山種美術館 大正から昭和へ
山種美術館で現在行われている展覧会のタイトルは“昭和から昭和へ”(4/26~
6/8)。この美術館は日本画の専門館として世間的にはその名が知られているが、洋画も所蔵しており、時々展示される。今回出ているのは小出楢重の“子供立像”、佐伯祐三の“レストラン”と“クラマール”、そして荻須高徳の“ノワルムーチェの捨てられた舟”。
とても気に入っているのが“子供立像”。東近美にも同じ男の子を描いたのがあるが、この絵のほうに惹かれる。また、“レストラン”はいかにもフランスのお店という感じ。茶褐色の壁の質感がぴったりで、真ん中に描かれている鶏マークに視線がいく。この二つはここ数年で2回みた。
日本画で数が一番多いのが速水御舟の作品。上の“昆虫二題”やヨーロッパへ行ったとき写生した“フィレンツェ アルノの河岸の家並”、“塔のある風景”などが13点ある。“昆虫二題 葉陰魔手・粧蛾舞戯”はいつみてもぐぐっと惹きこまれる。上は“粧蛾舞戯”のほう。真ん中上に設定された中心点のまわりを黄色、白、緑など色とりどりの蛾が美しく舞っている。
蛾というと色が綺麗であっても、蝶と較べるちょっと敬遠したくなるのだが、この蛾の前では体を引くどころか、細密に表現された端正な羽根と妖艶な香りを発する色にまったく幻惑されてしまう。“葉陰魔手”で目を奪われるのは蜘蛛の巣のリアルさ。御舟は畳の目といい、蜘蛛の巣の網目といい、その超描写力をみせてくれる。見る度に“参りました!”と心のなかでつぶやいている。
小林古径は“清姫”の3点と静物画3点。真ん中は“清姫・日高川”(部分)で、逃げる安珍を日高川まで追っかけてきた清姫の姿が描かれている。真性ストーカー女、清姫はこのあと大蛇に化身し、道成寺の釣り鐘に隠れた安珍のところへ向かう。クライマックスシーンの“鐘巻”は見てのお楽しみ!
一番奥の部屋に見所のある絵が並んでいる。大和絵と琳派の画風をミックスしたような横山大観の“喜撰山”はお気に入りの絵。山々の緑青と手前の赤松の対比が見事。再会した竹内栖鳳の“斑猫”(拙ブログ06/10/20)をしばらく見て、最後に下の川端龍子の“鳴門”(左隻)と対面した。渦潮は右隻にいくつも見えるが、海の情景として圧倒されるのは左隻のほう。
滝つぼのような段差ができているところへ視線が集中する。濃い青が海面の落差を強調し、荒々しい波のうねりとしぶきが純度の高い白で表現され、流れ落ちる波の上には一羽の海鵜が飛んでいる。これは川端龍子作品の好きな絵ベスト5の一枚。久しぶりに目のさめるような青と白をみて、体が熱くなった。
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コメント
楢重の子供立像、いかにも裕福なお坊ちゃんと
いう感じでしたが、息子への愛情たっぷりの
ステキな絵でした。
私も、粧蛾舞戯に引き込まれました。
蛾たちと一緒に天に昇っているように
感じました。
投稿: 一村雨 | 2008.06.05 00:02
to 一村雨さん
岸田劉生の麗子像が女の子の傑作なら、男の子
では小出楢重のこの絵でしょうね。心がなごみ
ます。
御舟は本当にすごい画家ですね。若冲の花鳥画は
ミニマリスム的な雰囲気を併せもつ究極のミクロ
美ですが、御舟の超描写力が描き出す蛾は神秘的
すぎるほど完璧に美しいという感じです。
投稿: いづつや | 2008.06.05 23:17