のファッションモデルで、日本に留学経験があるので、日本語が流暢にしゃべれるそうだ。好感度の高い、とても綺麗な女性。これから人気が出てくることは間違いない。‘天下三分の計’を構想し、魯粛(ろしゅく)とともに孫権・劉備連合軍の結成に奔走した孔明を演じているのが金城武。

この俳優には前々から注目していたが、あの孔明になって登場した。こんな超イケ面でさわやか流だったのか!という感じ。母親は台湾人で台北出身だから100%の日本人ではないが、そのカッコイイ演技をみるとなんだか誇らしい気持になる。日本人俳優がもう一人でている。周瑜の部下、甘興役の中村獅童。この歌舞伎役者はあの鋭い目つきが魅力。強面で堂々とした立ち振る舞いが役柄にぴったり。

前編の合戦シーンのハイライトは孔明の策、‘九官八卦の陣’(下の画像)で連合軍が曹操軍を打ち破るところ。‘八卦の陣’はジョン・ウー監督がはじめて映像化した。見てのお楽しみ!歴史好きなので、こういう映画は見逃せない。このアジア版‘トロイ’、‘グラディエーター’を存分にエンジョイした。

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2008.12.08

丸紅コレクション展

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年間を通してかなりの数の展覧会を見ているが、時々‘一点買い’の展覧会がある。現在、損保ジャパン美で行われている‘丸紅コレクション展’(11/22~12/28)はまさにそれで、お目当ての‘一点’は上のボッティチェリの‘美しきシモネッタ’。

日本にあって、しかもボッテイチェリの画集にはたいてい載っているこの名画を見る機会がどういうわけか今の今までなかった。昨年、たしか京都文化博物館で展示されたのに、これを見逃してしまい残念な思いをしていたが、丸紅の創業150年という節目の年に巡り合い、想定外のリカバリーを果たすことができた。心やさしいミューズに感謝々。

コレクショのなかでこの絵だけは別格という感じで、ルネサンス絵画が沢山あるフィレンツェの美術館にいるような気分になる。ボッテイチェリならではの美しい横顔を写しとる明確な輪郭線、金髪の丁寧な描写、柔らかい衣の襞がどうしようもなく胸を打つ。1月、ロンドンのナショナルギャラリーで再会した‘ヴィーナスとマルス’(拙ブログ2/1)の時と同様、うっとりして眺めていた。

丸紅のコレクションについて、どうこう言える立場ではないが、こういう一級のルネサンス絵画を常時鑑賞できないのはなんだか淋しい。丸紅が美術館を作ればすぐに解決するのだが、そこまでは踏み切れないのだろう。普段はどこにあるの?丸紅本社の役員室?昔、TVカメラが映していたような記憶があるが。勝手な願いは多くの人が楽しめるように丸紅がこれを西洋美に寄託してくれること。まあ、可能性はほとんどないが。

どうでもいいことだが、この展覧会には大勢の人がつめかけており、多くの人が高速エレベーターに乗るとき、手にチケットを持っている。丸紅グループの社員および家族なのだろう。隣の方と顔を見合わせ、‘丸紅に勤めている○○さんに話をしたら、チケットを都合してくれたかもね’と思ったりもした。

シモネッタは当時フィレンツェ一の美人だった。この絵からもその美女ぶりが窺える。ロレンツォ豪華王の4歳年下のジュリアーノはシモネッタに恋をしていた。22歳のジュリアーノは兄と違い美男で名高く、フィレンツェの女性の胸をキュンとさせていた。この美男がヴェスプッチ家の嫁であるシモネッタと深く愛し合っているというのだから、町中その噂でもちきり。1475年に開催された馬上槍試合ではジュリアーノが見事優勝し、‘美の女王’に選ばれたシモネッタからヴェロッキオが制作した兜を授けられる。

ジュリアーノはこの時が絶頂期、だが、3年後、バッツィ家の者に暗殺され、またシモネッタも若くして病で亡くなった。二人の恋は詩人ポリツィアーノの詩のなかで永遠に讃美されるが、ボッティチェリの‘春’、‘ヴィーナスの誕生’はこの詩に想を得て描かれたといわれている。

‘一点買い’のオマケは真ん中のコロー作、‘ヴィル・ダヴレーのあずまや’と下のベルナール・ビュッフェの‘コーヒー沸かしのある静物’。コローのこの大作は西洋美の回顧展にも出品されていたが、見ごたえのある絵。流石、丸紅コレクションである。青のコーヒー沸かしが背景の目の覚める赤に浮かびあがっているビュッフェの静物画にもぐっときた。

(お知らせ)
拡大画像が前よりスマートで綺麗になりました。お楽しみ下さい。

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2008.12.07

レオナール・フジタ展

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一人の画家の画業については回顧展を2回くらい体験すると、だいたいイメージできるようになる。だから、上野の森美で現在開催されている‘レオナール・フジタ展’
(11/15~09/1/18)は楽しみにしていた。06年、東近美であった‘藤田嗣治展’(拙ブログ06/4/4)からまだ2年半しか経ってないのに、またフジタの作品をまとまった形でみれるのだから、幸運な時の巡り合わせである。

だが、フジタの絵にそれほどのめり込んでない方は前回出品された絵が何点もでてくるので、パスしてもよかったかなという気分になるかもしれない。例えば、前回大変魅せられたパリ市近代美術館が所蔵する作品、愛らしい子供の絵‘アージュ・メカニック’、‘フランスの富(48図)’、宗教画‘礼拝’、‘キリスト降誕’、‘磔刑’、‘キリスト降架’、‘黙示録(七つのトランペット)’、‘黙示録(四騎士)’、‘黙示録(新しいエルサレム)’が再登場している。また、国内の美術館がもっている作品も図録をみると同じものがいくつも出品されている。

‘藤田嗣治展’は東近美、京近美、広島県美の3か所を巡回したが、この度は北海道近美、宇都宮美、上野の森美、福岡市美(09/2/22~4/19)、せんだいメデイアテーク(4/26~6/7)で展示される。出品作は今回も似たようなものだから、2年前にスタートしたフジタ展興行がちょっとお休みして、またはじまったと思ったほうがわかりやすい。

出し物の変更で一番大きいのが1928年に制作された幻の大作、‘構図’(ライオンと犬)と‘闘争’(Ⅰ・Ⅱ、エソンヌ県議会蔵)。この縦横3メートルの4点のうち、‘ライオンのいる構図’は2年前やってきた。‘犬の構図’は描かれた1年後の1929年、日本で展示されたらしいが、‘闘争’の2点は本邦初公開である。長いこと行方不明だったこれらの絵は92年に発見された。痛みがひどかったが、02~07年に本格的な修復が施され漸くもとの姿に戻った。その大作が目の前にある。

‘構図’のほうはさらっとみて、初見の‘闘争’の前に長くいた。上は‘闘争Ⅰ’。裸の男たちが2人または3、4人で取っ組み合いをしている。‘闘争’とタイトルがついているから、互いに激しく火花を散らして戦っている様子をイメージしていたが、顔の表情はそれほど怒りや憎しみに満ちているわけでもなく、オリンピック競技のレスリングの試合をみている感じ。バックをとったり、背負ったり、手を十字に固めたりしている。一番目立つのは真ん中で棒を持ち両足を大きく広げている男。股の下にいる犬も男と同じ方向をじっと見ている。その左では2匹の犬が人間同様、喧嘩の真っ最中。

ここでは女はただ男たちの戦いを不安げに眺めているだけだが、隣の‘闘争Ⅱ’では男に首を絞められたり、足を思いっきり引っ張られる女が数人いる。フジタはミケランジェロの‘最後の審判’に想を得てこの大作を描いたようだが、‘最後の審判’の地獄にいる人々の絶望的な姿や苦悩の形相にくらべると男女の顔や肉体にはそれほど張りつめたものは窺えない。

‘闘争’という題がぴったりなのが真ん中の猫の戦い。展示されていたのはよく東近美でお目にかかるものの別ヴァージョン。二つは構図がほとんど同じで、この色なし
(1932、松村謙三コレクション)のほうが東近美のもの(1940)より先に描かれている。猫の戦いが2点あったとはまったく知らなかった。

収穫はこの絵と下の‘イヴ’(1959、ウッドワン美)、そして‘聖母子’(1959、フランス個人蔵)。‘イヴ’では美しい裸婦の背景に動物たちが沢山描きこまれている。象、カバ、マントヒヒ、キリン、蛇、ダチョウ、ペリカンなどなど。じっとみているとイヴが女ターザンに思えてきた。

これで、フジタの作品には済みマークがつけられる。サントリー美大賞をとった林洋子氏の著書‘藤田嗣治 作品をひらく’(名古屋大学出版会)を読んでみたくなった。

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2008.12.06

Bunkamuraのワイエス展

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渋谷のBunkamuraで開催中の‘アンドリュー・ワイエス展’(11/8~12/23)を見た。この展覧会の情報を得た時、出品作に対する事前の期待は半分々だった。そして、開幕近くになると、昨年福島県美で見た‘ガニング・ロックス’(拙ブログ07/4/18)がチラシで一番大きく扱われていたから、‘あまり期待できないな’という気分。

‘ガニング・ロックス’はとても気に入っている作品だが、これが第一のアピールポイントだとすると、アメリカの美術館からの作品は少ないことはおおよそ察しがつく。

果たして、どうだったか?予想に反して、心に響くいい絵が結構あった。これは嬉しい誤算!ワイエスの画集が手元になく、MoMAにある‘クリスティーナの世界’のほかにどんな絵がこの画家の代表作となっているのかわからないので、胸を打った作品がどのあたりのものかイメージできない。

今回はテーマを‘創造への道程’としているので、最終のテンペラ画とその前の素描や水彩を連続的に展示している。絵描きではないから、習作には興味がない。で、それらをパスして完成した作品だけを時間をかけてみた。ぱっとみて完成作は30点くらいしかなく、残りの120点は習作。アメリカで絶大な人気を誇るワイエスの絵を日本で沢山見れるとははじめから思ってないが、‘30点で1400円もとるのか’というのも率直な感想。

作品自体には青山ユニマット蔵の‘オープンハウス’(07/6/17)などで目慣らしが少しできているので、その繊細な描写が心をとらえてはなさない。上は‘粉挽き小屋’
(1962、フィラデルフィア美)。風がゆるやかに吹いているのか、二本の木の棒をつなぐ鉄線に枯れ草がかかり揺れている。向こうにみえる粉挽き小屋の石の壁がなんともリアル。

草木や木々をこのように一本々実に細かく描く風景画は森本草介(07/5/23)やロシアのポポフ(07/5/22)の絵とよく似ているし、最近見た日本画の速水御舟の‘丘’(10/5)とか石田徹也の‘前線’(11/15)にみられる描写力とも通じるものがある。

これほど繊細なリアリズム画に感動するのはワイエスの描くアメリカの田舎の風景が静謐そのものだからである。鳥が空を飛んでいるとか、馬が走っている光景でもなく、また、雲が早いスピードで動いているとか、風がビュービュー吹いているわけでもない。人の気配がしない、時間が止まっているような実に静かな世界をこういう、ハイパーリアリズムで描くと見る者はいやがおうでも画面の中に惹きこまれる。アメリカの原風景がここにある。

真ん中は鹿が地面に落ちた林檎を食べようとしているところを描いた‘ジャックライト’
(1980、個人蔵)。太い幹が真ん中で左右に枝分かれし、そこに体を寄せるようにしている鹿が真っ赤な林檎のほうへ首をのばしている。光が幹の表面に強く当たるところと下の影のところの対比が目に焼きつく。

下の‘三日月’(1987、個人蔵)も画面手前が強いインパクトを持っている作品。軒下に懸けられている籠を見て、瞬時にダリが描いた‘パン籠’(06/10/2)を思い出した。籠や柱は木の質感が200%伝わってくるのに対し、雪の積った地面や遠くの小山は霞がかかったように描き、クリスマスツリーのような木の隣に三日月を配している。冬の厳しさと幻想的なイメージが溶け合わさった画面を息を殺して眺めていた。

福島県美がワイエス作品をどういう縁で手に入れたのか知らないが、昨年、‘ガニング・ロックス’と一緒に見た‘農場にて’のほかにも裸婦図の‘そよ風’、‘松ぼっくり男爵’など全部で7点あった。青山ユニマット(15点)とともに福島県美がこんなにワイエス作品をコレクションしていたとは。習作の大半は丸沼芸術の森蔵だったが、ぐっとくる完成作がなかった。今回は習作だけに絞って出したのか、それともいいテンペラや水彩は所蔵してない?

ワイエスについては、凄い画家であることは前からわかっているので、一度過去行われた展覧会の図録とかちゃんとした画集を手に入れ、どのくらいの名品がどこにあるのかチェックしてみたい。

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