東芸大美の狩野芳崖展
東芸大美で開かれている‘狩野芳崖 悲母観音への軌跡’(8/26~9/23)に対する事前の期待値は中くらいのだったが、展示されている作品(58点)をみて仰天した。これはまさに長らく待ち望んでいた狩野芳崖の回顧展そのもの。
タイトルからするとてっきり、‘悲母観音’(重文、下の画像)を中心にここの美術館が所蔵する作品をいくつか展示した軽い企画展とばかり思っていたから、うれしい誤算。だから、すぐ本気モードに切り替え夢中になってみた。
狩野芳崖(1828~1888)は長府藩(現在の山口県下関市)に生まれたので、下関市立美には芳崖の作品がいくつもある。ここから画集に載っている‘懸崖山水図’など9点、そして山口県美からも真ん中の‘羅漢図’など4点が展示されている。あとは東芸大の所蔵品が40数点と個人蔵の有名な作品‘仁王捉鬼図’(拙ブログ06/11/19)や‘桜下勇駒図’など。
国内にある芳崖の名画がほとんど揃ったと言っても過言でない。とにかく、画集に出ているのは全部あるという感じ。今年は1月に川越市立美で‘橋本雅邦展’があり長年の夢が一つ実現したから、これで充分なのに狩野芳崖展も見ることができた。ミューズに感謝々。
上の‘羅漢図’は追っかけリストに入っている作品。予想上回るすばらしい絵で一番長くみていた。とくに右に惹きこまれる。雲に乗った尊者の下で体をくねらせている龍の迫力のある姿態とトンネルのようにみえる波の荒々しい造形に釘付けになった。初見の真ん中の‘大鷲’(部分)は馬鹿デカイ絵。縦3.25m、横2.03mある。図版でみるイメージとはまったく違った。見てのお楽しみ!
フェノロサの影響のもとに描いた作品のなかで一際目立つのがやはり‘仁王捉鬼図’。仁王に左手で首を絞められている鬼は目が飛び出し、足をばたつかせている。これは絵というより漫画スタイル。筋肉マンのような仁王とユーモラスな鬼の対比が実におもしろい!この茶目っ気のある描写にいつも面食らう。素の狩野芳崖は案外おもしろい人だったのかも?
最後の部屋に‘悲母観音’が飾っている。目は悲母観音よりもどういうわけかまん丸頭の赤ん坊のほうへいく。大きな掛け軸で、動きのあるポーズで母親を必死にみつめる赤ん坊がちょうど目の前あたりにくるからかもしれない。東博にある‘普賢菩薩像’とか‘虚空蔵菩薩像’(ともに国宝)と‘悲母観音’を比べると衣裳の描き方がかなり違う。悲母観音では天衣の下への垂れ方がリズミカルで細い飾り紐も複雑に絡まっている。芳崖は紋切型の形にならないように工夫し、また色の使い方にも気を使ったにちがいない。
満足度200%の展覧会だった。東芸大のあと、下関市立美でも開催される
(10/4~11/5)。
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コメント
羅漢図の解説を読んでニッチ状という言葉が
分からなかったのですが、家に帰って調べたら
ああなるほどなぁと感じました。
私は不動明王が初見で、すばらしいなぁと感激しました。
投稿: 一村雨 | 2008.09.09 05:57
to 一村雨さん
こんな立派な回顧展が300円でみられるの
ですから、たまりませんね。
芸大にあるのは‘悲母観音’、‘不動明王’、
‘大鷲’など画集にのっているのは全部あり
ました。不動明王は下の橙色が輝いてまし
たね。
投稿: いづつや | 2008.09.09 12:50