« 三井記念美術館の旅展 | トップページ | 静嘉堂文庫の青磁のきらめき展 »

2007.07.20

広重の江戸名所百景

938
939
広重の“江戸名所百景”は3年前、太田記念館で全点鑑賞したので(拙ブログ05/6/10)、大谷コレクションの公開も東芸大美所蔵のもパスするつもりだったが、“金刀比羅宮 書院の美”を見た際、ものにはついでということがあるから、地下2Fの会場を覗いてみた。だが、その日は全点みるエネルギーが残っておらず、最初の1、2点をみたところで電池切れ。で、ぐるっとパス券を使っての仕切り直しとなった。

10点くらい見て、この“江戸名所百景”の摺りは太田記念で見たのと何か違う感じ。東芸大が所蔵しているのだから、太田同様、初摺りと思っていたが、どうやら大半が後摺り。太田で見たときは、空の雲、青の水面、影などに微妙なぼかしがみられ、色調ももっとやわらかかった。ここのはぼかしが少なかったり、全く省略されているため、画面全体が平板な感じ。色は濃淡のバランスがしっくりこなかったり、赤が強すぎるのもいくつかある。

初摺りでないのは残念だが、全点はっきり覚えているわけではなく、また浮世絵の専門家ではないので、絵自体への興味が薄れるということはない。で、頭を切り換えて、目を奪う構図や意表をつく視点により描かれた江戸の名所、119点が描き方の違いやモティーフによりグルーピングできないかと思いをめぐらせてみた。

上はとても気に入っている“芝うらの風景”。この絵をみるといつも、日本三景の松島湾での島めぐり観光を思い出す。沢山のカモメが餌を食べに船に再接近してくる様子と芝うらの海の上をすいすいと飛んでいく可愛い海鳥がよく似ているのである。鳥が群れで飛翔するところは大体、遠景に小さく描かれることが多いが、このように比較的大きめに描かれ主役扱いで登場するのはこの絵と“逆井のわたし”の白鷺だけ。

下の“はねたのわたし弁天の社”はぎょっとする構図では一、二にあげられる絵。この名所絵は縦絵なので奥行きを表現するため、広重は手前のものを極端に大きく描いた。その大きさは半端じゃない。毛脛の船頭は両腕と足の一部だけが描かれ、顔や胴体は画面の外にはみ出している。こういう構図で描かれた絵はこれまでなかったから、これが販売されたときは皆びっくりしただろう。馬の臀部を度アップで描写した“四ツ谷内藤新宿”も対象の全体をみせないでぎょっとさせる絵。

これに対し、奇抜なフォルムや見る者を圧倒するほどの大きさを手前にドンとみせるのが“深川萬年橋”の亀、“深川洲崎十万坪”の鷲、“箕輪金杉三河しま”の鶴、“水道橋駿河台”の鯉のぼり、“上野山内月のまつ”。

人物描写でも姿を見せるのと隠すのがある。夜一人で歩く芸者を横向きに描いた“真乳山山谷堀夜景”や後ろ姿の女が右端にいる“鎧の渡し小網町”が姿ありタイプなら、“吾妻橋金龍山遠望”や“月の岬”は“ねえー、お美しいの、隠れてないで顔を見せてよー!”と思わずいいたくなる究極のチラリズム絵。

絵画としての完成度の高さではやはり、“大はしあたけの夕立”、“亀戸梅屋敷”、“亀戸天神境内”。ゴッホやモネがKOされたのがよくわかる。シリーズ揃物を全点見たときの感激度はバラと較べると二倍、三倍の大きさ。これからも“江戸名所百景”を愛していきたい。

|

« 三井記念美術館の旅展 | トップページ | 静嘉堂文庫の青磁のきらめき展 »

コメント

いづつやさん、こんばんは
この「名所江戸百景」は部分しか見たことがなかったので、全て見れたのは良かったです。
構図の面白さや対象物の捉え方など目を見張るものも多かったです。
私も「芝うらの風景」のかもめは可愛いなぁと思いつつ見ていました。
それに今の東京との比較も脳内でできるところがいいですね。

投稿: アイレ | 2007.07.22 00:22

to アイレさん
今回は制作年代順に作品が展示されていたので、
名所の切り取り方がどう変化していくかがよくわか
りましたね。

この展示方法と、名所の詳しい説明の入った図録が
収穫でした。太田の図録は浮世絵と名所の写真がセット
になっているから、浮世絵自体が小さくおさまっているの
です。で、119点が単独で掲載されているの欲しかった
のです!

“芝うらの風景”は花鳥画をみているようですね。

投稿: いづつや | 2007.07.22 22:05

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 広重の江戸名所百景:

» 名所江戸百景のすべて [青色通信]
藝大コレクション展歌川広重《名所江戸百景》のすべて7月14日 東京藝術大学大学美術館(〜9月9日)  「東海道五十三次」で有名な浮世絵師・歌川広重の晩年の傑作「名所江戸百景」をまとめて見れる展覧会です。 「名所江戸百景」は初代・歌川広重による118枚と二代目に....... [続きを読む]

受信: 2007.07.21 23:16

« 三井記念美術館の旅展 | トップページ | 静嘉堂文庫の青磁のきらめき展 »