その八 マティス ミロ オキーフ
20世紀美術が展示してある東館は巨大な吹き抜けになっているところだけはカルダーのモビールがあったので記憶がよみがえってきたが、ほかはまったく忘れている。だから、常設展示のある3階の展示室にたどりつくのにえらく時間がかかった。全部の作品をみるのに時間はあまり要らなかったが、リストに載せていたお目当ての作品とは半分くらいしか会えなかった。
一番消化不良感が強いのがモディリアーニの“赤子を抱くジプシー女”。残念!前回強く印象に残っているマティスの大きな切り紙絵の展示室は工事で閉鎖中だったのも想定外。また、大好きなステラやロイ・リキテンスタインの作品との対面を楽しみにしていたが、これも叶わなかった。
でも、収穫も多かったのでトータルの満足度は大きい。上はマティス(1869~1954)の“窓”。これは手元にある“世界名画の旅 朝日新聞日曜版”(全5冊)(朝日新聞社 1987年)でも取り上げられている有名な絵。一瞬、頭がくらくらした。“この絵はここにあるの?”本が出版されたときは個人蔵となっていたが、1998年、ここに寄贈されていた。宝物が急に目の前に現れたような感じである。
この絵が描かれた1905年はマティスの創作活動の転換期だった。この年マティスは北フランスからスペインとの国境近くの漁村コリウールヘ妻や娘と一緒にやってくる。これまですごしてきた暗くてさびしい色につつまれた故郷とは違い、ここでは明るい陽光のもと、家々の壁にはさまざまな色が自由に塗られていた。
これをみてマティスは色に目覚める。“もっと自由に色と遊ぼう、現実の色をこえて心に浮かぶ色を自由に表現しよう!”色彩の革命、フォーヴィスムのはじまりである。“窓”があいた部屋の壁は右がピンクで左は緑。窓から見える赤や緑、紫に塗られた船は波で船体を左右に揺らしている。目に心地よく、深い安らぎを覚える絵である。本当にいい絵に出会った。
真ん中のミロ(1893~1983)の“農園”も嬉しい一枚。昔からミロの大ファンなので、この初期の傑作には長らくフルマークがついている。所蔵していたヘミングウェイ家から1987年、ここへ寄贈されたから、前回の訪問では対面を楽しみにしていたが、どういうわけか展示されてなかった。やっとリカバリーできた。
モンロチの農村風景を描いたこの絵のなかには農婦、農機具、鶏や馬まど馴染みの動物、ユーカリの木、農家、家畜小屋などがきわめて平面的に描き込まれている。何人かの子供に農村の風景という題を与えて描かせ、そのあと一枚の大きな紙に貼り付けるとこんな仕上がりになる?ミロの詩的な感性にはまるで子供たちがもっているさまざまな夢やイメージがモザイク的に組み込まれているよう。
シカゴ美に続き、ここでもジョージア・オキーフ(1887~1986)の目の醒めるような絵と遭遇した。下の大きな花シリーズのひとつ“ジャック・イン・ザ・プルピットⅣ”。これは6点ある連作の4作目。展示されていたのはこの1点のみ。手元にある画集でみると花のフォルムは次第に抽象へ向かい、最初の作品と比べリアルな部分を残しているのは雄しべだけ。
拡大された花は小さく描かれたときは見えなかった細部が強調されてその美しさに思わず惹きつけられる。が、画面からはみ出すくらいに拡大されると具象としての花のイメージが消え、抽象美の世界に入ってくる。この具象をイメージさせながら抽象へ誘う画風がオキーフの一番の魅力。ここにはクプカの絵(拙ブログ04/12/6)を見るときのような気持ちのいい刺激がある。
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