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2007.03.21

プラドで超人気のボス

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美術館に入ってすぐ向かったのが1階のボスの絵がある部屋。前回、ボスの傑作、上の“快楽の園”はしっかり見たものの、この美術館が所蔵する世界一のコレクション(6点)のうちほかの絵のことはすっかり記憶から消えてしまった。“快楽の園”に満足しすぎして、ほかの作品はもう感動の大きな袋のなかに入る余地がなかったのか、あるいは展示してなかったのかもしれない。

で、3度目のプラドではこのリカバリーに多くの時間を割いた。お目当ての一枚が真ん中の“乾草車”。そして、もう一点、第二のボスと呼ばれたブリューゲルが描いた“死の勝利”。予定ではこの2点と“快楽の園”をみて、次のターゲットに向かうはずだったが、あと3点ボスの作品があった。下の“阿呆の治療”と“東方三博士の礼拝”、そして“聖アントニウスの誘惑”。これらの絵がプラドにあったことをおぼろげながら思い出し、連鎖反応でもう1点“七つの大罪”もよみがえってきたが(これで6点)、これは展示してなかった。ボスの絵が想定外に多くなり、テンションがぐぐっと上がった。作品にあんまり近づくので監視員に二度も注意される始末。

ベラスケスやゴヤの絵よりも、ボス(1453~1516)が超想像力を使って描いた奇妙な世界を堪能するためにわざわざプラドを訪れる人は結構いるのではないだろうか。特に人気のある“快楽の園”の前では大勢の人が熱心に鑑賞している。ボスの作品は現在、大半がスペインに所蔵されている。ここの6点はフェリペ2世のコレクションだったもの。ボスは生地、ネーデルランドの町スヘルトーヘンボス(今のオランダ南部)で絵の制作に励んだが、最初の頃、ほとんどの人はボスをただの“怪物や幻獣の創造者”にすぎないと考えていた。

16世紀中頃この悪魔的な絵を収集したのがスペイン人ゲバラで、この男の死後、フェリペ2世(1527~1598)がそのコレクションを引き取った。29歳で国王になったフェリペ2世は21歳の頃はじめてスペインを離れ、ドイツ、イタリア、ネーデルランドに長期滞在した。そのときボスを発見する。1584年に完成したエル・エスコリアル宮殿(マドリード郊外)にあるこの王の私室はあまり広くない質素な部屋だったが、ここでボスの絵を楽しんでいたといわれる。

“快楽の園”は保存状態がとてもよく、色彩の美しさに感動する。三連画の中央に表現されているのが官能的な地上の快楽、人間の罪深い所業の数々。そして、左翼には原罪を表すイブの創造の場面が、右翼には罪に対する罰としての地獄の光景が描かれている。ここに登場するほそっとした姿の裸の人間はところどころで植物や動物、卵などに変身する。美しくもあり、不条理でエロティシズムにあふれる世界だ。
地獄の画面の真ん中に大きく描かれた“樹木人間”にドキッとする。2隻の船の中に木の形をした脚を入れ、後ろは穴のあいた卵の形をしている。幅広の帽子の下からこちらを見ているのはボス自身であろうか。日本の地獄絵でもそうだが、罪人は獄卒の悪魔から種々の刑をうける。男がハープの弦にはりつけにされたり、龍が巻きつくリュートに縛りつけらりたりしている。細部までじっくり観てボスが伝えようとする寓意や象徴を解き明かせれば面白いが、今回は残念ながら時間的余裕がない。

真ん中の“乾草車”も“快楽の園”と同じ三連祭壇画。描かれたのは“乾草車”のほうが先。この絵はエル・エスコリアル宮殿にもうひとつのヴァージョンがあるらしい。巨大な乾草車が広大な風景のなかを右のほうへ横切っていく。怪物が車を引っ張り、後ろから教皇や皇帝、王といった世俗の権力者たちが馬に乗って進む。荷車の横が騒がしい。よくみると、民衆は乾草を我先に引き抜こうとし、喧嘩までし始めている。絵のテーマであるフランドルのことわざ“この世は乾草の山であり、だれもがありったけをつかみ取ろうとする”に即納得する光景である。乾草車は現世の財産を表し、世の中こぞってそれに同行するが、乾草車はやがて右の地獄へと転がっていく。

下の“阿呆の治療”は滑稽な絵。絵の外枠に“先生、わたしのあたまから石を取り除いて下さい。わたしはルッベルト・ダスと申します”と書かれている。当時、愚かなのは頭の中に愚かしさの石があるからで、それをとれば馬鹿も直るという迷信を信じる人がいた。で、外科医はそのお馬鹿さんの頭を切り裂く手術をし、金を儲ける。絵はこれを絵画化したもの。

石を取り出す手術といえば、ボスの時代、いかさま行為の代名詞だった。オランダの文学では超お馬鹿さんを表すときにこのルッベルトの名を使っていたという。不思議なのは外科医と尼僧の頭に漏斗や本をおいていることや治療してもらってるお馬鹿さんの頭から取り出しているのは石ではなく、花であること。いかさま医師はカモからお金を巻き上げるには仲間と組んで手の込んだ演出をする必要があったのだろう。

今回の鑑賞でボスの代表作の7割を見たことになる。大収穫のプラド美術館見学であった。

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コメント

いづつやさん、お帰りなさいませ。充実のご旅行だったようですね♪

プラドの「快楽の園」の前は人波が絶えませんよね。本当にプラドを代表する傑作だと思います。注意されても、ついマジマジと見惚れてしまいますよね(笑)
いづつやさんも触れていらっしゃる通り、フェリペ2世が大変なボス好きだったようで、エル・エスコリアルに行った時には「快楽の園」のタペストリーまであるのには驚いてしまいました。

ところで、いづつやさんはポルトガルにもいらっしゃったようですが、もしかしてリスボンのボスも...期待しております(^^)

投稿: 花耀亭 | 2007.03.22 03:15

to 花耀亭さん
もっと時間があればボスの絵を細部にわたりじっくり
見れたのですが、初見の4点とブリューゲルの“死の
勝利”で大満足です。

“快楽の園”は本当に魅了されますね。皆食い入る
ように見てます。今回もこういう風にみたかったので
すが、ほかの絵を優先しました。

リスボンにある三連画“聖アントニウスの誘惑”は
自由時間なしのツアーだったのでお目にかかってま
せん。でも、この絵はボス自身が模写したのをベルギ
ー王立美術館で見ましたから、一応済みにしてます。

投稿: いづつや | 2007.03.22 17:11

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