棟方志功と文学
鎌倉にある棟方板画美術館の展示は年2回のみ。
開館25周年を迎える今年前半(1/10~6/24)は文学と関わりのある作品を展示している。
墨一色の絵はアジア大陸の雄大さをテーマにした蔵原伸二郎の詩“崑崙”、中央公論に連載された谷崎潤一郎の小説“鍵”、ギリシャ神話の“パリスの審判”。そして、保田與重郎の短歌や後援者であった大原総一郎の母で歌人でもあった大原寿恵子の歌集、ホイットマン詩集は色つきで絵画化している。
このほか、女体や草木模様のなかに“般若心経”の経文262文字を配した“追開心経頌”やインドの寺院に彫られていた愛の姿態に想を得た“厖濃の柵”(ぼうのうのさく)、“捨身飼虎の柵”といった宗教関連の作品もある。これらは皆黒白。
はじめての作品で熱心に見たのが“鍵板画柵”。全部で59点ある。棟方の絵というとすぐ、“弁財天妃”のような大首絵の女人の顔を連想するが、この大首絵は“鍵”のヒロイン郁子の肖像画からはじまった。棟方が描く土俗的でおおらかなエロスの世界は心をザワザワさせる。地下の展示室に飾ってある“厖濃の柵”はいつものことだが人物が横を向いたり逆さになっているから、形と形のつながりがすぐにはわからない。が、目が慣れてくると、絵のテーマに納得するとともに昔インドを旅行したとき神々の愛の形にドキッとした記憶がかすかに蘇ってきた。
彩色画で惹かれたのは親交のあった保田の短歌を絵にした“炫火頌”(かぎろいしょう)。50柵を目指したが、最終的には33柵が完成した。これはその中の12点を選び六曲一双の屏風に仕立てたもので、女体の色々なヴァージョンがでてくる。黒で彩色された二人の一人が普通に座り、相手の方は逆さになってたりとか、頭の位置を逆にし上と下で平行になってたりする。女が白で描かれるとき、背景は鮮やかな黄色や赤、緑で花模様などを装飾的に彩色している。
右は千手観音のような白い女人が心を揺さぶる“神火の柵”。“炫火”は光輝くという意味なので、これはタイトルにピッタリの絵。“大原頌”は何度みても心が和む。最初の鳥かごの絵や太い黒の輪郭線で描かれたお寺、広重の絵みたいに中央にどんと立つ大きな木などに惹きつけられる。この美術館が所蔵する作品は今回の展示で8割くらいみた。ゴールまであと少しである。
| 固定リンク
コメント