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2007.10.31

東博浮世絵エンターテイメント! 師宣・歌麿の肉筆画

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現在、東博平常展にある浮世絵の展示期間は10/23から11/18まで。作品数は29点。いつもと変わりない数だが、このなかにずっと待ち続けていたのが2点入っていた。北尾重政の“東西南北美人・東方乃美人仲町おしま、お仲”と上の菱川師宣の“北楼及び演劇図巻”。

“東西南北美人”は江戸を代表する4つの遊里の女たちを描いた揃物で、この二人は深川仲町の辰巳芸者。顔をみるだけなら、普通の女性のイメージだが、着物の裾をまるくし、足をちらっと見せて気風のいい辰巳芸者の感じを出している。

“北楼及び演劇図巻”は3年前から展示の機会を待っていたが、ようやく登場した。この絵巻には吉原遊郭と芝居小屋の様子が描かれており、長さは7mもある。今回披露されているのは前半部分のみ。上は張見世で遊女を品定めしているところや奥座敷での遊興の場面が描かれている。

この絵の前には太夫が従者をつれて歩くところが3回でてくるが、いずれも先頭の太夫はあの“見返り美人”と同じ髪型をし、赤い着物を着ている。その太夫からでるオーラが強烈なのだろうか、男たちの目は釘付け。菱川師宣や宮川長春の肉筆風俗画はコンディションがいいので、男女が身につけている衣装の絵柄や色を見るのが本当に楽しい。

いつも目を奪われるのがセンスのいい模様。大雑把な意匠ではなく、一つ々の文様が実に精緻で斬新。女性だけでなく、刀をさした武士のデザイン感覚もハイレベル。張見世で女と話している男は黄色とうす青の組み合わせ。なかなか洒落ている。

下は歌麿の肉筆美人画“立姿美人図”(重美)。この絵は画集で知っていたが、ここでお目にかかれるとは思ってもみなかった。これは歌麿が地方の素封家の注文で描いたもので、子孫の家に伝えられていると解説にあるから、おそらく今、東博に寄託されているのだろう。すらっとした立姿にすごく惹きつけられる。そして、とても美しいのが金の線が入った黒衣の裾に散らされた桜の花びら。

出光美にある“更衣美人図”(重文)とこの絵を前にして、もし“どちらか好きなほうを差し上げる!”といわれたら、こちらのほうを選ぶ。歌麿はほかに版画“風俗三段娘”が3点でている。

北斎と広重は定番の“富嶽三十六景”、“東海道五十三次”が2点ずつ。広重の人気の絵、雪景色“蒲原”を“雪が積もっている感じが家の屋根だけでなく、山のかたちもそうだなあー!”と感心しながら見ていた。

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2007.10.30

鏑木清方と官展

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鎌倉には鏑木清方、山口蓬春、棟方志功の絵を専門に展示する美術館があるので、定期的に出かけている。3館のうち、昨年あった回顧展でひと段落した山口蓬春記念館と年2回しか展示しない棟方板画美を訪問する回数は減っているが、鏑木清方記念美は前と同じペースで鑑賞している。

現在、ここで行われているのは日展百年にあわせ官展出品作を中心とした特別展“鏑木清方と官展”(10/20~11/25)。作品数はいつも10点あまりなので、鑑賞に要する時間は20分くらい。短い時間でも鏑木清方の描く女性画に200%惚れている者にはスペシャルな時の流れ。

特別展のときはほかの美術館にある絵や個人蔵も展示するから、料金は所蔵品のときより100円高い300円。今回の収穫は第10回文展(1916)に出品された上の“露の干ぬ間”(右隻、個人蔵)。口に団扇の柄をくわえ、体を少し左にひねる女性のポーズが艶やか。白い線模様がはいっただけの着物のうす青が白い肌ととけあい、帯と下駄の黒がアクセントとなって画面をひきしめている。

左隻に竹や朝顔が同じ色調で描かれたこの屏風の構成をみて、似たような作品を思い出した。それは下の“黒髪”。長い髪を梳る(くしけず)女の顔は上とは対照的にふっくらしている。これは上の絵の翌年、文展に出され、最高賞にあたる特選を受賞した。

この2作品から10年くらい後に制作された“朝涼(あさすず)”(拙ブログ05/8/17)をみるのは2度目。結構大きな絵で、縦219cm、横84cmある。他人がモデルだったら両手で髪をいじる仕草はさせないだろうが、清方は自分の長女を前に立たせたから、よりくだけた感じを出すため、こういうポーズをさせたのかもしれない。

ここには“慶喜恭順”という見ごたえのある大作があるが、はじめてみる“先師の面影”もとても惹きつけられる肖像画。清方の描く男性画は人物の内面や表情をよくとらえており、これも“三遊亭円朝像”(重文、東近美)同様、名作である。

清方の魅力的な女性画がいいペースで目の前に現れる。来年あたりは、最後に残った追っかけ画、“道成寺・鷺娘”(鎌倉大谷記念美術館蔵)に会えるかもしれない。

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2007.10.29

祝 レッドソックス ワールドシリーズ優勝!

42レッドソックスがロッキーズに4連勝し、3年ぶりにワールドシリーズ優勝を決めた。拍手々!

レギュラーシーズンの後半およびプレーオフを破竹の勢いで勝ち進んだロッキーズは早めにワールドシリーズ進出を決め試合の間隔があいたことが影響したのか、第1戦から4戦まで一度も試合の主導権を握ることなく敗れ去った。

一方、リーグ優勝決定シリーズで1勝3敗の崖っぷちから逆転で勝ち上がったレッドソックスは最後の頂上決戦でチームの結束力をさらに高め、ベケット、シリング、松坂らの先発投手陣の頑張り、1番から9番まで切れ目のない打線で、ロッキーズにつけいる隙を与えず、スウィープした。

今日の第4戦がレッドソックスにとって一番きつい試合だった。8回までに初回のオルティスのタイムリーヒットやMVPに選ばれたローウェルのホームランなどで4点をとり、ロッキーズを3点リードしたから、このままいくかなと思った。が、8回裏に登板した岡島が1アウトをとったものの、4番のヘルトンにツーストライクのあとアウトコースの高めを上手くレフトに運ばれ、5番アトキンズに昨日に続き2点ホームランを打たれてしまった。

これで4-3の1点差。ゲームは一気に緊迫する展開になり、ロッキーズが逆転する雰囲気が漂ってきた。球場全体は観客の振る白い布一色。が、岡島をひきついだリリーフエースのパペルボンが8回、9回を気迫のピッチングで0点に押さえ、ローッキーズファンを悔しがらせた。パペルポンが最後のバッターを三振にとったあと、グラブを大きく放り投げ、雄たけびをあげ喜びを体いっぱいで表していたのが胸を打つ。

岡島は疲れがピークに達していたのかもしれない。連日ホームランを食らったが、第2戦ではシリングの後登場し、見事なピッチングでピンチを救い、チームの勝利に貢献した。開幕から最後の試合まで本当によくがんばった。拍手々!

松坂は昨日の好投で大舞台に強いことをまたまた証明した。そして、皆を驚かしたのが相手ピッチャーの投げたスライダーを三遊間に打ち返した打力。この2点追加でロッキーズはシュンとなった。まさに効果的なヒットだった。このあたりが千両役者。だてに
1億ドルもらってない。試合後のインタビューに“ものすごく興奮してます”と笑顔で応えていた。松坂、岡島はいいチームに入団したと心の底から思っているにちがいない。ルーキーイヤーでいきなりチャンピオンリングを獲得してしまった。大拍手!

これで3年続けて日本人選手がリングを手にした。2年前の井口(ホワイトソックス、現フィリーズ)、昨年の田口(カージナルス)、そして今年の松坂、岡島。お陰で大リーグが最後の最後まで楽しめる。日本人としてなにか誇らしい気持ちである。

ロッキーズの松井はリードオフマンとしてこのシリーズ健闘した。昨日は5打数3安打と大活躍し、今日もラミレスの頭をこえる2塁打を放ち気をはいた。守備も格段に上手く、ダブルプレーもひとつ決めた。残念ながら、レッドソックスに一方的に敗れたが、ロッキーズのここ一ヶ月の驚異的な連勝は大リーグファンに長く記憶されることだろう。見事に復活した松井稼頭夫に拍手々!3人には来年もワールドシリーズに出場してもらいたい。

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2007.10.28

神奈川県近美の戦後の日本画展

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一つの作品が鑑賞のシチュエーションによってちがってみえることがよくある。例えば、回顧展のように画家の代表作が沢山展示されているときはあまり目立たなかった作品が、ほかの画家と一緒に並べられると一際目立ってみえるといったことである。

今回、そのように感じられた絵が現在、神奈川県近美鎌倉別館で行われている“所蔵品にみる戦後の日本画展”(9/26~12/16)に2点あった。鎌倉別館は鶴岡八幡宮の中にある本館から建長寺方向へ歩いて5分くらいのところにある。ここヘ来るのははじめて。入館料250円を払って2階へ上がると近代日本画が26点展示してあった。

この中に見たいピンポイントの絵があったわけではない。HPに女性画家、片岡球子の“面構シリーズ”が展示されるとあったので、2年前葉山館であった回顧展(拙ブログ05/6/12)でみたのとは別の作品がみられるかもと軽い気持ちだった。だが、目の前に現れる絵がなかなかいいのである。のっけから昨年の“前田青邨展”(岐阜県美)でみた肖像画“内山岩太郎像”と再会した。で、すぐ、ここにはいい絵があることを直感した!あります、ありますという感じ。半分はお気に入りの範疇にはいる。

初見で収穫は中村正義の“ピエロ”と近藤弘明の“浄夜”。“ピエロ”は日本画らしくない絵。中村正義の画風である毒気を含んだ戯画的な人間描写に魅せられているが、その作品をまとまってみる機会に恵まれない。早くこの距離を縮めたいと願っている。

とくにぐっときたのはこれまで見たことのある上の山口蓬春作“宴”と下の片岡球子作“海(鳴門)”。過去3回みている“宴”だが、今回はなぜか人をかたどった3体の埴輪のなかにすっと入っていけた。背景に描かれた抜けるような青い空におおい被さるように広がる濃い雲と砂丘のような大地にぽつんと立つ3本の枯れ木からは寂寥感がひしひしと伝わってくるのに、手前に描かれた頭に酒甕を載せ、手にもった杯を上にあげている埴輪はとても豊かな表情をみせている。古代におけるロマンティシズムを見る思い。

片岡球子の回顧展のときは“面構シリーズ”の“足利尊氏”や“葛飾北斎”などに鑑賞のエネルギーを注ぎ、下の“海(鳴門)”にあまり惹きこまれなかった。が、おかしなもので“宴”同様、隣にあった“足利尊氏”と“徳川家康公”と較べるとこの絵のほうに吸い込まれた。場面は平清盛の次女建礼門院徳子とわずか7歳の子の安徳天皇が壇ノ浦で入水するところ。

悲劇のシーンを写実的に描かないところが球子流。二人はお人形さんのように、渦巻く潮は文様的に描き、幻想的な画面に仕上げている。ここの“鳴門”は徳島県の地名ではなく、“干満の潮水がゆきあって鳴りひびく瀬戸”という元の意味。20分足らずの鑑賞だったが、この2点をはじめ深く感じられる作品が並んだ展覧会であった。

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2007.10.27

シュルレアリスムと美術展のマグリット、デルヴォー

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長らく追っかけていたマグリットの絵を見るため横浜美術館へ出かけた。ここで今、“シュルレアリスムと美術展”(9/29~12/9)が行われている。作品数125点のなかで一番のお目当ては上のマグリットの“大家族”。

シュルレアリスム作品をみるのは好きだから、関連する展覧会は見逃さず、まめに足を運んでいる。1月は“20世紀美術探検展”(国立新美)、2月“シュルレアリスム展”(埼玉県近美、拙ブログ2/23)、4月“澁澤龍彦ー幻想美術館ー”(埼玉県近美)。

2月の展覧会は埼玉県近美、岡崎市美、宮崎県美、姫路市立美の共同開催だったが、こちらのシュルレアリスム展は横浜美、豊田市美、宇都宮美がコラボしたもので、3館の所蔵品を中心に構成されている。年内に行われるシュルレアリスムの展覧会は横浜美で終わりだと思うが、国内にあるシュルレアリスムのいい絵は一連の展覧会にほとんど出品されたのではなかろうか。

このなかで質の高い作品が結構あるのがマグリット、デルヴォー、ダリ。02年
Bunkamuraであった“マグリット展”のときも誇らしく思ったが、国内の美術館には本当にマグリットのいい絵がある。今回、横浜美の大作“王様の美術館”・“青春の泉”、そして宇都宮美蔵の“大家族”が飾ってある部屋は圧巻。まるで、ベルギー王立美のマグリットの部屋(05/4/25)にいるよう。さらに、豊田市美がもっている“無謀な企て”にも会える。出品されてないのでは、“レディ・メイドの花束”(大阪市近美準備室)、“白紙委任状”と“現実の感覚”(ともに宮崎県美)が一級品。

シュルレアリスト、マグリットを知ったのは美術本に載っていた“大家族”。だから、マグリットというとすぐこの絵を思い浮かべる。鳥の翼に描かれた白い雲を浮かべた明るい青い空はマグリットの作品には頻繁にでてくる。“現実の感覚”のように大きな石の背景になったり、鏡に映ったり、額縁の中に入ったりする。

“大家族”では、“光の帝国”で暗い夜の風景と昼間の空をくっつけたのと同様に、明るい空を切り取ってフォルムされた大きな翼の後ろは嵐でもきそうな暗い空、そして下には波の荒い海が描かれる。どちらも単独でみれば、ダリの描いた夢の世界とはちがい、誰もが見慣れた日常の情景。だが、二つが一緒になるとこれは現実にはありようのない取り合わせ。マグリットは不思議な組み合わせをみせて、観る者を新しいイメージの世界に引き込んでいく。一度これに美を感ずればもうイメージの魔術師、マグリットから離れられなくなる。

下は日本にあるデルヴォーの3大傑作の一枚、“階段”(横浜美)。左から差し込む明るい日差しと上半身裸の女性がこれから降りようとする階段にできた影のコントラストが印象的。天井のガラス窓と黒い壁への映りこみはエッシャーの描き方を彷彿とさせる。これまで国内の美術館で見たデルヴォー作品でぐっときたのは、この絵と“こだま”(愛知県美蔵、横浜美には展示されず)、“夜の通り(散歩する女たちと学者)”(福岡市美)。

ダリはなんといっても横浜美自慢の“幻想的風景 暁”(04/12/17)が見ごたえがある。図録をみて残念に思ったのがここには展示されないミロの大作“ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子”(福岡市美)。これは国内にあるミロのベストワン。ミロ好きとしては再会したかったのだが、、これでシュルレアリスムの絵は当分パスできる。

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2007.10.26

智美術館の芹沢銈介の造形展

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展覧会の訪問計画は1ヶ月単位で立てているが、一回ごとのグルーピングは美術館のある場所とか美術品のタイプとかでくくっている。時間的な効率を考えると場所でまとめるのが一番いい。

で、上野にある東博、東京都美などで行われている展覧会をはしごしたり、JRの山手線に沿って、例えば、新宿の損保ジャパンの後に渋谷のBunkamura、松涛美、日本民藝館、そして白金台の松岡美に寄るといったような動き方をしている。

もう一つの絵画、浮世絵だけとか、やきものだけといった回り方は一つの分野に集中できるので鑑賞力は上がるが、ちょっと疲れる。智美術館の“芹沢銈介の造形展”(9/29~12/16)は三井記念館、東近美工芸館との組み合わせで出かけた。この3館はあまり離れてないから、移動は楽。

芹沢銈介の生み出す模様と色に大変魅せられているので、館のHPで情報を得たときすぐ訪問を決めた。これはほかの美術館を巡回しないここだけの企画展。作品数は70点あまりで、05年、横浜そごうであった回顧展(300点、拙ブログ05/2/15)と較べて小規模の芹沢展だが、作品の構成は型絵染による着物・屏風・のれん、物語絵、デザイン文字、カレンダー、装幀本、肉筆のスケッチと芹沢ワールドに浸れるものになっている。

芹沢の模様でとくに惹かれているのがデザイン文字。上は立ち尽くしてみた“型染うちわ絵帖”。茶色の地に白、橙色、うす黄色、うす青を使って書かれた文字。驚くばかりの色彩感覚である。字画のひとつ々に色をつけ、模様化するのは朝鮮の民画、文字絵(06/10/10)にヒントを得たのだろうが、豊かな色使いと文字の心が感じられる造形は芹沢独自のもの。

この日は東近美の“工芸館30年のあゆみ”でも“春夏秋冬”が入った“紬地型絵染二曲屏風 四季”をみた。心が浮き浮きするほど楽しい文字を二つも見れたので嬉しくてたまらない。

また、横浜そごうには無かった下の“極楽から来た挿絵集・おごる平家厳島神社”や“法然上人絵伝”、“新版絵本どんきほうて”、“中国忍者伝十三妹挿絵集”といった物語絵にも魅了される。天性のカラリスト、芹沢銈介にますますのめりこんでいく。

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2007.10.25

東近美工芸館30年のあゆみ展

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東近美工芸館では、現在、開館30周年を記念した特別展が開催されている(10/6~12/2)。ここへは定期的に足を運んでいるから、図録に載っている代表的な作品にはかなり済みマークがついている。こういう記念展は自慢のコレクションをどっと展示するので、まだ観てない作品に対面できる絶好のチャンス。

いろんな工芸があるなかで、出品数が多いのが陶芸。ビッグネーム陶芸家の見慣れた名品がずらっと並ぶ。荒川豊蔵の“志野茶碗”、富本憲吉の“色絵金銀彩羊歯文八角飾箱”、濱田庄司の“青釉十字文大鉢”、河井寛次郎の“花魚扁壺”、加守田章二の“曲線彫文壺”、板谷波山の“彩磁延寿文水指”、三輪壽雪の“萩灰被四方水差”、金重陶陽の“備前焼耳付水差”、十五代楽吉左衛門の“黒茶碗 月華千峰”。

また、陶芸オブジェで高い評価を得ている八木一夫の“黒陶 環”、深見陶治の“遙カノ景・望”、田嶋悦子の“Cornucopia 02-XI”、栗木達介の“這行くする輪態”にも足がとまる。最後のコーナーには海外陶芸家の楽しい作品があった。拙ブログ05/12/27で紹介したバーナード・リーチの“蛸図大皿”やユニークな形が目を惹くルーシー・リー、ハンス・コパーの作品。

図録に興味深い情報が載っている。それは展覧会の入場者数。普段こういうデータに接することがないので、過去30年に開かれた陶芸家11人の展覧会における一日平均入場者数をざあーっと比較してみた。作家の人気度がこのデータに現れているかもしれない。ベスト3は、
★1位:板谷波山(95年) 1064人
★2位:河井寛次郎(84年) 600人 
★3位:八木一夫(81年) 484人

今回、体がすごく反応したのはやきもの以外の作品。そのひとつが上の吉田良が制作した球体関節人形、“すぐり”(1986)。昨年3月にあった“花より工芸展”でもお目にかかった。赤い着物を着た幼い少女が無表情に手足を投げ出して座っている。目の前にいるのは少女なのに、その妖気をはらんだ美しさに圧倒され、思わず後ずさりしそうになる。日本の人形がでるホラー映画の宣伝映像をみたことがあるが、ひょっとするとこの作品がモデルかも? この人形は一生忘れることはないだろう。

下の作品はここでははじめてみたイサム・ノグチの“あかり UF3-Q”(1989)。大好きな楽吉左衛門の黒茶碗の隣に、和紙と竹を使い三角面や四角面で構成された作品が置いてあり、そこからやさしいあかりが広がっている。肩の力がぬけ、ほっとする展示空間である。こういうアートエンターテイメントを感じる演出はどんどんやって欲しい。

次回の記念展パート2“工芸の力”も見逃せない。

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2007.10.24

安宅コレクション展 その二 朝鮮陶磁

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約1000点の安宅コレクションのうち、中国陶磁144点に対し、朝鮮陶磁は793点と数の上では圧倒的に多い。この朝鮮陶磁は数の多さだけでなく、質の高い優品が揃っていることで世界的に知れ渡っている。

展示されているのはその中から精選された72点(高麗時代33点、李氏朝鮮時代39点)。朝鮮陶磁のもつ品のよさや楚々とした静かな美しさに魅せられるやきもの愛好家は多いが、その形や色合いは日本人の感性に合うのかもしれない。

98年の展覧会のときは高麗青磁の前で立ち止まることが多かった。だが、今回は朝鮮時代の白磁や青花を見ている時間のほうが長かった。これはここ数年定期的に通っている日本民藝館で白磁や青花を見慣れていることや6月の“青山二郎の眼展”(世田谷美、拙ブログ6/12)で見た長壺やまろやかな丸壺に魅せられたことが大きく影響している。

上は一番見たかった“青花辰砂蓮花文壺”(18世紀後半)。これは前回、出てこなかったので感慨深い。ゆったりとした大きさとあたたかさを感じさせる形と乳白色の地にのびやかに描かれた蓮の花に200%心を打たれた。画集で見る以上にすばらしい壺である。

この器面の蓮が柔らかくて優雅なのに対し、真ん中の“鉄砂壺”(17世紀中葉)に描かれた茶色の竹は力強く、インパクトがある。壺のまるい形は“青山二郎展”に出品され、ここにもでている“白磁壺”とよく似ているが、胴の真ん中は算盤玉にように大きく横に膨らんでいる。

鉄砂の壺では“虎鷺文”にも惹きつけられる。戯画風に描かれた虎は眼のまわりにサーカスに登場するピエロみたいに太いまつげの線を入れ、こちらをじっと見ている。思わず口元がゆるむとともに、民藝館にあった虎の民画が目の前をよぎった。

青花のなかで造形的に気に入っているのが、面取の壺や瓶。心に響くのが下の“青花窓絵草花文面取壺”(18世紀前半)や“青花草花文面取瓶”(18世紀前半)。窓のなかにさらっと描かれた草花がなんとも目にやさしい。こんな見てて清々しくなる優品に会えて幸せな気分になった。

4室に飾ってある高麗青磁で好きなのは長い首の鶴首瓶2点、“青磁陽刻牡丹蓮花文”(12世紀前半)と“青磁逆象嵌蓮唐草文”(12世紀後半)。量感のある“青磁陽刻筍形水注”と再会したかったのだが、これは叶わなかった。今回嬉しかったのは珠玉の安宅コレクションが静かな部屋でじっくり見れたこと。理想的なやきもの鑑賞であった。

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2007.10.23

安宅英一の眼 安宅コレクション展 その一 中国陶磁

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三井記念美で行われている“安宅英一の眼 安宅コレクション展”(10/13~12/16)を心ゆくまで楽しんだ。東洋陶磁では世界的に有名な安宅コレクションが東京にお目見えするのは30年振りとのこと。9年前、山口県立美であった大阪市立東洋陶磁美術館蔵“安宅コレクションの至宝展”を見たから、コレクションのすごさはわかっている。

だから、あの名品にまた会える喜び、そして前回出品されなかったものへの期待が入り混じり、展覧会への熱い思いは数ヶ月前からプラトー状態だった。究極のやきもの鑑賞の感想を一回にまとめるのは無理なので2回綴ることにした。まず、中国陶磁から。

入ってすぐのガラスケースに上の国宝“飛青磁花生”(龍泉窯、元時代・13~14世紀)が飾ってある。出だしから、一気にテンションがあがる。いつも思うのだが、やきものの名品を見るのにこれほどいい場所はない。目を奪われるのはあの均整のとれた美しい形。ほっそりとした首に胴部はふっくらと膨らんでいる。この形にもうぞっこん。そして、こげ茶色の斑点がついたつややかな緑色が心を掻きむしる。

展示室2にあるのが真ん中の国宝“油滴天目茶碗”。油の滴(しずく)を敷きつめたような模様だからこの名前がついている。天目は黒釉の掛かった茶碗のこと。光の加減で金、紺、銀色に輝く斑文は裾のところは密で上にあがるにつれて斑文の間があいてくる。図録でみると大きさの感覚が薄れるが、実際にみるとわりと小さい茶碗である。今、東博の“大徳川展”に出品されている名古屋・徳川美術館蔵の油滴天目と較べてみても、この茶碗にできた油滴模様は群をぬいて美しい。

中国陶磁は今回コレクション144点の中から46点出品されているが、ハイライトは1,2室にある13点。ここには再会を楽しみにしていたのがほかにもある。重文の青花(景徳鎮窯)は5点あるが、3点が安宅コレクション。下の“青花蓮池魚藻文壺”(元時代・14世紀)、“瑠璃地白花牡丹文盤”(明時代・宣徳年間)、“青花枇杷鳥文盤”(明時代・永楽年間)。嬉しいことに3点全部ある。

なかでも会いたかったのが“青花蓮池魚藻文壺”。04年、出光美の“中国陶磁のかがやき展”でもみたから3度目の対面。背びれを立て、口を大きく開けた魚のユーモラスな姿と目を見張らされる青の発色にいつも惹きこまれる。同じ重文指定で東博にある同じ文様の壺を8月の平常展でみたが、発色の具合は安宅コレクションのほうがいい。今年は青花の当たり年。畠山美の“染付龍濤文天球瓶”(拙ブログ8/19)、トプカプ宮殿の“染付牡丹蔓草文盤”(8/26)、そして安宅の3点。

ほかにも魅せられるのがあるが、あとは見てのお楽しみ。“これぞ、宋、元、明のやきもの!”だった。

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2007.10.22

レッドソックス ワールドシリーズ進出!

27大リーグのア・リーグ優勝決定シリーズ、レッドソックス対インディアンスの7戦はレッドソックスが勝利し、ワールドシリーズへの進出を決めた。

先発松坂はこの大一番で、プレーオフで投げた前2回とはちがい、好投し、ファンの期待に応えた。

初回から“なんとしてもバッターをうちとるんだ!”という気迫あふれるピッチング。コントロールもいい。3回までスライダー、チェンジアップがよくきまり、0点に抑えた。見方打線がラミレスのタイムリーヒットやローエルの犠牲フライなどで3点とったから、この時点でレッドソックスの勝ちを70%くらい予想した。

が、5回の松坂はいっぱい々の感じだった。先頭打者、ロフトンが放ったレフトフェンス直撃のヒットはラミレスの好返球で2塁タッチアウト。でも、これは再生映像で見る限り、ロフトンの足のほうが先にベースを踏んでいる。ホームの試合では地元チームに有利なジャッジが行われるのは常識だから、インディアンスも抗議しない。

普通ならこれに気をよくして、後続のバッターをびしっと抑えるのだが、今の松坂は次のアウトがポンポンととれない。連打を浴び、犠牲フライで1点を失った。でも、5回を2失点におさえ、リードを保って次のピッチャー岡島にバトンタッチしたのだから、よく投げたといえる。解説者が指摘していたように、2ストライクをとり打者を追い込んでも、ファールとかで粘られるのはいいフォークがないから。5回最後のバッターをよく落ちるチェンジアップで三振にとったが、来期はこれに磨きをかける必要があるだろう。

この7戦における投手のローテーションはベケット、シリング、松坂、ウェイクフィールドの順番だったが、今の力はこの順番通り。1勝3敗の崖っぷちの状況を8回まで力投したベケットが救い、レッドソックスにまた流れを引き戻した。そして、6戦はシリングが上手い投球術で7回を2点に抑え、最終決戦へとチームを導いた。

打線も盛り返し、昨日の大量得点が完全に流れを変えた感じ。6、7回を岡島が0点に抑えると、7回裏、トップバッターの小柄なペドロイアがグリーンモンスター越えの2点ホームランを放った。これで試合は決まり。結局11-2でレッドソックスの大勝。

さて、24日(日本時間25日)からロッキーズとレッドソックスによるワールドシリーズがはじまる。拙ブログ10/5で松井稼頭夫のロッキーズと松坂、岡島のレッドソックスが戦うような気がすると予想したら、その通りになった。ワールドチャンピオンに輝くのはどちらだろう?

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2007.10.21

琳派百図展に感激!

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“琳派百図展”(昨日10月20日のみ、東銀座・時事通信ホール、主催:日本伝統染色工芸保存協会)の興奮がさめやらない。この展覧会のことを教えてくださった雪月花さんに感謝々である。

会場には琳派の美に触発されてつくられた現代染色作家の着物、帯が沢山展示してあった。あまりの美しさに気持ちが高揚しすぎて、全部で何点あるのか聞くのを忘れてしまった。また、ここにある着物が商品としてすでに売却されたものなのか、それとも鑑賞作品としてつくられたのか、これもよくわからない。

これだけの質の高い作品であれば、ラベルに書かれている作家はトップクラスの京友禅の作家であることはまちがいない。下は市川和幸という人の訪問着“松島図”。琳派狂いとしては米国ワシントンにあるフリーア美術館が所蔵する宗達の最高傑作“松島図屏風”をイメージした作品がでてくると、もう普通ではいられない。食い入るようにみた。紫がかった青の濃淡で表現した海面のうねりと様式化された白い波頭がすばらしい。宗達の原画と訪問着の絵柄が響きあっている感じである。

宗達だけではない。これは光琳の流水文だな、あれは抱一の草花をイメージしたのだな、その横にあるのは雪佳の意匠だなと絵柄のモティーフはすぐ頭に浮かんでくる。様々な琳派模様をみると、琳派芸術は時を超えて絵画だけでなく、着物の世界でも現代感覚の意匠に装いを変えてしっかり継承されていることを実感する。

この展覧会のサプライズはうっとりするほどの着物や帯だけでなく、もう一つあった。琳派の本物の屏風や掛け軸がいくつもあったのである。しかも嬉しいことにガラスの中に入っているのではなく、目と鼻の先に飾ってある。一番驚いたのは“宗達の鶴図&光悦の書”。これは京博蔵“鶴下絵三十六歌仙和歌巻”(重文)のひとまわり小ぶりの別ヴァージョン。鶴のくちばしと足の金泥が鮮やかに残っている。参りました!

もう一点、“ええー、これも!”というのがあった。上の“犬図”(部分、個人蔵)。これは数点ある宗達の犬図のなかで最も気に入っているもの。04年にあった“琳派展”(東近美)に出品されたが、ここで再会するとは夢にも思わなかった。

光琳の本物は屏風“流水に菊図”、“団扇”、“光琳草花図”の3点。そして、抱一の代表作“夏秋草図屏風”(重文、東博)を彷彿とさせる“秋草図”にも度肝を抜かれた。画集に載ってないこんないい絵があったとは!また隣にある“四季花鳥図貼文”(六曲一双の屏風)や4つの掛け軸“草花図”にも魅せられる。

今回は“琳派百図展”の30周年を記念する特別展だったから、こんなすごい本物をもってきたのかもしれない。こういう機会に巡りあえたのは真に幸運であった。雪月花さん、本当に有難うございました。

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2007.10.20

ギル・シャハム バイオリン・リサイタル

24昨日夜10:45から放送されたNHK教育の“芸術劇場、ギル・シャハム バイオリン・リサイタル”は番組情報誌・太郎を購入した3週間くらい前から大変楽しみにしていた。

ギル・シャハムはとても気に入っているバイオリニスト。現在37歳のイスラエル人。

アメリカで生まれ、3歳のとき、両親とともにイスラエルに移住し、7歳からバイオリンをはじめた。

この天才、バイオリニストを知ったのは98年、“スコットランド幻想曲”(ブルッフ)でN響と共演したとき。親しみやすいスコットランド民謡が入った美しい曲をシャハムはうたうように弾く。なんて上手いバイオリニストだろう!もう大感激だった。以来、定期的にビデオをまわし、このときの感動を再現している。

今回のリサイタルは今年7月、王子ホールであったもの。曲目は
★バイオリン・ソナタ二長調 (モーツァルト)
★無伴奏バイオリン・ソナタ第2番イ短調 (バッハ)
★ソナタ・ピンパンテ (ロドリーゴ)
★スペイン舞曲から サパテアード&アンダルシアのロマンス (サラサーテ)
★チゴイナーワイゼン (サラサーテ)

シャハムは今、ニューヨークに奥さん子供二人と住んでおり、同じくNY在住のピアニスト、江口玲とは仲がよく、定期的にリサイタルツアーを行っているらしい。道理で息の合った耳にここちいい演奏である。このバイオリニストの音楽はとても明るくて楽しい。まるでモーツァルトがうたってるよう。

また、バッハはバッハですごく心にしみる。なんでも豊かに弾く。難しい曲なのに、重厚にそして心のひだにやさしくふれるように弾くところがすごい!最後は定番、サラサーテの名曲“チゴイナーワイゼン”。我が家は今年、スペインイヤーだから、名手の演奏にノリがいい。

これでMyクラシックビデオコレクションのシャハムは3本になった。02年、アバド指揮ベルリンフィルと共演したブラームスの“バイオリン協奏曲”でもシャハムは情感豊かにうたっている。久しぶりに聴いてみたくなった。

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2007.10.19

東博&ミネアポリス美コレクションの写楽大首絵

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東洲斎写楽の役者大首絵は昨年11月、東博の浮世絵コーナーで20点みたから(拙ブログ06/11/17)、つぎの対面は少し間隔があくかなと思っていたら、さにあらず、今年も結構お目にかかる。1月のギメ美展(太田記念美)では状態のいい7点、現在公開中のミネアポリス美コレクション(松涛美)でも3点。そして、東博の平常展で2点。併せて12点になる。ラッキーなことに一枚もダブってない。

上の絵は現在、東博に展示されている“三代目市川高麗蔵の志賀大七”(10/21まで)。松涛美の前期(10/2~10/28)は下の“二代目市川門之助の伊達与作”と“二代目小佐川常世”で、後期(10/30~11/25)は大首絵全28点のなかでも人気の高い“市川鰕蔵の竹村定之進”が登場する。

写楽のデビュー作28点のなかには立役と敵役がセットで描かれているのがいくつかあり、“志賀大七”もそのひとつ。志賀大七は松下造酒之進を殺害し、その娘宮城野としのぶに敵(かたき)として追われる悪浪人。これは話の発端となる大七が造酒之進を殺す場面である。

黒雲母の背景がワルのイメージをいっそう掻き立てる黒紋服の衣装を着た志賀大七を浮かび上がらせている。“三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛”のように相手を震えあがらせるほどの凄みはないものの、口元をきゅっと結び、つりあがった目で相手をにらみつける大七の顔からは冷酷非道な怖さが伝わってくる。

今、松涛美に展示されている下の“二代目市川門之助の伊達与作”は精神が相当まいっている感じ。それもそのはず。この与作は若殿が芸子を身請けする金を悪党に盗まれるわ、腰元との不義密通が露見して追放されるわで、身も心も憔悴しきっている。人指し指を鍵状に曲げるのは刀の柄に手をかける“志賀大七”でもみられるが、これは能の演技からきているといわれている。

ミネアポリス美が所蔵する“伊達与作”は初摺ではなく、色を変えて後から摺ったもの。初摺では着物の色は紫になっている。ちなみに、後期にでてくる“竹村定之進”も衣装が黄色の初摺ではなく、朱色で摺られた同図異版。異版があるのはこの大首絵シリーズが人気を博し、需要が多かったからであろう。

今年2/21の記事に内田千鶴子著“写楽を追え”を紹介したので、写楽に興味のある方は参考にしていただきたい。

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2007.10.18

東博特集陳列 中国書画精華

21_2東博が2ヶ月に1回発行する“東博ニュース”の8/9月号にでていた中国の書が気になって仕方がないので、久しぶりに東洋館へ行ってみた。

目指すは2階の中国書画コーナー。ここで今、特集陳列“中国書画精華”(9/4~10/28)が行われている。

書のほうは会期中展示されているが、絵は前期(9/30で終了)と後期(10/2~10/28)で作品が入れ替わる。ここへ来るときは絵を先に見て、気が向けば隣の書をみるのがいつもの鑑賞パターンだが、今回はまず“ニュース”で気になった書から見た。

19点のうち4点が国宝。国宝といわれても、書はまだ見慣れていないので普通の書と国宝のちがいがよくつかめてない。今、書に対しては、隷書、草書、行書、楷書をなるべく沢山みて書の雰囲気に慣れるという考えで向き合っているから、見ていてもあまり疲れない。文章を読まないため脳の消費エネルギーが少ないのがかえっていいのかもしれない。

知識としてインプットしているのは、中国の長い歴史の中に現れた当代一流の能書の名前とその書風の特徴らしきものだけ。で、墨の濃淡、書体の美しさ、字の大きさ、あるいは字自体のフォルムとしての面白さなどに注目してみている。右は北宋後期に活躍した米芾(べいふつ)が最晩年に書いた“行書虹県詩巻”。

書いてある七言絶句は全く読めないが(当然意味もわからない)、字が大きく一行に2文字、ないしは3文字しかないので目で追っかけやすい。えらく横に長い書巻で、よくみると10枚の紙を継ぎ足している。書を見て印象に残るのは字が濃い墨で書かれ、大きく、そして個性的だったとき。この書巻はこれが全部あてはまる。大きい字だと字画をトレースできるのがいい。

解説によると、これは米芾が風光明媚な虹県を船で通過するときに作った詩を揮毫したもの。誰がみても書風はのびやかで個性的に思えるが、これは北宋後期になると、伝統的な書法に縛られず、個人の精神性を重視する風潮がでてきたから。

後期に飾られている絵画(14点)の大半は鑑賞済みなので、あまり足をとめてみなかったが、名画ぞろい。お気に入りは李迪の“紅白芙蓉図”(国宝、拙ブログ05/10/12)、梁楷の“李白吟行図”(重文)、李氏の“瀟湘臥遊図巻”(国宝)。このコーナーは人があまりいないから、いつも自分の部屋で名画を鑑賞しているような気分になる。

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2007.10.17

岡倉天心展の菱田春草

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東京芸大の創立120周年を記念して企画された“岡倉天心展ー芸術教育の歩み”
(10/4~11/18)は地味ながら充実した内容の展覧会。料金は平常展並みの500円(実際に払ったのはぐるっとパスの割引で400円)と安いのに、展示されている絵画や彫刻、工芸品はレベルの高いものばかり。

出かける気になったのは、岡倉天心が東京美術学校(現東京芸大)校長の職を辞して、東京から移り住んだ茨城県五浦には展覧会を見によくクルマでいくので、この近代日本を代表する文明思想家と縁深くなっているから。とくに見たい絵があったわけでもなく、テーマの芸術教育にはそれほど関心はないから、30分くらいで引き上げるつもりだった。が、飾られている作品をみてすぐ、“これは倍の時間がかかりそう!”と頭を切り変えた。

考えてみれば、東芸大にとって神様みたいな人の業績を総括するのに、並みの作品を展示するはずがない。一級のものがあるのは当たり前かもしれない。お陰で絵画50点弱のなかに嬉しい作品があった。追っかけリストに入っている上の菱田春草作、“水鏡”。ほかにも画集に載っている名画がずらっとある。ざっとあげてみると。

狩野芳崖の“悲母観音”(重文)、橋本雅邦の“白雲紅樹”(重文)、小堀鞆音の“武士”(拙ブログ06/11/18)、下村観山の“大原御幸”、小林古径の“不動”、前田青邨の“阿修羅”、横山大観の“村童観猿翁”、菱田春草の“寡婦と孤児”。これらはいずれも大作。岡倉天心と関係の深い画家のいいものを全部もってきた感じである。

“水鏡”を前から見たかったのは、この絵が寓意画だから。中央に描かれた天女は右手で紫陽花をにぎり、水鏡に映る自分の姿をじっと見つめている。天女は美の象徴。その美しい天女もいずれ衰えるということを水に映ったほうを穢く描くことで表現している。また、赤から紫やがて空色と七色にも変わるといわれる紫陽花が天女にかたどって添えられているのも美の衰えの暗示。この話は先般亡くなられた若桑みどりさんが読み解いたカラヴァッジョの静物画、“果物籠”の寓意(06/5/3)と似ている。菱田春草が描いたこの寓意画を感慨深くながめていた。

木彫や蒔絵などの優品もいくつかある。下は松田権六の卒業制作、“草花鳥獣文小手箱”。何度みても鹿やうさぎの躍動感あふれるフォルムに目が釘付けになる。また、平櫛田中が制作した異形の顔にぎょっとする“灰袋子”や美術館の隣の中庭に設置してある“岡倉天心像”にも魅せられた。はじめは軽く見るつもりが1時間後は上機嫌だった。なにか得したような気分である。

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2007.10.16

東博の大徳川展

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展覧会があるとき、それを見に行こうとする動機づけは二つある。一つはそこに展示されている好きな絵や焼き物を楽しむため。もう一つは美術品や文献などにより、世界史や日本史への理解を深めるため。現在、東博で開催中の“大徳川展”(10/10~
12/2)は普通ならば後者。

歴史が好きなので、この展覧会の情報を得たときは今年1月、江戸東博であった“江戸城展”同様、徳川のことを知るいい機会だなと考えていた。ところが、途中で水戸徳川家が所蔵する円山応挙の“百蝶図”が展示されることがわかった(拙ブログ8/16)ので、目に力を入れてみるタイプの展覧会にかわった。

で、はじめにその絵のことから。蝶の名前は何種類も正確に言えないが、一番目立つのが画面斜めに配された大きな黒のアゲハチョウ。小さい頃よく見た本物の蝶が目の前で飛び回っているよう。応挙は上昇あるいは下降する蝶は上から見下ろすように、横に進む蝶は側面からと、視点をいろいろ変えて描いている。また、小さい白のモンシロチョウや青や黄色、こげ茶色の羽をした蛾も同様の描き方。地面にはつくし、れんげ、菜の花、すみれ、わらびなど春の草花がみえる。のどかな春の野原でこんなに多くの蝶に囲まれたらさぞかし気分がいいだろう。

この絵は前期(10/10~11/4)のみの展示。後期(11/6~12/2)には酒井抱一の“双鶴・七草図”がでてくる。画集でみたことない絵で、実際はどうかわからないが、琳派狂いとしては悔いを残さないために後期も出かけることにした。

章立ては横において、出品作(308点)でみてみると、絵画の目玉はなんといっても名古屋の徳川美所蔵の国宝“源氏物語絵巻”。“柏木一”、“橋姫”、“東屋一”が会期中三期にわけて展示される。今でている“柏木一”(10/10~21)は過去数回お目にかかったので、さらっとみた。

今回じっくりみたのは刀。全部で13口(ふり)ある。うち国宝が8口と優品ぞろい。広島にいた頃、岡山県の長船町にある“備前長船博物館”を訪ねたことがあり、刀には興味を抱いてきたから、有名な備前刀を前にちょっと興奮した。刀で目がいくのが刃文。で、国宝の刃文を夢中になってみた。上は“太刀 銘助真”(東博)。

この太刀は紀伊徳川家に伝来したもの。助真(すけざね)は鎌倉時代に栄えた備前・福岡一文字派の刀工で、のちに鎌倉へ行き作刀している。丁子乱れの刃文(丁子菊のようににぎやかな乱れ刃)が実に美しい。重文と国宝を較べてみると、国宝の刃文にはどれも格別の美しさがある。これを実感したのは大きな収穫。

下は尾張徳川家に伝わった“初音の丁度”と通称される嫁入り道具のひとつ、国宝“初音蒔絵貝桶”。これらは徳川三代将軍家光の娘、千代姫が尾張家二代・光友との婚儀に携えたもの。以前数点みたことがあるが、今回のように10点もまとめてみたのははじめて。ゴールドの見事な蒔絵に言葉を失う。これは徳川美の至宝であるが、同時に日本美術の宝。会期中出ずっぱりだから、後期でもまた時間をかけて見るつもり。

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2007.10.15

屏風展のつぎは狩野永徳展!

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明日から京博でビッグイベント“狩野永徳展”(10/16~11/18)がはじまる。会期が1ヶ月と短いが、これは“唐獅子図屏風”、国宝“洛中洛外図屏風”、“檜図屏風”などの主要作品を全部会期中を通して展示するため。前期、後期に国宝をばらし、2ヶ月くらいの会期にするのがこれまでのやり方。だが、狩野永徳のはじめての大回顧展だから、京博は国内にある代表作は勿論のこと、海外にある優品、また新発見作品を全部一緒にみてもらおうと考えたのであろう。これは大変な英断。京都入りはすこし先だがしっかり見てきたい。

3回目の“BIOMBO/屏風 日本の美展”(サントリー美)のことを書くのに、どうして前フリで狩野永徳展の話をしているかというと、この展覧会に出ている屏風が狩野永徳の作品をみるのにちょうどいい目慣らしになっているから。サントリー美と京博の学芸員が展示内容について申し合わせた訳ではないだろうが、作品のつながりがいいのである。具体的には、狩野派の絵師三人が描いた次の代表作。

★狩野元信作、“四季花鳥図屏風”(重文、白鶴美術館、展示:10/10~21)
★狩野宗秀作、“上と同名”(重美、大阪市立美、終了、永徳展11/6~18に展示)
★狩野内膳作、“豊国祭礼図屏風”(重文、豊国神社、展示:9/26~10/21)

元信の“四季花鳥図”は(上が右隻で、下が左隻)はこの展覧会で再会を楽しみにしていた屏風。所蔵している西宮市の白鶴美術館で見たのは右隻のみ。桃山障壁画の先駆けとなったのがこの華麗な金碧画で、絵画史におけるエポック的な作品である。視線が集まるのは実物大の孔雀や白鷺が描かれた右隻より、はじめてみる左隻のほう。

力強いフォルムをした松の向こうに、滝が優雅なカーブをつくって流れ落ち、中央の岩の上には紅葉の前を飛ぶかうせきれいを見つめる金鶏鳥がいる。目を奪われるのが金地と金雲の区別がつかない黄金色によって引き立てられた滝の白と金鶏鳥の目が醒めるような赤。やまと絵の柔らかさと狩野派の特徴である力強さがうまくとけあい、しかも装飾的な画面構成。なんとも心地いい屏風である。

狩野派の棟梁だった狩野元信の才能は息子の松栄をとびこえて孫の狩野永徳に隔世遺伝する。徳川家康と家光、ルネサンス期におけるメディチ家の老コジモと豪華王ロレンツォと同じ。狩野宗秀は永徳の弟。前期にみた“四季花鳥図”はコンディションが少し悪かったが、見栄えのするいい絵だった。

狩野内膳は松栄の弟子。秀頼の依頼により秀吉七回忌の臨時祭礼を描いた“豊国祭礼図屏風”をみておくと、永徳の国宝“洛中洛外図”がよりいっそう楽しめるかもしれない。幾重にも輪になって大勢の男女が熱狂的に踊る風流踊りが見れたのは貴重な鑑賞体験。岩佐又兵衛が描いた同じ画題の絵(徳川美術館)もいつかみてみたい。

3回目は前に見たのがあったり、また、すでに鑑賞済みのがありで、作品数40点のうち、初見は16点しかなかった。その中で狙っていた“阿国歌舞伎図屏風”(重文、京博)は予想以上に退色していた。風俗画はやはり色が綺麗でないと興味は半減する。逆に収穫だったのが同じく追っかけリストに入っていた式部輝忠の“巌樹遊猿図”(重文、京博)。猿がこんなに出てくる山水画はみたことがない。感心するのが樹や岩の上にいる手長猿の毛の質感描写。この絵師の絵をもっとみたくなった。

これで屏風展は終了。満足度200%のいい展覧会であった。なお、1回目は拙ブログ9/10、2回目は10/3

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2007.10.14

国立西洋美のムンク展

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西洋美の“ムンク展”(10/6~08/1/6)に出かけた。ムンクのイメージは小さい頃から美術の教科書に載っているあの“叫び”で強烈に刷り込まれている。でも、この“叫び”にお目にかかったことがない。ノルウェーのオスロに行くと確実に見れるだろうが、観光でこの街を訪れることはまずないから、死ぬまで見る機会がないかもしれない。

で、“ムンク展”と聞いて、“叫び”にひょっとすると会えるかも!?と思ったが、現実は厳しかった。やってくるのは上の“不安”。が、これまで見たムンクの作品の数は少ないから、こういう回顧展は大変有難い。

99年、フィレンツェを訪問したとき、ラファエロの“小椅子の聖母”を見るためにでかけたパラティーナ美術館(ピッティ宮殿)でオスロ国立美蔵のムンク展が行われていた。20点くらいの展示で図録もなかったが下の“生命のダンス”はよく覚えている。これまで体験したムンクの絵で印象深いのはこの絵とボストン美にある“声”、そしてリトグラフの“自画像”、“マドンナ”の4点。これにこの回顧展の108点が加わった。これくらいみるとムンクが近くなる。

今回出品されているのはオスロ市立ムンク美術館(1963年開館)が所蔵するもの。
では“叫び”はどこが持っているのか?美術本に載っているのはオスロ国立美術館
(1836年開館)にあるもの。だが、“叫び”はムンク美にもある。このあたりがややこしい。“叫び”は4点制作され、ムンク美に2点あり、93年出光美であったムンク展(このころ名古屋にいて見てない)に出品されたのはその一枚(テンペラ画)。

“叫び”だけでなく、ほかの作品でもムンクは複数制作している。“生命のダンス”も国立美とムンク美に1点づつある。これが2つあると思ってないから、絵の前では“フィレンツェで見たのはこの絵だったかな?ちょっと違うな!”と不思議な感じがした。構成は同じだが、画集などにでている国立美のほうが女性の顔の描き方がすっきりし、衣装の白、赤、背景の緑がとても明るい。国立美を10点とするとムンク美は7点くらいの出来栄えである。

夢中でみたのはこの“生命のダンス”と“声/夏の夜”、そして“不安”。“声/夏の夜”はボストン美で感激した“声”とよく似た絵。垂直にすっとたつ木々の中、髪が肩までのびた女性が手を後ろにまわし、こちらを向いている。天地いっぱいに女性を描く構成はすごくインパクトがある。そして、色彩のコントラストに惹きつけられるのが中央にみえる青い海面に美しく浮かび上がる月光の柱。これは性のシンボル。この黄色のまると細長いフォルムは“生命のダンス”、“浜辺の人魚”にもでてくる。

これまで代表作の“叫び”に縁がないので、三部作の一つである“不安”をじっくり見た。右の帽子を被った女性の顔はそれほど怖くはないが、髑髏のような顔をした男たちはどことなく不気味。背景の血のような赤に染まった空を見ました!見ました!かっと目をひらいて。こんな絵をみたら、ムンクが“芸術は人間の内部からのみ生まれる”と言ったことが誰でも腹にストンと落ちる。

最後のコーナーにオスロ大学講堂壁画“太陽”の習作があった。この絵を見たいという願望は強いが、画集で我慢するしかなさそう。

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2007.10.13

フィラデルフィア美展のルノワールとマティス

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待望の“フィラデルフィア美展”(東京都美、10/10~12/24)を前のめりになって見た。この美術館はまだ訪問してない。が、昔購入した“ラミューズ・世界の美術館”
(94年、講談社、全50巻)で質の高い絵画が沢山あることを知っていたから、ここの名画が日本にやってくるという情報に接したときは飛び上がるほど嬉しかった。

そのとき瞬時に頭に浮かんだのがルノワールの裸婦では最も好きな“浴女たち”とマティスの“青いドレスの女”、そしてダリの“茹でた隠元豆のある柔らかい構造ー内乱の予感”。この3点が展示品のなかに入っていることをひたすら祈っていたが、そう理想通りに事は運ばない。実現したのはマティスのみ。でも、これだけでもワクワクする。

ルノワールはセカンドベストの“ルグラン嬢の肖像”だが、これも是非見てみたい絵だったので一安心。ほかにも“ラミューズ”に紹介されているクレーの代表作の一つ“魚の魔術”やピカソの“自画像”、“三人の音楽師”、ミロのユーモラスな絵“月に吠える犬”が作品のなかに含まれているから、いよいよ期待が膨らんだ。

今回の出品作は全部で77点。果たして期待値に応える内容だったか。NOタイムで二重丸。海外にある大きな美術館の所蔵する作品が公開される場合、過度の期待をするのは禁物。目玉に館自慢の名画が2,3点あればもうそれで充分。“ラミューズ”に掲載された30点の10点があり、しかも目玉の絵は画集、例えば“TASCHEN”などに載っているほど有名な絵だから、多くの人の心をしっかりとらえることはまちがいない。

ここは調子に乗り過ぎるのが悪いクセで、またチラシで“最高傑作”とか“あのバーンズ展の感動がよみがえる”、“47作家、奇跡の饗宴”とやってしまった。これはオーバー。このキャッチコピーは忘れて好きな絵を楽しまれたほうがいい。

で、愛すべきルノワールの女性画から。上の“ルグラン嬢の肖像”の前では息を呑んでみた。この絵は広島にいて情報がなかったが、ブリジストンで01年に開催された“ルノワール展”に展示されたらしい。衣服の白と黒エプロンのコントラストが印象的で、鮮やかな青のスカーフをした女の子は非常に気品があり、大人っぽくみえる。My好きな女性画に即時登録した。

それにしてもルノワールのいい絵が毎年のように日本にお目見えする。05年は“舟遊びの昼食”(フィリップスコレクション展、拙ブログ05/6/17)、“ブージヴァルのダンス”(名古屋ボストン美)、“黒い服の娘たち”&“ムーラン・ド・ラ・ギャレットの庭で”(プーシキン美展)、昨年は“扇子を持つ娘”(大エルミタージュ美展)、“ロメーヌ・ラコー”(クリーブランド美展)。

今年は1月の“ジュリー・マネ”(オルセー美展)と“ルグラン嬢”。現地の美術館に足を運ばなくても日本にいて着実に代表作がみれるのだから、願ってもない美術環境である。そして、来年2月、Bunkamuraの“ルノワール+ルノワール展”にオルセーからあの“田舎のダンス”、“ぶらんこ”がやってくる。まさに真打登場!

さて、お目当てのマティスの下の“青いドレスの女”である。これを画集で見てたまらなく魅せられたのが、背景の赤、黒の強烈な色彩対比と他の人物画ではみられない細い輪郭線をつかい美女風に描かれた顔。金髪と真っ赤な口紅が目を惹き、後ろの格子模様の赤と黒のデザイン的な色面が上から下に流れる白いフリルつきの青のドレスを引き立てている。平面的な画面構成が特徴のマティスの絵でこれほど華やかな雰囲気につつまれた絵は他にない。何時間でも見ていたくなる。

ルノワール同様、マティスの名画も度々やってくる。04年の回顧展では“切り紙絵”(04/12/9)がいくつも見れたし、05年には傑作“金魚”(プーシキン美展、05/10/25)とも対面した。念願の“青いドレスの女”に会えたので、次の狙いはポンピドーの切り紙絵“王の悲しみ”。これは来年1月に叶えられそう。

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2007.10.12

王子江絵画展

10銀座のギャラリーで“王子江絵画展”(10/7~10/20)をみてきた。

日本在住の中国人画家、王子江(おうすこう)さんの個展をみるのも今年で3回目。

会場の“ギャラリー青羅”(TEL:03-
3542-3473)は松屋とITOーYAの間にあるマロニエ通りを築地の方へ向かっていくと、4つ目の交差点の右角にある。ここへもすっと行けるようになった。展示の時間はAM11:00~PM6:30(10/20は5:00まで)。王子江さんは会期中おられ、来場者の応対をされている。

昨年の作品については、拙ブログ06/10/14に書いた。過去取り上げた王子江さんの記事にとべるようになっているから、王子江さんのことを詳しくお知りになりたい方は拙文を参考になさっていただきたい。

2年前からお聞きしていた回顧展の日程が決定したようなので、まずそのことから。“王子江絵画芸術展”は上野の森美術館で08/2/23~3/6に開催される。王子江さんが得意とする大作が中心の展覧会になるとのこと。王子江さんの描く大作をみたときの感動は半端じゃないから、今から開幕が楽しみである。

例年ギャラリーに飾ってある作品はあまり大きくない絵。今回も20点くらい。右はお気に入りの京都の街を舞妓さんが歩いているところを描いた作品。うしろ姿の舞妓さんに左から日が当たり、その影が右の家の戸口までのびている。木造の家の質感がほんとうによくでている。日本人の琴線に響く、心安まる絵である。

王さんは光の表現が実に上手い!お国の水郷地帯の情景でも、ヴェニスの運河でも、アラスカやイスタンブールの海上でも、光のあたる水面を墨線と色彩でやわらかく表現している。そして、画面構成が巧み。水郷の絵では遠景のさらっと描かれたうすい墨のところと手前にみられる部分的な濃い墨により、画面は奥行きのある空間になっており、じっとみていると小舟に乗って水郷を移動しているような錯覚にとらわれる。

今年も満ち足りた気分でギャラリーを後にした。

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2007.10.11

歌麿美人画鑑賞ツアーのご案内!

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絵画鑑賞の回数を重ねるにつれて、絵を見るときもビジネス同様、“選択と集中”がいいなと思うことがある。浮世絵の場合、ここ数年は喜多川歌麿と歌川広重の主要作品を見ることにエネルギーを注いでいるが、念力が通じるのか予想以上のペースで狙いの名画が目の前に現れる。

昨日紹介したミネアポリス美術館のコレクションには思ってもいなかった歌麿の有名な作品があった。後期(10/30~11/25)には代表作のひとつ“婦人相学十躰 浮気之相”、“高名美人六家撰 富本豊雛”(拙ブログ8/30)などが登場する。

松涛美を出て、ふとあることに気がついた。今から来月末にかけて、都内にある3つの美術館を回ると歌麿の代表作が相当数見られるのである。で、歌麿がお好きな方のために、“都内歌麿美人画鑑賞ツアー!”をご案内したい。回るコースは、

①松涛美術館:ミネアポリス美コレクション、前期(10/2~10/28)・後期(10/30~11/25)、作品数16点、
②UKIYO-e TOKYO(平木浮世絵財団、ららぽーと豊洲内):平木コレクションの珠玉 歌麿10選、10/2~10/28、作品数10点
③東博:浮世絵平常展、9/26~10/21、作品数3点

東博の10/21以降から11月末に展示される作品はまだわからないが、歌麿はいつも3,4点でてくるので、これもカウントすると、3つの美術館合計で30数点になる。以下に説明する平木コレクションもすばらしいから、是非このツアーにお出かけいただきたい。

UKIYO-e TOKYOは“ららぽーと豊洲”(地下鉄有楽町線豊洲駅から徒歩5分)のなかにある。展示スペースは広くないから一度に出ている作品は少ないが、質のいいものが多いので、いつもいい気持ちになる。今回展示されている歌麿の美人大首絵は国内では折り紙つきの名品(7点が重美)である。ちなみに、復刊した“週間アーティストジャパン・喜多川歌麿”(2007.4.3、デアゴスティーニ)には10点のうち下の“歌撰恋之部 物思恋”と“高名三美人”が掲載されている。

“これぞ歌麿の美人画!”というのが10点も並ぶと画像の選択に迷う。考えたあげく、ミネアポリス美蔵では女性の感情がよく表れた“台所”をとりあげたので、ここの大首絵も“顔の描き方は皆同じと思っていたが、言われてみると女の境遇や心理が微妙に表情にでているな”と感じられるのを選んだ。

上は“芸者亀吉”。明るくて根は正直そうな芸者である。思わず“亀吉ちゃん、手を組んじゃったりして、なにかいいことあるの!”と声をかけたくなる。少しさがりかげんの眉をしたこの人のよさそうな品川芸者のあと、下の“歌撰恋之部 物思恋”をみるとドキッとする。この絵をみるのは2度目。松江にあるティファニー庭園美術館ではじめて見たとき(05/10/11)、心がざわざわしたのを今でもしっかり覚えている。版画自体の質は平木コレクションのほうが断然上。

インパクトがあるのがなんといっても眉を剃った顔と手の甲をかえし、頬についた指の表情。そして、髪の生え際の見事な描写とつやつやした島田まげの黒の輝きに目を奪われる。この中年女は若い頃、燃え上がった恋を追憶し、物思いにふけっているのであろうか。物憂げな女を見ていると、アールデコ時代に活躍したレンピカの描く女性肖像画が頭をよぎる。

東博に今出ているのは、美人の顔に輪郭線がない“娘日時計”シリーズの“辰ノ刻”、“午ノ刻”、“未ノ刻”の3点。これも画集に必ず載っている絵である。どうか3美術館に飾られている歌麿の名画をお楽しみください。

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2007.10.10

驚きのミネアポリス美術館蔵浮世絵コレクション!

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松涛美術館で今、ミネアポリス美術館が所蔵する一級の浮世絵コレクションが展示されている。作品数245点は前期(10/2~10/28)と後期(10/30~11/25)で総入れ替え。で、2回の訪問が必要になるが、料金は300円と超格安だから、600円で済む。ご機嫌な浮世絵展である。

02年、山口県美・浦上記念館(萩市)であった“鈴木春信展”にこの美術館蔵の作品が出ていたので、春信のコレクションで有名なことは知っていたが、ほかの絵師もぐぐっと惹きつけられるのがここにもあそこにもあるという感じ。収穫のいくつかを上げてみると、

★春信の質の高い作品が会期中36点みれる。色がよく残っているのが驚異的。
★現在追っかけモード一番の歌麿が16点もある。しかも、摺りの状態が良好!
★国内ではなかなか見る機会がない歌川豊国の“役者舞台之姿絵”が6点みられる
★北斎の絵に大回顧展(05年、東博)にもなかった“壬生狂言”という面白い絵がある

まず、春信から。前期にでているのは半分の18点。柳の枝に飛びつこうとしている蛙を傘をさした娘がながめている“見立小野道風”や男と言われても女が二人いるとしか見えない“三味線を弾く男女”などは浦上記念館でお目にかかった。初見で心を打たれたのは“隅田川舟遊び”、あぶな絵の“船に乗り込む芸者”、そして上の“松もとや前”。

とくに春信の天分の色彩感覚が画面いっぱいに現れた“松もとや前”にふらふら。すばらしい色使いである。ピンクの着物をまとった女は芸者で、後ろにいるのが紫色の三味線箱を運ぶお付。二人は“松もとや”での仕事が終わり、暖簾をくぐって出ていくところ。芸者の着物の裾模様に蝶々がみえる。暖簾の青と柱の黄色、お付の緑の衣装と紫の箱の色彩対比効果があの涼やかな顔をした春信美人を浮かび上がらせ、見る者を甘美で詩的な世界に誘う。

歌麿でわけもなく嬉しくなるのが“青楼仁和嘉女芸者之部”、“難波屋おきた”、下の“台所”。歌麿のこんないい絵をここで見れるとは思ってもみなかった。“台所”は東博の平常展に展示されるのを今か々と待っていたのに、一足先に対面することとなった。歌麿は女が湯を汲もうとして、立ち上る熱い煙に顔をしかめるところを実にリアルに描いている。歌麿の美人画は女性の個性や繊細な感情を写しているといわれるが、それが一番わかるのがこの絵。思いの丈をとげられて気分は最高。

豊国の“役者舞台之絵”(拙ブログ06/11/16)で魅了されるのがクセのあるポーズと精緻な文様や深みのある紫の衣装。“はまむらや”、“音羽屋”など会期中に6点もみられるのは有難い。そして、“豊国も春信に劣らぬカラリストだな”と思わせる“五代岩井半四郎の助六”に大感激した。これは本当に見てのお楽しみである。摺りの状態のいい浮世絵を見ることほど楽しいことはない。図録をみると後期も期待がもてそう。

なお、この展覧会は松涛の後、少し間隔があくが、次の美術館を巡回する。
奈良県立美術館:08/4/5~5/25
サンリツ服部美術館:6/10~7/10

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2007.10.09

第17回 東美特別展

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新橋の東京美術倶楽部で開催された“第17回 東美特別展”(10/5、6、7、無料)にはじめて出かけた。これは数年おきに行われる古美術、現代美術のアートフェア。65の大手美術商が展示している絵画、やきもの、茶道具、刀剣などには値段がついており、ここで売買される。

初日の会場にはひと目で古美術収集家とわかる人や焼き物愛好家たちが大勢つめかけ、熱心に展示品をながめていた。ここでは作品は一般の美術館の展覧会のようにガラス越しではなく直に観ることができる。掛け軸はすぐ目の前にあるし、やきものは手にとって、味わえる。1階の○○店で“尾形乾山の茶碗”を触らせてもらった。これ○○○万円なり!貴重な経験である。

目を惹いたやきものについてどのくらいの値段なのか、いちいち訊いてみた。で、現在の相場がおおよそわかった。下の黄色、緑、青の発色にくらくらした“古九谷青手樹木二家屋図大鉢”(径42.6cm)は売却済みということで値段は教えてもらえなかったが、これより小さくて質的に落ちるものの相場がわかっているから、相当な金額であることは推定できる。3階の古美術△△にあったすばらしい“志野蕨文鉢”(径27cm)も“やっぱりこのくらいするだろうな”とあらためて目をむくほどの高い値がついている。○○○○万円クラスの下のほうではない金額。

あるブースにいたとき、おもしろい話を傍で聞いたので、そのことを少し。2階の古美術□□にすごいのが飾ってあった。それは04年、日本橋三越であった“日本の琳派
2004”にでていた上の俵屋宗達作、“蓮池水禽図”。はじめ美術商と学者風の老人が話をしていて、そこに杖をついた80歳くらいの人が入って来た。この人はコレクター。

美術商:“○○さん、ようこそお越しいただきました”

コレクター:“久しぶりに蓮池水禽図に会いに来たんや、ああー△△さんもおられたのですか、ご無沙汰してます。あなたはこの絵を観たことあるの?”

学者風老人:“ええ一度、茶会のとき観させてもらいました。今は京都に居ります”

美術商:“△△さん、○○さんのところには蓮池水禽図が何点もあるのですよ!○○さん、次に売られるのはどれですか?”

コレクター:“この蓮池水禽図は息子がハワイに住むというので金が要るようになり、手放したのですよ”

この話からすると、三越に出品されたときはまだ、このコレクターが所蔵しており、その後この古美術商のところに入ったということになる。美術商と話す時間がなかったので、この絵が売却済みなのか、まだ、買い手がついてないのか、また、どのくらいの値段かはわからない。でも、こういう人たちが琳派の絵を集めており、茶会の席などで鑑賞していることだけはよくわかった。

人気画家の日本画や洋画も沢山でていた。その中で、加山又造、奥村土牛、高山辰雄、千住博の作品は際立っていた。値段も巨匠に相応しい高い金額。コレクターのとこへいくと見られなくなるので、是非美術館におさまって欲しいのだが。こういう特別展の存在を知ったのは大きな収穫。楽しみがまた、増えた。次回も足を運ぼうと思う。

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2007.10.08

小澤征爾指揮 ベルリオーズ「幻想交響曲」

3今日は3時から6時までBS2の“サイトウ・キネン・フェスティバル2007”
(9/8)を聴いていた。

この番組は“TV太郎”をみて前から楽しみにしていたのではなく、朝刊で偶然見つけたもの。

演目がお気に入りのベルリオーズ作曲の“幻想交響曲”だったので、長時間、TVの前にいることになった。で、予定していた散歩は無し。

3時間もクラシック音楽を聴いたのは本当に久しぶり。長野県の松本市で毎夏行われる“サイトウ・キネン・フェスティバル”は今年で16回目になるという。最初の5年間くらいはNHKの音楽番組でよく観たが、最近はほとんど聴いてない。

番組の冒頭に流されたのがこのフェスティバルがはじまった92年に演奏されたブラームスの“交響曲1番”(3、4楽章)。当時、今より随分若かった小澤征爾が指揮するこの演奏を“すごい、すごい!”と大感激して聴いたの思い出した。カール・ベームの1番も心に響くが、サイトウ・キネン・オーケストラのすばらしい演奏も胸に深い感動がこみあげてくる。これでクラシックモード全開になった。

今年の最初の曲はラヴェル作、“なき王女のためのパヴァーヌ”。これは大好きな曲。この曲とかサティの曲が“哀愁の○○”といった映画のバックに流れると脳からα波がどっとでて、いい気持ちになるのだが。でも、今はこんな甘美で夢幻的な音楽は古典すぎて使われないだろう。

後半に“幻想交響曲”が演奏された。これは何度も聴いているが、小澤征爾の指揮ははじめて。昔から小澤征爾はこの曲が得意らしい。リハーサルのとき、“これは狂気のベルリオーズがつくったのだから平板にならず、のびのびと変化をつけて演奏してください”と言っていた。いつ聴いても心が浮く浮きしてくるのが2楽章の“舞踏会”。耳慣れたワルツにうっとり。4楽章の“断頭台への行進曲”には懐かしい思い出がある。

この“幻想交響曲”をはじめて聴いたのは昔、スイスのジュネーブに1年間住んでいたとき、クラシック好きの知人に誘われて出かけたスイスロマンドの演奏会。3楽章が終わったとき、“これから面白いことがおきるからよく聴いていて”と隣の知人からささやかれた。それは夢の中で恋人を殺めた青年の首が最後ギロチンで飛ぶところで使われる“キィーン!”という大きな金属音。それまでの音楽鑑賞では経験したことのない衝撃的な音だった。今回はすでに免疫ができているからそれほど驚かない。

4楽章、5楽章“魔女の夜宴の夢”における聴きどころは、ティンパニのずっしりとそして歯切れのよい音とトランペットやトロンボーンなど金管楽器パートが繰り広げる音の乱舞。流石、小澤征爾の指揮はのびやかで華麗な演奏をひきだしている。久しぶりの“幻想交響曲”を腹の底から楽しんだ。小澤征爾のことは一度拙ブログ04/12/8に書いた。

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2007.10.07

ベルト・モリゾ展

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今年のはじめ、ベルト・モリゾを強く印象づける絵が国立新美術館で開かれた“オルセー美術館展”に展示された。ひとつはマネが描いた肖像画の傑作“すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ”、もうひとつは女性画家、モリゾの作品、“ゆりかご”。

15年前ごろ、オルセー美を訪問した際、マネの絵に登場するモリゾは“すみれのブーケ”と“バルコニー”でしっかり目の中に入ったが、モリゾの絵は全く記憶から消えていた。ところが、どういうわけかマルモッタン美でみたモリゾの“ジュリー・マネと彼女のグレイファウンド犬ラルト”という絵はよく覚えている。ふりかえってみると、オルセーではモネやルノワール、ゴッホ、セザンヌなどの絵に神経が集中し、モリゾは鑑賞の対象から外れたのだろう。だから、国立新美にやってきた“ゆりかご”と対面したときは、大変心を揺すぶられた。

現在、損保ジャパン美で行われているモリゾの回顧展(9/15~11/25)もこのときと同じような感情が沸き起こってくる。作品数は油彩、水彩、版画68点。日本でモリゾの本格的な回顧展が開かれるのははじめてのことで、作品の大半は個人が所蔵するもの。描かれているのはほとんどが女性、母と女の子、愛娘ジュリー。男性が出てくる絵は夫(マネの弟)と娘を描いた1枚しかない。

上はお気に入りのひとつ、“テラスにて”。右端手前に大きく描かれた帽子を被り、こちらを向いて椅子に座っている女性の雰囲気が、どことなく師匠のマネが描いた“庭のモネの家族”(メトロポリタン美)に似ている。画面を手前の女性がいるテラス、中景の海と崖、遠景の空と3つに描き分けているのは浮世絵風景画の描き方の影響だろう。

下は最も惹きつけられた“乳母と赤ちゃん”。愛娘のジュリーと若い乳母が向き合って、お話でもしているのであろうか。左からの明るい日差しがあたった女性の青い衣装やジュリーの白い服が目にとびこんでくる。いかにも印象派の絵という感じである。じっとみていると、ボストン美にあるモネの絵、“庭のカミーユ・モネと子供”がダブってきた。

最後のコーナーに、モリゾが亡くなる一年前、大きくなった娘を描いた“夢見るジュリー”がある。なかなかいい絵。見てのお楽しみ。期待値はニュートラルだったが、いい作品が何点もあったので、この才能豊かな印象派画家を即、My好きな女性画家に登録した。

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2007.10.06

フェルメールの牛乳を注ぐ女

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国立新美術館でフェルメールの“牛乳を注ぐ女”(9/26~12/17)と再会した。前回アムステルダム国立美術館でみた(拙ブログ05/4/11)のは2年前だから、絵の印象は体のなかによく残っている。違いは見るシテュエーションだけ。

“黄金時代の風俗画”のコーナーをパスして“牛乳を注ぐ女”を目指した。今回この小さな絵はダヴィンチの“受胎告知”が飾られていた東博の部屋よりはるかに大きいスペースをもらって展示されている。まず、最前列にそって進み、絵の前でしばらく見て、次は正面の2列目に腰を据えて、単眼鏡で細部を確認したり、人の流れが途切れたのを見計らってすばやく前に移動したりして見た。はじめからこの絵しか関心がないから、時間はたっぷりある。30分くらいで、もういいかなという気分になったので引き上げた。

こんな絵画史上の名画が日本にいてみられるなんて願ってもないことなのに、その展示の方法については?がつく。00年にあった“フェルメールとその時代展”(大阪市立美)に展示された下の“青いターバンの少女”(マウリッツハイツ美)や3年前、東京都美に出品された“絵画芸術”(ウィーン美術史美)が普通に展示されていたのに、なぜ、この“牛乳を注ぐ女”だけを特別扱いにし、少し離れたところから見るようにするのだろうか?

絵の価値や人気度からいうとこの3点と“デルフトの眺望”(マウリッツハイツ美、05/4/17)がビッグ4と思っているのだが、フェルメール作品のなかでは最も大きい“絵画芸術”が真近でみれて、それより小さな絵の“牛乳を注ぐ女”を遠くからみるなんてどう考えても変。フェルメール好きなら誰だってそう思うはず。

“牛乳を注ぐ女”を見ていると心がしっとり落ち着く。日常のありふれた情景を描いた風俗画というより、静物画を見ている感じ。テーブルの上にパンや籠、陶器があるので人物のいる静物画である。フェルメールの絵で一番魅せられるのが白い点々により、対象にあたるやわらかい光を見事に表現しているところ。テーブルのパンや女の頭、窓のそばの壁にかけられた籠のあたりがキラキラ光っており、物の豊かな質感と褐色系の暗い色調が特徴のほかのオランダ絵画ではみられない明るさに見入ってしまう。

色で目に沁みるのは左からの光があたった白い壁がいっそう浮かび上がらせている女の黄色い上着と深い青のエプロン。構成、細部の精緻な描写、どこからみても、この絵はフェルメールの高い画技と自然や人間に対する優しい心によって生み出された傑作である。

“受胎告知”がイタリアへ帰ったら、今度はオランダから“牛乳を注ぐ女”がやって来る、やはり日本は美術大国。だとすると、次は“デルフトの眺望”を期待したくなる。まだ見てない9点のうち、一番のターゲットにしているのはベルリン国立美術館にある“真珠の首飾りの女”だが、“デルフトの眺望”と再会したい気持ちも強い。果たして実現するだろうか?

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2007.10.05

ロッキーズ松井稼頭夫 プレーオフで大活躍!

1059大リーグのプレーオフでナショナルリーグ、コロラドロッキーズ(ワイルドカード)は対フィリーズ(東地区1位)戦に連勝し、早くもリーグ優勝決定シリーズ進出に王手をかけた。

この勝利に大きく貢献したのが一番セカンドで出場している松井稼頭夫(左の写真)。5打数3安打5打点。

朝起きて、PCで結果をみてびっくり。なんと、4回に逆転の満塁ホームランを打っていた。6回にも三塁打を放ち、さらに1打点。ロッキーズの得点10点の半分を松井のバットがたたきだした。

大リーグで4年間プレーはしているものの、多くのファンを唸らせる活躍をしたのはこれがはじめてではなかろうか。イチロー、ヤンキース松井、松阪ばかりにスポットが当たっていたが、どっこいロッキーズの松井は死んでいなかった。拍手々!大リーグ好きの人は皆同じ思いをしているにちがいない。

これまでファンの間で松井の存在感が薄くなるのは仕方がないところ。期待されて入団したNYの人気チームメッツでは守備でつまずいた。ショートでのエラーが多いので、すぐ大リーグの守備のレベルに達していないと烙印を押され、二塁へ転向させられ、挙句の果てに昨年はシーズン途中でメッツを追い出されてしまった。移籍先はコロラドのロッキーズ。これは誰がみても都落ち。そして、多くの人はそのうちロッキーズでもレギュラーになれず、いずれ日本に帰ってくるのではと思ったはず。

今年も怪我で故障者リスト入りし、フルに活躍していないから、たいした成績も残せず、シーズンを終了するのかなと思っていた。ところが、チームがラストの14試合で13勝1敗と驚異的な勝率で追い上げ、松井もリードオフマンとして、チームを引っ張った。ワイルドカードは残りの試合数が少ないから難しい状況だったが、パドレスとのワンゲームプレイオフで勝利し、地元ファンを熱狂させた。12年ぶりのプレーオフ進出である。この頑張りはすごい。

この日はBSの中継がなかったから、ずっとインターネットで試合の経過をみていた。延長12回の表、パドレスにツーランホームランを打たれ、万事休すかと思われた。“松井も残念だろうな、ここまで来たからにはプレーオフに出たかっただろうに”とロッキーズの負けを100%信じ、PCの前から離れた。そして、5、6時間後、試合結果を確認したら、なんと12回裏にロッキーズが3点入れ、9対8で逆転勝ちをしていた!

ええー、本当に?最後の最後までロッキーズの勢いがとまらなかったのである。こういう目に見えない力が働くから野球は面白い。後からTVでみると、先頭打者の松井が二塁打を放ち、反撃の口火を切った。松井のバットが皆の気力を再度奮い立たせたのである。試合後のシャンパンファイトが松井にとってどんなに嬉しかったことか。

前回、理想はフィリーズが東地区で優勝し、ロッキーズがワイルドカードを獲得することと書いたら、その通りになった!その両チームが今、戦っている。第3戦はロッキーズの本拠地。なんだか、ロッキーズの勢いがとまらず、ワールドシリーズに進出して、かつての同僚、松坂のレッドソックスと戦うような気がしてきた。当分、ロッキーズの松井から目が離せない。

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2007.10.04

美術史家若桑みどり女史 死去

Photoイタリア美術史の研究で大きな業績をあげられた美術史家の若桑みどりさんが昨日、虚血性心不全で亡くなられた。71歳だった。

女史の本を愛読していたので、残念でならない。心からご冥福をお祈りします。合掌!

04年、本が出版されたときに購入していた天正遣欧少年使節を書いた大著“クアトロ・ラガッツィ”(集英社)を今年はスペイン、ポルトガルを旅行したので、そろそろ読もうと思っていたところ。もう、そのお顔を拝見することができないが、本のなかで若桑みどりさんとお会いしようと思う。

これまで読んだ女史の本は次の6冊。
★“マニエリスム芸術論”(ちくま学芸文庫、94年)
★“薔薇のイコノロジー”(青土社、03年)
★“象徴としての女性像”(筑摩書房、00年)
★“イメージを読むー美術史入門ー”(筑摩書房、93年)
★“絵画を読むーイコノロジー入門ー”(日本放送出版協会、93年)
★“世界の都市の物語 フィレンツェ”(文春文庫、99年)

大好きなイタリアについての知識を増やそうと、何年か前から歴史は塩野七生さんの、美術は若桑みどりさんの著作を精力的に読んできた。両女史の舌を巻くばかりの豊富な知識と高い見識に接したお陰で、イタリアへの理解が深まり、イタリア美術を鑑賞する楽しみが増している。

若桑みどりさんから学んだことの一番は“イコノロジー”(図像解釈学)。“薔薇のイコノロジー”とイコノロジーの権威、パノフスキーの“イコノロジー研究”(ちくま学芸文庫、02年)には宗教画にでてくる図像の意味合いや作品の誕生と時代背景との関係などの知見がつまっており、古典美術やルネサンスの絵画への興味を一層掻き立ててくれた。

また、文化のなかにおけるジェンダーの視点で女性像を論じた“象徴としての女性像”は女史渾身の力作。ベラスケスの“織女たち”の新解釈、“ユーディット”、“殉教聖女ルクレティア”、“禍をもたらす女、パンドラ、エバ”などを貪るように読んだ。

文庫本の“フィレンツェ”は美術がお好きな方なら最高のフィレンツェガイド本。これと塩野七生さんの殺人事件三部作のひとつ“銀色のフィレンツェ メディチ家殺人事件”を合わせて読むと、相当のフレンツェ通になれること請け合い。

若桑みどりさんについて書きたいことは沢山あるが、この辺で。拙ブログ06/5/3に昨年、ミラノのアンブロジアーナ絵画館でみたカラヴァッジョの“果物籠”に関する女史の解釈(“絵画を読む”の最初にでてくる)を書いたのでご参考までに。

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2007.10.03

BIONBO/屏風 日本の美展 その二

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2回目の“屏風展”(サントリー美、9/1~10/17、1回目は拙ブログ9/10)は9/26から展示される作品を見るため。総出品数101点を半分ずつにして前期、後期の2区分にしてくれるとすっきりするのだが、日本画の場合、そううまい具合にはいかない。展示替リストでチェックし、この期に登場するお目当ての作品めざして進んだ。

“厩図屏風”(重文、東博)は山口晃が参照した絵(8/20)。左隻で、足を上げドタバタしている綺麗な馬の前、将棋をする人のなかに混じって猿がいるのは猿が厩を守ってくれると信じられていたから。山口晃は猿を給仕ロボットに変えていた。

上は今回の見所のひとつである初期洋風画の一枚“二十八都市・万国絵図屏風”(三の丸尚蔵館)。会場入ってすぐのところに飾ってあったサントリー美蔵の“泰西王侯騎馬図屏風”(10/1で終了)が4人の騎馬像であるのに対し、こちらは八曲一双の屏風に8人の王侯が上段に描かれている。おもしろいのが“泰西王侯騎馬図”にしてもこの屏風にしても、馬上の王侯は剣をふりかざし、ファイティングポーズをとっていてもそれほどキツイ顔はしていないのに、馬はどの馬も鋭い目つきをしている。まさに、メンチをきりまくっている感じ。

日本の合戦絵巻のなかで動感表現された馬は体を大きくひねったりしているが、この馬のように感情丸出しの人間みたいな目はしていない。また、西洋絵画に描かれた馬だってこんな目つきはしていないから、こうした馬の描き方はジャパン洋風画のオリジナルである。これは決闘の場面を描くのに、王侯の顔は見たことがなくあまりリアリティが出せないから、見慣れている馬で戦いの迫力をだそうと考えたのかもしれない。背景の山々は西洋画らしく陰影をつけて描いているが、馬のたて髪一本々や尻尾の描き方は平安王朝の女房の髪にそっくり。この立派な西洋画風の絵をみていると、日本人は昔から絵が上手な民族だったことがよくわかる。

対面を楽しみにしていた風俗画、“豊国祭礼図屏風”(重文、狩野内膳、豊国神社)は予想外にコンディションは良くなかったが、生き生きとした踊り手の描写や身につけている衣装の縦の線模様に魅了された。着物の洒落た意匠に釘付けになったのが全期間展示されている下の“賀茂競馬図屏風”(右隻部分、クリーブランド美)。こんなすばらしい風俗画が海外に流失したかと思うと残念でならない。

久隅守景が“賀茂競馬・宇治茶摘図”(重文、大倉集古館、05/12/3)といういい絵を描いているが、この賀茂競馬のほうが見てて数倍楽しい。競馬を眺めている人々の表情が豊かで、皆迫力ある馬の競走に興奮状態。左隻では、騎乗している男が馬から振り落とされそうになるのを周りの者がげらげら笑いながら見ている。これは愉快。女たちは後ろのほうで見物している。そして、最前列で熱くなってみている男たちが着ている衣装の絵柄に目を見張らされる。そのハットするくらい斬新で洒落た文様や鮮やかな色使いにほとほと感心する。

しばらく単眼鏡を使って全部の意匠を見てみた。トンボや蛸の模様があったり、格子文ありと文様は多彩を極め、どの男もちがう柄の衣装をびしっと着こなしている。江戸時代初期に生きた男たちの意匠にたいする鋭い感性や美意識に脱帽である。これまで女性の衣装のデザインばかりに目がいっていたが、男たちがこんなにカッコいい姿で町を闊歩していたとは想像できなかった。

これをアメリカから里帰りした絵で教えてもらうとは複雑な心境だが、この頃の日本人が現在の“十人一色”の選好状況(05/1/17)とはちがって、好みがバラエティに富み、のびのびと個性を発揮して生活していたことを確認できたのはとてもよかった。

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2007.10.02

映画「永遠のマリア・カラス」

1055昨日、BS2で放送された映画「永遠のマリア・カラス」は期待の作品。

いつも購入している“TV太郎”でこれをみつけたとき、ちょっと胸が高まった。

マリア・カラス(1923~1977)が20世紀最高のオペラ歌手ということはオペラファンだから一応知っているが、彼女のCDとか出演したオペラのビデオなどは手元のないから、これまでは伝説の歌姫だった。

で、これはマリア・カラスの伝記映画だろうから、やっとマリア・カラスの歌声がまとまった形で聴けるだろうとわくわくしながら観た。

期待通り、名アリア(拙ブログ05/1/2)を数曲歌っていた。が、マリア・カラスの実際の姿は全然でてこない。また、ストーリーもフィクション。でも、マリア・カラスの晩年はこんな風だったのだろうなと思わせるなかなかいい映画だった。製作されたのは02年で、監督はカラスと同年生まれのフランコ・ゼフィレッリ(イタリア・フィレンツェ出身)。あの大ヒット作“ロミオとジュリエット”(1968)を撮った監督である。

物語は長年カラスと親しかったゼフィレッリが空想と思い出を織り交ぜて創作したもの。人生の最終章をむかえつつある79歳のゼフィレッリは、声が出なくなり舞台から姿を消した50代のマリア・カラスを身近でみているだけに、この映画には説得力がある。ストーりーのディテールは省くが、カラスのかつての仕事仲間だったプロモーター、ラリー(ジェレミー・アイアンズ)の提案で、カラスの声が全盛期だったころの録音を使い、カラス主演のオペラ映画を製作するという話。

で、最新テクノロジーを使って、過去の録音と現在の映像を重ね合わせた“ごまかし(=フェイク)”の映画の第一作に選ばれたのがカラスが舞台で唯一演じることがなかった“カルメン”。劇中劇なのに舞台セットは本物のオペラと変わらぬ贅沢なつくり。カラス役のフランスの大物女優、ファニー・アルダンが演じる美しく妖艶なカルメンに釘付けになる。

周りのスタッフは“カルメン”の出来の良さに味をしめ、次は“トスカ”、“椿姫”、とプロジェクトは進んでいきかける。が、カラスはやはり心変わりし、“この映画はフェイク!私のオペラ人生は幻想じゃあなかった。真実だった!”と“カルメン”のお蔵入りをプロモーターに申し出る。

映画のなかでマリア・カラスはすばらしい歌声で大好きな曲を歌ってくれるので、もう上機嫌。“ある晴れた日に”(蝶々夫人)、“わたしのお父さん”(ジャンニ・スキッキ)、、、最後に歌うのが感動ものの“清らかな女神よ”(ノルマ)。これまでこの希代の名アリア“清らかな女神よ”はフィリッパ・ジョルダーノの歌声で楽しんでいたが、やっと本家本元のマリア・カラスの美声が聴けた。これほど嬉しいことはない。収穫の多いオペラ映画だった。

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2007.10.01

世界遺産 厳島神社

1054先週土曜日のNHK番組、“探検ロマン世界遺産”に宮島の“厳島神社”が登場した。

奈良博の“美麗 院政期の絵画展”(9/30で終了)で見た国宝“平家納経”(拙ブログ9/22)の感動を鑑賞後も引きずっていたところなので、この美しい装飾経が納められた厳島神社のことを復習するには最適のタイミング。

仕事の関係で9年広島にいたから、厳島神社へは2回でかけた。ここを訪れる人の目に焼きつくのがなんといっても朱塗りの大鳥居。宮島口から宮島へ向かうフェリーからながめているときは、美しい鳥居だなという感じだが、フェリーを降りたあと、厳島神社の社殿のなかへ入る前にこれを見るとその大きさを実感する。干潮時の姿を映像でみると、見上げるほどの高さである。

現在のような厳島神社は1168年、平清盛によって造営されたといわれる。のびやかに広がる朱塗りの社殿群をつなぐこの字型の回廊を進んでいくうち、この社殿が海の上につくられているのだということを体全体で感じ、なにかファンタジー映画の幻想的なシーンを仮想体験しているような気分になる。夜の社殿ならその思いがずっと強くなるだろう。そんな想像力を掻き立ててくれる絵が今、東近美で開催中の“平山郁夫展”に展示されている(09/11)。

舞楽が舞われる社殿正面の平舞台のあたりにくると、少しこの海上社殿にも慣れ、よくこういう建物を考えついたものだなと感心したり、下から支えている短い木のメンテナンスはどういう周期で実施しているのだろうか?と素朴な疑問を持ったりする。番組では接木のやり方や台風対策などを社の人が説明していた。大鳥居の大きな丸木の下位部分は50年くらい前に取り替えられたらしい。これとて大きな木が段々失くなっていくから、大変な事業である。次の手当ては出来ているのだろうか?

多くの時間を割いて紹介していた旧暦6月17日に行われる“管弦祭”が興味深かった。当時はTVのニュースでみるだけで実際に見に行くことはなかったが、番組でこの年中行事の一部終始を見て、出かければよかったなと後悔している。みこしを載せる“御座船”をえい航する“漕ぎ船”に長くのっていた江波地区(広島市中区)の世話役がこの祭りの感動を熱く語っていたのが印象的。いつか、管弦祭や能舞台を見てみたい。

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