パリへ 洋画家たち百年の夢
以前、TV番組に出演した村上隆が“才能についてどう考えてます?”と問われて、“日本人は絵がほんとうに上手いと思う!これは鳥獣戯画などを描いた人から受け継いだDNAではないか”と答えていた。現在、東芸大美で開かれている“パリへ 洋画家たち百年の夢”(6/10まで)をみると、村上隆の言うとおり、日本人は絵を描くことに長けた民族だなとつくづく思う。
明治以降、西洋画の吸収と独自の画風を求めて多くの画家たちがパリをめざした。東芸大の創立120周年を記念するこの展覧会では東京美術学校とその後身の東芸大で学んだ画家たちの作品が数多く展示してある。普段、洋画鑑賞には日本画の半分のエネルギーした費やしてないが、今回は日本洋画壇のスター画家たちの名品が集まっているので、全身に力をいれてみた。
まだ見てない作品で関心を寄せていたのが目の前に現れた。黒田清輝の大作裸婦図、“智・感・情”(1897~99)。画集で頭のなかに入っていた絵だが、これほど大きな絵とは思わなかった。金地を背景にして、大柄な女性の体の輪郭を赤でひいており、アクセントをつけるため、ところどころその赤がゴールドに重ねられている。真ん中の印象主義を寓意する“感”の女性は顔がどことなく興福寺にある阿修羅像を彷彿とさせる。
上の藤島武二作、“女の横顔”(1926~27)はチラシでみたときから早く対面したと願っていた絵。理由は女性の横顔描きがとても様になっているのと、もうひとつ、このモデルに関心があったからである。藤島はイタリアルネサンスで定番となっていた横顔肖像画に想を得たのであろうが、日本の女性をつかってよくこんなに上手に仕上げたものである。ウフィツィ美術館にあるポライウォーロの“婦人の肖像”やボッティチェリの“シモネッタ・ヴェスプッチの肖像”(丸紅)と同様、見てて爽快な気分になる。
この中国服を着てモデルをつとめているのは竹久夢二の三番目の愛人、お葉。“絶世の美女”といわれたお葉(佐々木カ子ヨ)は1904年、秋田市の出身。13歳で東京美術学校西洋画科教授の藤島武二のモデルをつとめた。その後、15歳のころから夢二のモデルになり、下の代表作のひとつ“秋のいこい”(1920)ではさびしげで寄る辺のない若い女として描かれている。この絵は今年1月、千葉市美術館であった夢二展(拙ブログ1/27)に展示された。お葉は22歳のとき、夢二と別れ、再び藤島の作品のモデルになる。ポーラ美術館が所蔵する“女の横顔”はそのときの一枚。画集にはこれと同じ中国服スタイルの横顔画、“芳恵”(個人蔵)が載っている。傑作といわれる“芳恵”にいつかお目にかかりたい。
このほかで魅せられたのは、これぞ日本の古典画ともいうべき名画、山本芳翠作“浦島図”と和田英作の“野遊”、安井曽太郎の“婦人像”、梅原龍三郎の“竹窓裸婦”、林武の“ノートルダム”、里見勝蔵の“室内(女)”。いい絵を沢山見たという充実感が心のなかにひろがる展覧会であった。
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