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2008.04.08

その六 ホッパー展

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ミシガン通り側の入り口から入館しようとしたとき美術館の壁に企画展を案内するバナーが二つ垂れ下がっていた。一つが“ホッパー展”で、もう一つが“ホーマー展”。楽しみにしていたホッパー(1882~1967)の上の“夜ふかしする人々”が見れるだけでもワクワクするのに、ラッキーにも回顧展に遭遇するとは!ミューズに感謝である。で、20ドルの追加料金を払い、急いで特別展の会場へ向かった

この回顧展は昨年5月、まずボストン美ではじまり、その後9月から今年の1月までワシントンのナショナル・ギャラリーで行われ、最後にここシカゴ美にやってきた(2/16~5/11)。作品数は油彩70点、素描12点。図録にはボストン、ナショナルギャラリーだけに展示されたものも含めて全部で110点載っている。ホッパーの代表作を所蔵する美術館から目一杯何集めてきた感じで、何十年に一度開催される大回顧展といっていい。ここだけにへばりつくわけにもいかず、落ちつきのない鑑賞スタイルではあったが、これぞホッパーという作品はしっかり目に焼き付けた。

これまでみたホッパーの絵はNY、MoMAにある“ガソリンスタンド”、“ニューヨークの映画館”、メトロポリタンの“婦人たちのためのテーブル”(いづれも今回展示してあった)と2年前府中市美で開催された“ホイットニー美術館展”に出品された“踏切”、“クイーンズボロ・ブリッジ”、“ニューヨークの室内”の6点しかない。だから、代表作中の代表作“夜ふかしする人々”をみることが長年の夢だった。

この絵で魅せられるのはなんといっても無駄な部分を省略した簡潔な構図。画面右から船の舳先が鋭角的にせりだすように描かれたダイナーとよばれる簡易食堂にいるのは店主と客の3人だけ。店の外の歩道には人っ子一人いない。大都会の夜の孤独感がひしひしと感じられる光景である。蛍光灯の光があたり一際あかるい右奥の壁の近くに座っている男女を見ているだけではそれほど淋しい感じはしないが、目をこちらに背中を向けている男にやると、とたんに不安で孤独な感情に体がつつまれる。抽象的とも思える構成と光と闇の強烈なコントラストで大都市における孤独感を見事に描いた傑作である。

ホッパーが風景画で繰り返し描いたのが鉄道線路、踏切、家屋、建築物、灯台。6点あった灯台の絵でもっとも惹きつけられたのが真ん中の“灯台のある丘”(ダラス美)。下から見上げる感じに描かれている灯台と横の建物は写実的に見えるのだが、灯台にあたる光と縦に中央から分ける影をみていると、デ・キリコの形而上絵画をみているような気にもなる。メトロポリタンでみたのは澄み切った青い空を背景にまぶしい陽光を浴びる灯台だったから、このようなデ・キリコの作風を彷彿とさせる絵があるとは思ってもみなかった。

裸婦図や人物画も沢山ある。女性たちはいずれも部屋の中でぽつんと座っていたり、窓の外をときに虚ろげに、ときに淋しげに眺めている。下は妻のジョーがモデルといわれている“午前11時”。裸婦は窓際で椅子に座ったままでじっと外を見ている。こちらを振り向かれたらなんと言って声をかけたらいいのか困る雰囲気なので、目に力をいれてその記憶を強くとどめ、隣の絵のほうへ進んだ。念願の“夜ふかしする人々”のほか心を揺すぶる名作の数々と対面できた喜びを今かみしめている。

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コメント

こんばんは
↑真ん中の絵の風景にとてもよく似たところを知っていたので、しばらく絵を眺めていました。
北アイルランドの小さな港近くの岬なんですが・・・でも、この絵はきっと別の場所ですよね?
その岬の、氷と雪の季節の景色が好きです。灯台のほかには特に何もないのですが。
・・・何だか「襟裳岬」にも情景が似てきたような気が?!

投稿: kai | 2008.04.09 00:47

to kaiさん
旅行することは多いのですが、灯台をみる機会
はあまりないですね。紀伊半島の潮岬の灯台は
見たような記憶があります。

ホッパーの灯台の絵が北アイルランドの岬に似
ているのですか?絵に描かれているのはボストン
の上のほうのメイン州ポートランドにほど近い
エリザベス湾の灯台です。

ホッパーはこの灯台を大きく描いたり、この絵
のように下から見上げるようなアングルから描
いたりしてます。今は灯台がぐっと近くに感じら
れるようになりました。

投稿: いづつや | 2008.04.09 09:04

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