« ウィンブルドン フェデラーが5連覇! | トップページ | 大リーグオールスター戦、イチローMVP! »

2007.07.10

歌劇「トスカ」と囚人のジレンマ

920ウィンブルドンの決勝戦は勝負がつくまで時間がかかるので、最初の1、2セットはゲームとゲームの間、BS2の“3大テノールのガラコンサート”をみていた。

昔は“3大テノール”というと、パヴァロッティ、ドミンゴ、カレラスだったが、この日本の管弦楽団の演奏でオペラの名アリア(拙ブログ05/1/2)を歌っていた3人はあまり馴染みのない歌手だった。

テニスからこちらにスイッチしたとき、運よく聴けたのが“トスカ”(プッチーニ作曲)の三幕で歌われる“星は光りぬ”。これはアリアのなかでは最も好きな曲である。3人のうち年長の歌手が熱唱するこの名アリアを聴き、いつものようにいい気分になったが、今回は以前とはちょっと違ったことを頭のなかにえがきながら聴いていた。

そのちょっと違うことを述べる前に、“トスカ”のあらすじのことから。このオペラはかなり過激で、とくにラストは胸をかきむしられる。人気のオペラはハッピーエンドより、登場人物が死ぬといった悲劇的な終わり方が多いが、最後のシーンではこのトスカが一番衝撃的。美貌の歌姫、トスカがローマのサンタンジェロ城の胸壁から身を投げる場面で劇は終わり、幕が下りたあとしばらく重い空気につつまれる。

根っからの悪役、スカルピア(警視総監)に従うふりをして裏切ったトスカは恋人の画家、カヴァラドッシと幸せを手に入れるはずだったのに、逆に騙されて地獄に突き落とされる。この悲劇の文が織りなす息もつかせぬ緊張感と美しいアリアがこのオペラの最大の魅力である。

で、以前と違う思いでこのオペラの名アリアを聴いたというのはゲーム理論の“囚人のジレンマ”との関連を知っていたから。バラシュ著“ゲーム理論の愉しみ方”(河出書房新社、05年12月)のなかに、トスカとスカルピアの裏切り合いが“囚人のジレンマ”と同じ図式として出てくるのである。ゲーム理論の本にオペラの話しが登場するとは意外だったが、理論家アナトール・ラパポートがトスカに囚人のジレンマの要素があると最初に指摘していた。

ごく簡単に論点をまとめると。ワルの警視総監、スカルピア(左の画像の右)はトスカ(左)を自分の女にしようと、卑劣にもトスカに取引をもちかける。“自分の女になるなら、銃殺刑が決まっているお前の恋人カヴァラドッシを生かすため、銃殺隊に空砲を撃つように命じよう”。トスカには2つの選択肢がある。スカルピアに身をまかせるか、従うとみせかけて、すきをついて刺し殺すか。一方、スカルピアも腹黒く考えている。約束通り、銃殺隊に空砲を命じるか、それともトスカを裏切り、実弾を撃たせ、憎い恋敵を葬り去って、トスカを自分のものにするか。

ここで二人が選択したのは自分本位の裏切り。トスカは偽の処刑の後に、二人で国外に逃亡できるよう通行証を要求し、スカルピアがそれを書いている間に彼を刺し殺す。そして、処刑に引き出されたカヴァラドッシに段取りを説明し、うまく死んだふりをするように言い残して、物陰に隠れる。銃声が鳴り響き、倒れたカヴァラドッシに駆け寄ると、カヴァラドッシは演技でなく本当に血で染まっていた。

よく知られているように囚人のジレンマでは、共犯者二人はともに黙秘すれば1年の軽い刑ですむのに、“裏切って自白すると捜査に協力した返礼として無罪放免にしてやる。相棒は30年刑務所暮らし”と検察官から囁かれるとお互いに自白してしまう。結果、二人とも10年の刑をくらう。黙秘するか、自白するか厳しいジレンマに陥るが、悲しいことにここでは裏切りは最も合理的なのである。

トスカとスカルピアのゲームの場合、トスカにとって、最良の結末はスカルピアを裏切って殺し、恋人のカヴァラドッシが助かること。最悪はスカルピアの言いなりになったのに、恋人の命が奪われること。スカルピアにとって一番いいのは、トスカを奪い、カヴァラドッシが死んでくれることで、最悪の結末は自分が殺され、カヴァラドッシが生き残ること。で、二人とも裏切ることになる。あまり硬い話しになってもいけないから、この辺で。

|

« ウィンブルドン フェデラーが5連覇! | トップページ | 大リーグオールスター戦、イチローMVP! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/65878/15718540

この記事へのトラックバック一覧です: 歌劇「トスカ」と囚人のジレンマ:

« ウィンブルドン フェデラーが5連覇! | トップページ | 大リーグオールスター戦、イチローMVP! »