茨城県近代美術館の加山又造展
大好きな日本画家、加山又造の回顧展(2/17~3/25)が開かれている茨城県近代美術館を訪問した。水戸まではJR上野駅から常磐線スーパーひたち(特急)に乗ると65分くらいで着く。この美術館ははじめてなのでどっちの方角か説明できないが、駅からはバスで5分くらいのところにあった。
加山又造(1927~2004)は近代日本画の巨匠の一人で人気の高い画家なのに、回顧展は昨年、今年の2回とも東京にやってこない。で、昨年は神戸大丸店(拙ブログ06/3/11)や長野市の水野美術館まで足をのばし、2/17からはじまった回顧展もこの美術館の単独企画なので水戸市まで追っかけざるを得ない。
今回展示されてる作品は45点。このうち18点は昨年とダブルが、初見の絵が多くあるので気分は上々。会場を進むうちに神戸大丸店のときのように体がだんだん熱くなってきた。個人の所蔵が多く、半分を占める。美術館にあるものでは東近美から11点出張している。3年前、東近美であった“ミニ回顧展”の再現である。
代表作の一つといっていい“冬”はブリューゲルの“雪中の狩人”(ウィーン美術史美術館)の構図に想を得て制作された。左の木々が林立する高台には狼が2匹おり、一匹が急角度で傾斜する谷底にむかって咆哮すると無数のカラスがそれに呼応するかのように低空を旋回する。ところが、奇妙なことに画面中央、垂直にのびる細い木に一羽のカラスが止まっている。なぜこのカラスは群れのなかに加わらないのか?入りたくてもカラスは目が見えないから飛べない。冬景色と盲目のカラス、見ているとじわじわ心を揺さぶられる絵である。
加山は画風をどんどん変える。若い頃の未来派の絵を見るような“駆ける”や“月と縞馬”、“狼”のあとは日本画の伝統、やまと絵と琳派の画風をミックスした華麗で装飾性豊かな絵を制作する。代表作である上の“春秋波濤”(東近美)と“雪月花”が並んで展示してある。これは圧巻。言葉はいらない。これほど見事な装飾美、様式美がほかにあろうか!滑らかで立体的な曲面の波濤のなかに浮かんでるように春秋を象徴する桜の山、紅葉の山が描かれている。先がきれいにまるくなったバドミントンのシャトルみたいな超平板な山の内部は桜と紅葉で一杯。
昂揚した気持ちをさらに高めてくれるのが隣に飾ってある大作屏風絵、“千羽鶴”。うすいゴールドと濃いゴールドで様式的に描かれた沢山の鶴が満月と三日月を背にリズミカルに飛翔するする光景はまさに光悦・宗達のコンビが取り組んだ平安王朝ルネサンスの再現。現代の琳派絵師、加山又造ここにあり!という感じである。
加山が晩年精力的に制作した水墨画にも傑作がずらっとある。“黄山涌雲・霖雨”、“雪ノ渓”、“凍れる月光”、“墨龍”など。下の“墨龍”(左隻)ははじめてみる龍の絵。右と左で目線を合わせている龍は宗達の“風神・雷神”のポーズを連想させる。左の龍は雷神の足の構えとそっくり。隣には雲がうずまき、画面の右半分はたらし込みで表現された波濤。加山はほかにも京都・天龍寺の法堂天井や日蓮宗の総本山身延山久遠寺の本堂天井に龍を描いている。これもいつか目におさめることを夢みている。
今回はこの龍図もふくめて収穫の多い回顧展だった。加山又造の追っかけはまだまだ終わらない。
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コメント
いづつやさんのお住まいとは離れていますが多摩センターの多摩美術大学美術館で「加山又造ーアトリエの記憶」の展覧会が開かれています。
ここは加山又造研究会なるものを作って研究を進めているようですが、屏風絵「倣北宋水墨山水風景」が目玉でしょうか。
一方1983の「花」にはこの人の情念を感じました。
それはともあれ東京での本格的な回顧展が僕も待ち遠しいです。
投稿: oki | 2007.02.21 10:11
to okiさん
多摩美の加山又造展は承知しているのですが、今回は
パスするつもりです。加山は“倣北宋水墨山水風景”
を何点も制作しているようですが、昨年も今年もでて
ました。北宋の山水画は深遠で怪奇的な感じで、南宋
の風景画とはだいぶ趣が異なりますね。
代表作の8割くらいを観ましたが、まだいい絵が残って
ますから、これらが東京で鑑賞できればと思ってます。
投稿: いづつや | 2007.02.21 21:08