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2007.01.31

宮川長春の風俗図巻

6781/16からいくつかのコーナーで展示替えがあった東博の平常展にいい作品がでている。

更新したパスポート券で平常展を昨年以上にフルにみようと意気込んでいるが、2階と1階にある絵画はセクション毎に展示の期間が異なるため、HPでしっかり展示期間をみていないと貴重な名画をうっかり見逃すことにもなる。

正面向かって右側の展示室にある仏画や水墨画、絵巻などは1/16から2/25まで、そして左側の浮世絵は回転が速く、展示は1/16から2/12まで。

室町時代に制作された“浜松図屏風”(重文)は2年ぶりの登場。この屏風には見所が一杯ある。名前を“四季花鳥図”と変えてもいいほど画面の下半分に小鳥が沢山描かれている。数えてはいないが50羽以上いるかもしれない。しかも羽根を広げて飛んでいる鳥が多く、また首のあたりが真っ赤な鳥がいるのでとても賑やかで動感がある。なんだか動物園の大きな鳥かごのなかにいるよう。上の方には洲浜で網を引く漁師や狩装束の武士がいるが、ここでの主役は四季折々の草花や緑の松の木、水辺に遊ぶ鳥たち。日本画のなかでは一番惹かれる鳥の絵である。

この屏風の隣が狩野元信の大作、“太公望・文王図”(重文)。これはもと大仙院方丈の障壁画の一部で、いくつかある障壁画を断続的に展示している。比較的色は良く残っているのに、この絵のコンディションはあまり良くない。

浮世絵のコーナーは名作が多い。目を惹くのが北斎の“富嶽三十六景・尾州不二見原”にみられる大きな桶枠がでてくる“新版大道図案 本所”と焼けた鉄棒を鍛造している“同 佃島”。広重も2点いいのがある。大胆な構図が魅力の“名所江戸百景・亀戸梅屋敷”と梅の木と鳥の配置が絶妙な“梅に小鳥”。

今回夢中になって観たのがある。それは肉筆画専門の絵師、宮川長春が描いた右の“風俗図巻”。2年くらい前にでた。色が鮮やかなのと、衣装の紋様が実に精緻に描かれているので画面に釘付けになる。また、黒髪や着物の輪郭線に金泥を使い、女性を一層華やかにしている。右は大名屋敷に呼ばれた女舞の一行が御簾の中から見物する奥方の前で“傘踊り”を披露しているところ。

うぐいす色の傘をぐるぐる回す芸人の肘にみえる飾りの赤い布が小刻みに揺れ、芸人のリズミカルな動作が伝わってくる。後ろで三味線を弾いてる女たちと前の踊り手の配置は英一蝶の“布晒舞図”(遠山記念館、拙ブログ06/12/1)とそっくり。“布晒舞図”とともにMy好きな風俗画に入れているこの絵と再会できたのは無上の喜び。今回の浮世絵コーナーは特別良かったような気がする。

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2007.01.30

オルセー美術館展 そのニ

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今回の展覧会には“19世紀 芸術家たちの楽園”というタイトルがついている。140ある作品をどういうくくりでどういう順番で並べるかは学芸員の腕に見せ所だが、傍からみてるとこれは頭を悩ます作業だなと思う。

写真と彫刻、陶器を横において絵画だけでみると、人物画と風景画をどう仕分けるかである(今回静物画はない)。ここでは人物画を女性中心の“親密な時間”と男性画が多い“芸術家の生活ーアトリエ・モデル・友人”に分けている。昨日触れたマネが描いたモリゾの絵は後者のコーナー。モリゾがマネの画法から解き放され、自立した一人の画家として描いた“ゆりかご”が入場してすぐのところに飾ってある。こういういい絵がいきなり出てくると見る側はすぐ“流石、オルセー、来てよかった!”ということになる。

さらに進むとホイッスラーの大作、“灰色と黒のアレンジメント第1番、画家の母の肖像”が待っている。この絵は画集によく載っているホイッスラーの代表作の一つ。老人にすごい存在感を感じるのは真横から描いているのとドレスの黒と壁に掛けられた絵の額縁の白とがいいコントラストになっているから。この絵が登場するイギリスのコメディアン、Mr.ビーンの映画を思い出しながら眺めていた。構成に浮世絵の影響がみられるヴァロットンの“ボール”にも惹きつけられた。真っ赤なビボールを追っかける女の子にあたる強い光と黒い影に思わず目が釘付けになる。

今回、風景画はグッとくるのがいくつもある。モネはお馴染みの“アルジャントゥイユの船着場”、“ベリールの岩、打ちつける波”、“ルーアン大聖堂”の3点。収穫だったのが上のマネの“ブーローニュ港の月光”。大きな絵である。驚くのは画像ではあまり伝わらないが、船や船員の影の黒と大胆な対比をなす海面と満月の白の輝き。そして、ピンク色の小さな塊で表現された遠くの煙突から出る炎や建物の明かりがアクセントとなり画面を引き締めている。また、白い波しぶきが揺れる青い海のなかを進むボートを高い視線から、斜めに見下ろすように描いた“アンリ・ロシュフォールの逃亡”にも足がとまった。

点描法で描かれたいい絵が3点ある。スーラの代表作のひとつ、“ポール=タン=ベッサンの外港、満潮”、シニャックの“レ・ザンドリー、河堤”、そしてベルギー人画家、レイセルベルヘが描いた下の“舵を取る男”。お気に入りは広重風の構図で激しい波のうなりを迫力満点に描いた“舵を取る男”。切り立った山々のように反り返る波面を仔細にみると白の点々にピンクの点々が混じっている。帆と船縁をトリミングして、右端に舵を取る男をとりこんで中央に動感あふれる波をもってくる構成が見事。レイセルベルヘは11880~87年、パリに滞在した五姓田義松と知り合いになり、日本の浮世絵や水墨画に関心をもつようになったという。広重や北斎のハットする構図の風景画を見慣れてるわれわれでもこの絵には唸ってしまう。

名画を沢山展示してくれたオルセー美術館に感謝々である。

<展覧会プレビューの更新>
最近入手した下記の展覧会を追加した。
4/21~6/24    水の情景展           横浜美術館
5/20~6/19    会田誠・山口晃展       上野の森美術館
5/29~8/26    パルマ もうひとつの都展   国立西洋美術館

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2007.01.29

オルセー美術館展 その一

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待望の“オルセー美術館展”(1/27~4/8、東京都美術館)をみてきた。初日の10時なのにもう作品の前はゆっくりでないと進めない。日本には印象派の好きな人が沢山いるから、これくらいの入場者は当たり前かもしれないが、今回はとくにいい絵が揃っていることもあり、混雑しているのだろう。

99年横浜美術館であった“セザンヌ展”にはオルセーから超一級の“カード遊びをする人々”や“りんごとオレンジ”がやってきてわれわれを楽しませてくれたが、今回のオルセー展はこれを上回る質の高さ。セザンヌの“サンク=ヴィクトワール山”をはじめ、マネ、モネ、ゴッホ、ゴーギャン、スーラらの美術本や館の図録に載っている代表的名画がずらっとあるのだからたまらない。05年10月の“プーシキン美術館展”のときと同じくらい感動した。

一番のお目当てはマネの“すみれのブーケをつけたベルト・モリゾ”と上のゴッホの“アルルのゴッホの寝室”。近代の女性画で誰の絵が好きかと問われると、“ルノワール!”とすぐ答えるが、そのあと間をおかず“マネも同じくらい好き!”をつけ加えることにしている。この美人のモリゾを描いた作品はサン・ラザール駅を背景に女性と女の子を描いた“鉄道”(ワシントンナショナルギャラリー)、パリの有名なナイトクラブで働く女給を画面真ん中にどんと配する“フォリー=ベルジェールの酒場”(ロンドン、コートールドコレクション)とともにMyマネ女性画ベスト3の絵。色は顔の肌色と帽子と服の黒だけだが、その黒が左から光があたる美形の顔をより引きたてている。パリに行かなくてこの名画が観られるのだから、最高に嬉しい。

そして、大好きなゴッホの“アルルの寝室”も目の前にある。この絵は思い出深い。絵自体に大感激したが、購入した図録の画像の色が実際の色をよく写していたので、それこそ紙に穴があくくらい見続けた。ベッドや椅子には影が無く、平面的に描かれている。この絵で目を奪われるのはなんといってもベッドや壁の明るい黄色や青色。床の手前から窓際にむかって引かれたうす紫の細長い色面はところどころ塗料がはげて地が見える。この質感が実にいい。

アルルで最初に描いた“寝室”は現在、アムステルダムのゴッホ美術館にある。オルセーにあるのはこの絵のレプリカ。画家が自分の描いた絵を模写したのをレプリカという。ゴッホはこれを2点制作し、シカゴ美術館とオルセーが所蔵している。オルセーの“寝室”はもともと日本の松方コレクションの一枚だった。第二次世界大戦で日本は負けたので、フランスがパリにあったこの絵を手に入れた。戦後の交渉でルノワールの“アルジェリア風のパリの女たち”とゴッホの“寝室”はセットで返還を要求したが、“寝室”はゴッホの作品が少ないという理由で却下されてしまった。フランスはこの“寝室”は絶対手放したくなかったのだろう。

下の絵ははじめて見るポン・タヴァン派の旗手、ベルナールの“日傘を持つブルターニュの女たち”。モザイク画みたいに画面を水平あるいは垂直に分割したり、緩やかな丸い面に分け、女や木々、地面を明るい緑、青、黄色で彩色している。自然を忠実に模写しようとする印象派に対抗して、ゴーギャンやベルナールたちが唱えた新しい表現方法が総合主義。自分が感じたものを単純かつ平板な形にし、輪郭線をとり強烈な色で装飾的に描いた。先駆的な表現主義による絵画制作である。

ゴッホの“寝室”の隣にある総合主義の手法で描いた“アルルのダンスホール”は一瞬、ベルナールの絵ではないかと錯覚する。ゴッホ、ベルナールの作品に大満足であった。

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2007.01.28

カラヴァッジョ vs レンブラント

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本日の新日曜美術館はカラヴァッジョとレンブラントをとりあげていた。番組の予定表を一ヶ月前入手したとき、ひょっとすると昨年2月から6月までアムステルダムにあるゴッホ美術館で開催された“カラヴァッジョ vs レンブラント展”を事後編集して見せてくれるのかなと胸が高まった。過去にも、シカゴ美術館であった“ゴッホ vs ゴーギャン展”をベースにした番組を制作したことがあるので、二番煎じの可能性があるかもと思ったのである。

が、この予想は大ハズレ。レンブラント好きとして映画監督の山本晋也、かたやカラヴァッジョ好きの代表はなんと司会者の壇ふみ。そして、野村アナウンサーも“レンブラントライト”の実演のモデルとつとめるという制作費が普段よりは安くあがるだろうなと誰がみてもわかる番組づくり。

専門家をゲストに呼ばないで、手作り感覚で大物画家のカラヴァッジョとレンブラントの絵の魅力を読み解いている。でも、番組自体は面白かったし、分析のセンスは上々。鑑賞の切り口をコンパクトにまとめており、カラヴァッジョとレンブラントの絵の特徴と魅力、そして画家の精神性をしっかりとらえていた。

この時期、なぜこの番組なのか?勝手に想像してみた。壇ふみ、野村アナ、プロデューサー、番組スタッフが集まる席でこんな会話があったのではないかと。。。

プロデューサー:“アムスであったカラヴァッジョ vs レンブラント展はかなり人気があったみたいね!この組み合わせでなんか一本つくりたいね。壇ふみさんはカラヴァッジョの大ファンなんですって?”

壇ふみ:“そうなんですよ。あまり胸張って大きな声では言わないようにしてるのですが”

プロデューサー:“カラヴァッジョの研究でいい本をお書きになった宮下規久朗さんをゲストに迎えると、レンブラントの先生もつれてこなくてはいけないなあー。。こうしよう、今回は専門家でなくカラヴァッジョは壇さんに語ってもらおう!”

壇ふみ:“ダメダメ、私のような素人では番組にならないですよ!”

プロデューサー:“カラヴァッジョは今、イタリア人の間ではダビンチやラファエロより人気の高い画家です。日本でもそういう目でカラヴァッジョを見ている人が増えていると思いますから、壇さんが素直にカラヴァッジョの魅力をしゃべっていただくほうがいいんですよ”

壇ふみ:“本当にいいのね、後からクレームがきても知りませんよ。で、レンブラントはどなたにされるのですか?専門の美術史家みたいなエライ方ではレベルが違って話しが噛み合いませんよ”

プロデューサー:“いい人がいるんですよ。映画監督の山本晋也さん。レンブラントライトはお手のものだし、レンブタントがお好きだと伺っております。お相手の野村アナにはレンブラントライトの実演の際、モデルになってもらいます”

壇ふみ:“それはいいアイデアね。野村さんはイケ面ですからね”

野村アナ:“ええー、私がモデルになるの、だったら女優の壇ふみさんのほうがいいに決まってるではないですか”

壇ふみ:“わたくし、20年前でしたら即OKでしたが、今はお肌が。。わかるでしょ、野村さん”。

番組では二人の画家の絵の違いを観るポイント毎に代表作で具体的に説明していた。昨年4月、ローマのサンゴスティーノ教会でみた上の“ロレートの聖母”の場合、聖母&イエスと下でひざまづいている民衆では光のあたる方向が違うという。壇ふみが言ってたように教会のなかでは聖母とイエスのところだけに強い光があたっている。

この絵と対照されていたレンブラントの“目を潰されるサムソン”は02年、京博であった“大レンブラント展”でみた。目ん玉を刺され血が吹き飛ぶ場面が脳裏に焼きついている。こんな傑作を日本でみられたのは幸運であった。

カラヴァッジョの絵は注文者から引取りを何回か拒否されている。“蛇の聖母”(拙ブログ06/5/20)もその一枚。自画像の比較に登場した下の“レンブラント自画像”は数ある自画像のなかでは一番威厳があり、堂々とした肖像画である。NYのフリック美術館でこれをみたときは衣装のゴールドの輝きに一瞬後ずさりした。

2年前訪問したハーグのマウリッツハイスでは念願だった亡くなる間際の自画像(63歳)が観れず、またカラヴァッジョがゴリアテの首を自分の顔にした“ゴリアテの首をもつダヴィデ”(ボルゲーゼ美術館)もゴッホ美への貸し出し中で会えなかった。いつかこの二つの絵が観られる日が来ることを強く願っている。

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2007.01.27

千葉市美術館の竹久夢二展

671千葉市美術館で1/20から“竹久夢二展”がはじまった(2/25まで)。

03年、夢二の生誕120年を記念した回顧展が尾道市立美術館などで行われて以降、毎年のように夢二の展覧会がある。

04年は日本橋高島屋、05年は渋谷の東急東横(拙ブログ05/1/16)、そしてこの度はデパートではない千葉市美で320点の作品が展示される大回顧展。時代が竹久夢二の絵を求めているのか、多才なアーティスト夢二への関心がますます高まっている。

作品のなかには過去みたのもかなりあるが、好きな画家の場合、情報がダブルことはあまり気にならず、逆に好みの方向が馴染みの絵により固まってくるように思えるから不思議だ。だが、これもまわり(とくに隣の方)からみると“度が過ぎてる!”と映るかもしれない。ファンになった人間とまったく関心の無い人間との差はかくも大きい。

今回展示されているのは岡山市にある“夢二郷土美術館”所蔵のものが中心。ここへは一度訪問したことがあるから、どの代表作があるかはわかっている。残念ながらみられないのは屏風絵“一力”&“こたつ”くらいで、有名な絵はほとんどある。大きな絵では、チラシに使われている“秋のいこい”、右の“立田姫”、“遠山に寄す”、“大徳寺”、“旅の唄”&“邪教渡来”。

なかでも“立田姫”はお目当ての一枚。My夢二作品ベスト3は夢二式美人の代名詞ともなった“黒船屋”と“五月の朝”(06/6/8)、そしてこの“立田姫”。ぱっとみると変な立ち姿。首を180度ひねって顔をこちらにむけているのである。変だろうがなんだろうが、この白い顔が愛おしい。夢二の描く女性像がどうして十頭身になったのかわからないが、目の覚めるような赤の衣装をつけた立田姫からはオーラがでている。右にもっている扇子や頭に挿しているかんざしが金泥で色づけされ、帯の柄も華やかな紅梅模様。立田姫は農作物の豊作をつかさどる秋の女神。この絵は夢二が亡くなる3年前に描かれた。この女神像を“自分の生涯における総くくりの女、ミス・ニッポン”と語ったという。

千葉市美からも“宝船”(07/1/15)や浮世絵風の役者絵、“治兵衛”&“小春”など色が鮮やかないい絵はでている。見所満載の回顧展であった。

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2007.01.26

大倉集古館の花鳥図展

670大倉集古館で現在、館所蔵の“花鳥図展”が行われている(3/18まで)。

中国の絵師やわが国の狩野派が制作した花鳥画、さらに大観や春草らによる花や鳥の絵のなかには、ハッと立ち止まるような優品がある。流石、大倉家の作品を見る目は高い。

今、東京ではここと松岡美術館(3/4まで)、そして東博(1/28まで)の三箇所で中国画を楽しみことができるが、大倉コレクションの中国花鳥画ははじめてみた。そのなかで明時代の作品、“墨梅図”に惹きつけられた。昨年、三の丸尚蔵館の“花鳥展”にも同じ水墨画家の絵があった。画面上へとのびる細い枝の配置と小さい梅の花が味わい深い。

室町時代、前嶋宗祐が描いた“鶏頭小禽図”は館自慢の一品。目を奪われるのは鮮やかな赤に染まる鶏頭の花。これを鉄棒の大車輪のように逆さまになって眺めている瑠璃色の小鳥の姿が面白い。4年前に出会って以来、絵師の名前は覚えてなくとも、この濃彩な赤は忘れることはない。狩野常信の“梅に尾長鳥・柳に黄鳥図”にも尾っぽを垂直に立てた白い鳥がでてくる。鳥のドキッとするポーズとともにぐっとくるのは柳や梅の木の曲がり方が狩野山雪の絵みたいに造形的な面白さを狙って描かれているところ。これまで観た常信の絵では板橋区立美がもっている“四季花鳥図屏風”とこの絵が特に気に入っている。

明治・大正の実業家、大倉喜八郎(1837~1928)が蒐集した近代日本画は質の高いことで有名。そのひとつ、横山大観の“夜桜”は3/13~18に公開される。今回展示してあった花鳥画は大観の“文鳥”、“寒牡丹”、“茶花”、菱田春草の“さつき”、橋本静水の“桃に鳩の図”、田中咄哉の“水鳥”、速水御舟の“鯉魚”。いずれも一度観たことがある。大観の3点は見慣れている大観の画風とはまったくイメージが異なる。余白をたっぷりとった清清しい感じのする花鳥画である。観てのお楽しみ。

右の御舟の“鯉魚”もいい絵。鯉が目の前にいるのではないかと錯覚するくらい精緻に描かれ、そして墨のたらし込みで水の揺らぎを表したり、鯉を浮かび上がらせるためにまわりを金泥で彩色するなど装飾的に処理している。後期に登場する小林古径の代表作の一つである“木莬図”(みみずくず)や竹内栖鳳の“蹴合”は大好きな絵であるが、何度も見たのでパスすることにした。

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2007.01.25

菱田春草の雀に鴉

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東近美の企画展は当分パスするつもりなので、楽しみはもっぱらお馴染みの平常展。昨年末から、ここも平常展は何度でも無料となる1000円のパスポート券を売り出したので、これからは格安で名品を楽しむことが出来る。これは有難い。

今回(3/4まで)の目玉は40mもある横山大観の“生々流転”が全部みられること。人気の絵なので例年でてくるが、いつも前期と後期に分けて展示されていた。そして、プラスαが豪華。“或る日の太平洋”や“南溟の夜”などここが所蔵する大観の名品をずらっと揃えたという感じである。が、“生々流転”(拙ブログ05/11/26)をはじめこれらの絵はこれまで何度もみたので、最後にさっとみるだけにした。

時間をかけてみたのは小林古径の大作、“機織”、岸田劉生の“五福祥集”、松岡映丘の“屋島の義経”、川端龍子の“金閣炎上”(06/1/13)、中村正義の“源平海戦絵巻・第一図”、そして上の菱田春草の“雀に鴉”など。このなかで、はじめての絵は“屋島の義経”。この義経と安田靫彦が“黄瀬川陣”で描いた義経とは随分感じがちがう。頼朝の前でひざまずく顔がきりりと引き締まった凛々しい義経に対し、屋島の義経は顔がふっくらしており、その立ち姿は美少年のイメージというよりは百戦練磨の実力武士といった風。顔の描写には違和感があるものの、松岡映丘の兜や鎧の鮮やかな色使いや精緻な紋様描写は見事である。

春草の“雀に鴉”を観るのは二度目。04年10月、はじめて対面したときの感動が蘇ってくる。鴉が一羽、雀が5羽しか出てこない右隻より、上の沢山の雀が枝にとまっている左隻のほうが観てて楽しい。今はこういう光景をみる機会はほとんどないが、小さい頃みた雀の大群はこんな風に小枝にとまってしばし体を休めていた。春草は小さい生きものに対する愛情が細やかで、枝と枝の間の余白を充分とり、一羽々の雀が美しく映るように描いている。

この絵を見るたびに思い出す絵がある。それは下の長澤芦雪が描いた“花鳥虫獣図”(千葉市美術館)。4mちかくある巻物で、その中に雀が沢山出てくる。昨年、京都と奈良で2回みたが、奈良県美の“応挙と芦雪展”に出てたのは子犬が描かれた場面で、残念ながら雀には会えなかった。こちらの雀はまるまるしてとても可愛らしい。花鳥画を得意とする画家はごまんといるが、雀描きの名手は芦雪と春草。芦雪が描く雀は元気がよく可愛い。そして、春草の絵に登場する雀は美しく、ときには寂寥感を漂わせている。

雀は鳥の中では最も身近な存在で羽の色も綺麗ではないのに、これほど観る者をいい気持ちにさせてくれるのは芦雪と春草の心根が優しく、愛情に満ちているからだろう。今回の平常展も○だった。

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2007.01.24

川村記念美術館のステラ・コレクション

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川村記念美術館の平常展にステラの作品が展示されるのを2年半近く待っていたが、やっと現在開催中の“コレクションハイライト展”(3/11まで)に登場した。ここがステラのコレクションでは世界的に有名なことは随分前からわかっていたのに、横浜を離れていたこともあり、作品を観る機会が長いこと無かった。今回所蔵する大作17点、版画30点のなかから版画以外の13点がいつもは企画展で使用される展示室に制作された順に並べてあった。

図録で眺めていた作品が目の前にある。嬉しくてたまらない。いずれも大きな絵や立体作品。ステラは1958年、ミニマルアートの先駆的な作品、“黒の絵画”でデビューした。黒色のエナメル塗料で描かれた単純なストライプを反復させる“ブラックシリーズ”は18点制作されたが、その一枚“トムリンソン・コート・パーク”(1959)がある。当時はポロックらの内面の感情や情熱をカンヴァスにぶつける抽象表現主義の絵画が主流だったから、この絵がすぐには受け入れてもらえなかった。

その隣の“ポルタゴ侯爵”(1960)は描く形に合わせて、カンヴァスの形を変えた作品。ストライプを途中で横にズラすためにできた余白をステラは切っちゃったから、カンヴァスの4辺は中央が中へ凹んでいる。橙色の“タンパ”(1963)はこのシェイプト・カンヴァスの典型的な作品。ステラは“色と形で表現された直接の衝撃や瞬時のインパクト”を絵画に追い求め、喜びとか悲しみといった感情や情熱を作品の中にもちこむのは極力排除しようとしたから、カンヴァスだって、要らない余白はスパッとカットしてしまう。

モノトーンからカラフルな正方形や円弧の色面にシフトした作品が3点ある。目の覚めるような赤、黄、青の三原色や橙、緑、紫など色彩の競演に気分は一気にハイになった。“同心正方形”(1964)、“フリン・フロンⅡ”(1968)、そして上の“ヒラクラⅢ”(1968)。長らく待っていたのはステラの図抜けた色彩感覚が全開したこれらの絵なのである。ダーツの的のような円形がペアになっている“ヒラクラⅢ”は分度器シリーズのひとつ。福岡市美術館にも一番外のピンクの色面が印象深い“バスラ門Ⅱ”(1968)がある。また、“フリン・フロンⅡ”と似たフォルムと色使いの“リヴァー・オブ・ポンズⅣ”を愛知県美術館が所蔵している。

下の“アカハラシキチョウ”(1979)は半立体作品。壁から子供が遊ぶ飛び出し絵本のようにゴールドやシルバー、ラメで装飾的に彩られた柔らかい曲面のパーツや網目のようなものが出ている。そして、裏面にも丁寧に彩色したり、表面にガラスを貼るなど複雑な細工が施されている。他にも同じような大型コラージュというか半立体作品、“スフィンクス”、“モスポート”、“恐れ知らずの愚か者”がある。

ステラは新しい作品にどんどん挑戦する。館の入り口のところにある“リュネヴィル”
(1994)は高さ7m、重量は30t以上もある巨大彫刻。館が発注してつくってもらったそうだ。念願のステラ作品を観たので、足取りも軽くこのグロテスクな作品を横目に観ながら家路についた。

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2007.01.23

ブランクーシの接吻

665ブリジストン美術館の所蔵展、“じっと見る 印象派から現代まで”(1/2~
4/8)をみた。

西洋絵画の常設展示では東近美にある作品を見る機会が多いが、昨年からブリジストン美の名作を定期的に見るようにしている。今回、図録で済みマークのついてない作品が数点展示してあった。このペースでいくとあと一、二回で全点見終わるかもしれない。

出品作は何回も観ている馴染みのものばかりだが、作品の前に立つたびにいい気持ちになる。こんな経験は倉敷の大原美術館とここだけ。古典絵画は無いが、印象派や近代から現代絵画まで名画が揃っているからだろう。近代西洋絵画の流れを追ってじっくり鑑賞したいときはここへ来るのが一番だ。

まず、コローの“森の中の若い女”と対面する。いつもながらの人懐こい笑顔につい声を返したくなる。ルノワールはなんといっても青い衣装と白い肌が目に心地よい“すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢”。ここにある男性肖像画でお気に入りはセザンヌの“帽子をかぶった自画像”。全体は渋めの色調だが、赤茶色の横顔が強く印象に残る。これは隣に飾ってある“サンク=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール”とともに日本にあるセザンヌの絵ではトップクラスに位置する作品ではないだろうか。ちなみにMyセザンヌ肖像画ベスト3はこの絵と“アルルカン”と“アントニー・ヴァラブレーグの肖像”(共にポーラ美術館)。

ルオーの作品と言えば出光コレクションをすぐ思い浮かべるが、ブリジストン美のルオーもいいのが揃っている。5点出ているなかで、グッとくるのが“ピエロ”。太い黒で輪郭をとった顔は卵そっくり。両目の下と首のところを赤で彩色したピエロの肌からは強い生命力が伝わってくる。何時間でも向き合っていたくなる絵である。

もう一点、惹きつけられる作品があった。入り口のところに飾ってある右の“接吻”。この石膏彫刻を制作したのはブランクーシ。ユニークで面白いフォルムをしているので、これに会うのがこの美術館へ来る楽しみの一つになっている。前を通るたびに“よおー、仲がいいねえ!”と軽口をたたきたくなる。ブランクーシは黄金の“眠れるミューズ”(拙ブログ05/11/24)をつくったり、こんな肩の力が抜ける作品で観る者を和ませる。ビッグアーティストが生み出す作品はいつの時代でも多彩である。

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2007.01.22

平櫛田中の鏡獅子

539先週土曜日に放映された人気TV番組“美の巨人たち、平櫛田中”を楽しくみた。

最初この彫刻家の作品を広島県立美術館でみたとき、名前が“ひらくしでんちゅう”と読めなかった。

が、顎の下の髭を長くのばし、厳しい顔をした老僧の歩く姿を作品にした“落葉”に少なからず衝撃をうけた。

衣襞がこんなに写実的に彫れるものかとびっくりしたのを今でもよく覚えている。このほかにも、広島にいたころ番組にも紹介された愛くるしい“幼児狗張子”や“尋牛”を観た。

また、出身地、岡山県井原市の隣のJR福山駅前には“釣り人”の彫刻があり、同僚とこの像の前で待ち合わせたりしたから、鑑賞した作品は少ないが、平櫛田中が昔から馴染みの彫刻家のようになった。東近美の平常展では大きな“岡倉天心像”を観る機会が多い。そして、昨年はいい作品を3点みた。

一つは東京美術倶楽部で開催された“大いなる遺産 美の伝統展”にでてた“禾山像”。口を開け、頭を天に向けて大笑いしている僧がなんとも奇怪な感じがして、ぐるぐる回ってみた。モデルとなったのは天心とともに田中に大きな影響を与えた伊予の僧、西山禾山(かざん)。これは幸運にも“日曜美術館展”(9月、東芸大美)で再会した。五浦にある天心記念美術館には天心からこっぴどく批判されたという“活人箭”が展示してあった。最初、男は弓と矢を持っていたが、天心から“そんなもんでは豚も撃てん”と指摘され、田中は弓矢をとった形で仕上げたという。

三つ目の作品はこれまでのイメージをガラッと変えるものだった。それが5月頃、野間記念館でみた右の“獅子奮迅三昧”。これまでの痩せこけた僧侶とか釣り人とは全く異なる華やかな歌舞伎役者像である。“ええー、平櫛田中にこんな人形みたいな作品があるの?”というのが率直な感想。彩色無しの木彫像と落差がありすぎてちょっと戸惑った。このときは、こんな作品も手がけていたのかという程度で、制作のいきさつなどについては関心を持たなかった。

それが、“美の巨人たち”のお陰で平櫛田中が大変な時間をかけ、また持てるかぎりの感性と技を使って、六代目尾上菊五郎が演じる“鏡獅子”を制作したことがわかった。野間記念館で見たものは試作の一つで、2mもある完成作は国立劇場のロビーに置かれているらしい。完成まで20年もかかったという。話しを聞くと大変な作品である。制作にあたり、田中は歌舞伎座に25日間通い、“鏡獅子”を場所を色々変えて観察し、菊五郎と相談してポーズをきめたそうだ。いつか、国立劇場に行き、この大作、“鏡獅子”を観てみたい。

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2007.01.21

松岡美術館の玉彫工芸品

663ドラマでは時々脇役が主役を食うくらいのいい演技をみせるときがあるが、美術品の鑑賞でもメインよりも思ってもみなかった作品に魅了されることがある。

今回の松岡美術館ではそれがあてはまった。お目当ての“日本美術院の画家たち展”(4/22まで)に出品されている絵が期待はずれのレベルだったというのではなく、一度観た作品が多くあり、刺激が少なかったのに較べ、これと同時開催されている“中国の工芸展”の翡翠に目を奪われてしまった。

驚愕の翡翠の前にまず、日本画のほうから。新春なので橋本雅邦、横山大観、下村観山、菱田春草、川合玉堂、小林古径、前田青邨など蒼々たる巨匠の作品が展示されている。これは壮観。お気に入りは雅邦の縁起のいい“七福神”、春草の“落葉”、古径の“丹頂”、青邨の“紅梅”。大き目の掛け軸に一羽の丹頂が安定感よく描かれた古径の絵が素晴らしい。これぞ花鳥画といった感じで大変魅せられた。2年前の大回顧展に大方の名画は出たと思っていたが、ここにまだこんないい絵が残っていた。隣にある青邨の“紅梅”も心を揺すぶる。絶妙に配置された枝にまるまるとした白い鳥がとまっている。梅の赤と白の対比が美しく、装飾性豊かな描写であるが、余白をとるところはちゃんととり枝振りをビジーにみせないところがいい。

春草の“落葉”には目を疑った。永青文庫が所蔵する“落葉”(重文)と構成が全く同じなのである。“ええー、どうして同じ絵があるの?”と唖然としてみていた。永青文庫の絵は何回もみたので、隅から隅まで個々の描写が頭に入っている。三羽のスズメの配置、空中に舞う枯葉まで寸分違わない。春草は6つのヴァージョンの“落葉”を描き、同じ構成の絵を2点描いたことになる。春草の最高傑作といわれ、6点のなかで一番いい永青文庫の“落葉”を2枚制作したのは依頼者からの強い要望に応えるためだったのかもしれない。

日本画を観終わって、時間もあるので隣の部屋に飾ってある中国の工芸品でもみようかと、軽い気持ちでいたら、いきなり右の“翡翠白菜形花瓶”が目にとびこんできた。そして、瞬間的に台北・故宮博物院でみた翡翠の名品、“翠玉白菜”を連想をした。“翠玉白菜”のような玉彫工芸品は台北や中国以外では絶対見られないだろうと思っていたから、目の前の“翡翠白菜形花瓶”にびっくり仰天。日本にもあった!

制作は故宮のと同じく清朝乾隆帝の時代である。故宮蔵の白菜の葉とキリギリスが彫られた緑の部分や白菜の茎の灰白色と較べるとと、色の明るさはないが、白菜のリアルな形は見事。これは感動ものの一品である。いいものをみせてもらった。翡翠の作品はこれを含めて全部で11点ある。他の美術館であまりみる機会のない翡翠の工芸品だけに感慨深かった。

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2007.01.20

江戸城展 これを見ずして江戸は語れない

662江戸東京博物館で開催中の“江戸城展”(3/4まで)はサブタイトルーこれを見ずして江戸は語れない、が効いているのか、会場はかなり混雑している。

このため、全部見終わるのに2時間近くかかった。観たい屏風をみて引き上げるつもりであったが、予想とは違い関心のある展示品がいくつもあったので、時間がたつのも忘れてみた。

一番関心が高かったのが江戸城ができてから3回建て直し、明暦3年(1657)正月の大火で焼け落ちた天守閣。図面、50分の1の模型、天守閣が描かれた江戸の風俗屏風、大型スクリーンに上映されるCG映像により立体的にかつ詳細に解説されているので理解はぐっと進む。天守閣の高さは60m。30mの松本城の天守閣模型が一緒に展示してあるから、そのスケールの大きさがイメージしやすい。

風俗屏風、“江戸図屏風”(国立歴史民族博物館)と“江戸名所図屏風”(出光美術館)は昨年、三井記念美であった“日本橋展”にも出品されていた。天守閣は明暦の大火で消失して以来、再建されることがなく、天守閣の無い江戸城のイメージが定着しているので、時代を遠く遡ってこんな天守閣だったと言われても現実感がない。が、CDや屏風でみる限り、圧倒的な威容を誇る建造物であったことは間違いない。城のリアルな出土品としては、中心部から発見されたという金箔が一部残った瓦片が興味深かった。金箔の瓦はもう1点あるらしい。

正月年始のため大名が登城する際の下馬先の光景を描いた右の“江戸城年始登城風景図屏風”(右隻部分)は思わず足をとめてじっくりみた。理由は愛読している佐藤雅美の江戸物小説(拙ブログ05/8/8)にでてくる“下馬先”の面白い話を思い出したから。

“下馬評”という言葉はこの“下馬先”からきている。江戸城へは大手門、内桜田門(右隻)と坂下門、西丸大手門(左隻)から入るようになっているが、門前で下馬しなくてはならない。藩主に随行できる家臣は限られているから、大半の家来は門前で待機することになる。で、殿様の帰りを待ってる最中、供の者があれやこれやと噂話をする。例えば“○○殿の屋敷で騒動があったとか。。”、“○○殿は御役を退かれる、その後は○○殿が就かれるそうだとか。。”

面白い話しとは。下馬先で大名の籠の交通整理を担当していたのが大座配や中座配。実際に列の順番や待機場所を指示して動き回るのは彼らに雇われている六尺手廻り(籠を担ぐ人足)。座配は公儀の役人ではなく、業務を委託された民間の業者で、現在でいえば、ホテルで開催された財界人の新年パーティーが終わったあと、出口の前で社長が出てくるのを待っているお抱え運転手にマイクで“○○株式会社様”と呼びかけているホテルの担当のようなもの。

この座配や六尺手廻りが下馬先を取り仕切っており、登城する大名や旗本など屁とも思ってなく、鼻息も荒かったそうだ。座配の協力がないと藩主の動きもままならなかったから、気の利く藩は盆暮れの付け届けを欠かさなかったらしい。ここで文化13年(1816)、ある事件が起きた。

遠州浜松六万石の井上河内守は百姓の女房を強姦し、騒動を起こしたが、家来が揉み消した。そして、ほとぼりが冷めるのを待って、河内守が登城する。内桜田門(右の画像の門)から登城しようと、橋にさしかかった時、六尺手廻りから“いよオ、密夫大名!”、“待ってました、強姦大名!”と野次が飛び、河内守はさんざん野次り倒された。さあー、大変!。公儀も穏便に済まそうとしてたのに、六尺手廻りが騒いで半ば公然の不祥事になってしまったので、やむなく河内守を罰し、痩せ地の奥州棚倉に国替えにした。下馬先では大名を野次り倒すほどの“がさつで不法”な振る舞いが罷り通りっていたのである。

この特別展に下馬先の屏風があったのは大収穫。思い出深い展覧会になりそう。

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2007.01.19

江戸東京博物館の北斎展

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現在、両国の江戸東京博物館では“北斎展ー風景画の世界”(2/12まで)を開催中。ここへは何回も足を運んでいるのに、平常展示(5、6階)をみたのははじめて。ここで“江戸ワールド”をみせていたのだ!なぜいつも沢山の観光バスが駐車しているのか、大勢の小中学生はどこへ行くのだろうと不思議に思っていたが、これを見学するためだったのだ。

再現された日本橋を渡りながら、ここなら子供たちも楽しみながら、江戸のことを勉強できるだろうなと納得した。ミニ北斎展も子供たちの元気のいい声がとびかい、太田記念館の静けさとは対照的だが、熱心に見ている子も結構いる。浮世絵コーナーに展示してあった“北斎の家”では男の子が解説文をノートに書き写していた。

今回は北斎の風景画を若い頃から晩年まで50点ほど集めている。展示替えがあるため、図録に載ってる作品のいくつかは観れなかった。春朗時代の絵に“江都両国橋夕涼花火図”があった。橋の上に描かれた花火は広重の花火の描き方と同じで、大きな朱の点10個で表現されている。思わず“10の朱のまる点で花火?”と声がでてしまうほどリアルさを感じない花火であるが、この頃の花火は現在の精巧な仕掛けとちがってシンプルだったのであろう。それで、広重も北斎も似たような花火を描いたのかもしれない。

代表作“富嶽三十六景”(7点)のほかにシリーズ物が3つある。“琉球八景”が2点。“諸国瀧廻り”は8点全部でている。05年の大北斎展でも6点だったから、これは貴重な体験である。そして“諸国名勝奇覧”は全11点のうち6点ある。橋では雲のなかに橋がかかっているようにみえる“足利行道山くものかけはし”、ユニークなアーチ型5連橋“すほうの国きんたいはし”、“かうつけ佐野ふなはしの古づ”がお気に入り。

上の“佐野ふなはし”は雪の描写が上手い広重の風景画をみるようである。舟橋は舟をつなぎ、その上に板を渡して橋にしたもの。板に雪が残る中、4人の旅人が向こう岸にむかって等間隔で歩いている。徒歩なので動感は下の“富嶽三十六景・隅田川関屋の里”(今回展示なし)で疾走する馬と人物のスピード感と較ぶべきもないが、舟橋は同様に手前から左上に進み、それから斜め右に曲がっている。

また、ギメ美名品展に展示してある“百人一首宇波か縁説 藤原道信朝臣”(昨日の拙ブログ)にみられる籠が通る道もこれと同じ画面構成。広重の風景画がスナップ写真のような“静”的な表現であるのに対し、北斎の絵にはスピード感があり、その“動”的な描写は映画のワンシーンを観るような感じがする。

図録になにかの本に載っていていつか見てみたいと思っている“登龍の不二”(75歳の頃の作品、墨田区蔵)があった。展示替えで後半にでてくるはずだから、もう一回出かけるつもり。

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2007.01.18

ギメ東洋美所蔵 浮世絵名品展 その二

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ギメ美術館浮世絵コレクション展(太田記念美術館、拙ブログ1/4)の鑑賞パート2は1/16~26に展示される18点がお目当て。このほかに前期出ずっぱりの57点があるので、前期の後半は75点の浮世絵が楽しめる。

開幕日と較べると、明らかに入場者は多い。展示リストをいつものように貰うと、隣にいた年配女性グループが“この方が持ってるのは頂けるの?”と受付の女性に尋ねていた。これは東近美の平常展と同じでリクエストしないとくれない。2階に作品の展示替え情報が書き込まれたパネルがあるが、再度足を運ぼうと考えている方はリストを貰われたほうがいいかもしれない。

今回は最初に18点をみて、そのあと前回見たものをさらっとみた。パート2で気に入ったのは鳥居清倍の“一の谷合戦 熊谷直実”、一筆斎文調の“二世市川雷蔵の松若丸”、歌麿の“浄瑠璃十二段草子”、歌川豊国の“役者舞台之姿絵 やまとや”、広重の“花菖蒲に白鷺”と“播州名物 高砂ノ浦真景”。

東博に清倍の見てて元気の出る絵、“市川団十郎の竹抜き五郎”(重文、拙ブログ06/3/23)があるが、“一の谷合戦”と最初から出ている“羅生門”はこれと変わらぬ優品。熊谷直実の顔の表情や馬の躍動感溢れるフォルムに釘付けになる。北斎や広重と較べるとあまり馴染みの無い絵師が描いたこんないい絵をギメは集めているのである。流石というほかない。

また一筆斎文調の“松若丸”、背景の黒と薄緑の鮮やかな対比が目に焼きつく“二世市川八百蔵の奴軍助”(1/14までで終了)も名品。こんなに魅せられる文調の役者絵をみるのははじめて。豊国の出世作である“役者舞台之姿絵”に出会ったのは大きな収穫。このシリーズは国内でもなかなか見る機会がない。しかも“やまとや”は“かうらいや”(拙ブログ06/11/16)と組になっていたというから二重の喜びである。

上ははじめて見る広重の“高砂ノ浦真景”。あまりに発色がいいので夢中になってみた。小さな橋を渡る二人をはさむ土手の緑、河に浮かぶ舟の屋根の黄色、そして水面の濃い青の組み合わせが見事。広重の緑と同じくらい感激するのが下の北斎作、“百人一首宇波か縁説 藤原道信朝臣”(前期中展示)に描かれた坂の石段を駆け下りる籠の緑。この絵は緑、黄色(屋根の内側)、青(手前の男が担いでいるまるい入れ物の布カバー)のコントラストだけでなく、動きのある大胆な構図に唸る。道を急ぐ籠は一旦左下に消えたあと、真ん中の道では右に向かっている。絵巻に使われる異時同図法で描かれた場面をみるような気分。

世界一と言われる写楽の大首絵あり、北斎の龍虎図あり、広重の風景画あり、、本当に贅沢な展覧会である。次回は後期の前半(2/1~12)。念願の歌麿の美人画に会えるので今から楽しみ。

<展覧会プレビューの更新>
太田記念館がギメ名品展のあと、またまた大ヒットを打ってくれた。ロンドンにあるヴィクトリア&アルバート美術館が所蔵する浮世絵を日本に持ってくるという。また、千葉市美術館が待望の鳥居清長展を開催してくれる。

4/28~6/10  鳥居清長展                千葉市美術館
5/1~6/26   ヴィクトリア&アルバート美浮世絵名品展   太田記念美

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2007.01.17

たばこと塩の博物館の川柳と浮世絵展

657渋谷パルコのすぐ近くにある“たばこと塩の博物館”は浮世絵作品の追っかけでは目をつけているところ。

現在行われている“川柳と浮世絵で楽しむ江戸散歩展”(2/4まで)に喜多川歌麿の絵がでているのではないかという期待があり、でかけた。

今回も前来た時同様、いい絵がいくつもあった。しかも料金を100円しかとらないので、帰り際はつい頭を下げてしまう。主催者の狙いは川柳の面白さと浮世絵の魅力をセットで味わってもらおうというもの。だが、俳句や川柳に熱心でないので句はあまり読まないで、グッとくる浮世絵の方に軸足を置いて見て回った。

狙い通り、歌麿の見たかった絵があった。もうこれだけで大満足。川柳が詠まれた江戸の事象は名所、旅、生業(なりわい)、吉原、歌舞伎、信仰などで、“柳多留”収蔵の句から200点が選ばれている。歌麿の絵は10点ある。“江の島遊覧”、“青楼十二時 戌の刻”、“々午の刻”、“張見世”、“吉原青楼年中行事”、“当時全盛似顔揃 扇屋内花扇”、“児戯童の三笑十艶名”、“咲花ヶ言葉の花 おかみさん”、“両国羽根遊び”、“二美人首引”。

追っかけていたのが右の“二美人首引”と“張見世”。首引を詠んだ句は“首っ引帆柱立てるように負け”。首が引っ張られて前に傾く様を舟の帆柱が立つのに見立てている。絵に登場する女は寛政の三美人の二人。右が“難波屋おきた”(拙ブログ06/12/10)で、左が“高島おひさ”。この状態ではどっちが勝ってるかは分からない。ともに超美人なのだから、どちらが美人かを首を引き合って競う必要もないと思うのだが。見世を張る遊女12人と壁に描かれた鳳凰が妓楼の豪華で艶やかな雰囲気を醸し出している“張見世”から生まれた川柳は“鳳凰が雁首を出す格子先”。鳳凰の首と遊女の持つキセルの雁首とを掛けている。

念願の2点のほかで最も惹きつけられたのが歌川豊国の五枚続きの大作、“江戸両国すゞみの図”。こんな横長の浮世絵を見るのははじめて。斜めの構図で画面いっぱいに描かれた両国橋には大勢の人。豊国が描く男や女の顔は目に力がある。いつも目がつりあがって怒っている感じで、手前の道を行き交う人たちがつりあがった目で睨みあっているから、今にでも喧嘩をはじめるのではないかと心配になる。

今回意外な一枚があった。それは広重が“東都名所之内 両国花火之図”で描いた花火。赤の点々が大きく、造形的にもあまり美しくない花火なのである。感動することが多い広重の風景画なのに、こういう感想をもったのははじめて。普段は訪れることのない美術館だが、企画展の質は高い。狙いの歌麿の美人画をはじめ、広重や渓斎英泉のいい風景画、国芳の人物画などと出会い、大きな満足が得られた。

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2007.01.15

竹久夢二の宝船

656平木浮世絵財団が“ららぽーと豊洲”のなかにつくった常設展示コーナー“UKIYO-e TOKYO”で今、新春展“江戸 正月の賑わい”が行われている(1/28まで)。

文字通り小さなコーナーなので展示してある浮世絵の数は40点くらいと少ないが、平木浮世絵財団のコレクションは定評があるので期待して足を運んだ。

狙い目の広重の正月や初春にちなんだ風景画が期待にたがわず10点あった。広重の風景画をとことん鑑賞しようと東博や太田記念美へ頻繁に通っているが、まだまだ初見の作品がでてくる。今回も半分ははじめて見る絵。三枚続きの“東都名所 洲崎弁財天境内全図 同海浜汐干之図”で惹きつけられるのは遠くにみえる海岸にいる大勢の人が米粒のように小さく描かれていることと地面の鮮やかな黄色。

羽ねつきを楽しんでいる3人の女性を画面手前に大きく描き、背景に風景をもってくる“正月の景色”も新春に相応しい絵。“江都名所 かすみかせき”や“湯しま天神社”には凧揚げがでてくる。小さい頃、凧揚げを夢中になって遊んだのが懐かしい。初日の出を描いた“江戸名所 洲崎はつ日の出”や宝船の絵もあった。広重以外では歌川国貞の羽子板絵“岩井杜若の熊谷妻さがみ”と菊川英山の“門松娘の羽ねつき”がいい。

正月にちなんだ浮世絵のほかに、“宝船”の版画が39点展示してある。宝船というと七福神が乗り込み、鯛、海老、米俵、財宝などが満載されたワンパターンの絵しか頭になかったが、今年の干支の猪が描かれたものなどいろいろな図様があった。これは楽しめる。

真ん中に大正9年(1920)の節分に発売された竹久夢二の版画、右の“宝船”が飾ってある。この絵を見るのは3度目。2年前、渋谷東急店であった回顧展にでていた。ハッとする色の組み合わせに目を奪われる。題名がまた“命も鎌椀宝船”(いのちもかまわんたからぶね)とカッコいい。で、黒の小船には命を示すハートマークが、帆には鎌とお椀が描かれている。真っ赤な着物を着て、三味線をつまびく島原の太夫は櫓をこぐ異国の男と二人の愛を宝にして、荒波に乗り出すのだろうか。

ここで夢二の絵と対面するとは思いもよらなかったが、千葉市美術館でもうすぐはじまる“竹久夢二展”(1/20~2/25)と開幕前からシンクロしているのかもしれない。チラシによると350点でるというから期待がもてる。

<展覧会プレビューの更新>
okiさんから教えてもらった損保ジャパンの展覧会と戸栗美の記念展を追加した。
4/1~6/24   開館20周年記念名品展      戸栗美術館
4/21~7/1   ペルジーノ展             損保ジャパン美術館            

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2007.01.14

福やござれ展の七福神

647美術館で行われる新春展へせっせと出かけてるので日本美術に対する興味が薄い人や展覧会で作品を鑑賞することが無い人と較べると、忘れられつつある懐かしい日本の正月を思い出すことが多いかもしれない。

三の丸尚蔵館の“福やござれー寿ぎの美・新春に集う展”(前期:~2/4、後期:2/10~3/11)で吉祥の文化記号を目にすると、せめて1月くらいは寿ぎの美を感じて生活しなくてはと思う。

今回は皇室の御慶事に際し献上された寿ぎを表す絵画や工芸品の中から34点が展示される。HPでみて関心が高かったのが狩野探幽の“唐子遊図屏風”と橋本雅邦の“寿老人”。昨年6月、板橋区立美術館の“これが板橋の狩野派だ展”で楽しんだ狩野典信の絵(拙ブログ06/6/23)の原画がこの“唐子遊図”。

右隻は鶏合と花合に興じる場面だからすこしおとなしいが、左隻では子供は獅子舞にあわせて体を動かしたり、瓢箪を上に投げたりして心から遊びを楽しんでいる。これをみて奈良県美に飾ってあった長澤芦雪の書画を描いたり、囲碁をさしている子供がでてくる“唐子琴棋書画図”を連想した。可愛い子犬の絵なら俵屋宗達と円山応挙が一番だが、唐子の絵は探幽と芦雪がとびっきり上手い。

唐子図を注文した人は正月とか慶事の時にこれを飾り、鑑賞していたのだろう。今でも京都にある老舗の商家などでは、親族などが集まる祝いの席に限って鶴亀、松、七福神などの吉祥図像が描かれた秘蔵の掛け軸や屏風を披露する習慣があるようだ。

橋本雅邦の“寿老人”(三幅対)は長寿を象徴する絵。真ん中に鹿を連れた寿老人、右に松と2羽の鶴、左に親子亀が描かれている。寿老人が持っている杖に結ぶつけられている巻物には寿命は何歳までと書かれているのだろうか。三井記念館にもあったように見慣れた寿老人の頭は異常に長く、これが笑いを誘うのだが、この老人は普通サイズの頭をしている。

絵のほかに布袋のやきものや宝船、牙彫の七福神などがある。右はその七福神の“恵比寿(右)、大黒天(真ん中)、寿老人(左)”。残りの4人は布袋、福禄寿、毘沙門天、弁財天。さて、今年は大黒天様、恵比寿様が商売繁盛、財運をもたらしてくれるであろうか?

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2007.01.13

戸栗美術館の古九谷展

262今年、開館20周年を迎える戸栗美術館では4月以降、所蔵名品展が昨年の出光美のように何回かにわけて行われる。

04年から定期的に通い、古伊万里、古九谷、柿右衛門、鍋島の優品を目に焼きつけてきたが、記念展はまだ観てないものが鑑賞できるまたとない機会なので、開幕を心待ちにしている。

今回の“古九谷ー謎を秘めた躍動美展”(2/28まで)は記念展の前奏曲みたいなもの。出展数106点のうち、17世紀中葉にやかれた古九谷様式の作品は40点あまり。古九谷様式には“五彩手”、“青手”、“祥瑞手”などがある。お目当ては黄色と緑の対比が観る者を惹きつけてやまない“青手”。

4点あったなかで最もグッときたのが右の“色絵瓜文大皿”。径45cmの大皿なので、見ごたえがある。周囲を緑の流水文で囲み、黄色地を背景に緑と濃い青で瓜文様をどんと描いている。緑と黄色の色面からは強力なエネルギーが出ており、青手の大皿をみるといつも元気がでる。緑と黄色の二色を効果的に対比させる意匠は江戸前期、さかんに制作された金碧障壁画をヒントにして生まれたといわれる。金屏風の緑と金に対する、大皿の緑と黄色である。

東京にある美術館で“青手”の優品を多く所蔵しているのは出光美、松岡美とここ戸栗美。出光の青手コレクションは日本一。昨年の名品展Ⅱにトップクラスの菊文と山水文の大皿2点がでていた。径は47cmあり、これより大きな皿は他にみたことがない。目が眩むばかりの素晴らしい発色に驚かれた方も多いはず。松岡美にもいい青手があり、数も戸栗より多い。

今回、青手のほかに大きな収穫があった。それは館自慢の“色絵牡丹文瓶”。高さが47cmもある大瓶で、形のよさと鮮やかな色彩に心底魅了された。白地に赤い細線で装飾的に描かれた牡丹花が実に美しく、絵画をみているような気がする。また、真ん中の円窓に葡萄を啄ばむ鳥を描き、周りに菊花と鳳凰の文様を交互に配した“色絵葡萄鳥文 輪花皿”にもしばし足がとまった。ここはいつも期待を裏切らない。気持ちよく館を後にした。

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2007.01.12

世田谷美術館の富本憲吉展

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世田谷美術館でみた“富本憲吉展”(3/11まで)の余韻に浸っている。富本の生誕120年を記念した回顧展は予想を上回る大展覧会だった。

04年と昨年、東近美と松下電工汐留ミュージアムで見た回顧展と較べると感動の総量は2、3倍あった。数が多い(250点)だけでなく、日本中にある富本の名品のほとんどが集まっているのだからすごい。過去みた人気の名品に加え、初見の素晴らしい色絵の壺や飾筥が目の前に次々と現れるので、興奮スロットルが開きっぱなしだった。お気に入りはやはり色絵更紗模様の皿(拙ブログ04/12/19)や四弁花が連続する色絵金銀彩(06/2/23)、羊歯模様の作品。

今回、感激度が高かったのが上の“色絵竹と菱更紗模様瓢箪形大壺”と真ん中の“色絵紫四弁花模様飾箱筥”。“瓢箪大壺”を富本の生地、奈良県の安堵町にある“富本憲吉記念館”が所蔵していることは松下電工の展覧会(06/9)に置いてあった館のパンフレットで知った。モダンなデザインにいっぺんに魅せられ、いつか記念館を訪ねてみたいと思っていた。その作品がなんと出品されていたのである。天にも昇る気持ちだった。

青地に赤や黄色、緑の更紗模様と白地に同じ色の組み合わせの竹が渦巻きのように描かれている。渦巻きタイプは同じだが、模様の異なる3つのヴァージョンがあるが、この瓢箪のデザインが一番リズミカルで美しい。これは富本が世田谷の上祖師谷に住んでいた頃の作品。昨年、東京倶楽部であった“大いなる遺産 美の伝統展”に出品されて多くの愛好者をびっくりさせ、今回も展示してある“色絵飾筥”(06/2/9)と同様、濁りのない明るい色合いに心がとろけそうになる。“紫四弁花模様”はチラシで強い磁力を発していた作品。地の緑と花弁の紫の対比がなんとも素晴らしい。富本は天性のカラリストではなかろうか。言葉を失うくらい感動した。

形で唸ってしまうのが下の“色絵金彩羊歯模様飾壺”(京近美)。これをみるのは4度目だが、毎回いい気持ちになる。これほど美しいまるい壷はほかにない。白地に金彩と赤の羊歯模様が菱形で軽快にかつ精緻に描かれている。こうした連続模様を仕上げていくにはかなりの集中力が要るだろう。羊歯が様式的に見えず、自然界にあるように生き生きしているところがいい。名品の数々を前に一日中でも見ていたい気持ちだった。この展覧会は一生の思い出になるだろう。

なお、この展覧会は世田谷美の後、下記の美術館を巡回する
岐阜県現代陶芸美術館:4/7~5/27
山口県萩美術館・浦上記念館:6/30~8/19

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2007.01.11

アルフォンス・ミュシャ展

624日本橋高島屋で行われている“アルフォンス・ミュシャ展”(1/23まで)をみた。

ミュシャの絵はリトグラフやポスターなので、浮世絵のように同じ作品が何点もある。

05年1月、東京都美術館であった大規模なミュシャ展を観たから、同じものがあることが予想される今回の展覧会はパスしてもいいのだが、ファンの心の中というのは特殊で少しでもまだ観てない作品が含まれていれば、それだけでも観たくなるのである。

今回はチェコのモラヴィアギャラリーとプラハ工芸美術館(ともに国立)が所蔵する作品が165点でている(プラハ国立美術館にあるミュシャ作品は拙ブログ04/12/5)。東京都美のとき飾ってあった金メッキのブロンズ胸像やペンダントなどの宝飾品はなく、絵画のみ。予想した通り、前回見た劇場ポスターや工業製品ポスターが次から次とでてくる。でも、はじめてみるのも結構あるので、満足の高さは変わらない。

女優ベルナールが主演した舞台のポスターが全部ある。出世作の“ジスモンダ”、“椿姫”、“ロレンザッチオ”、“サマリアの女”,“トスカ”、“メディア”、“ハムレット”。縦2mもある細長ポスターは豪華に描かれた人物とそのまわりの様式的な紋様や花々で装飾性豊かに構成されている。“トスカ”の背景に埋め尽くされた蛇を思わせる鶴の首がとても印象的だった。ミュシャがアール・ヌーヴォーの寵児としてパリで一気にブレイクしたことはこれらの華のあるポスターをみると容易に理解できる。

ミュシャが描く女性は正面向きより横顔の方がより美しさを感じる。“黄道十二宮”(拙ブログ05/1/29)とともに大のお気に入りは右の“羽根を持つ女性”。異常に長くアラベスクのように様式化された髪をもつ女性が多いなか、この女性は普通の髪形をしており、横顔の美しさに見蕩れてしまう。

製品やイベントのポスターもいろいろある。自転車、シャンペン、リキュール、ビール、ビスケット、前回もあった煙草(銘柄JOB)。イベントではパリ万博のオーストリア館とかセントルイス万博のポスターにもミュシャ様式(拙ブログ05/2/12)が使われている。

今回の収穫の一つはミュシャが関わった装飾芸術に使われたデザインをまとめた“装飾資料集”。いわゆるデザイン帖だが、とくに興味深かったのが植物や花の文様。連続するフォルムと淡い色調の色使いが素晴らしく、夢中になってみた。祖国モラヴィアへ帰って以降制作された作品で魅せられたのは花の鮮やかな赤と女性の眼が忘れられない“モラヴィア教師合唱団”。また、“ロシア復興”や“南西モラヴィア挙国一致宝くじ”も胸にズキンとくる。

2回も回顧展をみたから、ミュシャは当分お休みできる。

<展覧会プレビューの更新>
下記の展覧会を追加した。“パリへー洋画家たちの夢展”は東芸大の創立120周年を記念する特別展。
2/17~3/25   加山又造展            茨城県近代美術館
4/19~6/10   パリへー洋画家たちの夢展   東芸大美   

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2007.01.10

横浜そごうの有元利夫展

623有元利夫の絵はこれまで4点しか見たことがない。

だから、この画家については何も知らないのと同然だが、その作風になにか惹きつけられるものがあり、現在横浜そごうで開催中の回顧展(1/2~1/25)へ足を運んだ。

有元がいつごろ活躍した画家かということは会場の解説パネルで知った。生まれた年は1946年で現在まで生きていれば
60歳だが、なんと1985年、38歳の若さで亡くなっている。死因は癌?それとも事故?それで、よくプロフィールに夭逝の天才画家と書いてあったのか!東芸大のデザイン科を卒業して、電通に入社している。少しサラリーマンをやり、その後画家になったようだ。

最初に見たこの画家の絵は“室内楽”。過去2回、東近美の平常展でみた。ぱっと見たとき、ピカソの“新古典主義時代”の作品、“海辺を走る2人の女”(パリ、ピカソ美術館)を連想した。画面の中央、彫刻を思わせるような顔をした裸婦が異常に長い腕をテーブルの上において座っている。平面的な画面構成で、女の背景にはマグリッド風の白い雲がいくつも浮かぶ空が描かれている。

今回わかったのだが、この絵が安井賞を獲得した代表作らしい。東近美の図録に掲載されているのも納得である。あと3枚の絵は昨年、世田谷であった“アンリ・ルソー展”でみた。その一枚、“一人の夜”はルソーの“カーニヴァルの夕べ”とよく似ていたので、有元利夫はアンリ・ルソーの絵に霊感を受けたのかと理解した。

今回、57点の絵画をみて、絵の特徴がすこし見えてきた。だが、