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2007.12.15

江戸東京博物館の北斎展

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江戸東京博物館で開催中の“北斎展”(12/4~08/1/27)に北斎が描いた絵としてはほとんど馴染みの無い絵が展示してある。厳密にいうと北斎工房(北斎&弟子)によるこれらの作品は版画ではなく肉筆画。ところが、肉筆画でも、05年、東博で行われた大回顧展に沢山出品されたような肉筆画とはだいぶちがう。

上は43点あるうちの一枚。浜辺で一服する漁師夫婦と大きな碇に乗って遊ぶ子供たちが描かれている。ぱっと見ると司馬江漢の洋風画とみまがう絵である。碇には影があり、右の石垣にもちゃんと陰影がつけられている。大きな碇を真ん中にどんと置き、子供を動きのある姿態で描くところは北斎流だが、漁師と妻の着物に後ろからあたる光の表現や空の雲を濃淡のある灰色で描写するところなどは西洋絵画の描き方と変わらない。

どうしてこんな絵を北斎は描いたのか?北斎が65歳から67歳のころ、長崎にあるオランダ商館長が江戸にやってきて、人々の日常風景を描いてくれないかと依頼されたから。この外国人の注文を工房で分担して描いたのである。現在、これらの絵はライデンのオランダ国立民族学博物館とフランス国立図書館にあり、合計43点が今回里帰りした。実はフランス国立図書館(25点)のうち6点は93年、東武美術館(現在はない)で行われた“大北斎展”に特別出品された。だから、チラシには“初めて同時に里帰りさせる、、”となっているのである。

さて、この肉筆画は来場者の心をとらえるだろうか?“ぐっときた”という人は3割くらいで、“好みではない、風景版画のほうが楽しいな”という人が7割と多いかもしれない?93年のときと同様、今回もあまり感動しない。前回と較べると数が多いから、北斎が依頼者の注文にどう応えようとしたかが少しわかった。ポイントがいくつかある。

人物は女でも男でも子供でも大きく描く。そして、多くの人を描き込む。これは外人の好みを考えて、画面いっぱいに人物を配置して賑やかにみせたかったからだろう。そのため、余白が少なく、目が休むところがない。北斎は西洋人が余白(描き残すこと)に意味を見い出さないことをよく知っている。例えば“早駆け”では、疾走する手前の2頭の馬の間隔はほとんどない。“富嶽三十六景・隅田川関屋の里”と較べると、この絵が外人が楽しめるように描かれたということがよくわかる。

構成よりもっとはっきりしているのが色使い。誰がみても油絵の具の質感に似せて描いたことは明らか。浮世絵は浮世絵だが、このソース味は心に響かない。これは北斎がサービス精神を発揮して彼らのテイストにあわせて描いた絵だから、自分の好みで見たほうがいいのではないかと思う。

定番の版画や肉筆画を前にすると気持ちは一気に高揚する。真ん中の“北斎漫画”など絵手本や読本挿絵が沢山展示してあるので嬉しくなる。目を奪われたのが読本挿絵、“釈迦御一代記図会”。黒地に大きな渦巻きが白でダイナミックに描かれた場面やら、龍が釈迦を威嚇する場面やら迫力のある描写がてんこ盛り。北斎の並外れた想像力にただただ感服するばかり。

下ははじめてお目にかかった大作“杣人秋山山水図”。中央の杣人(そまびと)の仕事着や左右の山水にみられる青や緑が目にしみるほど鮮やか。そして、切り立った崖を俯瞰の構図でとらえ、坂道を登っていく大勢の人たちを実に細かく描き込んでいる。また、65年ぶりに公開されたという大きな“四季耕作図屏風”や初見の雀と松の絵“松下群雀図屏風”にも心を奪われる。

江戸東博は昨年のボストン美肉筆画展に続き、またまたホームランをかっ飛ばしてくれた。いまや浮世絵展のメッカ。来年の秋(10/7~11/30)にはまたボストン美蔵の浮世絵名品を公開するという。これは有難い!

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コメント

この展覧会で、またまた、北斎の幅広さを知りました。
こういう色使いは、今の私たちが見ると、当たり前に感じるのですが、当時の日本では受け入れられなかったのでしょうね。

投稿: 一村雨 | 2007.12.17 08:50

to 一村雨さん
最後のコーナーにあった肉筆画と較べると、
里帰り作品の特異さがわかります。やはり、
色使いや構成はちょっと違うなという感じ
です。

注文したオランダ人にしてみれば、人物表現
では顔や手足の筋肉にまでちゃんと陰影が
ついており、遠近法による空間描写、そして
色も馴染みの水彩に似ているとくれば、大喜
びの浮世絵風俗画だったのではないでしょうか。

彼らの好みに合わせて描けるのですから、
北斎の技量は超一級です。こういう作品をみ
ますとあらためて北斎の画家としての大きさ
を感じるのですが、この作品を何度も見たいか?
といわれると話は別ですね。

いつも見たいのは“神奈川沖浪裏”のほうです。
ですから、今回は沢山あった絵手本や初見の
肉筆画に鑑賞のエネルギーを注ぎ込みました。
はじめからその作戦です。

里帰り作品はプラスαとして見て、富嶽三十六景
や後半の北斎漫画、肉筆の傑作の鑑賞に時間を
多く割いたほうが北斎のすごさがより感じられる
のではないかと思ってます。

投稿: いづつや | 2007.12.17 15:15

こんばんは。

拙記事にリンクさせていただきました。
北斎自身どれだけ手を加えたのでしょうね。

投稿: Tak | 2007.12.21 23:50

to Takさん
北斎はカピタンの依頼を商売と割り切って
受注したのだ思います。工房で分担し、弟子
たちには絵の描き方、上でも書きましたよう
に背景の風景にはあまり手をかけず、日本人
むけなら小さく描くはずの人物を大きく描く
とか、なるべく沢山登場させるとかの指示
をしたのでしょう。

ですから、われわれが見慣れている風景と
人物描写がうまく溶け合った絵とは全く
違うに仕上りになっています。西洋人には
満足する浮世絵でしょうが、われわれの眼
からすると、それほど魅力的にはうつりませ
んね。

この絵が好きなら別ですが、北斎は金儲け
でこういう絵を描いたという程度にみとけ
ばいいのではないでしょうか。こちらばかり
に時間を割くと疲れて、後半に展示してある
傑作を散漫に見てしまいますから。

投稿: いづつや | 2007.12.22 14:11

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