茨城県陶芸美術館の荒川豊蔵展
昨年の9月、岐阜県美術館ではじまった昭和を代表する陶芸家、荒川豊蔵の回顧展が関東に巡回してくるのを心待ちにしていた。巡回先は茨城県陶芸美術館で会期は
4/19から6/22まで。ここへは高速道路が渋滞してなければ1時間40分くらいで到着するので、年に一度くらいクルマを走らせる。
桃山の志野を復興した“荒川豊蔵物語”は書き物で知っているが、豊蔵の作品をこれまでまとまった形で見たことがない。今回は初期から晩年にわたる志野、瀬戸黒、黄瀬戸などが約190点でているから、気分はかなり高揚した。
嬉しいことにこの中には、荒川豊蔵が愛した志野や瀬戸黒、楽、乾山などの名品が16点含まれている。その中でしっかり見たのが、豊蔵が岐阜県可児(かに)市大萱(おおがや)の山中で志野の陶片を発掘するきっかけとなった“志野筍絵茶碗
銘 玉川”(徳川美術館)。
これを写したのが上の“志野筍絵茶碗 銘 随縁”。モデルとした“玉川”同様、やわらかくてやさしいやきもののである。雪のようにやわらかい肌には大小二つの筍が、また後ろには山に松が描かれている。どの茶碗も絵文様は胴部全体に描かれてなく、アクセント風に一つか二つあるだけ。初期の“志野茶碗 銘 蓬莱”では山並みに松が、“志野橋の絵茶碗”では橋がごくシンプルに描かれている。ほかには蕨とか○、△というものある。
これが真ん中の“鼠志野梅絵茶碗”の梅になると、ぐっと華やいだ雰囲気になる。灰色がまじったうす青の地に描かれたV字形の梅の枝がとても美しい。また、その丸みを帯びたフォルムが心を虜にする。鼠志野はほかにも亀甲文や鶴絵のものがあった。
荒川豊蔵は志野と瀬戸黒の人間国宝。その瀬戸黒は11点。お気に入りは下の“瀬戸黒金彩木葉文茶碗”と同じ金彩の“梅絵茶碗 銘さきがけ”。中国・吉州窯の“木の葉天目”は茶碗の内側に実物の木の葉を置いて焼成しているが、この瀬戸黒は茶碗の胴部の外側に木の葉をみせている。黒の地が金彩の木の葉を浮かび上がらせるモダン感覚の意匠に思わず息を呑んだ。
2階の第2会場で目を楽しませてくれたのは後年、日本画家の前田青邨や奥村土牛、彫刻家の平櫛田中らとコラボした作品。とくに志野茶碗に土牛が鶴を描いたものに魅せられた。また、荒川豊蔵のすばらしい絵心にも驚かされる。浦上玉堂や池大雅に倣った“染付山水図飾皿”、“色絵秋景図飾皿”が絶品!こんなに絵が上手いとは知らなかった。
やきものの名品だけでなく、豊蔵の絵も楽しめるのだから言うとこなし。満足度200%の展覧会だった。
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