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2007.01.22

平櫛田中の鏡獅子

539先週土曜日に放映された人気TV番組“美の巨人たち、平櫛田中”を楽しくみた。

最初この彫刻家の作品を広島県立美術館でみたとき、名前が“ひらくしでんちゅう”と読めなかった。

が、顎の下の髭を長くのばし、厳しい顔をした老僧の歩く姿を作品にした“落葉”に少なからず衝撃をうけた。

衣襞がこんなに写実的に彫れるものかとびっくりしたのを今でもよく覚えている。このほかにも、広島にいたころ番組にも紹介された愛くるしい“幼児狗張子”や“尋牛”を観た。

また、出身地、岡山県井原市の隣のJR福山駅前には“釣り人”の彫刻があり、同僚とこの像の前で待ち合わせたりしたから、鑑賞した作品は少ないが、平櫛田中が昔から馴染みの彫刻家のようになった。東近美の平常展では大きな“岡倉天心像”を観る機会が多い。そして、昨年はいい作品を3点みた。

一つは東京美術倶楽部で開催された“大いなる遺産 美の伝統展”にでてた“禾山像”。口を開け、頭を天に向けて大笑いしている僧がなんとも奇怪な感じがして、ぐるぐる回ってみた。モデルとなったのは天心とともに田中に大きな影響を与えた伊予の僧、西山禾山(かざん)。これは幸運にも“日曜美術館展”(9月、東芸大美)で再会した。五浦にある天心記念美術館には天心からこっぴどく批判されたという“活人箭”が展示してあった。最初、男は弓と矢を持っていたが、天心から“そんなもんでは豚も撃てん”と指摘され、田中は弓矢をとった形で仕上げたという。

三つ目の作品はこれまでのイメージをガラッと変えるものだった。それが5月頃、野間記念館でみた右の“獅子奮迅三昧”。これまでの痩せこけた僧侶とか釣り人とは全く異なる華やかな歌舞伎役者像である。“ええー、平櫛田中にこんな人形みたいな作品があるの?”というのが率直な感想。彩色無しの木彫像と落差がありすぎてちょっと戸惑った。このときは、こんな作品も手がけていたのかという程度で、制作のいきさつなどについては関心を持たなかった。

それが、“美の巨人たち”のお陰で平櫛田中が大変な時間をかけ、また持てるかぎりの感性と技を使って、六代目尾上菊五郎が演じる“鏡獅子”を制作したことがわかった。野間記念館で見たものは試作の一つで、2mもある完成作は国立劇場のロビーに置かれているらしい。完成まで20年もかかったという。話しを聞くと大変な作品である。制作にあたり、田中は歌舞伎座に25日間通い、“鏡獅子”を場所を色々変えて観察し、菊五郎と相談してポーズをきめたそうだ。いつか、国立劇場に行き、この大作、“鏡獅子”を観てみたい。

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コメント

TVは見てませんが、こうして平櫛田中がまた知られるのも嬉しいです。最初に見たのは国立劇場でした。野間の開館は近年なので、試作品があるのを知ったのは野間で見てからです。
107歳まで生き、「90歳は洟垂れ小僧、男盛りは100から100から」というのがなんともエエ感じでした。
何度か展覧会も見ましたが、なんとなく気合が入って元気になります。
最初から彩色木彫を見ていたので、色なしのを見たとき「え゛っ」となったわたしです。なんせ変な鬼だか何だかが口から人間吐いてるor飲み込んでる、でしたから。

いづつやさんはあまり歌舞伎とかは興味が向かれないのですか。
わたしは浮世絵などでも芝居絵が特に好きなのです。

投稿: 遊行七恵 | 2007.01.23 15:24

to 遊行七恵さん
七恵さんが彩色の木彫像から田中にはいられたのとは
逆の鑑賞体験でした。ですから、野間記念館でこれを見
たときは戸惑いました。あの大笑いの“禾山像”でます
ます、写実的な像のイメージが深まってたものですから、
“鏡獅子?”という感じです。

完成に戦争をはさんで20年も要したのですね!国立
劇場へ行ってきます。

歌舞伎座通いをそろそろ始めようかと思ってます。隣の方
も一緒に行ってくれそうなので。

投稿: いづつや | 2007.01.23 22:16

国立劇場ロビーにある六代目の鏡獅子!
何度も見たことがあります。実にカッコイイんですよ、これ。
六代目の前で記念撮影をしている観客もよく見かけます。
あー、番組を見逃したのが悔やまれる…。

そして、国立劇場(大劇場)といえば、2階のロビーに
有名日本画家の絵画がずらりと並んでいて
これまた壮観なのです。(経団連の加盟企業が寄付したらしい)
機会があればいづづや様も是非国立劇場へ。
勿論、歌舞伎座にも有名画家の絵が飾ってあります。
行く機会があったら館内くまなく見てくださいね。
…歌舞伎の回し者みたいだ(笑)

投稿: 菊花 | 2007.01.28 16:40

to 菊花さん
芝居通の菊花さんから有難い情報をいただき喜んでいます。
国立劇場には“鏡獅子”のほかにブランド画家の絵がある
のですか、是非見たいですね。楽しみが増えました。

歌舞伎座へは一度行ったことがあります。ミュージカルや
オペラが大好きなんです。ブロードウエーで踊るダンサー
の体の線が崩れないしゃきっとした踊りを見るとたまら
なく感激します。中国旅行でも北京で京劇を楽しみました。
で、そろそろ本格的に日本の歌舞伎を見ようと思ってます。

投稿: いづつや | 2007.01.28 20:59

はじめまして。
地方在住なもので美術鑑賞の機会は少ないのが残念です。わざわざ上京するほど金も無し、そのうえテレビは気が向かないと見ない性格なのでこの番組も見ていません。

しかし過去に井原の記念館、安来の足立、東京の畠山の田中作品は実見しました。一連の作品は迫力があり立派だと感じますが、この中では足立の維摩一黙が最高だと確信します。

あと個人蔵の香合を手に取り見せてもらったことがあります。香木に鍾馗様を彫った小品ですが、さすがに田中、凝縮された気を放っておりました。

個人的にはダンスよりは歌を聴くほうが倍好きですが、とはいえ再放送で見た「女王の教室」タイトルロールでの天海祐希のダンスは超一流だと感じます。でもジェニファー・ハドソンの歌はもっと感激します。

長々ととりとめもない投稿で失礼いたしました。

投稿: ジバゴ | 2007.01.29 01:10

to ジバゴさん
はじめまして。書き込み有難うございます。広島に
長くいたのですが、井原の記念館へは行かずじまいで
した。ちょっと後悔してます。足立美術館の維摩一黙
は見たような気もしますが、記憶が定かでありません。
今後田中の回顧展に出会えれば楽しいのですが。

天海祐希のダンスは超一流ですか、もと宝塚のトップ
スターですから納得です。一度みてみたいですね。
いい話を聞きました。これからもよろしくお願いします。
また、気楽にコメントをしていただければと思います。

投稿: いづつや | 2007.01.29 16:51

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