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2007.08.23

文正の鳴鶴図 VS 雪舟の秋冬山水図

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展覧会へ何度も足を運んでいると時々、“あの絵はこれを参考にしたのではないか!”と直感する絵に遭遇することがある。

そんなエポック的な鑑賞体験のひとつが現在、東博で開催中の“京都五山 禅の文化展”に展示されている上の文正作、“鳴鶴図”(重文、中国・明代、相国寺蔵、展示は8/26まで)。2年前、根津美術館で開かれた“明代絵画と雪舟展”でこの絵と対面したときは心の中に小さな衝撃が広がった。

これは2つのある掛け軸の右のほうで、左の画面中央には上方の月を振り返るように立つ一羽の鶴が描かれている。この絵でハットしたのが大きく広げた鶴の羽と背景の描き方。そして、即、思い浮かべたのが若冲の花鳥画と雪舟の“秋冬山水図の冬景”(真ん中の画像)。若冲はこの絵をみたのではないかと直感的に思ったのだが、はたしてこれをもとに“白鶴図”を描いていた(拙ブログ06/8/18)。

羽の白の描写がとても似ていたことにびっくりしたが、それ以上になにか大きな発見をしたような気分になったのが鶴の後ろの背景。左下のくぼんでいるところに水が流れ込み、波頭が沢山描かれている。そのむこうには流水の曲面とは対照的な墨の濃淡で表された角ばった岩がみえる。不思議に思えてしょうがないのがその流水と岩が接するところ。

下の部分が立体的になっている水の流れの面が上にのびる濃い墨線で縁どられ、そのむこうの岩のある面とは劇場の緞帳が重なっているみたいに段差があるようにみえる。この二つの空間をぎこちなくつなげた感じが雪舟の“秋冬山水図”の真ん中にみられる垂直にのびた太い線とオーバーラップするのである。雪舟のこの傑作をみるたびに、“あの垂直線で仕切られた左右の空間のくっつけ方は一体何なのだ?!ピカソのコラージュみたいな感じだな、この時代にどうして現代アートにも通じる表現ができたのか?”と頭の中は疑問符が解消されないままだった。

が、そのもやもやは文正の“鳴鶴図”をみて一気に晴れた。雪舟は美術評論家が得意げにいう抽象画家でもなんでもない!留学した中国や日本で修行した相国寺で接したであろう“鳴鶴図”などの中国絵画の描き方を参考にして、この垂直線を引いたにちがいない。このように一つ々独立した面を不自然に重ねて、少し立体感のある絵画空間をつくる中国の絵は“鳴鶴図”だけでなく、根津美の展覧会に何点かでていた。また、これと似た描き方が若冲の花鳥画にもみられる。雪舟にしても、若冲にしても中国の山水画や花鳥画から大きな影響を受けているのである。

下は美術史家の山下祐二氏が、高階秀爾氏や画家の平山郁夫らが編集者になって出版した画集“二枚の絵”(毎日新聞社、00年5月)で、“秋冬山水図”とペアリングしたモンドリアンの“木々のある風景”(部分、ハーグ市立美術館)。山下氏は雪舟の垂直線でくっつけた空間とモンドリアンの垂直線と水平線で区切られた抽象的な空間を結びつけたいのである。“自分は水墨山水画の専門家だけど現代アートも強いのよ!”とアピールしたいのかもしれないが、受けのいい見方を披露する前に、中国絵画もよく観ておいてねと言いたくなる。

横道にそれるが、山下氏は雪村の展覧会を企画したり、白隠の絵を森美術館の“日本美術が笑う”で沢山展示するなどいい仕事をされている。だから、大変ありがたい美術史家。が、最近首を突っ込んでいる若冲の“鳥獣花木図屏風”(プライスコレクション)では、“もっと知りたい伊藤若冲”(東京美術)の著者、佐藤康宏氏が指摘されている通り、これが素人にも稚拙な模倣作とわかるのに、“真作”と言い張るのだから残念!これでは太鼓持ち美術史家。

素人美術愛好家の強みは作品を自由に鑑賞できること。絵画を素直にみて、楽しめばいい。美術評論家の言葉で頭の中をいっぱいにするくらいつまらないことはない。

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コメント

いづつやさん、こんばんは。
今回の記事、興味深く拝読しました。
やはり、中国の絵師を先生としてきたことが、
日本芸術の基盤となってきたのですね。
東博の東洋館を見ると
尊敬し憧れ続けてきた中国が見えてきます。
山下先生のことは、とても面白い美術史家で、
ご贔屓なのですが、若冲の“鳥獣花木図屏風”については、
いづつやさんに同感です。
雪舟のコラージュみたいな、と言うところは、
なるほど!でした。
まだまだ初心者で、知らないことだらけですが、
自由な鑑賞ができることを幸せに思います。
また、色々教えて頂きました。

投稿: あべまつ | 2007.08.24 21:50

to あべまつさん
今回の話は2年前、“鳴鶴図”と出会って以来、
いつかブログに書こうと思ってました。

00年に購入した“二枚の絵”で山下さんの分析
を読んだときはすこしだけ同調してました。ですが、
この絵と2年前に遭遇したとき、日本の美術史家
は実証研究をやっていないことがわかりました。
蛸壺の知識と感覚的な評論ですから世界のレベル
からみるととても一流とはいえません。

それと較べると、海外の第一線の美術史家が書いた
岩波の“世界の美術”などは画家が影響を受けた
先行作品などをよく調べてますから、すごく説得的
です。もう5、6冊読んでいるのですが、最近読み終
えた“ゴヤ”は大変面白かったです。

私は画家の代表作を7割見るまではその画家のモノ
グラフは読まず、作品だけを見続けてますから、
よく似た絵には敏感なのです。絵画でも、やきもの
でも作品は先入観とか予備知識をあまりいれずに
幅広くたくさん見るのが一番ですね。“見て知りそ、
知りてな見そ!”(柳宗悦の言葉)を20年前から続け
てます。

そうしているうちに文化記号の響き合いに気づくの
ではないかと思っているのです。その一例が2年前に
感じた“鳴鶴図”の奇妙な線と“秋冬山水図”のあの
垂直線のコラボです。

投稿: いづつや | 2007.08.25 00:50

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