東近美の平山郁夫展
今年、東近美で開催された企画展は関心が薄く、平常展で所蔵の名画ばかりみてきたが、やっと目に力の入る“平山郁夫展”(9/4~10/21)がはじまったので、早速出かけた。
作品数83点のうち、21点は全会期中の展示ではないから、もう一回来ることになりそう。今回の回顧展は平山郁夫の生地、広島県瀬戸田町にできた平山郁夫美術館の開館を記念して行われた特別展(97年)を大幅に上回る本格的なもので、初期の作品から最近の院展出展作まで代表作のほとんどが展示されている。で、この先しばらくは、平山郁夫の絵は小休止になりそう。
作品は4つのテーマでくくられている。1章 仏陀への憧憬、2章 玄奘三蔵の道と仏教東漸、3章 シルクロード、4章平和への祈り。1章で気に入っているのは“建立金剛心図”(東近美)と“祇園精舎”(足立美)。釈迦が悟りを開く場面や弟子たちへ説法するところが荘厳な趣で描かれている。まわりの深い緑から漏れ出す金色の光が真ん中にいる釈迦に一際眩しくあたっているのが印象深い。
2章、3章では中国やシルクロードへの旅行心をかきたてる絵が沢山でてくる。大きな画面なので、少し離れてみると一瞬その壮大な光景を現地で見ているような錯覚を覚える。これが平山郁夫の絵の魅力。10年ぶりの“敦煌鳴沙”(拙ブログ05/6/20)・“敦煌三危”を前にすると、なんとしても敦煌へ行かなくてはと気がはやる。
上の“絲綢之路天空”(ししゅうのみちてんくう)はNHK特集“シルクロード”の映像とイメージがダブってくる。右から左へと進むラクダの列とその影がシルクロードの情景にぴったり。絵の力というのはすごいもので、まだみてもいないシルクロードの光景が頭のなかではもう出来上がっている。実際、現地に行ってみて、“絵とは違う!”なんてことにならなければいいのだが。
4章にあるのは“平和の祈りーサラエボ戦跡”を除き、全部日本の風景を描いた作品。広島県立美術館で何度も見、そのつど心を痛めた“広島生変図”がある。下は夜の厳島神社を描いた“月華厳島”。この絵にぞっこんなのである。日本の風景を描いたいい絵がほかにも沢山あるが、これがいちばんの傑作だと思っている。
画家にはパーソナルカラーがある。例えば、グレコの緑、ゴッホの黄色、マチス・奥田元宋の赤、東山魁夷の青など。平山郁夫の場合、緑が多く、青一本ではないが、“平山郁夫の青”も“東山魁夷の青”同様、すごく惹きつけられる。この絵は深い青と釣り灯龍の金色のコントラストが声を失うくらい美しい。また、“ブダガヤの大塔”、“ナーランダの月 インド”、“楼蘭遺跡を行く(月)”(10/10~10/21の展示)も青と金色にぐっとくる。
久しぶりに、平山郁夫の絵画を堪能した。
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コメント
企画展示いかれましたか、なかなかよかったですね。
平山の絵にも基調となる色がはっきりしていますね、シルクロードですから黄色が多いのは当然として「ポタラ宮」の目にも鮮やかな「白」、「広島生変図」や「ペルセポリス炎上」の「赤」、あとはおっしゃられる「青」もいいですね、図録のシルクロードのところを見ていても案外「青」を基調とした作品が多いことに気づかされました。
投稿: oki | 2007.09.14 00:20
to okiさん
大きな画面で現地にいるように思える絵、
青とアクセントに使われた金色が美しい絵、
やはり平山郁夫は大きな画画です。
投稿: いづつや | 2007.09.14 07:19
平山郁夫は政治家としての能力はあるが
画家としての才能はなかった。神様は見ておられる。
平山を日本人の画家の列に加えることは
日本画の歴史を汚し、美の先達に非礼な行為だと思う。
投稿: だるま亀 | 2007.09.17 00:17
to だるま亀さん
はじめまして。せっかくコメントをいただいたのに、
平山郁夫にネガティブな評価で残念です。
画家については、美術団体とか美術商、コレクター、
美術史家のネットワークなど作品以外の情報には
関心ありませんから、平山郁夫の政治力には興味
がありませんし、どれくらの力があるのか知りません。
日本画を長年観ておりますが、政治力で人気を保て
るほど、絵画の世界は甘くありません。平山郁夫の
絵力がアベレージ以下というのは極端すぎますね。
好き嫌いと作品自体の出来栄えを混同されないほう
がよろしいのでは。
ビジネスの世界でブランド力をうんぬんするとき、
一番売れている商品やサービスがブランド品という
言い方があります。また、絵の値段はその時々の需給
関係で決まりますから、横山大観や平山郁夫の絵が
高いというのは、二人の絵を求めるファンが現実に多い
ということです。
そういう人は絵がわかってない素人ファンだとおっしゃ
りたいのでしょうが、それは美術愛好家に対して大変
失礼な言い方です。平安時代の鳥獣戯画や源氏物語
絵巻から絵画のDNAを受け継いでいる日本人は世界
中で一番絵が好きな民族なのですから。
絵の値段が高いのは絵の価値が他の巨匠たちと較べ
て頭抜けているとか、世界的なレベルとかということで
ありません。そんなことは、よくわかってます。ですが、
平山郁夫を二流の画家にしか評価できないのでしたら、
日本画を見るのはすぐお止めになることをおすすめし
ます。
投稿: いづつや | 2007.09.21 10:52
平山氏の絵画を見ていつも思う事、
「日本画(の手法)じゃない方がより良いんじゃないのかな?」
宝石レベルの顔料をふんだんに使用しているので、確かに色はきれいです。…が、日本画はそういうものではなく、繊細に顔料やその粒度をコントロールし、かつ線を詩的に描くものだと思うのです。
静けさや凛とした強さがほしいのですが、平山氏の作品はおっとり&ほわっとしてる。
もし自分が平山氏のような画風だった場合、リキテックスを使うでしょうね。
自由が利くし、色を面で扱うスタイルなら西洋画材系の新素材がベストだと思います。
ありもののリキテックスで足りなければ、一部にメディウムに混ぜた顔料を使う。そんな感じでしょうか。
ちなみに平山氏の作品に好きなものももちろんありますし、一流の画家だと思います。
でもほんと、、、日本画である必要があるんですかね?
投稿: 鶴 | 2008.08.21 03:17
to 鶴さん
平山郁夫に限らず、明治以降の日本画は日本画
らしいのもあれば、これが日本画というものあり
ますから、そのへんは気にしないで楽しんでます。
画家が表現したいものをどんな顔料で描くかは
色とか質感に対するこだわりよって決まるのでは
ないでしょうか。
投稿: いづつや | 2008.08.21 11:07