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2007.12.18

美術評論家もいろいろ

12712日の朝日新聞文化欄に今年国内で開催された展覧会を回顧する記事が載っていた。

これを読むと、どんな展覧会に美術の専門家は注目していたかがわかる。編集委員と美術史家・評論家が取り上げた展覧会は次の通り。

<編集委員>
★“日展100年”(国立新美)
★“岡倉天心ー芸術教育の歩み”(東芸大美)
★“日本彫刻の近代”(東近美)
★“夜明け前 知られざる日本写真開拓史”(東京都写真美)
★“昭和 写真の1945-1989”(東京都写真美)
★“20世紀美術探検ーアーティストたちの3つの冒険物語”(国立新美)
★“大回顧展 モネ”(国立新美)
★“生きる展”(横須賀美)
★“マルレーネ・デュマスーブロークン・ホワイト”(東京都現代美)
★“靉光展”(東近美)
★“ムンク展”(国立西洋美)
★“若冲展”(相国寺)
★“狩野永徳”(京博)
★“BIOMBO/屏風”(サントリー美)
★“鳥獣戯画がやってきた!”(サントリー美)

<柏木博>
★“マルレーネ・デュマス ブロークン・ホワイト”
★“ムンク展”
★“生誕120年バーナード・リーチ展”(松下電工汐留ミュージアム)

<北澤憲明>
★“20世紀美術探検”
★“富本憲吉展”(世田谷美)
★“靉光展”

<篠原資明>
★“河口龍夫 見えないものと見えるもの”(兵庫県美)
★“藤本由紀夫展”(国立国際美)
★“文承根+八木正 1973-83の仕事”(京近美)

<高階秀爾>
★“昭和 写真の1945-1989”
★“鳥獣戯画がやってきた!”
★“ムンク展”

<馬渕明子>
★“マルレーネ・デュマス ブロークン・ホワイト”
★“スキン+ボーンズ 80年代以降の建築とファッション”(国立新美)
★“BIOMBO/屏風”

<山下祐二>
★“篠原有司男と榎忠”(豊田市美)
★“秋田蘭画とその時代展”(秋田市立千秋美)
★“クマグスの森 南方熊楠の見た夢”(ワタリウム美)

6人の評者のうち北澤氏と篠原氏は知らないから、取り上げられた展覧会についての感想はないが、よく知っている山下祐二氏の選には?である。日本美術史家で一応名前を売っている人が京博の“狩野永徳展”をどうして取り上げないの?日本美術のど真ん中にいる天才絵師、狩野永徳の大回顧展がはじめて開催され、大勢の人が京博に押し寄せたというのに、これを外すとはどういう神経をしているのだろう。

編集委員とは違うのを選んでくれと言われたのであろうか。プライドの高い専門家にたいして新聞社がそんなことを言うわけがない。大御所の高階秀爾氏が専門の西洋絵画でちゃんと“ムンク展”を選ばれ、日本美術の“鳥獣戯画がやってきた!”も評価されているのに、山下祐二氏は現代アートも精通していると言わんばかりに“篠原有司男と榎忠”をリストアップ。こちらは篠原氏に任せておけばいいのであって、期待されている役割がまるでわかってない。

もっとも永徳展を評価しないというのなら、話しは別だが。そうなると、三流の美術史家を選んだ朝日の人選ミスということになる。今年の漢字は“偽”だが、山下氏の選んだ展覧会をみて、大げさな言い方かもしれないが、食品偽装に対する憤慨と同じような感情が沸き起こってきた。山下氏の選び方は、例えで言うと皆がストライクを投げるのを期待しているのに、くせ球を放りバッターの打ち気をそらすピッチャーみたいなもの。

昨日書いた新日曜美術館“こんぴらさん”のゲストは江戸絵画の専門家ではなくてドイツ文学者の池内氏だった。また、フェルメールの“牛乳を注ぐ女”を放送したときは大橋巨泉や壇ふみにフェルメール絵画を熱く語らせていた。専門分野はちがっても美を深くとらえられ、素直な気持ちを自分の言葉で表現できる人のほうが、メディア慣れして自己顕示欲のつよい専門家よりずっといい。

必要以上に展覧会の情報を入れたり美術評論家の本を読むと作品に対する理解が進み、自分も見る力がついたような気になるが、これは錯覚。時間はかかるが、わからないところはそのままにして作品をある程度沢山見た後、まとまった本を読むほうがかえって絵に目覚めることが多い。頭のなかを評論家の言葉でいっぱいにしていると彼らの術中にはまる。偽の美術評論家の受けのいい話にくれぐれもご注意を!

術中にはまるのを回避できた話を拙ブログ8/23に書いたので、興味のある方はお読みになっていただきたい。

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