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2007.03.22

ルネサンス・北方絵画の傑作

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美術館で絵画を鑑賞したあとずっと印象に残っている絵がある反面、だんだん記憶が薄れてくる絵もある。記憶にとどまらない絵はそのとき見てなかったか、見たいと思う気持ちが弱かったかいずれかである。でも、時が経つにつれて、どっちだったかわからなくなる。

今回のプラド訪問でなんとかリカバリーし、目に焼きつけたいと思った作品がベラスケスやゴヤ、ボス以外にもある。それが真ん中のフラ・アンジェリコの“受胎告知”と下のファン・デル・ウェイデンの“十字架降下”。90年、この美術館を訪問した際購入した図録(日本語版)にはどういうわけか、白黒の図版しか載ってない。あまりに味気ないので、絵葉書を沢山買い込み、実際の絵の印象を体に染み込ませてきた。で、今回やっと色つき図録を手に入れた次第だが、図版をみてがっかりした。00年に初版が発行されているのに実際の色がよくでてないのである。印刷会社の技術レベルがイマイチなのかもしれない。最近、海外の美術館で買った図録では一番色をひろってない。これはまったく想定外。

感激の2点のまえに前回熱心にみた上のボッティチェリの面白い絵、“ナスタジオ・デリ・オネスティの物語”のことから。これはボッティチェリ(1445~1510)が構想し、実際には工房の弟子たちが描いたといわれている。ボッカチオの“デカメロンの物語”に題材を得た4連作で、プラドに最初の3枚があり、最後の場面は個人蔵になっている。上の絵は三番目の場面。真ん中で両手を上げているのがナスタジオ。横は怖い光景。裸の女が2匹の猟犬に太腿を噛まれている。右で白馬にまたがり猟犬をけしかけているのがこの女を恋してしまった騎士。

どうして、好きな女を怖い目にあわせているのか?その理由がちょっと身勝手。女が自分になびいてくれないのでこの騎士は自殺してしまう。ところがこの男(幽霊)は女の愛情のなさを恨み、その罪の深さをわからせようと猟犬を使ってつかまえ、心臓をえぐり出し犬に食わせるという残虐な行為におよぶ。が、不思議なことに死んだはずの女は起き上がり逃げていく。そして、逃げる女を騎士と猟犬が追っかけていく。これが延々と続く。これをたまたまみたナスタジオは仰天する(この場面が前の2枚に描かれている)。

で、ナスタジオは自分が愛している恋人も同じようにこっちを向いてくれないので、恋人と一族を宴会に招待し、この恐ろしい場面を見せる。するとこの脅しがしっかり効いて恋人は心を開き結婚に同意する(これが最後の絵に描かれているとのこと)。ちょっとサディスティックな場面だが、ボッティチェリの特徴である優雅な線で描かれた人物と動感表現に心を揺すぶられる。

フラ・アンジェリコ(1395~1455)の“受胎告知”はフィレンツェのサン・マルコ修道院にある同名の作品と並ぶ傑作。サン・マルコのが抑制ぎみで静かな雰囲気に包まれているのに対し、この“受胎告知”に描かれた救世主の身ごもりを告げる大天使ガブリエルとそれを聞くマリアの間には緊張感があり、劇的な感じがする。左斜め上から出てくるゴールドの線状の帯には聖霊を表す鳩がいる。そして、左の遠景はキリストの贖罪の原点であるアダムとイヴの楽園追放の場面。大天使の金色の翼、マリアが着ている目の覚めるような青の衣装、そして金光に吸い込まれそうになる。本当にいい絵をみた。

ファン・デル・ウェイデン(1399~1464)の“十字架降下”も驚愕の一枚。美術本には数ある“十字架降下”のなかで一番の傑作と高く評価されているが、実際この絵の前に立つとそれを実感する。十字架からおろされたキリストより、気絶した聖母マリアの姿に視線が集中する。よくみるとキリストとマリアの体は同じ形。リアルな感情表現、鮮やかな青や赤、緑などの色使い、そして衣装の襞までしっかりとらえた細部描写に200%KOされた。一生の思い出になる名画との遭遇に腹の底から嬉しさがこみ上げてきた。

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コメント

こんにちは。
ウェイデンについて調べていて、立寄り、つい書き込んでいます。
2週間ほど前、プラド美術館にて、『十字架降下』を見てまいりました。
これほど絵の前を離れがたいと思ったのはほんとうにひさしぶりのことでした。どうしてこれほどもまでにひきつけるのか、よくよく考えてみると、この絵の登場人物がほぼ等身大で、人の目の高さで救い主の死をとらえているところかな、というように感じました。それが鑑賞者を引き込み、感情移入をさせるのだろうか、と思いました。
わたしも手元に持って行った資料のあまりの色の違いに、あらためて原画の力、というかすばらしさを感じました。
わたしにとっても一生の思い出となる絵となりました。

投稿: あるデザイナー | 2008.07.04 17:29

to あるデザイナーさん
はじめまして。書き込み有難うございます。

プラドでは今、ゴヤの“戦争と平和展”
(4/15~7/31)が開かれていることを“芸術
新潮7月号”で知り、すぐにでも出かけたい心境
です(今年はパスですが)。これも見られたので
しょうか?

“十字架降下”でウェイデンに完璧に目覚めま
した。鮮やかな色彩、内面描写、細密な筆致、
本当にすごい絵ですね。1月、3月の海外美術館
めぐりでもウェイデンとヤン・ファン・エイクの
絵は夢中になってみました。今は北方絵画の虜
です。

これからもよろしくお願いします。また、気軽に
お越しください。

投稿: いづつや | 2008.07.05 13:10

はい。常設展の料金でゴヤの特別展も観られるということで、しっかり観てきました。なかなか充実の内容でした。また、いまルネッサンスのポートレイトだけを集めた企画展もやっていて、そちらにも惹かれましたが、時間の都合上あきらめざるを得ませんでした。それぞれをじっくり鑑賞するには最低でも3日は必要でしょう。今回、わたしはリベラに目覚めました。この主題にこのサイズでなければいけなかったのかと思うようなスケールに妙に説得をされた気がしました。
エイクは、描写力についてはウェイデンよりも勝っているといわれますが、わたしはウェイデンの動きのある構図や、より庶民性が感じられるところが好きです。以前、ベルギーを訪れたとき、たまたま知り合った現地の人がゲント(ヘント)に住んでいて、数時間だけその人の家に案内されたのですが、そのとき旧市街区を通り過ぎるとき、「ああ、ここにはエイク兄弟のあの祭壇画があるんだよなー」とむずむずした思いを抱えながら車に揺られていたのを思い出します。あとで、その現地人曰く「ゲントには宝がたくさんあるから、こんどはゆっくり訪ねておいで」...そのことばを聞いてもう10年以上が過ぎますが、まだ実現されていません。

投稿: あるデザイナーさん | 2008.07.08 01:53

to あるデザイナーさん
ゴヤの特別展が通常料金というのは気が利い
てますね。

おっしゃるように、ウェイデンの絵に登場
する人物のほうがエイクより庶民的な感じが
しますね。ロンドンのナショナルギャラリー
にある“読書するマグダラのマリア”などは
普通の女性がマリアになってます。

ゲントでエイクの“神秘の子羊”を見るのが
長年の夢でしたから、絵の前でな大変感動し
ました。その感動をいつかあるデザイナー
さんとも共有できるといいですね。

投稿: いづつや | 2008.07.08 23:43

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