徳岡神泉の仔鹿
福田平八郎展のあと立ち寄った京近美の平常展(拙ブログ5/20)に5点展示してあったし、横浜美の“水の情景展”(7/1まで、5/24)にも3点あった。
そして、現在開催中の東近美平常展(8/12まで)では“蓮”、“菖蒲”、右の“仔鹿”の3点と対面した。
これまで、徳岡神泉の回顧展に縁がなく、画集を持ってないので、この画家が生涯にどのくらいの作品を描いたかわからない。が、最近鑑賞した11点は近代日本画の殿堂ともいうべき東京と京都の近代美術館が所蔵するものだから、これらの代表作をみれば充分ではないかと思っている。ほかで思いつくのは“流れ”(京都市美)と“赤松”、“富士山”(東近美)。
最も好きなのは東近美所蔵“仔鹿”と“刈田”(横浜美の水の情景展に貸し出し中)。“刈田”は福田平八郎の“雨”と似たような感じだが、“仔鹿”にはさらに抽象的な雰囲気が漂う。絵のタイプとしては一頭の赤い仔鹿を描いた動物画。でも、背景は実景でなく、何度も塗り重ねられた青緑の色面。描かれた仔鹿の赤は岩絵具独特のマチエールをもち、背景の地から浮き上がるように輝いている。
これは対象が具象的な仔鹿とはいえ、西洋画の範疇からすると抽象画の世界。だが、日本人の洋画家が描く観念的な抽象画より、極度に単純化した構図で自然の本質を象徴的に描いた徳岡神泉の作品にずっと心を揺さぶられる。この絵について、徳岡は“奈良でよく見かける風景ですが、夕暮時何処からともなく集まってきた鹿が、静かにひびく梵鐘の音に吸い込まれるように、薄暗の中を一匹一匹消えてゆきます。ぽつんと一匹とりのこされた鹿ーこうした情景の中に響く梵鐘の気持ちを描いたものです”と語っている。
29歳のとき描いた細密画“蓮”では、蓮の葉にたまる水玉の超リアルな質感表現で見る者をあっと驚かせ、晩年の65歳のときには象徴的な絵画空間でまた人々を深く絵の中に惹き込む。すごい感性と卓越した画技をもちあわせた偉大な画家というほかない。
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コメント
徳岡神泉、奈良まで観に行くほど好きなのに、まだこの仔鹿の実物を観たことありませんでした
東近美平常展に出ているとは嬉しいですね
8月までならまず今度は観逃さないでしょう と、言っても嬉しくて早速行きそうです
今日は、足利市立美術館で「飯田義国の版画と彫刻」をみたのですが、これもネットの書き込みで知って行きました
好きなもの見逃さずにすむ情報ありがたいです ありがとうございます
投稿: えみ丸 | 2007.06.10 22:41
to えみ丸さん
過去3年の東近美の平常展で、徳岡神泉の作品は
12点くらい展示されました。毎年でてくる“菖蒲”は
大きな絵ですね。
“仔鹿”が前回展示されたのは05年12月ですから、
1年半ぶりの登場です。向こう側にふりむく仔鹿の赤
が目にしみ、ずっとこの絵の前に立っていたくなります。
投稿: いづつや | 2007.06.11 12:11
日本画家、上村松園の検索で横道逸れ、たどり着きました。徳岡神泉の仔鹿にビックリ。面白そうな記事満載で勉強させていただきます。
投稿: 緑の森 | 2007.06.19 15:30
to 緑の森さん
はじめまして。書き込み有難うございます。
好奇心が強いものですから、いろいろな美術
品に首を突っ込んでおります。
徳岡神泉のぬいぐるみのような仔鹿にぞっこん
です。これからもよろしくお願いします。
投稿: いづつや | 2007.06.19 22:43