松岡美術館の玉彫工芸品
ドラマでは時々脇役が主役を食うくらいのいい演技をみせるときがあるが、美術品の鑑賞でもメインよりも思ってもみなかった作品に魅了されることがある。
今回の松岡美術館ではそれがあてはまった。お目当ての“日本美術院の画家たち展”(4/22まで)に出品されている絵が期待はずれのレベルだったというのではなく、一度観た作品が多くあり、刺激が少なかったのに較べ、これと同時開催されている“中国の工芸展”の翡翠に目を奪われてしまった。
驚愕の翡翠の前にまず、日本画のほうから。新春なので橋本雅邦、横山大観、下村観山、菱田春草、川合玉堂、小林古径、前田青邨など蒼々たる巨匠の作品が展示されている。これは壮観。お気に入りは雅邦の縁起のいい“七福神”、春草の“落葉”、古径の“丹頂”、青邨の“紅梅”。大き目の掛け軸に一羽の丹頂が安定感よく描かれた古径の絵が素晴らしい。これぞ花鳥画といった感じで大変魅せられた。2年前の大回顧展に大方の名画は出たと思っていたが、ここにまだこんないい絵が残っていた。隣にある青邨の“紅梅”も心を揺すぶる。絶妙に配置された枝にまるまるとした白い鳥がとまっている。梅の赤と白の対比が美しく、装飾性豊かな描写であるが、余白をとるところはちゃんととり枝振りをビジーにみせないところがいい。
春草の“落葉”には目を疑った。永青文庫が所蔵する“落葉”(重文)と構成が全く同じなのである。“ええー、どうして同じ絵があるの?”と唖然としてみていた。永青文庫の絵は何回もみたので、隅から隅まで個々の描写が頭に入っている。三羽のスズメの配置、空中に舞う枯葉まで寸分違わない。春草は6つのヴァージョンの“落葉”を描き、同じ構成の絵を2点描いたことになる。春草の最高傑作といわれ、6点のなかで一番いい永青文庫の“落葉”を2枚制作したのは依頼者からの強い要望に応えるためだったのかもしれない。
日本画を観終わって、時間もあるので隣の部屋に飾ってある中国の工芸品でもみようかと、軽い気持ちでいたら、いきなり右の“翡翠白菜形花瓶”が目にとびこんできた。そして、瞬間的に台北・故宮博物院でみた翡翠の名品、“翠玉白菜”を連想をした。“翠玉白菜”のような玉彫工芸品は台北や中国以外では絶対見られないだろうと思っていたから、目の前の“翡翠白菜形花瓶”にびっくり仰天。日本にもあった!
制作は故宮のと同じく清朝乾隆帝の時代である。故宮蔵の白菜の葉とキリギリスが彫られた緑の部分や白菜の茎の灰白色と較べるとと、色の明るさはないが、白菜のリアルな形は見事。これは感動ものの一品である。いいものをみせてもらった。翡翠の作品はこれを含めて全部で11点ある。他の美術館であまりみる機会のない翡翠の工芸品だけに感慨深かった。
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コメント
おはようございます。
台湾の故宮が創立80周年で、リニューアルも済ませたそうで、
芸術新潮の1月号を思わず買って、眺めておりました。
かの有名な白菜が日本にもあるなんて、驚き!です。
あぁ、韓国の国立博物館、台湾の故宮、見に行きたいものです。
特に故宮の青磁には、本当に宝石よりも品格が溢れていたことを思い出します。12,3年前となりましたが。
まだ、松岡美術館に行っていないので、是非行ってみます。
素敵な情報に感謝です。
投稿: あべまつ | 2007.01.23 08:37
to あべまつさん
台北故宮にある翡翠の白菜には驚愕しますね。陶磁器
、小さな珍玩とともに鮮明に覚えてます。日本にこう
いう翡翠の工芸品は無いだろうと思ってたので、びっく
りしました。
白と緑の輝きはさすがに故宮とはいきませんが、葉っぱ
の彫りは見事です。同様のものがほかにもあるのか分
かりませんが、嬉しい翡翠に会いました。是非ご覧に
なって下さい。
投稿: いづつや | 2007.01.23 21:57