国立西洋美術館のコロー展 その一 風景画
待望の“コロー展”(国立西洋美、6/14~8/31)が先週の土曜日からはじまった。初日の朝からそんなに人は来てないだろうと思っていたら、これが大間違い。10時なのに1階のコインロッカーはもう全部鍵がかかっている。となると会場にはかなりの人がいる?!ちょっと信じられない光景だが、絵の前は牛歩状態。“コローのモナリザ(真珠の女)”をャッチコピーにしたチラシの宣伝効果が相当効いている感じである。
出品作は全部で120点。すべてがコローの絵ではなく、コローの影響を受けた画家の作品が26点ある。コロー作品94点はこれ以上望めないすばらしいのが揃っている。西洋美が主催した画家の回顧展としては04年の“マティス展”、05年の“ラ・トゥール展”以来のビッグヒット!
ここの特別展に対する期待値は前からこのレベルなのに、ここ2,3年は美術館が所蔵する自慢の名作をことごとくNG出しされたような“ベルギー王立美術館展”とか普通の美術ファンには見向きもされないマニエリスム絵画を集めて専門家や通好みの受けを狙った“パルマ展”などしか開催してくれなかったから、西洋美の評価は東京都美より下にしていた。だが、今回は久しぶりに本来の実力を発揮してくれた。
少し先走って言うと、このコロー展の内容は8月から約1ヶ月会期が重なる“フェルメール展”(東京都美、8/2~12/14)に一歩も引けを取らない。むしろ、こちらのほうがトータルの質では確実に上回る。もちろん、フェルメール展もすごい企画だから、両方を一緒に見るのが一番贅沢な美術鑑賞の仕方。コローの作品は風景画59点、人物画25点、ガラス版画10点で構成されている。まず、風景画から。
1月、3月に行った海外の美術館めぐりで、コロー(1796~1875)の作品を沢山目に焼きつけた。そのなかで紹介できたのはほかの絵との関係で“モルトフォンテーヌの思い出”(拙ブログ4/2)のみ。この絵との対面はエポック的と言ってもいいくらいで、これまでのコローに対する評価が一変した。コローが好きになれなかったのは要するにいい絵に遭遇しなかったから。再会してまたこの絵に惚れ直した!もう一点、密かに期待していた絵があった。それはオルセーで会えなかった“朝、ニンフの踊り”。これが見れたら代表作はほとんどみたことになったのだが。
コローがイタリア留学したとき描いた作品ではなんといっても上の“ティヴォリ、ヴィラ・デステの庭園”(ルーヴル)が最高にいい。前景中央に添景として描かれた子供の姿がとても印象深く、その向こうには夏の静かな陽光のなか、糸杉が左右にどっしり立ち並ぶ。光の強い南国なのに色彩はそれほど強くはなく、穏やかで画面全体が落ち着いた静けさにつつまれている。
真ん中はぼんやりとした木々や鬱蒼とした森が描かれた作品とは趣が異なる“ドゥエの鐘楼”(ルーヴル)。ドゥエは北フランスの町で、75歳のコローはここにしばらく滞在して町のシンボルである鐘楼を描いた。手前両サイドの建物は大半が画面からはみ出し、視線が中央の鐘楼にすっと集まるように構成されている。通りでは縦に移動する人に加えて、馬や会話している年寄りの男女が横向きに描かれているのがおもしろい。
コローの風景画が平穏で落ち着いた気分で見られるのは水平と垂直の線で画面がうまく構成され、そして斜めの線で遠近感を出しているから。その典型的な作品が下の“アルルーの風景、道沿いの小川”。これはロンドン・ナショナルギャラリーでみて大変魅せられた。男が乗った小舟は横向きになっており、左には水鳥が二羽、右の草地には犬がみえる。そして、右の川岸で斜めに等間隔に立つ緑豊かな大きな木の端にはもう一人の農夫が腰をかがめて作業をしている。
国内の美術館から出品された10点のうち8点ははじめて見る絵だった。大作が“ナポリの浜の思い出”(西洋美)と“ボロメ島の浴女”(ひろしま美)、“ヴィル=ダヴレーのあずまや”(丸紅)。丸紅がもっている絵と小品だが光の輝きが美しい“ヴィル=ダヴレーのカバスュ邸”(村内美)を見れたのは大きな収穫だった。
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コメント
本日行ってきました!
平日というのにかなり混雑していましたね。
一番上の絵の男の子は構図を考えてあとからつけ足したのですよね。
コローが単に風景を描くだけでなく、構図もキチンと考えて絵を描いていたのですね。
しかし図録が重くて読むところが大変だ。
僕は上野から立川でて、立川から世田谷の家に帰るまで図録読みっぱなし、本当に疲れました。
図録を買うと東京美術倶楽部でやる正木美術館の展覧会のチラシもはいっていましたね、これも要チェック!
投稿: oki | 2008.06.24 22:29
to okiさん
混雑してましたか。このコロー展はパリと東京で
開催されたら、パリには欧州、アメリカから美術
ファンが大勢駆けつけたのではないかと思います。
一級の回顧展です。
図録は例によって見ているのは図版だけで、章ごと
の論考とか、絵の解説は読んでません。舞台装置
とか変奏曲のことが書いてあるらしいですね?
おもしろいですか?
代表作を9割近く目の中におさめましたので、
Myコローがまとまってきました。でも疑問点も多い
です。わかったことがいくつかあります。そのこと
を少し。
★モネとルノワールはコローの母親と子供の描き方
を真似た!?
例えば、“モルトフォンテーヌの思い出”で女の子
が花を摘み取り、それを母親が木にさしている場面
などはモネの“カミーユ・モネと子供”(ボストン美)、
“ひなげし”(オルセー)とかルノワールの
“夏の田舎道”(オルセー)と雰囲気がよく似てます。
★コローの自然や生き物に対する愛情の深さは日本人
の琴線に触れる!
上で紹介した“アルルーの風景、道沿いの小川”
で描かれている二羽の水鳥や犬に泣けてしまいます。
人にも動物にもコローは本当にやさしいですね。
絵に人柄がそのまま出てます。
★コローはマネやドガの女性画にみられる内面描写を
先取りしている!
晩年になるにつれこの傾向が強いですね。“草地に横
たわるアルジェリアの娘”や“身づくろいをする若い
娘”の目つきにドキッとします。近代絵画の本質を
ズバッと捉えており、まったくすごいと思います。
“デステ庭園”で男の子の配置はここしかないという
くらい決まってますね!東京美術倶楽部の正木美の
情報はNOマークでした。本当に助かります。有難う
ございました。
投稿: いづつや | 2008.06.25 00:19