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2007.02.05

茅ヶ崎市美術館の萬鉄五郎展

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葉山で思いもかけず萬鉄五郎の作品を沢山みたので、予定していた訪問日を早め翌日、茅ヶ崎市美術館で行われている“萬鉄五郎展”(1/20~2/25)をみてきた。

ある画家の絵が気になりだすと、不思議なもので作品が向こうからやってくることがよくある。萬鉄五郎については、上の代表作“裸婦美人”(重文)、“もたれて立つ人”を東近美の4階で頻繁に見ているので、日本人洋画家としては青木繁、岸田劉生とともに大きな画家だということはわかっている。が、解説文でその出身地や画歴をこれまで読んだことがない。それは“裸婦美人”が気を惹く絵ではあっても、好きな絵ではなく、“もたれて立つ人”にしてもキュビスムの絵ならピカソやブラックの絵を楽しむという気分が強かったからである。

こういう鑑賞態度が“揺らぐ近代展”(06年11月、東近美)に出品されていた萬の南画風の日本画をみて変わった。“あの日本で最初にフォービスムとキュビスムの絵を描いた萬鉄五郎がこれほど上手な日本画を描いていたのか!?”という感じである。このときも、いつ頃日本画を手がけたという情報は横においたままだったが、心の中で萬鉄五郎に対する好き度が確実にアップしたことは間違いない。で、茅ヶ崎市美術館が開館10周年を記念して開催する萬鉄五郎の回顧展へは是非出かけようと決めていた。

今回は東近美、岩手県美、萬鉄五郎記念美術館、神奈川県近美、平塚市美術館、茅ヶ崎市美術館などから出品された46点を展示している。“裸体美人”や“雲のある自画像”(岩手県美)など有名な絵が沢山集まっており、画業全体への理解が進む。美術館スタッフの意気込みが伝わってくる上質の展覧会と言っていい。それもそのはず、萬鉄五郎は41歳で亡くなるまで8年間を茅ヶ崎ですごしたのである。この時期、日本画を本格的に制作したようだ。だんだんわかってきた。

画家本は代表作を7割鑑賞しないと読まないことにしているが、この回顧展でこの基準がクリアされたので、図録に掲載されている論考をむさぼるように読んだ。それで萬鉄五郎という画家の人柄、画風の全貌が一通り頭の中に入った。これまで知らなかったことが恥ずかしくなるが、上の“裸体美人”は東京美術学校の卒業制作として描かれたものだった!いきなり頂上となる絵を描いちゃったのである。上半身裸の女性が腰から下につけている服の赤と横たわっている野原の緑の対比が目に焼きつく。草花の描き方は明らかにゴッホの影響である。

奇妙なのが“ちょっと休んでいる感じでいいでしょうか?”とポーズをとっている健康的な田舎の女性の頭の上に描かれたピンクの雲。どういうわけか、“自画像”にもこの雲がある。“モダンパラダイス展”(06年8月、東近美)でみた着物姿の“自画像”では赤と緑(補色)の雲が頭の上を流れていた。子供のようなこの“自画像”の髪の紫や目や鼻のまわりの緑をみていると、マティスの女性画“緑のすじのある肖像”(コペンハーゲン国立美術館)がダブってくる。

神経衰弱で体調を崩した鉄五郎が転地療養のため東京から移り住んだのが茅ヶ崎。ここで南画風の水墨画を何点も制作している。下はその一つ、“帰り道”。手前の道を走る人力車は漫画的な表現で、斜めに傾く松の木や家々はいかにも田舎の風景。なにか切迫した気持ちが顔に現れた“自画像”とは対照的に、ここではのびのびとした自由な心でゆったりと時間がながれる田舎の光景をとらえている。日本画はほかにも吉祥絵の“蓬莱仙閣図”、余白をたっぷりとった構成が心を和ます“柳島風景”などに足がとまった。

日本画と並行して描かれた油彩画では、娘の肖像画“少女”、キュビスム的なイメージは残るものの色は強い対比の原色からはだいぶ薄くなり、より平面的に感じられる“裸婦(ほお杖の人)”に魅せられた。2回の展覧会で萬鉄五郎の作品がぐっと近くなった。これからは好きな画家に接するのと同じ心持で作品と対面するようになるだろう。

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コメント

あぁ、行ってこられたのですね。
本当に次々と美味しい所にお出かけです!!
私は、去年近美の常設だったか、モダンパラダイスだったか、
いずれにしても萬鉄五郎が好きになりました。
それで、茅ヶ崎に是非にと思っている所でした。

彼の色使い、線の太さ、溢れる土着の光、そんな物を強く感じて、
安堵するように、じわっと好きになったのでした。
真面目に行くこと考えます。
詳しいレポート、ありがとうございます。

投稿: あべまつ | 2007.02.05 22:53

追記です。
ゴッホと、棟方志功と、流れる水が同じような所感じました。

投稿: あべまつ | 2007.02.05 22:55

to あべまつさん
萬鉄五郎はフォービスムもキュビスムも同時に描くの
ですからまったく凄い画家です。数年前、重文になっ
た萬の“裸体美人”をみて東京美術学校の教授であっ
た黒田清輝は度肝を抜かれたでしょうね!

ゴッホ、マティス、ピカソを吸収してご独自の画風を
つくったのですから、絵の描く才能は尋常ではない
です。そして、最後には南画まで描いてしまうので
すから。

いつか岩手県立美や萬鉄五郎記念美術館を訪ねよ
うと思います。

投稿: いづつや | 2007.02.06 10:54

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