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2007.02.08

ギメ東洋美所蔵 浮世絵名品展 その三

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太田記念美術館で開催中の“ギメ東洋美浮世絵名品展”は2/1から後期に入り、前期に出てた作品は8点を残し入れ替わった。新しく展示される絵、71点の多くは閉幕の2/25まで出ずっぱりであるが、一部は2/12で姿を消し、2/14から別の絵に替わる。で、全部見ようとするとどうしても4回の訪問が必要になる(1回目は拙ブログ1/4、2回目は1/18)。

3度目の鑑賞は新規の絵がほとんどなので、また目に力が入る。入場者も多く、2階へ上がるとき少しウエイティングがあった。ここでこういう経験をするのははじめて。新日曜美術館で紹介されたこともあって、この展覧会には相当質の高い浮世絵が展示してあるということが美術愛好家にかなり浸透してきたなという気がする。

通期で観られる8点を含め80点の作品があっちに行ったりこっちに行ったりしなくて鑑賞でき、あまり疲れないのもいい。でも、一点々が摺りの状態や発色の具合がとびっきり良く、絵師の巧みな表現力に感服させられるので、感激疲れは半端ではない。

今回のお目当ては上の歌麿の“北国五色墨 川岸”。手元にある歌麿の画集にはギメが所蔵する美人画がいくつも掲載されている。だから、このギメ展の情報を入手したときは跳びあがるほど喜んだ。この絵は待ち望んだ一枚。北国はご存知、吉原。歌麿は高級遊女、下級遊女いろいろ取り揃えて5人描いた。この“川岸”は吉原のなかでも下のクラスの遊女。見ればわかる。髪は崩れ、楊枝を口にくわえたふてぶてしい格好である。でも、性格はそれほど悪くはなさそう。ほかに“おいらん”、“切の娘”、“てっぽう”、“芸妓”があるが、この“川岸”と“てっぽう”が一番グッとくる。これで次のターゲットは太田記念館にある“てっぽう”に決まった。

下の鈴木春信が描いた見立絵、“やつし許由”も夢中にさせる。メトロポリタンが所蔵するのを一度みたが、大正時代の版だった。流石ギメのはすばらしい摺り。片肌脱いだ少女のような女性が流れ落ちる滝の水で耳を洗っている。幾本も垂直に引かれた線が手を出したところだけ立体的な泡になっている。これはマグリッドもびっくりするほどシュールな表現ではなかろうか。

中国古代の故事を絵画化した“許由巣父図”は狩野永徳も描いている(東博)。二人は伝説的な高士で、許由(きょゆう)は帝堯の国を譲るとの申し出に対し、これを拒絶して山にこもり、俗事を聞いて耳が穢れたとして川で耳を洗った。そこに牛を曳いてきた巣父(そうふ)が通りかかり、そんな穢れた水を牛に飲ませられないといい、さらに上流に行き飲ませたという。見立絵の名人、春信はこの故事を当世風俗に見立て(すり替えて)描いている。

ほかにも魅せられた絵が書き切れないほどある。主だったのをあげると、風景画では動感のある国芳の“東都富士見三十六景 佃沖晴天の不二”、広重の有名な“木曽街道69次 洗馬”、“同じ 須原”、北斎の滝シリーズの定番、“諸国滝廻り 下野黒髪山きりふりの滝”。花鳥画は北斎、広重、英泉の傑作が競演している。これは見ごたえがある。北斎の羽を三角形に広げた雀のポーズがいい“芙蓉に雀”、広重の名作、“旭日松に鷹”と“月に雁”、そして英泉のシュール的で迫力満点の“鯉の滝登り”。

人物画は名作のオンパレード。ギメ自慢の写楽が“四世松本幸四郎の肴屋五郎兵衛”ほか5点、また鳥居清長にいいのが揃っている。画集でよくみる“風俗東之錦(汐汲み)”や構図が秀逸な“小野小町”、うす緑、黄色、うす紫の色使いが目を惹く“出語り”。衣装の精緻な模様と背景に富士山をもってくる構成が素晴らしい歌麿の大作、“物干し”も代表作のひとつ。この絵は一度東博の浮世絵コーナーでみたが、またいい気持ちになった。次回にも期待の作品がでてくる。それまで今回感動した絵の余韻に浸っておこう。

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コメント

いよいよ25日までなのですね。
御紹介いただいた「北国五色墨川岸」、
ぜひ見に行かなければと思っているのですが・・・
なるほど「やつし許由」の由来も勉強になりました。
そんな背景を知れば、絵の楽しみも100倍ですね。

投稿: 一村雨 | 2007.02.09 08:57

to 一村雨さん
後期は前期と展示品が一新しましたから、また熱心に
みました。北斎や広重といったブランド絵師以外の作品
でも、鳥居清倍の“浮流馬ていかの道行”、歌川貞秀
の“山中の猟師”などいい絵が揃ってますから、見飽
きません。

絵師の名前にとらわれることなく、いいなと思ったのを
片っ端から買ったのでしょうね。本当に感心します。

投稿: いづつや | 2007.02.09 16:01

好みが似てますね。
私の感想は↓です。
http://cardiacsurgery.hp.infoseek.co.jp/JA071.htm#070201

投稿: とら | 2007.02.14 08:51

to とらさん
後期にもいい絵が沢山ありますね。歌麿のふて
ぶてしい遊女にグッときます。もう一回でかけます。

投稿: いづつや | 2007.02.14 17:05

いづつやさん、こんばんは
ようやく太田記念美術館に行ってきました。
残念ながら前期は見れませんでしたが、後期の素晴らしい作品は
目に焼き付けてきたつもりです!!!
私は特に歌川広重の線の美しさに感動しました。
「木曽海道六拾九次」の“洗馬”“須原”とも細やかな線で
風景を表現ところなど、これが木版画であることを忘れてしまいます。
刷りの色も抜群で満足でした。

投稿: アイレ | 2007.02.14 22:49

行ってきました。「やつし許由」の世界、見れば見るほど
不思議な感じがしました。
はすっぱな遊女、触れたいような触れたくないような・・・

投稿: 一村雨 | 2007.02.15 07:01

to アイレさん
後期にでている広重の木曾街道の2点はいいですね。
また、北斎の花鳥画、英泉の鯉もグッときます。いずれ
も摺りの状態が抜群にいいですね。一度こういうのを
みると、浮世絵の魅力は明るい色彩にあることを再
認識します。

投稿: いづつや | 2007.02.15 17:31

to 一村雨さん
“やつし許由”は女がのばす手の先の水泡に唸ります。
岩とこの泡で奥行き感をつくるのですから巧みな構成
ですね。春信の絵は見飽きません。ますますのめり
込みます。

投稿: いづつや | 2007.02.15 17:39

こんにちは 
遅ればせながら行って来ました。
それで歌麿の遊女の楊枝なんですが、皆さん男性陣のご意見がなかなか興味深かったです。
大阪では一度に全点展示なので、嬉しいような疲労するような。
しかも常設にこんなときに限って、名品が出てくるのです。
疲れ果てました、とほほ。
春信の滝と女の手が可愛いです。

投稿: 遊行七恵 | 2007.05.01 10:32

to 遊行七恵さん
大阪では全点展示ですか!それはいいですね。名品揃い
ですから最高の浮世絵鑑賞ですね。太田のV&A美展
はあさって見に行きます。

七恵さんはモネをみにいつもの東京遠征をされましたが、
今年モネ展のつぎに期待している“フィラデルフィア
美展”(東京都美、10/10~12/24)への関心度
はいかがですか?

七恵さんのほうが京都市美(7/14~9/24)で先に
みられるのではないかと思ってます。チラシを見る限り、
追っかけリストにはいっているルノワール、マチスや
クレーの絵がくるのですから開幕が待ち遠しくてたまり
ません。

投稿: いづつや | 2007.05.02 13:39

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