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2007.07.19

三井記念美術館の旅展

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三井記念美術館で開催されている“美術の遊びとこころ 旅展”(7/14~9/30)は思った以上に楽しい展覧会だった。副題はー国宝“一遍聖絵”から参詣図・名所絵、西行・芭蕉の旅までー。このように“旅”をキーワードにすると、小さな印籠から日記、参詣曼荼羅、横長の屏風絵、浮世絵風景画などいろいろな美術品が結集する。

嬉しいのは名所絵。サントリー美術館の“水と生きる展”に展示されている作品とここにあるものを同時にみると、一気に日本にある名所絵の通になれること請け合いである。サントリー美の屏風“厳島天橋立図”、“厳島三保松原図”、“四天王寺住吉大社図”、“近江名所図”に対して、ここでは前期7/14~8/18に、“富士曼荼羅図”(重文)、“天橋立・富士三保松原図”、“松島図”、後期8/23~9/30に“一遍聖絵 富士の霊峰”、“熊野那智参詣曼荼羅”、“伊勢参詣曼荼羅”、“厳島・鞍馬図”が見られる。

チラシをみて喜んだのが上の“富士曼荼羅図”(部分、伝狩野元信筆、富士山本宮浅間大社蔵)。この絵は昨年、静岡県美の展覧会に出たが、日程が合わず見る機会を逸したのに、幸運にもリカバリーできた。期待にたがわぬ見ごたえのある絵で、元信の手が入っているというだけあって、人物や浅間神社などの描写はかなり上手。

上は富士山の入った上半分。頂上をめざし松明をもってジグザグ登っていく参詣者の一生懸命さがひしひしと伝わってくる。単眼鏡でみていると、なんだか自分も一緒に登っているような気分になる。山頂には三体の仏像がみえ、山の左右には紫雲、瑞雲に囲まれるように日・月が描かれている。この絵で眼中を支配するのが水平方向にたなびくうす青の“すやり霞”。“すやり”は素槍で、まっすぐな槍のこと。下の田子の浦から上の富士山まですやり霞を積み重ねることで、山頂までの距離感や空間の奥行きを表わしている。

“一遍聖絵”には縁があり、今回で五度目。京博でいちど全巻じっくり見て、この絵のすばらしさが体のなかにしみこんでいるので、目をこらしてみた。後期の楽しみは“富士の霊峰”。今回はお目当ての“富士曼荼羅図”のほかにあとふたつ楽しい絵があった。下の英一蝶の“大井川渡し図”(個人)と歌川広重の“東海道五十三次細見図会”(神奈川県立歴史博物館蔵)。こんな思わずほほが緩むような絵と遭遇できたのが嬉しくてたまらない。

“大井川渡し図”では、右の場面が笑わせる。二人の人足に担がれた武士の足の裏を刀を持っている男がくすぐっている。こういうときにしか武士にわるふざけ出来ないから、人足はさぞかし面白いだろう。よくある光景を切り取ってみせる英一蝶の絵心に脱帽である。

広重のこの道中絵ははじめてみた。手前にクローズアップした人物を5、6人配置し、背景に宿場の風景を描いている。全部で10図あるらしく、今回6点展示される(2点ずつ3回にわけて)。“日本橋”に登場する田舎から江戸見物にきたお上りさんの表情が実にいい。見てのお楽しみ。

この美術館の企画力の高さが遺憾なく発揮されたいい展覧会であった。

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コメント

明日かあさっていってきます。
ほかの方の感想を読むと若冲もあるとか!
千葉でも若冲やるし、なんか最近ものすごくブームになってますねー。

投稿: oki | 2007.07.20 01:32

行ってきました!
確かに大井川渡し図で足をくすぐっている場面ありました。
忘れかけていたのに、いづつや様の記事を読んで
思い出すことができました。

旅気分になる展覧会でした。

TBさせていただきます。

投稿: meme | 2007.07.20 21:23

to okiさん
若冲の拓本画は京博などでみましたから、新鮮度は
少し落ちます。千葉市美ははたして若冲を何点みせ
てくれるか?2,3点くらいかも。

泉屋博古館の“花鳥展”でも1点でますね。今年は
これで打ち止めでしょう。

投稿: いづつや | 2007.07.20 23:00

to memeさん
ここ数年追っかけている英一蝶ですが、サントリー
と三井が楽しませてくれます。この足をくすぐって
いるのを隣の方と笑いながら見ました。

ますます一蝶から目が離せません。8/1からサン
トリーの後期に展示される“田園風俗図屏風”に期待
してます。

“旅”や“水”は日本人好みのテーマですから、
行ってみようかという気持ちになりますね。そして、
出ている作品が期待値に応えてくれるのですから、
これはたまりません。

投稿: いづつや | 2007.07.20 23:13

いづつやさん、こんばんは
現在の浅間大社の社殿はこの曼荼羅絵とはかなり違いますが、こちらも重要文化財だったりします。
田子の浦や三保の松原まで同じ風景に入れてしまう(富士川も入っています!!)空間処理に驚きましたが、どこの場所がこの絵にとってのポイントかよく掴んでいると思いました。
「一遍聖絵」の場面換えもありますので、後期も行ってみたいと思っています。

投稿: アイレ | 2007.07.27 22:03

to アイレさん
昨年、静岡県美に展示された富士曼荼羅図を見逃し
たのは惜しかったなと思ってたのですが、幸運にも
三井にも出張してくれました。

ですから、この絵を見るためにでかけたようなもの
でしたが、プラスαがいくつもあり、楽しい鑑賞に
なりました。

後期の一遍聖絵は富士山ですね。広重の別の道中絵
を見るのも楽しみです。

投稿: いづつや | 2007.07.28 22:46

いづつやさん、はじめまして(ですよね)。
以前から拝見しているので初めてのようか気がしないものですから。いづつやさんの守備範囲の広さにいつも啓蒙されています。

この企画はいろいろな調理の仕方があると思いますが、そのあたりをいろいろと目先を変えていて思いのほか楽しめました。
大井川で武士に悪ふざけして、川を渡し終えたとたんに川に逃げたところが目に浮かぶようです。

投稿: キリル | 2007.07.29 15:47

to キリルさん
はじめまして。書き込み、TB有難うございます。
水や旅をキーワードにして、風俗画や風景、名所絵、
やきもの、工芸品を沢山みせてくれるサントリーと
三井の企画展は日本美術のエッセンスがぎっしり
つまってますね。

旅展は象徴的な美あり、大井川の絵のような自分も
一緒にふざけてみたくなるユーモラスな旅の絵
ありで、楽しみ満載ですね。

これからもよろしくお願いします。また、気軽に
おこしください。

投稿: いづつや | 2007.07.30 13:55

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