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2007.11.01

ミネアポリス美浮世絵コレクションの春信

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ミネアポリス美蔵浮世絵コレクション展(松涛美)の後期(10/30~11/25)も前期(拙ブログ10/10)同様、目を見張らされる作品がずらっとある。2階展示室の真ん中にはソファがあり、ひとあたり鑑賞した人たちが喫茶室で注文したコーヒーなどを飲んでいる。こういうくつろいだ雰囲気はホテルのなかで絵画を鑑賞しているみたいで悪くない。

今回もお目当ては鈴木春信。18点ある。前後期あわせて36点もの質のいい春信の錦絵がみれるのだから、これはエポック的な鑑賞体験。専門家たちによって学術的な本をつくるようだが、前回の大回顧展に出品された作品と比較しながら、出品作の摺りのことや色使いについてすこし触れてみたい。

小型版の図録には初摺か後摺かについての記述はないが、手元にある図録(265点収録)とつき合わせてみると、おおよそわかる。作品の多くは色が鮮やかで、これが心を揺すぶることは間違いないが、全部初摺でなおかつ保存状態がいいからこんなに色が残っているということではない。

浮世絵の人気が高ければ高いほど、初摺のあと後摺が多くつくられる。そして、後摺になると、全体的に色彩が濃くなり、使われる色も変わってくる。春信の場合でも、初摺と後摺ではずいぶん色がちがうものがある。版元は買う人のニーズを考え、多くの人に受け入れられやすいはっきりした色調を摺師に指示する。で、春信が初摺で表現した色彩感覚とはちがったイメージのものが存在することになる。

春信の最も早い時期の多色摺版画は中間色の淡い感じを基本にした調和のとれた配色が特徴。上は錦絵スタート時の代表作“座舗八景”の一枚、“扇の晴風”。だが、これは初摺ではない。前期に展示された“塗桶の暮雪”とこの絵の隣にある“行燈の夕照”も同じく後摺。

現在、シカゴ美が唯一所蔵する初摺の8枚(回顧展に展示)と較べてみると、ミネアポリス美の“扇の晴嵐”は初摺の感じが残っているが、前にいる娘の着物の色はうすこげ茶色から深緑色に変わっている。初摺は線の美しさは同じだが、微妙な色合い。好みとしては雪柳が映える緑色のほうがいい。

下はとても気に入っている“採蓮美人”。舟の中から体をかがめて蓮の花を切り取っている。春信は歩いている姿とか、“三十六歌仙 源重之”にみられるような着物が風になびく様子など動感表現が上手い。この絵もこのかがんだポーズに惹かれる。初版(シカゴ美蔵)では舟や立っている女の着物にうす紅は使われてなく、土色と淡い黄色で彩色している。そして蓮の花、葉もうすいこげ茶色。

多くの色が使えるようになった錦絵は春信が生み出したものだが、版元たちは絵師の色彩感覚をとびこえていろいろな色の組み合わせを考え出し、売りまくったのではなかろうか。初期の錦絵はまだ開発途上のところがあるから、初めの版より、春信の手を離れた後摺のほうが人々に好まれるケースもでてくる。初摺がすばらしい作品もあれば、後摺のほうが魅力的な配色になっているのもある。

ちなみに後期の作品で初摺は“見立佐野の渡り”、“見立太田道灌”、“見立羅生門”、“船から下りる芸者”、“桜下の駒”、“見立鉢の木”。

春信のほかにも鳥居清方、歌麿のうっとりする美人画、写楽の人気大首絵“市川鰕蔵の竹村定之進”、国芳の“鯉”、北斎の“百物語”や花鳥画、広重の“魚&鳥画”など心に響く傑作がある。600円で質の高い浮世絵を沢山見せてもらった。松涛美に感謝々!

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コメント

初摺、後摺のお話、参考になりました。
浮世絵というのは、「肉筆か版画か」とか
絵師と彫師、摺師との関係などいろいろ
議論になることがありますね。
そんな背景を知っていくと浮世絵の楽しさも
倍増するのでしょうね。

それにしても、本当に素晴らしい展覧会
でしたね。

投稿: 一村雨 | 2007.11.07 05:52

to 一村雨さん
ボストン、ギメ、ミネアポリスと海外の美術館
が所蔵するいい浮世絵コレクションが日本にいて
鑑賞できるのですから、幸せなことですね。里帰
りですが、素直に喜びたいと思います。

春信作品の後摺は広重の“名所江戸百景”が後摺
でぼかしが無くなったり、グラデーションが弱く
なったりするのとはちょっとちがいます。

春信ははじめ旗本の大久保巨人らパトロンの注文
で絵暦をつくりましたから、通が好む淡い中間色
で仕上げましたが、後摺では版元が庶民の好みを
考えカラフルな色の組み合わせにしました。版元の
色彩感覚も相当なものですね。感心します。

色を沢山使える錦絵の誕生が絵師だけでなく版元、
彫師、摺師、そして浮世絵を求める人々の色彩感覚
を豊かにし、皆の美意識の響き合いがこんなすば
らしい浮世絵を生み出したのでしょうね。
このあたりがすごく面白いです。

投稿: いづつや | 2007.11.07 14:56

こんばんは。
いろんなところで浮世絵をみると、摺りや保存の違いで印象が変わるのですが、具体的にどのあたりの摺りだとかがわかると楽しみが倍増しそうな気がします。そこまで解説してくれないので、見る人が勉強するしかないのでしょうね。
初摺りこそが絵師の意図がもっとも反映されているというような単純なものでもないんでしょうね、きっと。

投稿: キリル | 2007.11.12 23:19

to キリルさん
浮世絵も時代がもっと下って北斎や広重のころ
になると、後摺では初摺で絵師が表現した手
の込んだ工夫をカットして多くの需要に応え
ようとしますから、初摺とは質的に落ちる絵に
なることが一般的ですね。

春信の錦絵はまだ生まれたばかりですから、こう
いう状況とは少し違い、版元の色使いのほうが
作品としていいケースも出てくるでしょうね。回顧展
の図録にある作品と今回の絵を見比べてみますと、
配色に関しては絵師と版元の共作のような気がし
ます。

投稿: いづつや | 2007.11.13 00:46

いづつやさんご無沙汰しております。以前、いづづやさんが浮世絵の魅力は「色」と仰っておられたのがこの展示で初めて分かったような気がしました。ともかくどれも見たことのないような瑞々しさですね。一般的に言われる春信の繊細さというのも、同じく初めて感じられました。

初摺、後摺の違いなども興味深いです。この展示をきっかけにもっと浮世絵の道に親しくなればとも思います。

投稿: はろるど | 2007.11.20 23:18

to はろるどさん
海外の浮世絵コレクターは摺りの状態のいい
鮮やかな色彩にびっくりし、浮世絵のとりこに
なったのではないでしょうか。

浮世絵を楽しむには今回のミネアポリス美の
ように海外から里帰りした作品をみるのが一番
ですね。昨年のボストン肉筆画からギメなど
超一級のものがつづきますが、これからもこの
ペースでいい浮世絵がみれると幸せなのですが。

投稿: いづつや | 2007.11.21 12:31

こんばんは。
松涛は本当にすばらしい展覧会を企画してくれました。
春信の浮世絵がぐっと近くになりました。
ファンタジックで、品のよさの漂う
表現のやわらかさに初めて身近に感動できました。
海外からのコレクションをたっぷり楽しめた一年だったようです。

投稿: あべまつ | 2007.11.22 22:12

to あべまつさん
ミネアポリス美の浮世絵コレクションは春信
だけでなくほかにもいい絵がありましたね。

日本にいると北斎とか、広重などのビッグ
ネームの作品ばかりに目がいきますが、ギメ
のときもそうでしたが、海外の美術館には鳥居
清倍、奥村政信といった準大物絵師のいい絵
をあるのに感心させられます。浮世絵を幅広く
楽しめるのが有難いですね。

投稿: いづつや | 2007.11.23 15:31

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