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2007.09.22

美麗 院政期の絵画展 その二

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“美麗 院政期の絵画展”で感心したことがある。それは料金。後期を見る際、前期の
1000円の半券を出すと500円で入場できる。この料金システムを知ってもらうため、大きめの表示板をつくっているので、こちらも半券は失くさないようにしっかりとっておこうという気になる。多くの美術ファンに傑作を観てもらおうという姿勢が料金設定にも現れており、美術館に対する好感度がます。

半券をみせても100円しか割り引いてくれない東京のサントリー美などとはエライ違い。また、図録の値段が1500円と安いのもいい。図録代を含むトータルの支出が
3000円というのは大変有難い。鑑賞コストは安く、展示品の質は超一級。理想的な展覧会である。いくら感謝してもしきれない。

この特別展に駆り立てた一番の作品は上の“釈迦金棺出現図”(国宝、後期展示、京博)。95年の“日本仏教美術名宝展”で見逃して以来、12年かかってやっと願いが叶えられた。この間、この絵を見る機会は数回あったが、どういうわけか縁が無かった。

大規模な仏教絵画の展覧会があるとき、展示される定番の傑作が3点ある。前期にでた“仏涅槃図”(金剛峯寺)、上の絵、そして“阿弥陀聖衆来迎図”(有志八幡講十八箇院、拙ブログ05/8/25)。いずれも国宝。“釈迦金棺出現図”は大画面の絵で、制作された時期は1086年の“仏涅槃図”よりすこし後らしい。釈迦の臨終に間に合わなかった母、麻耶夫人(まやぶにん)のために、釈迦が神通力を使って復活し、説法する場面が描かれている。

大きな金棺より上体をおこした釈迦が放射状の円光背を負い、右下でひざまずく顔の大きい麻耶夫人のほうへ体を傾けている。涅槃図には必ず釈迦の遺品、衣、鉢、錫杖(しゃくじょう)が描かれるが、仏鉢は沙羅双樹に掛けられ、衣は金棺の前の机に、そして錫杖は麻耶夫人がしっかり持つ。釈迦を取り囲んでいる会衆(参集者、菩薩、仏弟子、俗人、女人、八部衆、動物など)は目をかっと開いてこの奇跡をみている様子がひしひしと伝わってくる。

画面全体が茶色で埋め尽くされているが、衣の赤、青、緑、白がまだよく残り、釈迦や麻耶夫人の着衣に施された精緻な截金文様にも惹き込まれる。釈迦の肉身が柔らかく感じられるのは絵絹の裏から白を塗り(裏彩色)、表から白と黄色を塗っているから。

絵巻物は過去何度も観ている作品が多いが、見てて楽しくなる傑作ぞろいなのでとても気分がいい。そのなかでお気に入りは“華厳宗祖師絵伝”(全期間、高山寺、06/6/12)。善妙が変身した巨龍が義湘の乗る船を支えて大海原をざんぶりこ々進む場面は波の描写がすばらしく、おもわず見入ってしまう。このほかにも、物語の展開が面白い“信貴山縁起絵巻”、“伴大納言絵巻(上巻)”、“粉河寺縁起絵巻”があるのだから、仔細にみると時間がいくらあっても足りない。

そして、美しい装飾経として評価の高い“平家納経”(厳島神社)や“扇面法華経冊子”(四天王寺)が目を楽しませてくれる。下は“平家納経”の“厳王品”の見返。経文から射してくる光に向かい、二人の女房が合掌している。銀地に散らされた赤や黄色、青の蓮花、汀に遊ぶ鷺、扇子は現代にも充分通用するほどモダンなデザイン。平安時代に生きた人々の豊かな感性にただただ感服するばかり。

日本美術の真髄がぎゅっと詰まった院政期の絵画。一生の思い出になる展覧会であった。

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コメント

再びこんばんは。
こんなに凄い展覧会なのに入場料千円で図録1500円は、
美術界の価格破壊と言って良いですよね。
奈良博は良心の塊です。
絵巻物も中途半端な見せ方でないのが良かった。
今まで割と苦手にしてましたが、今回の展覧会でその面白さが分かってきました。
華厳宗祖師絵伝は私のような初心者にも分かりやすいお話で大好きになりました。

投稿: meme | 2007.09.23 18:52

to memeさん
1500円の図録をつくってくれるのですから
奈良博には本当に頭がさがります。

絵巻をどっとみせてくれるのが良かったですね。
“信貴山縁起絵巻・尼公巻”、“伴大納言・
上巻”、“粉河寺縁起”、“華厳五十五所”、
“華厳宗祖師絵伝”を最初から最後までじっく
り楽しみました。

“華厳宗祖師絵伝”は後期にハイライトである
龍の場面がでてきてよかったですね。私は今回
で2度目なのですが、この場面にぞっこんなの
です。あかるい色調、人物を大きく描いていること、
波の動感表現に魅了されます。

投稿: いづつや | 2007.09.23 23:28

こんばんは
TBありがとうございました。
この展覧会は本当によかったです。
これまで避けてたものを、この展覧会以降は愛せそうです。
あの図録、友の会のおかげで更に1割引になり嬉しい限りでした。
いづつやさんも大いに喜ばれたようで、読む私も嬉しかったです。

投稿: 遊行七恵 | 2007.09.24 00:10

ほんとうに時間がいくらあっても、足りない展覧会
でした。
平家納経とか扇面法華経とか、初めてみるものも
多く、大変嬉しかったです。
12年越しの念願かなっておめでとうございます。
私なんぞ、一回り前のことなんて、すっかり忘れて
いますが、見たいと思ったものをきちんと整理されて
いるいづつやさんには、敬服いたします。

投稿: 一村雨 | 2007.09.24 08:26

to 遊行七恵さん
仏画を避けておられたとは意外な感じがします。
古い遺品ですから、色がうすくなっているの
が多いですが、国宝の仏画ではすばらしい截金
文様や豊かな色彩がみれますから、気分がハイ
になりますね。

待望の“釈迦金棺出現図”を荘厳な心持で眺めて
いました。なにか一仕事したような感じです。

投稿: いづつや | 2007.09.24 15:38

to 一村雨さん
傑作がたくさんあり、アドレナリンが全開で
でているという感じでしたね。これだけの
作品が集まるのは10年以上先でしょう。
お目当ての仏画や六道絵が見れましたから、
最高の気分です。

投稿: いづつや | 2007.09.24 16:15

いいブログですね。

これから少しずつ読むのが楽しみです。

投稿: Yoji | 2007.10.09 03:43

to Yojiさん
はじめまして。書き込み有難うございます。
文章は忘れていただいて、画像を中心にお楽
しみいただければと思います。これからも
よろしくお願いします。

投稿: いづつや | 2007.10.09 16:30

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