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2007.02.21

内田千鶴子著 「写楽を追え」

7094度目のギメ美展をみるため、太田記念館を訪問した際、地下のギャラリーショップに内田千鶴子さんの写楽研究の最新作、「写楽を追え」(イースト・プレス、07/1/31)がほかの浮世絵本とともにおいてあった。

内田女史は93年に出版された「写楽・考」(三一書房)で評判をとった写楽研究の第一人者。実証分析に基づき“写楽は能役者”と主張したこの本の出現により、それまで流行していた写楽別人説は沈静化し、今では写楽=能役者という内田説が定着してきている。

この本はMy浮世絵本に入れている愛読書の一つで、時折読み返しているから、偶然目の前にあった新作に色めいた。で、宝物を発見したような気分で購入し、一気に読んだ。ギメ美展で質の高い写楽の役者絵を9点みたばかりだから、記述内容が水が綿に染みわたるように体の中に入っていく。流石、27年の研究成果が凝縮され、論点は一々納得がいく。しかも、エンターテイメント仕掛けになっているので小説を読むような楽しさがある。

内田女史は小説家にもなれるくらい文章がうまい。だから、浮世絵のことを少し詳しくしかも楽しく知りたい人にはこの本はうってつけかもしれない。新作映画で禁じ手になっているようにネタばらしは避けたいので、小説仕立てのところには触れず、読んでためになるポイントを紹介することにしたい。

その一 写楽が登場する時代背景がコンパクトにまとめられている。松平定信の寛政の改革は文化行政にまで及び、歌舞伎の演目、浮世絵の制作にいろいろ注文がつく。お上の禁令に引っかかり罰を受けた浮世絵師や出版元などが詳しく記述されている。

その二 浮世絵制作の過程がわかる。絵師、彫師、摺師の作業分担、版元の役割が会話形式で書いてあるのでよく頭に入る。

その三(本題) 写楽がどうして能役者なのかがわかる。「写楽・考」の論点を整理し、これに93年以降の研究成果をつけくわえ、写楽=能役者が明確に主張されている。肝の部分であるが、仮説を裏付ける資料の発掘を精力的に行っており、素人のわれわれでもほかの研究者や過去写楽別人説を唱えた人は“もう写楽は内田さんにおまかせする!”と両手を上にあげたなと思う。

その四 写楽がなぜベラスケス、レンブラントに並ぶ世界三大肖像画家と言われているかが理解できる。ここは美術史の知識という面でもすごく勉強になる。

その五 写楽の絵における能の影響についての分析が面白い。 斉藤十郎兵衛(写楽)は能役者だから能面、能衣装の文様、色彩に精通している。歌舞伎役者の生顔に能面をだぶらせ、衣装の柄にも能衣装の文様、色を使った。

その六 写楽の人気と凋落の経緯が詳しく書かれている。 28枚の大首絵(拙ブログ06/11/17)で大評判をとったのに、6ヶ月後には豊国の洗練された美しい役者絵(06/11/16)に完敗する。なぜ、写楽の絵は役者に嫌われたのか?客も最初は写楽はすごいと言ってたのに、どうしてライバルの豊国の絵をまた買い出したのか?写楽はなぜ見捨てられたのか?蔦屋重三郎は写楽で大儲けするはずではなかったのか、写楽売り込み戦略はどこで読みが狂ったのか?

興味のある方は本屋に向かわれたし。

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コメント

いづつやさん、こんばんは。
なんだかとっても興味津々なご本の紹介をありがとうございます。
早速メモメモして、本屋突入してきます。
「写楽考」も一緒に探してきま~す。

投稿: あべまつ | 2007.02.21 21:53

to あべまつさん
“写楽・考”は古本屋にしかないかもしれませんね。
いまや、この本は写楽研究の基本文献みたいになって
ますから。でも、これを読まれなくても、新刊の
“写楽を追う”で充分です。

写楽=能役者説がよく整理され、しかも小説仕立てに
なってますから、浮世絵師、写楽に急接近できます。
内田女史渾身の一作という感じで、27年の研究の
エキスが全部入ってます。

実は内田さんは映画“飢餓海峡”などのメガホンを撮
った日本映画界の巨匠、内田吐夢監督の長男の嫁なん
です。監督は写楽の映画を撮る構想をずっともっていた
のですが、これが実現しませんでした。シナリオの
一端が冒頭にでてきます。あまり書きますとネタばら
しになりますから、これくらいにしときますが、嫁は
この本で舅の夢を引き継いでいるのです。
本当によく書けてます。お楽しみください。

投稿: いづつや | 2007.02.22 08:45

初めまして、いつも面白く拝読させていただいています。

余談ですが、舞台「写楽考」が4月にあります。
矢代静一さんの戯曲「写楽考」の上演です。
戯曲なのでドラマチックな写楽の作りになっておりますが、矢代さんなりに「写楽」を研究して思いついた構想のようです。
興味がありましたらぜひ。
http://www.bunkamura.co.jp/shokai/cocoon/lineup/shosai_07_sharaku.html

投稿: penny | 2007.02.22 09:53

to pennyさん
はじめまして。書き込み有難うございます。
舞台でも写楽の芝居があるのですね。タイトルが
“写楽考”と内田女史の本と同名になってますが、
表現者にとって写楽は創作意欲を掻き立てられ
る存在かも知れませんね。

演劇には縁がないのですが、頭の隅に入れておこう
と思います。情報ありがとうございました。これ
からもよろしくお願いします。

投稿: いづつや | 2007.02.22 17:16

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