上野美術スポットあれこれ
東京における美術鑑賞は上野と六本木にある美術館巡りが圧倒的に多い。
とくに上野は毎週行っている感じなので定期券が欲しいくらいである。
上野公園の周辺には東博、国立西洋美、東京都美、東芸大美、上野の森美、国立科学博物館の5つの美術館がある。
このうち国立科学博は“インカ・マヤ・アステカ展”で一回行っただけでなので、まだ館に慣れてないが、ほかの美術館については展示室のレイアウト、導線はもとより、コインロッカー、トイレ、ミュージアムショップのある場所まできっちり頭の中に入っている。鑑賞していて一番疲れるのが東京都美。階段をいつも2回あがることになる。広々とした鑑賞空間なのは東博。本館は平成館にくらべ建物自体が古いこともあり中はちょっと暗いが、今はすっかりこの照明に慣れ、頻繁に替わる作品を楽しんでいる。
美術館に対する愛着が強いか薄いかは建物への好みにもよるが、やはり展示の内容がいちばん影響する。東博のように充実している平常展を見るのも楽しみの一つだが、美術館の評価を決定づけるのが年数回実施される企画展。この企画展で競っているのが東博、東京都美、東芸大美。
東博は“中国国家博物館名品展”、右の“ダヴィンチ 受胎告知”、現在開催中の“京都五山展”。東京都美も強力なラインナップが続いている。“オルセー美展”、“国立ロシア美展”、現在の“トプカプ宮殿展”。そして10月10日からは待望の“フィラデルフィア美展”がはじまる。東芸大美は“パリへ 洋画家たち百年の夢展”と話題の“金刀比羅宮展”。
このなかでどうにも不可解なのが東博であったダヴィンチの“受胎告知”の特別展示。どうして、ダヴィンチの絵が西洋美で展示されないの?西洋絵画、しかもダビンチの傑作が日本・東洋美術の殿堂である東博で公開されたというのは、どんな事情があったにせよ展覧会史上の珍事といっていい。この間、西洋美は“イタリア・ルネサンスの版画展”と“パルマ展”を寂しくやっていた。
ルネサンス美術の鑑賞はMyライフワークだから、“イタリア・ルネサンスの版画展”は出かけたが、“パルマ展”はパスした。理由は明白。今年元旦の展覧会プレビューにはパルマ展を入れていたのに、出来上がったチラシに載った作品がちっとも心を揺さぶらなかったから。こんなマニエリスムのイメージの強い作品は見る気がしない。肝心のパルミジャニーノ(拙ブログ06/5/8)に期待していた作品がなく、出品作の中では最も有名なコレッジョのあまりマニエリスムの匂いがしない“幼児キリストを礼拝する聖母”は昨年ウフィツィ美術館で鑑賞済みだから、迷うことなく出かけるのをやめた。
西洋美前の告知看板には目のまわりにくまができたあの不気味なマニエリスムの人物画が使われていたが、これを見るたびに一体どれだけの人がこの絵に心が和むだろうか?と思っていた。今はこの看板が視線に入らなくなり、ほっとしている。
この展覧会を企画した担当者はルネサンスとバロックの橋渡しをしたパルマ派に光を当てたいのだろうが、パルニジャニーノにしてもコレッジョにしても大半はマニエリスム絵画なのである。ヨーロッパの美術館でポントルモやサルト、フィオレンティーノらマニエリストの回顧展が開かれることはまずない。取り上げられるのはブロンツィーノ、パルミジャニーノだけ。03年、ウィーンの美術史美術館であったパルミジャニーノの回顧展には大勢の人がいたし、見てて気持ちのいい作品がかなりあった。で、この画家のファンになったのだが、ラファエロと較べてどっちが好きかと問われれば、それはラファエロに決まっている。
西洋美の企画力はずばり言って評価していない。今なら東京都美やモネの大回顧展をやったり、9月26日からフェルメールの傑作“牛乳を注ぐ女”を展示する国立新美のほうが断然上。04年の“マティス展”、05年の“ラ・トゥール展”、“ドレスデン美展”はすばらしかったが、昨年(ガッカリさせられたベルギー王立美展については06/9/29、10/8)、今年はパットせず期待値を大きく下回っている。誰をも唸らせた04年、05年の頃とはエライ変わりよう。ダヴィンチの受胎告知をもってこれないのは西洋美の現在の実力を反映しているのだろう。
それは学芸員はいい作品を持ってきたつもりだろうが、啓蒙意識が出すぎで、観客が本当に楽しめる作品がわかっていないからではないか。絵としては一番価値の高いコレッジョの名画“幼児キリストを礼拝する聖母”をチラシに載せないのはその表れかもしれない。こんないい絵をチラシに載せないですませる感覚がそもそもずれている。
美術館へ行くのは美術史を勉強するためではなく、絵画そのものを楽しむため。本場ヨーロッパの美術館や欧米の一流美術史家が関心を示さないパルマ派(=マニエリスム)をみせられても、作品自体がバランスのくずれた作風なのだから、多くの美術ファンにアピールするはずがない。
美術史の専門家や通の人に受ける展覧会ばかりやっているとそのうち、一般の西洋絵画ファンは西洋美に行かなくなり(今でもそうだが)、東京都美や六本木に向かうようになるのでは。ホームランを期待されている西洋美が2塁打を打ったぐらいでは誰も満足しないことをわかって欲しい。
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コメント
西洋美術館は僕にはラ・トゥールがなんともお粗末でした。
展示会場が余るから資料室作って、そこで見られる文献はみな日本語のものだけ!
外国語ができる人もいっぱいいるのですから、英独仏の研究文献も置いてくれよというー。
上野と離れますが近代美術館も何を考えているのか外国の作品を持ってきてRIMPAという。
本物の出光の琳派の展覧会カタログで暗に近代美術館の企画を批判した論考がありましたがもっともでした。
そんな僕は明日は平山郁夫に行く予定/笑。
投稿: oki | 2007.09.07 00:42
受胎告知が東博で展示されたのは、貸し出す側が指定してきたようですよ、東博を。
西洋美の版画コレクションはいいのが揃ってるですけどもねぇ。。。
投稿: 井上 | 2007.09.07 09:32
to okiさん
ラ・トゥール展はフランスの美術史家と組んで
開催した世界的な展覧会だったのですが、資料
室がダメでしたか。ここはみませんでした。
RINPAに展示されたマチスやボナールは確か
に?でした。これはいろいろ言われてましたね。
企画する人はあたらしい琳派展をやりたいです
から、自分の思いついたイメージで作品を並べた
いのでしょうが、成功半分、リスク半分ですね。
投稿: いづつや | 2007.09.07 11:36
to 井上さん
はじめまして。書き込み有難うございます。
受胎告知の東博展示はイタリアサイドの指定
ですか!展示会場、セキュリティともに西洋
美でなんら問題ないのに、はずされるという
ことは西洋美は評価されてないということで
すね。
西洋美の財政状況とか館長や学芸員の折衝力、
コミュニケーション力の弱さなど、館自体の
運営力が相当低下しているのではないでしょ
うか。
情報有難うございました。これからもよろしく
お願いします。また、気軽にお越し下さい。
投稿: いづつや | 2007.09.07 11:58
はじめまして、えいぜとと申します
上野の美術館めぐり、よくなさっているのですね
なかなか参考になります、ありがとうございます
個人的には
コレクション展が充実している美術館が好きなので
そういう意味では、近美、西美、都現美がベスト3なのですが
企画展に関しては、おっしゃるとおりかもしれません
受胎告知に関しては
モナ・リザの先例や
国宝を管理しているという点が
外国には評価が高いのかもしれませんね
僕もイタリアからの指定という話
そういう点で納得しました
秋にはムンクがきます
久々にちょっと期待してます
失礼いたしました
投稿: えいぜと | 2007.09.07 12:55
to えいぜとさん
はじめまして。書き込み有難うございます。
東近美は平常展で所蔵のコレクションを楽し
んでいますが、西洋美、都現美にはほとんど
行きません。
超傑作を展示するときはやはり東博にしよう
ということになるのでしょうね。大行列もなん
とかさばけますし。そういえば、02年にあっ
た“大レンブラント展”も京博でしたね。
ムンクに期待してますが、来年あたり、“ゴー
ギャン”とか“マネ”とか“ピエロ・デッラ・
フランチェスカ”なんかを開催してくれると
評価を上げてもいいのですが、いまのままでは
心は東京都美と国立新美に移ったままです。
これからもよろしくお願いします。また、気軽
にお越し下さい。
投稿: いづつや | 2007.09.07 21:57