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2007.07.31

日展100年展 その二

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近代の日本画は官営の文展、日展(1949年から民営化)と岡倉天心の死を契機に横山大観らがつくった在野の団体、再興日本美術院が開催する院展の二つが軸になり展開してきた。

官営展覧会に対抗する院展というのが基本的な図式だが、100年という歴史の中では、文展系の画家が院展に誘われたり、別の団体をつくって脱退したり、また大観が文展に参加したりと色々紆余曲折する。だから、あの画家は院展系なのに文展にも出品していたの?!と奇異に感じることがあるかもしれない。

でも、これは作品を鑑賞する側からすれば、好都合。名の売れた画家のほとんどと会えるのだからたまらない。しかもその作品は展覧会で高い評価を受けたエポック的なものばかり。まさに一級の画才が生み出す名画の数々に酔いしれるという感じである。巨匠とよばれる画家で見られないのは速水御舟、川端龍子、横山操、奥村土牛、小倉遊亀、高山辰男、加山又造、平山郁夫くらい。

図録に載っている作品は一度見たものが多いが、それでも“ああー、これが国立新美に展示されないのは残念だな!”とため息のでるのがいくつかある。例えば、松岡映丘の“道成寺”、橋本関雪の“南国”、小野竹喬の“宿雪”(いずれも広島、富山)。

心をとらえて離さなかった絵をざっとあげると。上の村上華岳の“二月乃頃”、寺崎廣業の“高山清秋”、堂本印象の“訶梨帝母”、金島桂華の“蓮池”、横山大観の“皇大神宮図”、安田靫彦の“孫子勒姫兵”、下の中村岳陵の“残照”、池田遙邨の“稲掛け”。“二月乃頃”以外ははじめてお目にかかる作品。

寺崎、金島の絵にはこれまでさほど感激しなかったが今回は違った。秋田県立近代美術館は寺崎の地元だけあってすばらしい風景画を所蔵している。この絵が寺崎のベストワンかもしれない。見てのお楽しみ!金島は広島県の出身だから県立美でよくみたが、この“蓮池”にはびっくり仰天した。こんなに美しい蓮の絵を描いていたとは!

上の“二月乃頃”は大変気に入っている作品。田園風景をこういう俯瞰の構図で描いたのは村上華岳と川合玉堂。日本の農家における原風景をみるようである。中景の林をはさんで向こうがわに家、そして深い緑の木々が林立する山が画面上いっぱいに描かれている。

今回のお目当ては前から追っかけていた中村岳陵の“残照”(静岡県美)。期待通りのいい絵。この絵の前に立ったとき、瞬時に加山又造の“冬”(東近美)の画風を思い浮かべた。夕日で真っ赤に染まった空に精緻に描写された木の細い枝が加山の描く枝とよく似ているのである。

何といっても心をうつのが空の赤と黒い木の美しいコントラスト。ただの赤と黒の響きあいではなく、下のほうは黒でぼかし、空の上半分には金泥で雲を5つ描くといった巧みな色面構成。そして、黒の濃い大きな木の枝が画面からはみだすトリミング技法で表現されているため、じっと見ていると風景がデザイン的な模様にもみえてくる。念願の絵を静岡に行かずに見れたのは大変幸運であった。

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2007.07.30

日展100年展 その一

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国立新美術館の“日展100年展”は注目の展覧会。今年は日展の前身である文展(文部省美術展覧会)が1907年にはじまってから100年目にあたる。

こういう節目の年は美術館の学芸員は俄然忙しくなる。由緒ある文展、帝展、新文展、日展に過去出品され、評判をとった名画や名品をできるだけ多く集めてこなければならない。観る人が立ち尽くすような作品を集めてこその100年展。学芸員の腕の見せ所である。

総出品数は日本画、洋画、工芸、書から292点。100年の重みが目一杯感ぜられる質の高い作品のオンパレード。全部見れれば最高だが、そううまくはいかない。全国4つの会場全部に展示されるのは71点で、ほかは上手にばらされて展示される。
・国立新美術館:7/25~9/3 
・宮城県美術館:9/23~11/4 
・広島県立美術館:08/2/19~3/30 
・富山県立近代美術館:4/12~5/18 
これだけいい作品があると感想は2回にならざるをえない。まずは洋画と彫刻から。

文展は官展だから、洋画の場合、黒田清輝や藤島武二グループの作品が中心で、青木繁、萬鉄五郎、安井曽太郎といったビッグネームの絵はない。感激度の高いのが3点あった。再会した2点といつか見てみたいと思っていた1点。

久しぶりに見たのが大下藤次郎の水彩画の傑作、“穂高山の麓”(1907、東近美)。ここに描かれた上高地は一度行ったことがあるが、今のような暑い時期に見るにはうってつけの絵である。水彩画はとっつきやすく、こういう風景は簡単に描けそうな感じだが、緑をこれほど明るくすがすがしく表現できるのは水彩画の先駆者、木下ならではの才能であろう。

上の山下新太郎の“読書の後”(1908)は昨年8月、泉屋博古館分館で見て以来、ぞっこん参っている絵。もちろんMy好きな女性画に入っている。東近美の平常展でよくみる本を読む女性の後ろ姿を描いた“窓際”やブリジストン美にある“読書”もいいが、逆光があたり顔の白さが一段と美しく感じられるこの女性の魅力にはかなわない。

下の中村つねの“少女”(中村屋)と対面したのは大きな喜び。1914年(大正3)の文展で三等賞を受賞し、当時話題になったこの絵が出ているとは思ってもいなかった。モデルは中村つねが愛した新宿中村屋の創業者、相馬夫妻の娘俊子。

絵具をうすくつけた滑らかな筆致や赤が多いこと、そして大きな腕などはルノワールの絵を見ているようである。中村は俊子の裸婦像、“少女裸婦”(愛知県美)を描いているが、なかなか会えない。でも、ミューズが“少女”に続いて見せてくれるかもしれない。信じる者は救われる!

彫刻では、広島にいるとき県立美で何度も見た平櫛田中の“落葉”や富永朝堂の“五比賣命(いつひめのみこと)”を熱心に見た。

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2007.07.29

平塚市美術館の黒田清輝展

950現在、平塚市美術館で“黒田清輝展”(7/21~9/2)が開かれている。

チラシに使われている右の代表作“湖畔”(重文)は過去何回かみているが、回顧展に縁がなかった。

で、今回、まだ未見のも含めて主要な作品が結集するだろうと期待して美術館を目指した。ここへは一度山本丘人展で訪れたから、バスの乗り方はわかっている。

油彩は78点あり、よく知られている“湖畔”、“智・感・情”がある。でも、“読書”とか“婦人像(厨房)”などが見当たらない。展示されているのはどうやら東京文化財研究所が所蔵するものだけ。勝手に大回顧展と思ってしまった。これで代表作が全部載っている図録が手に入ると楽しみにしていたが、当てがはずれた。

近代日本洋画の父と呼ばれる黒田清輝の大ファンということではない。が、東博にある“読書”と“湖畔”はMy好きな絵に入れている。“読書”はいつも“日本人でもこれくらい上手く油絵が描けるのか!”と見入ってしまう。もし、ヨーロッパ人に誰が描いたのかをふせて見せると、皆が自分たちと同じヨーロッパ人が描いたと答えるのではなかろうか。これはどこからみても完璧にむこうの油絵である。

これに対し、“湖畔”は日本画の美人画でもないし、かといって“読書”のような油絵人物画とも違う。画面全体がうす塗りで淡い色調に仕上げられており、手前に大きく描かれた女性と背景の湖や山々がうまく溶け合っている。これを光を強くしてつやのある絵肌にすると、避暑地、箱根の雰囲気が出てこない。外人のように目鼻立ちの整った綺麗な女性が浴衣を着て、手に団扇をもって座っているだけで、なにか涼しさを感じることができる。心を打つ湖面の静けさと女性の気品に満ちた美しさがこの絵の最大の魅力。

収穫は木漏れ日が少女の顔や着物に白や黄色で描かれたルノワール風の人物画、“もるる日影”と“昼寝”と対面できたこと。黒田清輝が学んだ外光派は折衷様式だから、一般の受けはそれほど高くない。何事も旗色鮮明なほうがいい。湿潤な日本でこういう描き方が受け入れられるかどうかは別にして、黒田も時には印象派のように光と影を思いっきり表現したかったのかもしれない。

ほかに足がとまったのは“湖畔”のモデルでもある照子夫人を描いた“婦人肖像”、目つきが鋭い“少女・雪子十一歳”、“寺尾壽博士像”、“木村翁肖像”。この展覧会と東芸大美であった“日曜美術館30年展”(06年9月)、“パリへー洋画家たち百年の夢”(07年4月)で黒田清輝の代表作はほとんど目に入った。次の狙いは藤島武二の“チャチャラ”(ブリジストン)と“芳恵”。

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2007.07.28

夏の風物詩 カキ氷

949ここ二、三日暑い日が続く。目が覚め、体を動かすとすぐ汗が吹き出てくる感じである。

昔から汗が出るのはそんなに苦でなかったが、これだけ暑いとフーフーいいながらタオルを何度も使わざるをえない。

我が家では夏の時期、お客さんがあるとか、よほど暑い日にしかクーラーは使わず、もっぱら扇風機だけで暑さをしのいでいる。でも、今年は猛暑になる予感がするので、クーラーの稼動率が上がりそう。

昨日、民放の番組をみてたらカキ氷がでてきて、小さい頃夏休みは毎日カキ氷を食べていたことを思い出した。番組のタイトルは“外国人観光客 京都うまいものランキング”。街頭で実施したアンケートによると、京都うまいものベスト5は、1位湯豆腐 2位カキ氷、3位てんぷら、4位精進料理、5位とんかつ。

カキ氷が2番目の人気だとは予想外。外人観光客用のガイドブックにはこういう食べ物情報がこまめに載っているようだ。“食べ物の特徴、味、人気度、どこの店が有名など”。面白かったのは立ち食いの“ニシンそば”もちゃんと紹介されていたこと。湯豆腐や精進料理はヘルシーな食べ物だし、てんぷらは昔から日本料理の定番だからすぐ腹にストンと落ちるが、カキ氷ととんかつは“へえー、へえー”だった。

海外では豚はソテーのものはあるが、ころもをまぶして揚げるというのはない。ウイーン名物の揚げたてのさくさくした食感がたまらない“ヴィーナー・シュニッツェル”はとんかつほど厚くない。日本のとんかつは安くてご飯、味噌汁がついた定食になっているから、あまりお金をもってない学生や若者には腹が一杯になる“うまいもの”かもしれない。

カキ氷は氷を刃のついた小さな器械で“シャカ、シャカ”とスライス状に削っていく、つくるプロセスも興味をそそるらしい。ガラスの器にてんこ盛になったカキ氷にかけるシロップは真っ赤なイチゴ、黄色のレモンがもっともポピュラーだが、外人用のシロップは特別無い?から彼らも赤や黄色のカキ氷を夢中になって食べている。カキ氷は日本の夏の風物詩だから、外国人にとって日本観光のいい思い出になるにちがいない。

食べるカキ氷の種類は年齢があがるにつれて段々グレードアップする。幼稚園、小学校のころは大体イチゴかレモン、6年生くらいから砂糖水のシロップにあがり(値段が少し高い)、中学生になると金時とか練乳のかかったミルク金時、宇治金時といった高級品を口にするようになる。この練乳がたっぷりかかったミルク金時を食べたときの嬉しさは、もし“人生における食の感激ベスト10は何?”と聞かれたら確実にこの中にランクインするくらい大きかった。もう何十年もこの味は味わってないが。

鹿児島へ旅行したとき食べた“白くま”というのも美味しい。これはカキ氷の最高ブランドかもしれない。アズキあり、練乳ありにくわえ、ミカン、パイナップルなどの果物がどっさり盛られている。まさにスイーツ感覚のカキ氷。何気なしに見たTV番組からカキ氷の話しになった。カキ氷を一回食べたからといって体重がアップすることはない。左の写真のような宇治金時に決めた。

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2007.07.27

横浜そごうのキスリング展

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エコール・ド・パリ派の画家で展覧会がよく開かれるのはなんといってもシャガール。断トツに多い。これに較べるとキスリング(1891~1953)の回顧展はお目にかかったことがないから、昨日から横浜そごうではじまった“キスリング展”(8/26まで)は興味深々といったところ。

今回の作品62点はスイスのジュネーブにあるプティ・パレ美術館のコレクションが中心になっている。関心の的はどのあたりからあのキスリング独特の女性像になるのかという点。初期の作品はぱっとみるとセザンヌ風の静物画や風景画が多い。マチスの香りのする“赤い長椅子に横たわる裸婦”もある。

キスリングの作風というと、花びらを赤や黄色などで輝くばかりに描き、絵肌がつるつるした花の絵と女性画をすぐ思い浮かべるが、心が傾くのは女性画のほう。今回衣装姿の女性が14点、裸婦図が5点ある。このなかでお気に入りは上の“赤いセーターと青いスカーフを纏ったモンパルナスのキキ”と下の“スウェーデンの少女、イングリッド”。

イングリッドの目はあまり大きくないが、キキをはじめキスリングの描く女性の目は大きいのが特徴。肌の白い人は赤の服が似合うというが、モンパルナスに集まる画家たちに愛されたモデル、キキはこの絵に描かれたように色白の女だったのだろう。短くカットされた前髪、白い顔と首は透明感があり、つるつるしたマチエールだが、青いスカーフの模様や赤のセーターの色調はうすい感じ。

キキの背中の真ん中が丁度壁の角になっており、うすグレーと影のできたこげ茶色の色面が奥行きのある空間をつくり、キキの姿を引き立てている。図録で長いこと眺めていた“モンマルトルのキキ”に会えて最高の気分。早速My好きな女性画へ登録した。

下の“イングリッド”もすばらしい絵。金髪の質感と大きな白い襟と袖に釘付けになった。そしてこの絵の白以上に圧倒されるのが高さ1.9mもある大きな絵、“女優エディット・メラの肖像”。細かな刺繍模様のはいった見事な白の衣装に身を包んだ女優の顔はちょっと黒柳徹子に似ている。

そして、どうやってこんな名画を手に入れたのかとびっくりするのが大阪市立近代美術館準備室蔵の“オランダ娘”。見てのお楽しみ。また、女性ではないが、大変魅せられるのが女の子と見まがう“ブロンドの少年”。寂しげに遠くをみつめる瞳が心を揺すぶる。

25年前、ジュネーブに住んでいた頃はまだ絵画に現在のようにのめり込んでいなかったから、プティ・パレ美術館に足を運ぶことがなかった。ここにある一級のキスリングコレクションと対面できたのは一生の思い出である。

なお、この展覧会はこのあと次の美術館を巡回する。
・北九州市立美術館:9/1~10/8
・府中市美術館:10/13~11/18
・名古屋松坂屋美術館:11/23~12/24

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2007.07.26

もっと知りたいスペイン! その三 スペインのアメリカ大陸征服

946大規模な“インカ マヤ アステカ展”をみると、どうしてもアステカ、インカを滅ぼしたスペイン人たちのことを整理してみたくなる。

で、“もっと知りたいスペイン!”の三回目はスペインのアメリカ大陸征服について。

歴史好きなので、基本となる歴史書はできるだけ読むことにしているが、新世界発見の本としては岩波文庫の“コロンブス航海誌”と“インディアスの破壊についての簡潔な報告”(ラス・カサス著)が一番役に立つ。今回、カサスの本のなかの、コルテス、ピサロがアステカ、インカを滅ぼすくだりを読み直してみた。NHKスペシャル“失われた文明 マヤ・インカ”(3回)はインカを2回特集していたので、インカの滅亡について少しふれてみたい。

インカ帝国を滅ぼしたのがあの札付きの無法者フランシスコ・ピサロ(1475~
1537)。パナマを拠点にして、ピサロは1524年、1526年、1531年と3回南米北岸を探検している。目的は黄金を手に入れるためである。1531年のころ、インカ帝国内はヨーロッパから伝わった天然痘で亡くなった皇帝の後継者をめぐって二人の息子が争うという内乱状態にあった。これは侵略をもくろむピサロにとっては願っても無い好機。

1532年11月16日、内乱に勝利し、8万のインカ兵に守られたアタワルパは友好を表明したピサロのスペイン軍(歩兵110、騎兵67)と広場で会見する。スキをみせてはならないゴロツキに会ったのが運の尽き。輿に乗ったアタワルパはすぐに捕まえられ、30分の戦闘で2000人が虐殺される。

カサスは“インディオたちは剣がどれほど鋭利なものか、槍がどれほど大勢の人を傷つけるのか、馬がどれほど速く駆けれるのか、スペイン人とは何者なのか、全然知らなかった”と書いている。捕らえられた皇帝は身代金として要求された金を実際は4倍(68トン)も払ったのに、絞首刑ののち、火あぶりにされた。そして、1年後にピサロは首都クスコに入城する。

右は展覧会にでていた“金製胸飾、首飾、耳飾”。征服者スペイン人たちはこうした黄金の品々をみんな溶かしてヨーロッパに持ち帰ったから、現在インカの黄金製品はほとんど残っておらず、これらは王族や貴人の墓に眠っていたインカ以前の文明のもの。黄金の輝きだけに目がくらんだスペイン人にはこの飾りものの美しさが分かるはずがない。発見されなかったのは真に幸運なことだった。

なお、“もっと知りたいスペイン!その二 アントニ・ガウデイ”は拙ブログ7/17

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2007.07.25

インカ マヤ アステカ展

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国立科学博物館で開催中の“インカ マヤ アステカ展”(7/14~9/24)は早めにでかけて正解だった。先週の平日でも、大勢の人がおり列の動きは遅かったが、これからは夏休みに入った子供たちや学生が押し寄せるから、ゆっくり見れないかもしれない。

NHkが“失われた文明 マヤ・インカ”を3回にわたって放送したので、この展覧会への関心はいつになく高い。でも、中南米文明についての知識は皆無。これまであった文明展ではエジプト、中国文明は幾度となく見たが、中南米文明展にでかけたという記憶がない。遺跡があるメキシコ、ユカタン半島、南米を旅行する計画は今のところないから、こういう大規模な特別展はマヤ、アステカ、インカの文明を知る最良の場。会場には展示品だけでなく、写真、映像、解説のイラストなどを配置し、文明の歴史、特徴への理解を手助けしてくれるので現地に行ったような気になる。

文明展の場合、まず、その文明がいつごろ起こったのかとどの地域の話しなのかを頭にいれる必要がある。時間軸でいうと、マヤが2000年と一番長く(BC500~AD16世紀)、1200年ごろに誕生したアステカとインカは同じくらいの長さでともに16世紀前半、スペイン人に滅ぼされる。

展示品はマヤ、アステカ、インカの順番で並べられている。見てて楽しいのはミイラが目玉のインカよりマヤ、アステカのもの。そのなかで惹きつけられるのがマヤの鮮やかな緑のヒスイ。上は三つある仮面のひとつ。これは王の遺体に被せられた仮面で、実際の緑はもっと深く、じっと見ていると怖くなるほど強いインパクトをもっている。

ヒスイでは蓋の取っ手に王の頭を形どったモザイク模様の壺も見ごたえがある。また、王朝の支配者を描いた石灰岩製の大きな石碑の前でも足がとまった。有難いのは横のパネルでレリーフを線引きして再現してくれてるので、何が描いてあるのか細かいところまで目で追っかけられる。

アステカのところで圧倒されるのが下の“ワシの戦士像”と“ミクトランテクトリ神像”。ともに高さ1.7mもある大きな像(土製)。戦士はワシの頭飾りを被り、両腕に羽毛、膝に下に爪の飾りをつけている。迫力のある異形のフォルムにしばらく立ち尽くしていた。神像は大きな口がユーモラスだが、これよりずっとぎょっとするのが肋骨の下にでた肝臓。臓器を外に見せる像はこれまでお目にかかったことがない。この二つは長く記憶のとどまりそうな気がする。

最後のインカのコーナーでミイラよりショックだったのが人工的に変形された頭蓋骨。生まれたときから、頭の前後を帯や布などで強く縛り、円錐形の頭にするという。何のため?社会的アイデンティテイを表現したり、階層、身分を区別するためらしい。長期間にも及ぶ苦痛を想像すると、長くは見てられない。

会場の一角に人気の高い世界遺産、マチュピチュとまわりの景観を映したミニ模型があった。これをみただけでも天空の都市というのがイメージできる。スペイン・ポルトガル旅行を一緒した夫婦の方が“寸分の狂いもない見事な石組みに感動します!”とおっしゃっていたのを思い出した。

今回出品された遺跡品は素人がみても相当質のいいのが集まっている。未開拓ゾーンの魅力がたっぷりつまったいい展覧会であった。

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2007.07.23

松岡美術館のフランス印象派・新印象派展

943美術鑑賞のなかで印象派絵画はルネサンス絵画とともにライフワークになっているから、“印象派”の名前がついた展覧会にはどうしても足が向く。

でも、いつも心をときめかして行っているわけではない。現在、松岡美術館で行われている“フランス印象派・新印象派展”(4/28~9/2)は、過去ほかの美術館で開かれた企画展でここの所蔵品を見たのはモネの“サン=タドレスの断崖”しかないから、一、二点くらいはいい絵があるかな?くらいの控えめな期待しかなかった。

果たして、だいたい思った通りの作品だった。展示してあったのは全部で20点。そのなかで数が多いのはブータンが3点、モネが“サン=タドレスの断崖”をいれて3点、ルノワールが2点、ピサロ3点。ほかはシスレー、ギヨマン、シニャック、クロス、マルタン。
20点しかないから早くみれば10分で見終わる。

足が止まったのは残念ながら、右のシニャックの“サン=トロペの港”とその横にあったクロスの“遊ぶ母と子”だけ。ともに点描法による作品。シニャックの絵は横浜美術館の“水の情景展”でみた“ヴェネツィア”(拙ブログ5/24)同様、心を揺さぶられた。明るい色彩と岸壁に係留する船を画面中央に配置する安定感のある構図にすごく魅せられる。

クロスの作品はまだ両手くらいしか見たことないので作風をつかみきれてないが、この絵に描かれた母親はオルセー美術館にある“夕方の大気”で女性が二人庭園に横たわっていたように、砂浜で体を横にし、丸々した女の子供と遊んでいた。母親と子を手前に大きく描いたのは広重の影響かもしれない。

隣の部屋に飾られていたヴィクトリア絵画にミレイの“聖テレジアの少女時代”があったので、すこし驚いたが作品はアベレージだった。今回、絵画はあまり心を満たしてくれなかったが、同時開催の“ペルシア陶器”は楽しかった。以前みたことのある“色絵人物文鉢”(ミナイ手)には馬に乗ったり、踊っている人物が5、6人、丸顔で表情豊かに描かれている。また、青、緑が鮮やかなラスター彩の数々を夢中になってみた。普段、ペルシア陶器を見る機会はほとんどないので、これは貴重な展示だった。

<07年後半展覧会プレビューの更新>
次の展覧会を追加した。
7/28~9/17   広重が描いた日本の風景展  神奈川県立歴史博物館
8/1~8/24    アートコレクション展       ホテルオークラ東京  

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2007.07.22

祝 琴光喜の大関昇進!

942大相撲名古屋場所は横綱朝青龍の21回目の優勝で幕をとじた。

14日目で朝青龍と関脇琴光喜が一敗で並んだので、千秋楽はともに勝ち、決定戦になるのではと期待したが、先に琴光喜が稀勢の里に敗れてしまった。ううーん、残念!

今日の琴光喜は前日までの一気の攻めがなかった。やはり優勝を意識し、硬くなったのだろう。取り組みのあと、地元の大勢のファンの期待に応えられなかった悔しさからか、泣いていた。

こうなると、朝青龍は強い。今場所は横綱疲れで3敗している白鵬を難なく寄り切った。勝気な性格がストレートにでて品がないとか色々批評される横綱だが、ここぞという一番には無類の集中力を発揮して賜杯を手にするのだからたいしたもの。

13勝をあげた琴光喜は優勝はならなかったが、念願の大関昇進を果たした。拍手々!自称相撲通なのだが、以前ほど熱心に幕の内の取り組みをみてないので、今場所が琴光喜にとって大関昇進をかけた大事な場所であることにはじめ気がつかなかった。

2場所前が10勝5敗、先場所が12勝3敗だから、今場所12勝をあげるとめでたく大関昇進だったのである。結果は13勝と上々の成績でラストチャンスをものにした。琴光喜はもう31歳なので、歴代最年長の新大関となる。そして、新入幕から44場所かかっての大関は史上2位のスロー昇進だそうだ。

琴光喜がはじめて大関昇進に挑戦した場所のことはいまでもよく覚えている。5年前の02年1月場所、12番勝って、3場所の通算勝星を34勝としたのに、昇進が見送られた。2場所前、13勝2敗で優勝しているのにである。このときは相撲協会の体質の古さにちょっと腹が立った。

当時大関が4人いたということもあるが、見送りの一番の理由が14日目に平幕の武雄山に負けたからという。こんな馬鹿なことを協会幹部は平気で言っていた。15日間のうち、何日かはふと魔がさすことだってある。平幕に負けて一敗はしたが、上位の大関を破っているではないか、こちらの頑張りは評価しないのか!勝星だって12勝もしているんだよ!とつい言いたくなる。

3場所合計で34勝あげ、立派な成績だったのに、相撲協会は“平幕に負けて印象が悪い”というもっともらしい理屈で力士の夢をつぶしてしまった。琴光喜は大泣きし、それを琴乃若(現在の師匠、佐渡ヶ嶽親方)がなだめてやったという。次の場所、琴光喜は下顎を骨折するというアクシデントに見舞われ、以後長く平幕と三役をエレベーターのように上がったり下がったりする。

苦節5年、大関への夢をあきらめず、精進をかさね見事、昇進を勝ち取った。おめでとう!と声を大にして言いたい。年は31歳だが、野球界では37歳の斉藤が大リーグへ挑戦し、今やドジャースのリリーフエースになっているのだから、琴光喜にはあの一気に前にでる相撲を磨いて、横綱をめざしてもらいたい。朝青龍、白鵬、琴光喜の3横綱時代になると大相撲もぐっと盛り上がる。頑張れ!琴光喜

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2007.07.21

静嘉堂文庫の青磁のきらめき展

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静嘉堂文庫で7/29まで開催している“中国・青磁のきらめき展”をみてきた。この展覧会はなにを勘違いしたのか開幕日(6/16)の一週間くらい前に出かけ、入り口が閉まっているのをみてドッと疲れ、急に関心がしぼんでしまった。

が、チラシに載っているやきものは過去全部みているのでパスしてもいいのに、どうも気になってしょうがない。これが青磁の魅力なのかもしれない。今回所蔵の青磁を沢山展示するというから、未見の作品と図録を期待して再度緩やかな坂道を登った。

残念ながら、図録は予想通りなかった。会場には出品作の主だったものが掲載されている3つの図録(入手済み)が並んで置いてあった。これを青磁の図録としてまとめて欲しかったのだが。。総出品数は81点で、そのうち未見の青磁はいくつかあったが、これまでみた優品を上回るほどのものはなかった。で、館自慢の青磁の名品をまた鑑賞することになった。

絵でもやきものでも名品は何回みても飽きないばかりか、さらにその美のとりこになっていく。上はいつも光沢のある明るい青緑色に痺れる“青磁香炉”(南宋時代、12~
13世紀)。南宋官窯でやかれた青磁は貫入と呼ばれる氷裂文が表面にできるのが大きな特徴。この貫入は窯から出したあと、素地と釉薬の収縮率の違いにより生じる。

南宋から元の時代(13世紀)、龍泉窯でやかれたものが出品作の大半を占めるが、ここにあるのは粉青色が美しい砧青磁ではなく、天龍寺青磁と呼ばれる緑色の釉のかかった壺や盤、鉢。“青磁牡丹唐草文深鉢”(重文)をはじめ、“青磁縞文壺”、“青磁稜花盤”など形、色とも申し分ない青磁の名品を前にすると、気持ちが段々昂ぶってくる。

下は今回の収穫だった鈞窯(5点)のひとつ“澱青釉紫紅斑双耳香炉”(元時代、14世紀)。胴部の丸く張り出した形と乳濁した青色の輝きがなんとも目に心地いい。戸栗美術館でみた同じく澱青釉の瓶(拙ブログ7/6)より、こちらのほうが釉薬が厚くかかっているため、青が濃い。またアクセントになっている赤紫の斑と青の対比がさらに魅力あるものにしている。以前見たときにも増して、この存在感のある香炉に魅了された。

これでここにある中国の陶磁は一休みできる。

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2007.07.20

広重の江戸名所百景

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広重の“江戸名所百景”は3年前、太田記念館で全点鑑賞したので(拙ブログ05/6/10)、大谷コレクションの公開も東芸大美所蔵のもパスするつもりだったが、“金刀比羅宮 書院の美”を見た際、ものにはついでということがあるから、地下2Fの会場を覗いてみた。だが、その日は全点みるエネルギーが残っておらず、最初の1、2点をみたところで電池切れ。で、ぐるっとパス券を使っての仕切り直しとなった。

10点くらい見て、この“江戸名所百景”の摺りは太田記念で見たのと何か違う感じ。東芸大が所蔵しているのだから、太田同様、初摺りと思っていたが、どうやら大半が後摺り。太田で見たときは、空の雲、青の水面、影などに微妙なぼかしがみられ、色調ももっとやわらかかった。ここのはぼかしが少なかったり、全く省略されているため、画面全体が平板な感じ。色は濃淡のバランスがしっくりこなかったり、赤が強すぎるのもいくつかある。

初摺りでないのは残念だが、全点はっきり覚えているわけではなく、また浮世絵の専門家ではないので、絵自体への興味が薄れるということはない。で、頭を切り換えて、目を奪う構図や意表をつく視点により描かれた江戸の名所、119点が描き方の違いやモティーフによりグルーピングできないかと思いをめぐらせてみた。

上はとても気に入っている“芝うらの風景”。この絵をみるといつも、日本三景の松島湾での島めぐり観光を思い出す。沢山のカモメが餌を食べに船に再接近してくる様子と芝うらの海の上をすいすいと飛んでいく可愛い海鳥がよく似ているのである。鳥が群れで飛翔するところは大体、遠景に小さく描かれることが多いが、このように比較的大きめに描かれ主役扱いで登場するのはこの絵と“逆井のわたし”の白鷺だけ。

下の“はねたのわたし弁天の社”はぎょっとする構図では一、二にあげられる絵。この名所絵は縦絵なので奥行きを表現するため、広重は手前のものを極端に大きく描いた。その大きさは半端じゃない。毛脛の船頭は両腕と足の一部だけが描かれ、顔や胴体は画面の外にはみ出している。こういう構図で描かれた絵はこれまでなかったから、これが販売されたときは皆びっくりしただろう。馬の臀部を度アップで描写した“四ツ谷内藤新宿”も対象の全体をみせないでぎょっとさせる絵。

これに対し、奇抜なフォルムや見る者を圧倒するほどの大きさを手前にドンとみせるのが“深川萬年橋”の亀、“深川洲崎十万坪”の鷲、“箕輪金杉三河しま”の鶴、“水道橋駿河台”の鯉のぼり、“上野山内月のまつ”。

人物描写でも姿を見せるのと隠すのがある。夜一人で歩く芸者を横向きに描いた“真乳山山谷堀夜景”や後ろ姿の女が右端にいる“鎧の渡し小網町”が姿ありタイプなら、“吾妻橋金龍山遠望”や“月の岬”は“ねえー、お美しいの、隠れてないで顔を見せてよー!”と思わずいいたくなる究極のチラリズム絵。

絵画としての完成度の高さではやはり、“大はしあたけの夕立”、“亀戸梅屋敷”、“亀戸天神境内”。ゴッホやモネがKOされたのがよくわかる。シリーズ揃物を全点見たときの感激度はバラと較べると二倍、三倍の大きさ。これからも“江戸名所百景”を愛していきたい。

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2007.07.19

三井記念美術館の旅展

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三井記念美術館で開催されている“美術の遊びとこころ 旅展”(7/14~9/30)は思った以上に楽しい展覧会だった。副題はー国宝“一遍聖絵”から参詣図・名所絵、西行・芭蕉の旅までー。このように“旅”をキーワードにすると、小さな印籠から日記、参詣曼荼羅、横長の屏風絵、浮世絵風景画などいろいろな美術品が結集する。

嬉しいのは名所絵。サントリー美術館の“水と生きる展”に展示されている作品とここにあるものを同時にみると、一気に日本にある名所絵の通になれること請け合いである。サントリー美の屏風“厳島天橋立図”、“厳島三保松原図”、“四天王寺住吉大社図”、“近江名所図”に対して、ここでは前期7/14~8/18に、“富士曼荼羅図”(重文)、“天橋立・富士三保松原図”、“松島図”、後期8/23~9/30に“一遍聖絵 富士の霊峰”、“熊野那智参詣曼荼羅”、“伊勢参詣曼荼羅”、“厳島・鞍馬図”が見られる。

チラシをみて喜んだのが上の“富士曼荼羅図”(部分、伝狩野元信筆、富士山本宮浅間大社蔵)。この絵は昨年、静岡県美の展覧会に出たが、日程が合わず見る機会を逸したのに、幸運にもリカバリーできた。期待にたがわぬ見ごたえのある絵で、元信の手が入っているというだけあって、人物や浅間神社などの描写はかなり上手。

上は富士山の入った上半分。頂上をめざし松明をもってジグザグ登っていく参詣者の一生懸命さがひしひしと伝わってくる。単眼鏡でみていると、なんだか自分も一緒に登っているような気分になる。山頂には三体の仏像がみえ、山の左右には紫雲、瑞雲に囲まれるように日・月が描かれている。この絵で眼中を支配するのが水平方向にたなびくうす青の“すやり霞”。“すやり”は素槍で、まっすぐな槍のこと。下の田子の浦から上の富士山まですやり霞を積み重ねることで、山頂までの距離感や空間の奥行きを表わしている。

“一遍聖絵”には縁があり、今回で五度目。京博でいちど全巻じっくり見て、この絵のすばらしさが体のなかにしみこんでいるので、目をこらしてみた。後期の楽しみは“富士の霊峰”。今回はお目当ての“富士曼荼羅図”のほかにあとふたつ楽しい絵があった。下の英一蝶の“大井川渡し図”(個人)と歌川広重の“東海道五十三次細見図会”(神奈川県立歴史博物館蔵)。こんな思わずほほが緩むような絵と遭遇できたのが嬉しくてたまらない。

“大井川渡し図”では、右の場面が笑わせる。二人の人足に担がれた武士の足の裏を刀を持っている男がくすぐっている。こういうときにしか武士にわるふざけ出来ないから、人足はさぞかし面白いだろう。よくある光景を切り取ってみせる英一蝶の絵心に脱帽である。

広重のこの道中絵ははじめてみた。手前にクローズアップした人物を5、6人配置し、背景に宿場の風景を描いている。全部で10図あるらしく、今回6点展示される(2点ずつ3回にわけて)。“日本橋”に登場する田舎から江戸見物にきたお上りさんの表情が実にいい。見てのお楽しみ。

この美術館の企画力の高さが遺憾なく発揮されたいい展覧会であった。

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2007.07.18

東博平常展の光琳、文晁

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東博平常展の展示作品が一部替わったので、早速でかけた。お目当ては本日から8/26まで展示される谷文晁の“公余探勝図巻・下巻”。この絵の上巻(拙ブログ06/6/21)は過去3年で2回登場したのに、下巻ははじめて出てきた。見開き二枚に一つの風景が描かれ、これが15点くらいある。地名は白濱、谷津、川津、八幡野濱、鐙槢濱、三浦など。

下は構図がすばらしい“鐙槢濱”。垂直にのびる角々した岩の上に形の整った緑の松があり、下の平らな浜辺には宮崎の鬼の洗濯板のような岩が海の方につきでている。海岸の風景が多いが、田んぼや農家の家々、海岸沿いの道を歩く旅人などが西洋画法も使って描かれている。

谷文晁がこの絵を描いたのは30歳のころ。絵を描かせた松平定信は寛政の改革
(1787年)のころが29歳だから、江戸湾防備のため相模伊豆の海浜視察をしたときはまだ35歳だった。この巡視の後、老中を解任された定信は若くして隠居の道を歩まざるを得なくなる。で、古美術や庭造り趣味に没頭する。文晁が古い兜や陶器類などを模写してつくったといわれる古美術カタログ“集古十種”には縁がないが、いつか見てみたい。

定信は72歳で亡くなるが、文晁はこの頃、弟子を何千人もかかえる大画家になっていた。たんすの引き出しには金貨、銀貨がぎっしり詰まっており、贅沢三昧に暮らしていたという。絵を描く間も酒瓶を放さず、弟子の出来のいい作品には署名して自分のハンコを押してやっていた。文晁の真筆が少ないのはこのためともいわれている。

“公余探勝図巻”の前の掛け軸に嬉しいのがある。3年ぶりに展示された上の尾形光琳の“八橋図”。ここでは間隔があいたが、05年10月、根津美術館であった“国宝 燕子花図展”にも出品されたから、実質1年半ぶりの再会。

広重の“江戸名所百景”には名所を対象の大胆なトリミングでみせるものが多くあるが、トリミングの元祖は宗達、光琳。画面のなかでこちら向きに座っている業平は左の水辺のほうを見ているが、光琳は橋や燕子花を一部しか描かず、見る者がもっと広い空間を想像するように仕向けている。

ほかでは久隅守景の“許由巣父図屏風”、隣の部屋にある狩野山楽が描いた良コンディションで色彩が鮮やかな“黄石公張良虎渓三笑図屏風”に魅せられた。

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2007.07.17

もっと知りたいスペイン! その二 アントニ・ガウディ

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TBSの“世界遺産”で2週続けて“アントニ・ガウディの建築物”を放映してくれたので、“もっと知りたいスペイン!”(拙ブログ07/6/18)のその二はスペインが生んだこの天才建築家にした。

ガウディがつくった建築物を全部見てみたい気持ちは強いが、普通のツアーだと訪問できる建物は限られている。半日くらいの自由行動があると、“グエル邸”、山と地中海をイメージした“カサ・ミラ”(3/16)とか海から発想した“カサ・パトリョ”の内部を見たり、屋上のユニークなオブジェを楽しめるのだが。ここは、建築の専門家ではないから、上の“サグラダ・ファミリア贖罪聖堂”と下の“グエル公園”を満喫することで心を落ち着かせるほかない。

ガウディは74歳のとき、路面電車にはねられるというショッキングな死に方をする。病院に運ばれたとき、みすぼらしいいでたちだったので、誰もガウディと気づかなかったらしい。亡くなった1926年、聖堂は降誕のファサードと4本の塔が姿を見せており、4本のうち1本は完成していた(画像手前の一番左の塔)。ガウディの最大の理解者であり、パトロンであった大実業家、エウセビオ・グエルが1918年に死去した後は、ガウディは聖堂の建設に専念し、資金集めをし、無償で働いていたから、この天才の突然の死は多くのバルセロナ市民を悲しませたにちがいない。

番組ではガウディ建築のあの幻想的な色使い、直線と曲面を多用した独創的なフォルムは何に刺激されて生み出されたのかを解き明かしていた。ガウディは小さい頃から生地レウスの自然に親しみ、成人して、カタルーニャの聖山と呼ばれる“モンセラー”に登ったりしたので、山や植物、生き物などが独創的な建築にとり必要なモィーフとなった。“創造するのではない、人間がつくりだすものは自然という偉大な書物のなかに書かれている”と語っている。

この自然主義はサグダラ・ファミリア聖堂やグエル公園でもあちこちにみられる。聖堂の外壁にはかたつむり、とかげ、亀、内部のかたつむりを連想させる螺旋階段、そして聖堂そのものが静寂な森である。グエル公園では、階段の中央に流れる水盤に蛇やドラゴンがおり、柱廊の天井にある太陽を表現した色鮮やかな円形装飾が目を楽しませてくれる。そして、観光客や市民の憩いの場になっている曲がりくねったベンチの装飾モティーフにもバラやクローバー、シュロの模様が使われている。

自然を創造の源にしたガウディの建築物をみていると、自然を愛する芸術家だけにミューズは微笑むような気がしてきた。

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2007.07.16

クリムトの風景画

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西洋絵画の画家のなかには死ぬまで付き合っていきたいのが何人かいる。クリムトはそのひとり。で、昨日の迷宮美術館(BS2)がクリムトを取り上げていたので、体をのりだしてみた。

今回、焦点をあてていた作品は風景画。クリムトが描いた220点あまりの絵のなかで、風景画は50点くらいあるという。これまで見た風景画はウィーンのベルヴェデーレ美術館に飾ってあった5点しかないが、どれも魅力的な作品だった。

上は番組にも登場した“アッター湖畔の風景(ウンターアッハの家並み)”。家の壁や屋根の赤や木々の緑は実際はもっと鮮やかにでていて、色紙を切って貼ったような家並みが強く印象に残っている。“アッター湖畔のカンマー城 Ⅲ”も“ウンターアッハの家並み”と同じく、建物を平面的に描いた作品。

1908年から1912年まで、夏の間すごしたアッター湖畔でクリムトはカンマー城を5枚連作で制作した。その最後の作品が下の“カンマー城の庭園内の道”。これも大好きな一枚。目を奪われるのは道沿いに続く木。曲がった枝は様式化して描かれており、幹の力強いタッチはゴッホの絵を彷彿とさせる。

もう一点、点描法で装飾的に表現された“白樺の林”も忘れられない。ここには“ひまわりの園”といういい絵があるのだが、どういうわけか03年の訪問時は展示してなかった。番組の中で、1905~06年に描かれた“ひまわり”(個人蔵)は有名な“接吻”と似た構図をしているという指摘があったので、“ひまわりの園”を見逃したのが悔やまれる。

クリムトが風景画を制作したアッター湖はウィーンの避暑地。35歳の頃からクリムトはここで恋人、エミーリエ・フレーゲと一緒にすごし、何も煩わされることなく、木々、草花、果樹、家々、カンマー城を描いた。面白いことにキャンバスはすべて正方形。スポーツが大変好きだったクリムトは湖でボートを漕ぎ、そして、岸辺から離れたところにボートを止め、オペラグラスを使い、湖畔の家々やカンマー城を切り取った。

ゲスト解説をしていた美術史家、千足伸行さんの本、“もっと知りたいクリムト”(拙ブログ07/2/27)にクリムトの風景画の特徴、傑作“接吻”と“ひまわり”の関連が詳しく書かれている。ご参考までに

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2007.07.15

サントリー美術館の水と生きる展 その二

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作品の展示替えがあったサントリー美術館の“水と生きる展”(中期:7/11~30)へ再度出かけた。前期の作品(拙ブログ6/27)をみてて予想外によかったのが“潤 水と生きる”に飾ってある浮世絵や風俗画。開館記念展の第一弾“日本を祝う”でみた遊楽図屏風10点のなかには、人物の描き方がうまくなかったり、コンデションがよくないのもあったが、この展覧会でお目にかかった名所や風俗を活写した図巻や屏風はいずれも質のいいものばかり。

中期であらたにでてきたのは三保の松原と厳島神社がセットになった屏風、木々の緑、斜めの構図で平行に並ぶ大社や店屋、そして金泥の盛り上がりをみせる金雲に目を奪われる“四天王寺住吉大社図屏風”、琵琶湖に沢山の舟が浮かぶ“近江名所図屏風”。会期中出ずっぱりの“隅田川名所図巻”は場面が替わっていた。

一点々単眼鏡を使って、大勢の人が集まっているところや、宴会の場面をじっくりみたが、男女の表情や体の動きはパターン化した描写ではなく、細かいしぐさまでしっかりとらえている。後期(8/1~19)の期待はまだみたことのない英一蝶の“田園風俗図屏風”と“京大阪図屏風”。

上は歌川広重の“江戸高名会亭尽”シリーズの一枚、“両国 青柳”。サントリー美術館にこの浮世絵があるとは思ってもみなかった。これから客を乗せて舟遊びに出かけるのだろう。二人の芸者が屋根舟にのりこみ、女が料理を運び込んでいる。女の後ろには“青柳”の看板がみえる。“青柳”は両国にあった高級料理屋。大川沿いにあって、裏口に桟橋が設けてあり、ここから舟遊びができるようになっている。川柳にも“青柳は花月雪と花火の夜”と詠われ、花見、月見、雪見、納涼花火見物に格好の料理屋であった。

話しが横道にそれるが、接待や宴会でこの店を利用する常連客は上級武士やはぶりのいい商人たち。今、お中元の真っ最中だが、こういう高級料理屋は“料理切手”というものを売っていた。いわゆる“お食事券”で、盆の附届、あるいは賄賂としてこれが使われた。江戸ではもうこのころ商品券があり、ほかにも酒切手、鰻切手、饅頭切手、羊羹切手などが届けられたという。

前期、流水模様が施された涼しげな小袖に心を打たれたが、今回感動したのは紫の地に波文、鷺、網干模様が描かれた“網干葦鷺模様単衣”。“日本を祝う”のときより沢山でているのが鮮やかな赤、黄色、うす青に魅了される“紅型”染色。強い色調で自由奔放の描かれた花模様や流水文の紅型裂にほほが緩みぱなし。下はとくに惹きつけられた模様。余白をたっぷりとり、黄色の地に流水、菖蒲、蝶を浮かび上がらせる構成にしびれた。

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2007.07.14

東博浮世絵エンターテイメント!

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東博でみる浮世絵はいつも楽しいので、勝手に“東博浮世絵エンターテイメント!”と呼んでいる。現在でている作品は7/3~7/29の展示。このなかに長らく待っていた歌麿の代表作の一枚が入っているから、浮世絵コーナーに着く前から興奮気味。

やっとみれた“鮑取り”は三枚続きのワイド画面で、上の二枚は左端と真ん中。真ん中は海女が鮑を取り終えて、岩の上に座って髪を整えながら、子供に乳をやっている場面。母と子の描き方は“栗を持つ山姥と金太郎”と似ており、海女の馬面風の顔や乱れた髪も山姥とほとんど同じ。左では丸顔で小柄な女が指差している魚に目がすっといく。海女が海に浸した足の先に魚を何匹も描き、見る者に海辺の情景をイメージさせるところが憎いばかりに上手い。豊かな感性をもった歌麿ならではの表現方法である。

“鮑取り”の隣にあった“遊女道中図扇面”も面白い。扇子に描かれた1本の傘になかにどうしてこんなに人が入っているのか?よく見ると女が5人、男が1人いる。サプライズの扇子絵だった。

鈴木春信の“海女”を見たのは二度目。これはあぶな絵の類。見てのお楽しみ。また、“笹森お仙と団扇売”の背景にある奥行きをつくる3本の柱と右の鮮やかなえんじ色にも釘付けになった。鳥文斎栄之の“風流五節句・七夕”や歌川国貞の“端唄の意二編・はつ秋や”は七夕の季節にぴったりの絵。ここの浮世絵展示のいいところは季節の移り変わりにあわせて作品をセレクトしていること。これはほかでは味わえない浮世絵エンターテイメント。

北斎と広重はお馴染みの“富嶽三十六景”(3点)と“東海道五十三次”(2点)がある。三十六景のうち“常州牛場”と“遠江山中”は似たような構図の絵で、対角線上いっぱいに描かれる船や材木が北斎特有の造形美を生み出している。

下の絵は広重の“平塚”。S字になった街道を手前に走ってくる飛脚の動感描写にいつも魅せられる。同時に感心させられるのが人物のペアリング。手前では、飛脚と乗り手がいないので駕籠を横にして運んでいる駕籠かきを対面させ、そして、中景の小さな橋では二人の旅人がこれからすれ違うように描かれている。これで見る者はここは仕事あるいは私用で人々が行き交う街道であることを実感する。広重の風景画が飛ぶように売れたのは画面のなかに感情移入できる場面を沢山みせてくれたからであろう。

広重は大胆な構図にぎょっとする“江戸名所百景・深川萬年橋”もでている。前景に大きく描かれた桶に吊るされた亀は一生忘れることはないだろう。マネ、モネ、ドガ、ロートレック、ゴッホもこの絵に度肝をぬかれたにちがいない。

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2007.07.13

東博平常展の名品

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ルーチンとなっている東博平常展鑑賞で今回、目指したのは国宝室、仏教の美術、禅と水墨画、そして1階の近代日本画。

国宝室の“普賢菩薩像”と再度の対面(7/29までの展示)。いつもドキッとするのが普賢菩薩が乗っている白象の目。狐のような目をしている。普賢菩薩の着衣に施された装飾的な金箔模様や白象の体に上から垂れる飾りは時間の経過で鮮明さが落ちているが、描かれた12世紀、平安時代のころは、まばゆほどに輝いていたのだろう。

隣の部屋に飾ってある“法華経(久能寺経)”(国宝)は“平家納経”とならぶ装飾経の名品。見返しと天地に金銀の小切箔が撒かれ、経文が書かれた料紙一面に雲母刷りの波の文様が描かれている。あまりの美しさに声がでない。ここと次の禅と水墨画にある作品は8/5までの展示。

前回みたのがいつだったか思い出せないが、上の“一休和尚像“(重文)は過去何回か見ている。古い時代の人物表現で、これほど生々しい印象をもつ絵はない。ぼさぼさ頭には白髪が混じり、あまり元気とはいえない表情。こちらの悩みごとを聞いてもらっていたら、途中から逆に和尚の愚痴の聞き役になるような感じである。大徳寺派の僧、一休宗純(1394~1481)を描いた絵はいくつかあるが、どの肖像画が実際の和尚に近いのか?これは誰もわからないが、一休和尚は奇行の癖があったというから、この絵のような人間だったのかもしれない。

下は久しぶりにみた雪村の“鷹山水図屏風”の右隻(部分)。ここには雪村のいい絵が何点かある(拙ブログ05/8/4)。これはその一枚。右隻左隻に3羽の大きな鷹が描かれている。岩にとまり、下にいる兎を狙っている鷹、必死に逃げる鴨を捕らえる寸前の鷹、そして左端で柏にとまる鷹。このうち、岩にとまっている鷹にハットした。この鷹は右に描かれた滝に較べてアンバランスに大きいのである。すぐに似たような構図で描かれた鳥の絵を連想した。

それは昨年、奈良県美でみた長澤芦雪の“百鳥図”に登場する大鷲(06/10/24)。雪村は室町時代の後期、1500年前後から1580年代前半まで生きた絵師だから、霊感をうけたとすればずっと後の芦雪の方。芦雪はこの絵を知っていたのだろうか?それとも全く偶然に、二人は同じような構図で鷹と大鷲を描いたのか?こういう発見をすると、もっと鷹の絵をみたくなる。

1階の近代日本画で目を楽しませてくれたのは速水御舟の“紙すき場”(05/12/15)と小林古径の“住吉詣”。ここの作品は7/22までの展示。いつもながら充実した平常展であった。

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2007.07.12

金刀比羅宮 書院の美展

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7/7から東芸大美ではじまった期待の“金刀比羅宮 書院の美展”(9/9まで)を見た。期待の中心は伊藤若冲の“花丸図”。円山応挙の障壁画は一度現地で見たから、これはオマケ。岸岱(がんたい)への関心はきわめて薄い。

会場には金刀比羅宮にある表書院と奥書院の10室が再現してある。四国の琴平に足を運ばなくて、応挙と若冲の名画がみれらるのだから、これほど有難いことはない。でも、あまり、気分をハイにしすぎて、色をよく写した精巧な複製画を本物の絵と見間違えないように!移動可能な襖絵だけが本物で、床の間や壁に描かれた絵は物理的にもってこれないから複製画を用意し、擬似書院障壁画にしているのである。

円山応挙のコーナーでは、鶴の絵よりは虎のほうが見ごたえがある。目を惹く虎が三匹いる。皆あまり怖くない猫のような虎。チラシに使われている有名な舌をだし川の水を呑む“水呑の虎”。これは03年、大阪であった大回顧展でも見たから3度目の対面。松の枝の下にいる“八方睨みの虎”は顎のまわりが二重、三重になった肥満児タイプの虎。そして、体が一番白い上の虎はまるで人形の“張子の虎”のよう。可愛い虎に心がゆるむ。

今回、上段の間にある“瀑布古松図”と再会したかったが、これは壁をはがすわけにはいかないから、複製画が飾ってあった。この絵をみて、次にこれと構図が似ている絶筆、“保津川図屏風”(重文)を五浦美術館(7/28~9/2)で見て、最後に8/1から19までサントリー美術館の“水と生きる展”に展示される同じような滝の絵、“青楓瀑布図”で締めくくる予定だったが。。

さて、お目当ての若冲の“花丸図”である。下は奥書院の上段の間、南面の襖絵。この絵だけが本物であとはコピー。現地を訪れたとき、奥書院は公開されてなかったので、書院のイメージが全然つかめないが、この上段の間は意外に狭い部屋。“この狭い空間に若冲はこんなに沢山の花を描いたのか!”というのが率直な感想。

ここに描かれている花は“動植綵絵”にでてくるミクロに美が宿ったような細密描写の花とは違い、模様化された切り花。いずれも右か左斜めに傾いている。花は全部で
40。“動植綵絵”と似た描き方の花をさがしてみると、いくつかあった。それは右から2番目の“もも”と“うめ”(梅花小禽図、拙ブログ06/6/18)、4番目の“しゃくやく”、左から2番目の“てまりはな”、“あじさい”、左端の“はまなす”、“ぼたん”(牡丹小禽図、
06/8/18)。

そして、若冲は葉の枯れたところや虫に食われた穴などを実にリアルに表現している。穴の部分の金色にちょっと違和感を感じるのは、描かれたときの白地が後世になり、金砂子を蒔かれたからであろう。04年にこの“花丸図”が公開されたときは、横浜に戻ってきたばかりで、見ることが叶わず、もう鑑賞をあきらめていたが、それから3年もたたないのに運よく巡り会えた。美の女神、ミューズと東芸大美に大感謝である。

なお、この展覧会は東京のあと、つぎの3箇所に巡回する。
・10/1~12/2:金刀比羅宮
・08/4/26~6/8:三重県立美術館
・10/15~12/8:パリにあるフランス国立ギメ東洋美術館

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2007.07.11

大リーグオールスター戦、イチローMVP!

921本日行われた大リーグオールスター戦で、7年連続出場したイチローが大活躍し、MVPに選ばれた。

レギュラーシーズン前半の好調な打撃(打率0.359、アリーグ2位)をスタープレーヤーが集まる晴れの舞台でもいかんなく発揮し、3打数3安打2打点と打ちまくった。

とくに3打席目ではもうちょっとでホームランという大きな当たりを放ち、ライトを守っていたグリフィーJRがフェンスから跳ね返ってくるボールの処理にもたつく間、一気にホームイン。オールスターでのランニングホームランは史上初めてという。試合はアリーグが5対4で勝ち、ワールドシリーズでの本拠地開催権を確保した。

日本選手はドジャースの斉藤が7回に登場し、3人の打者を難なく凡打にしとめ、実力を見せつけた。ナリーグ4位のセーブ実績はダテではない。ツインズの好打者ハンターでも斉藤の投げる鋭いスライダーにきりきり舞いという感じだった。昨年はマイナー契約からスタートした37歳の投手が今年は大リーグを代表するリリーフに成長し、オールスターでぴしゃりと抑えるのである。これほどすばらしいことはない。大拍手!

一方、インターネット投票で選ばれたレッドソックスの中継ぎ、岡島は残念ながら出番がなかった。9回裏、2アウトのあと、ソリアーノ(今年からシカゴ・カブス)が2点ホームランを打ち、アリーグの投手陣がバタバタしたから、岡島にも投げるチャンスがあるかなと期待したが、エンゼルスの若きリリーフエース、ロドリゲスがなんとか3つめのアウトをとり試合は終了した。いっそのこと、同点になり延長戦になってくれれば岡島のあの下向き投法が見れたのに。全部の願い事は叶わない。

イチローがマリナーズと5年122億円で契約延長するという記事がでていた。これにはちょっと複雑な心境である。今のマリナーズにいるより、レッドソックスとか、ヤンキースにFAで移籍したほうがワールドシリーズに出られる可能性が高いと思うのだが。せっかくのFAなのにもったいない!

イチローにしてみれば、シアトルは住み心地がよく、好きでなかった前監督が辞め、信頼をよせているコーチが監督に昇格したから、これからはチームの雰囲気もよくなると判断したのだろうか。松坂、岡島がいるレッドソックスにイチローが入ってくれることを強く望んでいたのだが。。

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2007.07.10

歌劇「トスカ」と囚人のジレンマ

920ウィンブルドンの決勝戦は勝負がつくまで時間がかかるので、最初の1、2セットはゲームとゲームの間、BS2の“3大テノールのガラコンサート”をみていた。

昔は“3大テノール”というと、パヴァロッティ、ドミンゴ、カレラスだったが、この日本の管弦楽団の演奏でオペラの名アリア(拙ブログ05/1/2)を歌っていた3人はあまり馴染みのない歌手だった。

テニスからこちらにスイッチしたとき、運よく聴けたのが“トスカ”(プッチーニ作曲)の三幕で歌われる“星は光りぬ”。これはアリアのなかでは最も好きな曲である。3人のうち年長の歌手が熱唱するこの名アリアを聴き、いつものようにいい気分になったが、今回は以前とはちょっと違ったことを頭のなかにえがきながら聴いていた。

そのちょっと違うことを述べる前に、“トスカ”のあらすじのことから。このオペラはかなり過激で、とくにラストは胸をかきむしられる。人気のオペラはハッピーエンドより、登場人物が死ぬといった悲劇的な終わり方が多いが、最後のシーンではこのトスカが一番衝撃的。美貌の歌姫、トスカがローマのサンタンジェロ城の胸壁から身を投げる場面で劇は終わり、幕が下りたあとしばらく重い空気につつまれる。

根っからの悪役、スカルピア(警視総監)に従うふりをして裏切ったトスカは恋人の画家、カヴァラドッシと幸せを手に入れるはずだったのに、逆に騙されて地獄に突き落とされる。この悲劇の文が織りなす息もつかせぬ緊張感と美しいアリアがこのオペラの最大の魅力である。

で、以前と違う思いでこのオペラの名アリアを聴いたというのはゲーム理論の“囚人のジレンマ”との関連を知っていたから。バラシュ著“ゲーム理論の愉しみ方”(河出書房新社、05年12月)のなかに、トスカとスカルピアの裏切り合いが“囚人のジレンマ”と同じ図式として出てくるのである。ゲーム理論の本にオペラの話しが登場するとは意外だったが、理論家アナトール・ラパポートがトスカに囚人のジレンマの要素があると最初に指摘していた。

ごく簡単に論点をまとめると。ワルの警視総監、スカルピア(左の画像の右)はトスカ(左)を自分の女にしようと、卑劣にもトスカに取引をもちかける。“自分の女になるなら、銃殺刑が決まっているお前の恋人カヴァラドッシを生かすため、銃殺隊に空砲を撃つように命じよう”。トスカには2つの選択肢がある。スカルピアに身をまかせるか、従うとみせかけて、すきをついて刺し殺すか。一方、スカルピアも腹黒く考えている。約束通り、銃殺隊に空砲を命じるか、それともトスカを裏切り、実弾を撃たせ、憎い恋敵を葬り去って、トスカを自分のものにするか。

ここで二人が選択したのは自分本位の裏切り。トスカは偽の処刑の後に、二人で国外に逃亡できるよう通行証を要求し、スカルピアがそれを書いている間に彼を刺し殺す。そして、処刑に引き出されたカヴァラドッシに段取りを説明し、うまく死んだふりをするように言い残して、物陰に隠れる。銃声が鳴り響き、倒れたカヴァラドッシに駆け寄ると、カヴァラドッシは演技でなく本当に血で染まっていた。

よく知られているように囚人のジレンマでは、共犯者二人はともに黙秘すれば1年の軽い刑ですむのに、“裏切って自白すると捜査に協力した返礼として無罪放免にしてやる。相棒は30年刑務所暮らし”と検察官から囁かれるとお互いに自白してしまう。結果、二人とも10年の刑をくらう。黙秘するか、自白するか厳しいジレンマに陥るが、悲しいことにここでは裏切りは最も合理的なのである。

トスカとスカルピアのゲームの場合、トスカにとって、最良の結末はスカルピアを裏切って殺し、恋人のカヴァラドッシが助かること。最悪はスカルピアの言いなりになったのに、恋人の命が奪われること。スカルピアにとって一番いいのは、トスカを奪い、カヴァラドッシが死んでくれることで、最悪の結末は自分が殺され、カヴァラドッシが生き残ること。で、二人とも裏切ることになる。あまり硬い話しになってもいけないから、この辺で。

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2007.07.09

ウィンブルドン フェデラーが5連覇!

919今朝、3時間もテニスのウィンブルドン男子シングルス決勝を見た。

テニスの試合をTVでみることはほとんどないのだが、深夜12時すぎNHK総合にチャンネルをあわすとどこかで見たような二人の選手がコートにいた。ランキング1位のフェデラーと2位のナダル。

普段縁の無いテニスの選手を覚えていたのにはわけがある。3月にスペイン・ポルトガルを旅行したとき、ホテルのTVでヨーロッパであったテニスの大会のダイジェスト版をみていたら、この二人が決勝戦に登場し、すごくエキサイティングな試合を見せてくれたのである。

優勝したフェデラーの顔と名前は知っていたが、プレーをみたのはこのときがはじめてだった。相手のナダルは全く知らない。このTV観戦が強烈にインプットされていたから、二人が戦うウィンブルドンの決勝を最後までつきあうことになった。ウィンブルドンの決勝を熱心に見ていたのは観客席にいたビヨン・ボルグが5連覇した頃(1976~80)。左ききのマッケンローとの死闘が今も記憶に強く残っている。

今、テニス界の頂点に立っているフェデラーはまだ25歳だという。27、8歳くらいかなと思っていた。やっと名前を覚えたスペインのナダルはもっと若く21歳。この決勝戦は大変面白かった。試合はフルセットまでいき、最後は3-2でフェデラーが勝ち、5連覇の偉業を達成した。

3月のときは、フェデラーの力はまだナダルよりだいぶ上という印象だったが、この日のナダルはすごいショットが随所にでて、ひょっとすると初優勝するのではと期待させるほどの力強いプレーをしていた。途中、フェデラーの顔にはいつもと勝手が違うなという表情がありあり。が、3セットが終わったとき、ナダルに右ひざが痛くなるというアクシデントがおき、戦局が変わった。これまでのフェデラーとの戦績では、ナダルは8勝3敗と勝ち越しているので、このアクシデントがなければ芝の王者を破っていたかもしれない。

それにしても、フェデラーは粘り強い。ナダルにサービスゲームをブレイクされそうになっても、ここ一番で強烈なサーブやいいショットで盛り返し、キープする。マッチポイントを決めたフェデラーはコートに倒れ込み、目に涙を浮かべていた。見ているほうも感動する5連覇達成である。拍手々!

フェデラーはあの凄いサーブと多彩なショットを武器にまだまだ勝ち続けるだろうが、4ヶ月前と較べて素人目にも格段に強くなっているナダルがフェデラーをじわじわと追い上げていくことは間違いない。来年のこの大会が楽しみだ。

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2007.07.08

棟方志功の華厳譜

918鎌倉にある棟方板画美術館の展示は龍子記念館同様、年2回のみ。

ここを定期的に訪問するようになってもう3年になる。だから、館の図録に載っている作品でまだお目にかかってないのが少なくなり、二回り目のものが出てきた。

拙ブログ05/9/5で紹介した“飛神の柵”は何回見ても魅せられる。今回の12点にはこの絵のほかにもお馴染みの代表作がある。初期の作品、“華厳譜”と“釈迦十大弟子”。これは豪華な展示である(12/16まで。ただし、7/31~8/21は夏期休館)。

棟方志功は展覧会に出品した“大和し美し”が審査員だった柳宗悦、濱田庄司の目に偶然入ったのがきっかけになり、あらたな版画の道を進むことになった。“華厳譜”は柳や河井寛次郎らの示唆を得て、この展覧会から半年後に制作された作品。棟方が33歳のころである。21点は華厳経を題材にして描かれているが、お経に出てくる仏に不動とか風神などの密教的な仏や神を加え、棟方流の“華厳”の世界を仕立てている。

柳宗悦はこの絵に感動し、河井寛次郎への手紙に“大作で又傑作だ。<大和し美し>より一段といい。まだ、無駄や荒々しいところはあっても素敵なものがある。その或るものは古版画に比してひけめはない。今時これほど本能的な作者は類がない”と書いている。柳が鋭く指摘しているように、中にはごちゃごちゃした構成のため、仏の姿がぱっと捉えられないものもある。でも大半は目や鼻がくっきり大きく描かれた仏さんや神さんの表情や手とか体の動感表現に心を揺すぶられる。

何回もこの絵を見るなかで、いつもぐっとくるのが右の“風神の柵”。人気の高いこの絵や“不動明王の柵”は単独でも裏彩色して販売された。棟方はこの“風神”のように人の動きを横からストップモーション的に捉えるのが本当に上手い。“華厳譜”の2年後に描かれた“善知鳥(うとう)版画巻”にもスピーディに走る坊さんや女がでてくる。

久しぶりに見た色つきの“宇宙頌”を楽しんだ。これは棟方がはじめて手がけた天井画で、青龍(東)、白虎(西)、朱雀(南)、玄武(北)の四方守護神が東西、南北の二神ずつ双幅の形式で描かれている。今回ちょっとした発見があった。目のなかに飛び込んでくる四神の白い顔をよくみると、眉毛でも瞳でも線や点の模様として表現されている。そして、鼻の両側の頬には装飾的な丸い輪がある。

この描き方は幻想画家、シャガールが人間や動物の体の一部に別のものを描きこむ(千葉市美のシャガール展:6/19)のと同じやり方。二人の絵は赤や緑など色彩が鮮やかなところも似ている。絵はやはり余計な情報は入れず、自由に見るのが一番。次回の展示は来年の1/8からなので、ここへ来るのはだいぶ先になる。

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2007.07.07

美の壺 五重塔と音楽

917NHK教育で金曜夜10時に放映される“美の壺”はお気に入りの美術番組。

とぼけたキャラクターが持ち味の谷啓と女性ナレーターのおもしろい掛け合いで、美術品を見る壺を25分でまとめてくれるので大変勉強になる。

で、毎月購入する“TV太郎”で何が取り上げられるかをチェックし、関心のあるものがでてくるときは必ずみることにしている。

昨日は“五重塔”だった。2ヶ月前、京都で醍醐寺の五重塔(拙ブログ5/19)を見たばかりなので、目と耳に力をいれてみた。面白い見方だなとすごく興味深かったのは五重塔の姿を音楽になぞらえていたこと。全国の五重塔を研究している専門家が登場し、“逓減率”というデータをつかって塔の特徴を分類していた。

逓減率というのは初層に対する五層の幅の割合のことで、例えば、初層が1に対し五層が0.5だったら、逓減率は0.5。これは安定感のある形。0.7だとすらっと背が高くみえる感じ。具体的な例をあげると、法隆寺の五重塔は0.5、山口市にある瑠璃光寺は0.68、そして醍醐寺は0.61となっているそうだ。法隆寺がずっしり安定型、瑠璃光寺のは細みの長身型、醍醐寺は安定感があり、そして高くも見える理想型。

それで、このように特徴づけられる塔のプロポーションがどんな音楽のリズムを想起するのか?ここからは番組制作者の創作。“法隆寺は重厚なベースのリズムが合う、瑠璃光寺のイメージはバイオリンの独奏による上品なリズム、醍醐寺はバランスがよく堂々としているので、色々な音が響きあう交響曲のハーモニーを想わせる”とナレーションし、バックにベース、バイオリン、管弦楽団の演奏を流していた。使われている交響曲はベートーベンの7番の一番盛り上がるところ。“ううーん、醍醐寺の五重塔とベートーベンの7番か。こんなコラボがあったのか!”と思わず唸ってしまった。

これにはちゃんと種本がある。全く知らなかったのだが、作家の井上靖(1907~
1991)は著書“塔”で“すべての日本の塔が多かれ少なかれ<凍れる音楽>にほかならない”と述べているのだという。早速本屋に行ってみようと思う。

右は番組でその優雅な姿からバイオリンの独奏が聴こえてくると言わしめた“瑠璃光寺五重塔”(国宝、室町中期、1442年の創建)。はじめて見たときは大変感動した。ここを訪れる観光客は誰もが手前の池側から記念写真を撮る。これほどいい撮影ポイントはない。番組には羽黒山五重塔(05/11/10)や東寺の54.8mと一番高い五重塔も取り上げられたから、“THE五重塔”のてんこ盛り。

木造建築の技を結集してつくられた五重塔。その美しさにしみじみ感じ入る。まさに日本の宝である。

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2007.07.06

戸栗美術館の中国・朝鮮陶磁展

916Bunkamuraの近くにあるやきもの専門館、戸栗美術館の開館20周年記念展の第2弾、“中国・朝鮮磁陶”(7/1~9/24)を楽しんだ。

ここで中国、朝鮮のやきものをまとめて展示するのは13年ぶりとのこと。

昨年、泉屋博古館分館で行われた“中国陶磁展”(拙ブログ06/12/4)を鑑賞された方はここでも同じような満足が得られるかもしれない。

日本の美術館で中国・朝鮮陶磁の名品をもっているのは東博、大阪市立東洋陶磁美術館、出光美術館、静嘉堂文庫、そして戸栗美術館。ちなみに“世界やきもの史”(美術出版社、99年5月)にも戸栗美のものが数点掲載されている。

今回、唐時代の三彩の馬から、清の粉彩、高麗の青磁象嵌から李朝の粉青沙器鉄絵まで、全部で97点あるので、これはやきものの流れをつかむいい機会である。やきものの世界は種類がいろいろあり、奥が深いから、本などはあまり読まずに、とにかく実物に数多く接し、釉薬の発色具合とか形、絵付け、全体の表情を楽しむことにしている。

沢山ある青花で見較べるのは青の輝き。ここにずらっと名品がある。“青花葡萄文盤”(景徳鎮、明初)、“青花琴棋書画図壺”(景徳鎮、明初)、“青花花鳥文八角合子”(景徳鎮、明・嘉靖)。数が少ない“釉裏紅菊唐草文瓶”(景徳鎮、元末~明初)にも魅了される。

今回のお気に入りは右の北宋時代にやかれた“澱青釉瓶”(釣窯)。これは白濁した青磁で、砧青磁にみられる雨上がりの空の青色とはまたちがう美しさがある。そして、首のところが少しくびれた形がすばらしい。暫くうっとりとして眺めていた。多彩な色が目を楽しませてくれるのが“五彩魚藻文壺”。黄色い魚、青、緑、赤、黄色の藻が印象深い。この絵柄のものはいくつも見たが、これは色の鮮やかさではAクラス。小品ながら、まるでか宝物をみるような気分にさせられる“豆彩葡萄栗鼠文瓢形瓶”も優品。

朝鮮の陶磁では、いつもその形の良さに心が和むのが紛青沙器鉄絵の俵壺。“草葉文”と“魚文”の2つがでている。そして、ここにも胴の丸みが左右どちらかに歪んだ白磁の大きな壺があった。見たいと願っているものと連続して遭遇できるのはミューズがどこかで見てくれているからだろうか。感謝々である。

ご参考に中国のやきもの展の情報をいくつか。現在、静嘉堂文庫で“中国・青磁のきらめき展”(6/16~7/29)を開催中。これから開かれるのでは、“景徳鎮千年展”(松涛美術館、7/31~9/17)と“青と白のやきもの展”(畠山記念館、8/14~9/7)がある。

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2007.07.05

濱田庄司の民芸陶器

139朝鮮の白磁をみたくて訪問した日本民藝館でビッグなおまけがあった。

いつもは河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチの作品が展示してある部屋が今回は濱田庄司の作品で埋め尽くされていた。全部で46点ある(展示は9/24まで)。

これは全く予想のしてなかった。濱田庄司は大好きな陶芸家だけに、突然、目の前に宝物が現れたような感じである。ここには濱田や河井、リーチの作品が沢山あり、平常展で見慣れているのだが、やきものをまとめた図録がないので、過去みたのはどれだったか記憶が正確でない。よく印象に残っているのもあれば、あやふやなのもある。大皿とか、インパクトのある形や文様とか、釉薬の発色がいいものは大体忘れない。

今回、大きいのは“緑釉黒流描大鉢”(拙ブログ04/12/3)と“白釉黒流描大鉢”の2点。径が50cmから56cmもある大鉢である。“流し掛け”によってできる文様はポロックのアクションペインティンングみたいなもの。緑や黒の釉薬を見込みに15秒くらいで流し掛けしたという。この作業をみていた人が“こんなに早く絵付けができて、物足りない思いはしないか?15秒間だったが”というと、濱田はすぐ“15秒ではない、15秒と60年間だ”と答えたという。流し掛けに要する時間は15秒だが、この技法を会得するのに60年かかっているといいたいのである。

右は長いこと対面を待っていた“青釉押文十字掛角皿”(幅29cm)。ここでは大鉢のように曲線はなく、青の地に黒と白の釉薬が十字にクロスするだけ。のびやかに描かれた直線が浮かび上がっているようにみえ、まるで現代アートの抽象美を彷彿とさせる。そして、茶色に緑の曲線文様が渋い情趣を醸し出している“柿釉青流描角鉢”にも心が打たれる。

流れ掛けの作品とともに気に入っているのが赤絵。嬉しいことに昨年の“民藝運動の巨匠展”でみた“赤絵盛丸紋角瓶”(06/7/19)と再会した。のびのびして明るい円文や引き立てあう線模様の赤と草花文の緑にまたまた魅了された。ほかにも形のいい“赤絵酒注”や“白掛赤絵丸文大片口”があったから、言うことなし。満ち足りた気分で館を後にした。

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2007.07.04

日本民藝館の白磁と染付展

914日本民藝館で7/3から“白磁と染付展”がはじまった(9/24まで)。

ここにある朝鮮の白磁や染付、そして日本の有田で焼かれた染付は2階で行われる特別展を見た後、平常展示の部屋で毎回いくつか見ているので、この展覧会に熱く前のめりになっているわけではない。

足を向かわせたのは先月、世田谷美術館の“青山二郎の眼展”(8/19まで)で、朝鮮の白磁の優品(拙ブログ6/12)を何点もみたから。ちょうど白磁をもっとみたいなと思っていたので、民藝館のこの特別展は渡りに舟だった。

出展数は150点と普段とは比べのものにならないくらい沢山ある。白磁と染付はやきものの原点ともいうべき白と藍色だけのシンプルなやきもの。ここには李朝の17世紀末から18世紀初にやかれた“白磁大壺”(高さ53cm)が2点あり、1点は今、“青山二郎の眼展”にでている。いずれも胴の部分が非対称になっており、この形になぜか惹きつけられる。富本憲吉がつくる見事な白磁の壺も美しいが、こういう少し歪んだ造形にも心が揺すぶられる。

朝鮮の大きな白磁や染付の壺に較べると日本の染付けは小品が多い。例外は染付のやきもの展があるとよく貸し出される初期伊万里の“染付山水文大鉢”(17世紀、
径47.7cm)。余白をたっぷりとって、山、岩、木々が描かれた絵付けが秀逸。これはアメリカ人コレクター、ハリー・パッカードも狙ってた優品で、古美術商は柳宗悦に売ったという話しが伝わっている。もし、そのとき柳が高額の資金を用意できなかったら、今頃はメトロポリタン美術館の一室に飾られていたかもしれない。

今回、とても心を動かされたのは右の小さな“伊万里染付網目文壺”。食い入るようにしてみたのが器体に描かれた網目文の模様。壺の形と模様がぴったりあっている。明末の染付の皿にも網目文があったから、模様は中国で生まれたもの。伊万里の染付の湯呑や猪口(ちょく)には、網目文のような直線や折れ線、格子などでつくられるモダン感覚の模様が見慣れた草木文に混じっていくつもある。これは新たな発見。

着物や漆器などの工芸を一生懸命見ているのはさまざまな模様の世界に遊びたいから。模様好きにとって、この染付にみられる斬新な文様との遭遇は大きな喜びだった。

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2007.07.03

川端龍子の裸婦像

913大田区にある川端龍子の絵を常設展示する“龍子記念館”は昨年あたりから年2回興行。

料金300円で大作画を中心に20点あまりをみることができる。後半(7/1~
12/21)の切り口は“龍子が生み出す碧(あお)の世界”で、龍子が生涯をかけて追求した“水”の表現に焦点を当てている。

どういうわけか最近、“水の情景展”(横浜美術館)、“水と生きる”(サントリー美術館)など“水”をキーワードにする展覧会が多い。ここの“水”もいろいろある。普通サイズの風景画では、“水車”、“千住大橋”、“裏見の滝”。入り口にすぐ近くに飾ってある大きな絵“渦潮”(拙ブログ05/2/26)とは2度目の対面。

昨年後半あたりからここの所蔵品も2ランド目になり、前回とは別の発見があったり、前のイメージがさらに強化されたりする。これは見れば見るほど、シュルレアリスムのダブルイメージを表現した傑作に思えてきた。コピーがお得意の日本のシュルレアリストの絵より、目のまわりが金泥で彩られた白龍の姿と白波が重なるこの絵のほうが断然、シュールで想像力を掻き立てられる。

右の“翡翠(ひすい)”をみていると、龍子の描く対象とかモティーフのことが頭にあれこれ浮かんできた。川端龍子という画家ははじめ洋画をやり、途中から日本画に転じたから、洋画の基本である裸婦像をよく描く。これも大作で、右は右隻の女性たちが温泉の中に浸っている場面。湯面のゆらぎで水のなかにある裸身は異様に曲がったフォルムになっている。

小倉遊亀の作品で二人の少女が入浴しているところを描いた“浴女 その一”(東近美)という名画があるが、遊亀が湯船の底のタイルに凹凸をつけ、ゆらゆら感を表現したのに対し、龍子は女性の体そのものを強くデフォルメさせて湯面のゆらぎを描いている。

今回、水と密接な関係にある生き物の絵がいくつかある。その一つが河童。龍子は小川芋銭同様、河童描きの名手。美人コンテスト優勝者の“ミス・カッパ”、“酒房キウリ”、“河童青春・井守/水芭蕉”の4点はいずれも面白い河童の絵。時事問題に対する鋭い感度をもっていた龍子は河童の姿を借りて人間社会の世相を表現した。酒場の情景や若者の恋の悩みなどをユーモラスに描いた作品をみると、つい絵の中の河童に感情移入したくなる。

作品の数は少ないが、大きな絵からはほかの作家にないエネルギーというか力がこんこんとでているので、いつも気分が高揚する。今年の龍子鑑賞は早いがこれで終了。

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2007.07.02

大リーグオールスター戦、イチローと斉藤が選出

9127/10、サンフランシスコで開催される大リーグオールスター戦にマリナーズのイチローとドジャースの斉藤(左の映像)が選出された。

イチローはファン投票で外野手部門の3位で選ばれたからスターティングメンバーとなる。これで大リーグ入りしてから7年連続の出場。いまや堂々たる大リーグの看板選手である。

ドジャースのリリーフエース、斉藤は監督推薦による出場。リリーフ2年目の今年はスタートからすばらしいピッチングが続き、22セーブ(ナリーグ4位)とチームの勝利に貢献していたから、選ばれるのではと思っていたが、開幕の時点ではこんな大ブレークは予想もしなかった。37歳での晴れ舞台だから、これはすごい。拍手々!これまで投手でオールスターに出場したのは野茂(先発、ドジャース)、佐々木(リリーフ、マリナーズ)、長谷川(中継ぎ、マリナーズ)の3人。

イチロー、斉藤とも所属するチームの状態が現在とてもいい。今日の試合でサヨナラ勝ちして8連勝と波にのるマリナーズは首位のエンゼルスとのゲーム差を4に縮めている。エンゼルスも手強いから、マリナーズが首位にたつのはそう簡単なことではないが、今の勝率をキープしていけば地区優勝できなくてもワイルドカードでプレーオフにでられる可能性がある。

でも、まだ残り80試合の行方はわからない。3位にいるアスレチックスは例年オールスター後の後半戦で驚異的な粘りで頑張るから、最後の最後までもつれるのは間違いない。今年のイチローは調子がよく、打率を0.365(2位)にまであげている。トップを走り続けてきたオルドネス(タイガースの右翼手)の数字が0.369と落ちてきたから、大リーグ3度目の首位打者が射程内に入ってきた。イチローの頑張りがそそのままチームの成績に直結するから、今のいい状態を長く維持してもらいたい。

斉藤のいるドジャース(ナリーグ西地区)も好調で、首位のパドレスに1ゲーム差の2位とパドレス、ダイヤモンドバックスと互角の戦いをしているから、昨年にひき続きプレーオフ進出の可能性は高い。斉藤が得意のスライダーを武器にセーブ数をどんどん積み上げていくのをこれからもみたい。

レッドソックスの松坂は残念ながら選にもれた。レッドソックスからは勝ち星11勝でトップのベケットとリリーフのパペルボンが選ばれたから、これはしょうがないところ。中継ぎでいい成績を残している岡島はインターネット投票の候補になったから、投票が集まれば32番目の選手になれるかもしれない。

マリナーズの城島は惜しくも出場ならなかった。打率0.300(22位)はファン投票1位の名手イワン・ロドリゲスを上回っているのだが、今年はヤンキースのベテラン、ポサーダが狂ったように打っているので不運だった。7/10、イチロー、斉藤の活躍を期待したい。

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2007.07.01

07年後半 展覧会プレビュー

911今年もあっという間に半年が過ぎ、今日から後半。

前半における美術鑑賞の回数はスペイン、ポルトガルの美術館や名所訪問も含めて134回。一つの展覧会でも展示替えや前期、後期などのため数回出かけたりするから、展覧会の数としてはこれより少ない。

さて、後半も感動の展覧会を体験できるだろうか。12月までに国内の美術館で開催される展覧会のうち関心があって、足を運ぶ可能性の高いものをリストアップしてみた。

★西洋美術
7/21~9/2     黒田清輝展           平塚市美術館
7/26~8/26    キスリング展           横浜そごう
7/28~8/26    ルドン展              Bunkamura
8/1~8/24     アートコレクション展       ホテルオークラ東京
8/1~9/24     トプカプ宮殿の至宝展      東京都美術館
8/1~11/4     電撃展              岡本太郎記念館
9/2~10/25    ヴェネツィア絵画展       Bunkamura
9/8~12/9     レンブラント版画展       名古屋ボストン美
9/15~11/25   ベルト・モリゾ展         損保ジャパン美
9/26~12/17   フェルメール・牛乳を注ぐ女展   国立新美術館

9/29~12/9    シュルレアリスムと美術展   横浜美術館
10/6~1/6     ムンク展             国立西洋美術館
10/10~12/24  フィラデルフィア美術館展   東京都美術館
12/1~12/26   東郷青児展           損保ジャパン美

★日本美術
7/1~9/24     館蔵名品展Ⅱ 中国磁器   戸栗美術館
7/3~9/24     白磁と染付展          日本民藝館
7/7~9/7      金刀比羅宮 書院の美展    東芸大美術館
7/14~9/30    美術の遊びとこころ・旅展   三井記念美術館
7/25~9/3     日展100年展          国立新美術館
7/28~9/2     京の優雅・小袖と屏風展   五浦美術館
7/28~9/17    広重が描いた日本の風景展 神奈川県立歴史博物館
7/31~9/17    景徳鎮千年展          松涛美術館
7/31~9/9     京都五山・禅の文化展     東博
8/3~26       隅田川で夕涼み展 UKIYO-e TOKYO(ららぽーと豊洲)

8/4~9/24     花鳥礼讃展           泉屋博古館分館
8/7~9/17     若冲とその時代展       千葉市美術館
8/17~9/17    山口晃展            練馬区立美術館
9/1~10/21    屏風 日本の美展       サントリー美術館
9/1~10/28    仙厓展              出光美術館
9/1~11/25    バーナード・リーチ展      松下電工汐留ミュージアム
9/4~10/21    平山郁夫展           東近美
9/8~12/24    近代日本画展         松岡美術館
9/8~11/4     川合玉堂展           山種美術館
9/8~10/21    谷文晁とその一門展      板橋区立美術館

9/15~12/9    開館50周年記念名品展   逸翁美術館
10/2~11/25   ミネアポリス美蔵浮世絵展     松涛美術館
10/6~12/16   富岡鉄斎展           大倉集古館
10/6~12/2    工芸館30年のあゆみ展   東近美工芸館
10/10~12/2   大徳川展            東博
10/11~11/18  平櫛田中名品展        平櫛田中彫刻美術館
10/13~12/6   安宅英一の眼展        三井記念美術館
10/13~1/14   日本美術の新しい展開展   森美術館
10/16~11/18  狩野永徳展           京博
10/19~12/9   KYOTOきぬがさ絵描き村展  堂本印象美術館

11/1~12/6    広重肉筆画展         太田記念美術館
11/3~12/16   乾山と光琳展          出光美術館
11/3~12/26   鳥獣戯画展           サントリー美術館
11/10~12/24  秋の彩り展           山種美術館
11/13~11/21  村上豊展            銀座和光ホール
11/13~12/24  日本彫刻の近代展       東近美
12/2~2/8     茶碗の美展           静嘉堂文庫
12/4~1/27    北斎とシーボルト展      江戸東博
12/14~2/17   工芸の力展           東近美工芸館

(ご参考)
・西洋美術で一番期待しているのが、“フィラデルフィア美術館展”。チラシを見る限り、ルノワール、モネ、クレー、マチスの画集に載っている名画などすごいのが沢山やってくる。開幕が待ち遠しい。
・一点豪華タイプの展覧会としてワクワクするのが、アムステルダム国立美から出品されるフェルメールの傑作“牛乳を注ぐ女”、キスリング展の“モンパルナスのキキ”、シュルレアリスム展におけるマグリッドの“大家族”。
・西洋美の“ムンク展”も期待大。一度フィレンツェのピティ宮で開催されたオスロ市立美のムンク展をみたことがあるが、110点でるので初見の作品に多く会えるだろう。

・日本美術では、もうすぐはじまる“金刀比羅宮展”と秋の“狩野永徳展”の鑑賞のためにエネルギーをためている。“狩野永徳展”では長年追っかけていた“唐獅子図屏風”(全期間展示)と漸く対面できる。
・五浦美術館の“小袖と屏風展”にクルマを走らせるのは、ひとえに円山応挙の絶筆“保津川図”(重文)をみるため。03年大阪市美で開催された大回顧展のとき、展示替えで見ることができず残念な思いを抱き続けてきたから、偶然HPでこの展示を見たときはとびあがるほど嬉しかった。

・小平市平櫛田中彫刻美術館で行われる名品展は田中の生地岡山県井原市にある田中美術館が所蔵する彫刻作品を中心とするもの。広島にいるとき、ここへ行きそびれたので、この展覧会は大変有難い。
・板橋区立美の“谷文晁展”は江戸絵画では有名な安村館長がどんな作品を見せてくれるかすごく楽しみ。

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