美術史家若桑みどり女史 死去
イタリア美術史の研究で大きな業績をあげられた美術史家の若桑みどりさんが昨日、虚血性心不全で亡くなられた。71歳だった。
女史の本を愛読していたので、残念でならない。心からご冥福をお祈りします。合掌!
04年、本が出版されたときに購入していた天正遣欧少年使節を書いた大著“クアトロ・ラガッツィ”(集英社)を今年はスペイン、ポルトガルを旅行したので、そろそろ読もうと思っていたところ。もう、そのお顔を拝見することができないが、本のなかで若桑みどりさんとお会いしようと思う。
これまで読んだ女史の本は次の6冊。
★“マニエリスム芸術論”(ちくま学芸文庫、94年)
★“薔薇のイコノロジー”(青土社、03年)
★“象徴としての女性像”(筑摩書房、00年)
★“イメージを読むー美術史入門ー”(筑摩書房、93年)
★“絵画を読むーイコノロジー入門ー”(日本放送出版協会、93年)
★“世界の都市の物語 フィレンツェ”(文春文庫、99年)
大好きなイタリアについての知識を増やそうと、何年か前から歴史は塩野七生さんの、美術は若桑みどりさんの著作を精力的に読んできた。両女史の舌を巻くばかりの豊富な知識と高い見識に接したお陰で、イタリアへの理解が深まり、イタリア美術を鑑賞する楽しみが増している。
若桑みどりさんから学んだことの一番は“イコノロジー”(図像解釈学)。“薔薇のイコノロジー”とイコノロジーの権威、パノフスキーの“イコノロジー研究”(ちくま学芸文庫、02年)には宗教画にでてくる図像の意味合いや作品の誕生と時代背景との関係などの知見がつまっており、古典美術やルネサンスの絵画への興味を一層掻き立ててくれた。
また、文化のなかにおけるジェンダーの視点で女性像を論じた“象徴としての女性像”は女史渾身の力作。ベラスケスの“織女たち”の新解釈、“ユーディット”、“殉教聖女ルクレティア”、“禍をもたらす女、パンドラ、エバ”などを貪るように読んだ。
文庫本の“フィレンツェ”は美術がお好きな方なら最高のフィレンツェガイド本。これと塩野七生さんの殺人事件三部作のひとつ“銀色のフィレンツェ メディチ家殺人事件”を合わせて読むと、相当のフレンツェ通になれること請け合い。
若桑みどりさんについて書きたいことは沢山あるが、この辺で。拙ブログ06/5/3に昨年、ミラノのアンブロジアーナ絵画館でみたカラヴァッジョの“果物籠”に関する女史の解釈(“絵画を読む”の最初にでてくる)を書いたのでご参考までに。
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コメント
そうでしたか。驚きました。
昔、テレビ東京の子供向けの美術番組
「美術はたのし!」で、大塚国際美術館の
絵の解説者として出演したのを覚えています。
私も何冊か、彼女の本を読みました。
身近な大学の教授をなさっていたとのことで
機会があったらお目にかかりたいなぁと
思っていたので、とても残念です。
投稿: 一村雨 | 2007.10.05 05:51
若桑みどり先生がお亡くなりになった事をいましりました。驚いています。残念です。最近テレビでお目にかかれないなと思っていました。私がイタリア美術にめざめたは初めてヨーロッパ旅行に1985年に行きました。それから先生の本を何冊か読んで先生のファンになりました。私の記憶ではNHKのレオナルド・ダヴィンチをヴィンチ村から最後のアンヴォアーズまでの我が心の旅(?)が先生の番組を見た最後だったような気がします。ヴィンチ村でモナリザのシャツを買われずっとそれを着て旅されたような気がします。先生は本当にダヴィンチがお好きなのだなーと思ったことを思い出します。ご冥福をお祈り申しあげます。
投稿: 木川夕起子 | 2007.10.05 12:06
私も、若桑先生のフアンのひとりです。
先生の御著書も、何冊か拝読してます。
ラジオで、ニュースを知りましたが、
翌日の新聞に、教会での告別式とありました。
その事が、少し驚きです。御冥福をお祈り致します。
投稿: 花 | 2007.10.05 20:33
to 一村雨さん
死因は心不全のようですね。若桑みどり女史
はNHKの美術番組によく出られましたから、
随分勉強させてもらいました。
カラヴァッジョ、マニエリスム、イコノロジー、
ジェンダーと次々と美術史の世界に新しい風を
送り続けてこられましたね。本当に偉大な美術
史家でした。
投稿: いづつや | 2007.10.05 23:13
to 木川夕起子さん
はじめまして、書き込み有難うございます。
若桑みどり女史の突然の訃報に驚いています。
本当に残念でたまりません。私も“ダヴィンチ、
わが心の旅”はよく覚えてます。シュールな
ダヴィンチの絵柄のTシャツを着てられました
ね。
これまで読んだ本を今、読み返してます。
これからもよろしくお願いします。
投稿: いづつや | 2007.10.05 23:22
to 花さん
若桑みどり女史はNHKのフィレンツェ巡り番組に
、現地でガイド役をされたりしてましたから、ご存
知の方も多いでしょうね。
また、専門書のほかにお書きになった一般の
美術好きを対象にした本も貴重ですね。もっと
もっと書いてほしかったです。年内までに大著、
“クアトロ・ラガッツィ”を読むことにしてます。
投稿: いづつや | 2007.10.06 00:05