その三 パルミジャニーノ ブロンツィーノ カラッチ
ナショナル・ギャラリーはトラファルガー広場の後ろ側にある。広場のシンボルとなっているのが高さ50mの円柱の上に立つイギリス艦隊を率いたネルソン提督の像と下の4頭のライオン像。大半の観光客はこのライオン像を背景に写真を撮る(三越のライオン像はこれがモデル)。美術館の開館時間は10時。ここはルーヴルのように入館時、バッグの検査がなく、無料。ロンドンにある国立の美術館は大英博物館をはじめどこもお金はとらない。名画の数々が無料で見られるのだから、ほんとうに嬉しくなる。
作品は4つの時代区分にまとまえられて展示してある。1250~1500年(入って左側の一番奥)、1500~1600(入ってすぐの左側)、1600~1700(正面一番奥)、
1700~1900(入って右側)。部屋の数は全部で65。ここは有名な名画があちらにもこちらにもという感じで、とにかく息がぬけない。
今回紹介する絵は前回まったく知らなかったもの。上はパルミジャニーノ(1503~
1540)の“聖母子と洗礼者ヨハネと聖ヒエロニムス”で、真ん中はブロンツィーノ
(1503~1572)の“ヴィーナスとキューピットのいるアレゴリー”。いずれもマニエリスム絵画の傑作である。同じマニエリスムでもポントルモやサルトが描く作品に惹かれることはないが、この二人にはとても関心がある。
パルミジャニーノの“聖母子”はダビンチの“岩窟の聖母”と同じ部屋(左側の最初)にある。図録でみる以上に縦長の大きな絵。視線が集中するのがなんといっても左足をこちらのほうへ突き出し、右腕を後ろの幼児キリストに向かって曲げている洗礼者ヨハネ。このポーズを図録で見て“こんないい絵を見逃したなのは惜しいことをしたな”とここ5年くらいは思ってきたから、感慨深い。ウィーン美術史美での回顧展、ウフィツィ美にある“長い首の聖母”(拙ブログ06/5/28)、そしてこの絵をみたからパルミジャニーノは終了。
ブロンツィーノの“アレゴリー”にもメロメロ。青紫の布に浮かびあがるヴィーナス、キューピット、右の笑っている子供の白い肌に目を奪われる。この3人のまわりには髪をかきむしる怖い顔をした老女がいたり、仮面が置かれたりしてマニエリスムの匂いがするが、この白い肌と子供の笑顔のお陰でこの絵の前にながく立っていられる。この絵はアレゴリーの意味をあれこれ読み解く前に、まずユーモラスとエロチシズムの入り混じった不思議な空間と色の輝きを楽しむのが一番。愛の快楽には危険がつきものと教えるこのマニエリスム絵画の傑作と対面できたことは一生の思い出になる。
下の絵はマニエリスムに反発し、写生を重視したアンニーバレ・カラッチ(1560~
1609)が描いた“アッピア街道で聖ペテロに現れるキリスト”。カラッチの絵を見る機会はあまりないから、今回の美術旅行ではこの画家も重点鑑賞のひとり。これはこれまで見たなかでは最も印象深い絵。“主は何処へ行かれるのですか?”と問うペテロがキリストに“ペテロが信者を見捨てたので再び十字架に掛けられに行くところだ”と切り返えされ、あたふたとする様子がよく伝わってくる。
カラヴァッジョとの関連でカラッチの作品にたいして興味が涌いているので、次回のローマ旅行ではカラヴァッジョと共にカラッチのファルネーゼ宮殿天井画を目のなかにいれることをターゲットにしている。
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コメント
アッ!ブロンツッーノだわ。(これも、イギリスにあったのですか。海を渡ったのは産業革命以後でしようか。)
マニエリスム!それにしても、動物の肉食って、地続きの外国に囲まれてるヨーロッパ人と、四海を海にかこまれて豆腐、納豆お茶漬けの日本人! 考え込んでしまいます。
カラッチ!この後、鶏が二回鳴くんですか?
私は、イギリスに何しにいったのかしら?たしか、ロンドン三越にいった記憶はあります。
いづつや様 おかえりなさい! うつくしい日本に!
投稿: 花 | 2008.02.05 15:51
to 花さん
ブロンツィーノではこの絵が最高傑作ではない
でしょうか。不思議な魅力があります。マニエ
リスムは趣味ではないのですが、パルミジャニ
ーノとブロンツィーノの作品はとても気に入って
ます。今回2点の傑作が見れて大満足です。
今回はロンドン三越が集合場所だったので、
三越でみやげ物を買ったりしました。
投稿: いづつや | 2008.02.06 10:34