山種美術館の千住博展
待望の“千住博展”(12/2~3/4)が山種美術館ではじまったので、初日に見てきた。今回は館のHPをみず、目の前に現われる新作“ウォーターフォール”と真っ白な気持ちで向き合おうと思っていた。
入館してもらったチラシをみると、今年制作された“ウォーターフォール”はフィラデルフィアにある純和風の日本建築、“松風荘”に来年の4月おさめられるという。フィラデルフィアの在住日本人や千住博のファン、ジャーナリストにとって注目の作品なのである。日本ではここでしか公開されない。いまや世界的にその才能が評価されている千住博の襖絵を多くの人にみてもらおうという思いなのか、会期は来年の3/4までと一人の作家の展示としては異例の長さ。HPでこの特別展の情報を得たとき、なぜこんなロングラン興行なのかわからなかったが、こういうことだった。
千住博の“ウォーターフォール”は過去、ここで95年に制作されたもの(山種美蔵)と大徳寺聚光院伊東別院の襖絵(02年5月完成)をみた。今回は松風荘の襖絵6点が全部飾られているのだから、これは貴重な鑑賞空間である。聚光院別院のときでも、2点しかなかった。ここに紹介するのはそのうちの3点。午前中でまだ混んでなかったのでじっくり見た。心を静め、松風荘のなかの畳に座っているような気持ちで眺めると、じわじわと大きな感動が沸き起こってきた。α波が相当出ている感じ。
ここに描かれた滝は実景ではない。絵の具による滝であり、千住博の心象風景としての滝である。薄い茶色の地に上から幾筋も流れ落ちる水は色々なフォルムを見せる。目を横にゆっくり移動させると、2,3の形がイメージされた。古代人が狩猟のとき使う先が鋭利に尖ったモリのような流れ、蜘蛛の巣の一部破れたところのように細い線がまっすぐでなく斜めに引かれているもの、そして水が次から次と重なり落ちるため濃い白になっているところ。。
流れの間隔のとり方で造形美のヴァージョンが生まれる。上は横長の襖いっぱいに多くの水がいっせいに流れ落ちているのに対し、真ん中は水が中央にかたまり、日光の華厳の滝のようにどどどーっと落下している。また、下は右半分のほうが水の密度が濃く、左へいくにつれ間隔が大きくなっている。下の襖の向かい側に展示してあったのは左のほうに流れが集まり、右が疎なものだった。これは自分だけの好みなのか、皆も同じように感じるのかわからないが、下の襖のほうがしっくりする。何かの美術本に“人間の目は対象を左から右へ見ていく”というようなことが書いてあったから、このためかもしれない。
3枚の襖絵とも、沢山の水は一見すると同じ平面状を水しぶきをあげて流れ落ちているように見える。が、上と下の襖絵の滝つぼをよくみると、横にのびる線が数本平行に引かれている。これで奥行きをつくり、重層的な滝の風景を感じさせている。これとは対照的に、真ん中の横線は一本しかなく、上から勢いよく落ちた水は左右に超細長の楕円形のように広がるイメージを与えている。
幻想的で荘厳な滝に200%感動した。千住博の“ウォーターフォール”にますますのめり込んでいく。
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コメント
山種は気合が入っていますね。
月曜も開館、金曜は夜七時までとは!
いづつやさん、初日にいかれたんですか、図録を買うと画家のサイン会があると告知されていましたがサインはいただけましたか?
ホームページもリニューアルし、山種も冬を越せばおなじみの桜の展覧会ですねー春が待ち遠しい。
投稿: oki | 2006.12.03 22:13
to okiさん
山種美のHPが変わりましたね。千住博さんのサイン会
の整理券を図録を買ったときもらいましたが、午後2時
からだったので、パスし、他の美術館へ急ぎました。
投稿: いづつや | 2006.12.03 23:49
昼間書き込もうとしたけど拒否された、メンテナンスだったのですね。
さて山種僕も行ってきました。
ソファに座って三面に展開する滝を観て、ビルから自然美に転じたこの画家のことを想いました。
「たったこれだけ」とか言っているご婦人もいましたが、まあいろいろ感じ方はあるなと/苦笑。
山種はこれからもいい展覧会が続きますね、開館40周年記念展、没後50年、川合玉堂展ーこの美術館は名品の収蔵が多いですから楽しみですね。
投稿: oki | 2006.12.07 21:50
実物を見てみたいと思いました。
素敵だろうと想像できます。
これが今、注目を浴びているという事にうなずけます。
私もメンテナンス中に何度も書いてしまいました。(笑)
投稿: seedsbook | 2006.12.07 22:00
へぇ、素敵ですね、この作品。
フィラデルフィアにある純和風の日本建築「松風荘」に来年おさめられるということですが、同じペンシルベニア州のピッツバーグにあるフランク・ロイド・ライトが設計した「落水荘」をやはり意識されたのでしょうかね。
投稿: あかね | 2006.12.08 07:11
千住博展
近美の帰りに寄ったら会期の前日でした。。。
中々良い展覧会のようですね
滝好き人間としてはぜひ行かねば!
随分と長い展覧会なので
また機会を見つけて行って見ます
投稿: muha | 2006.12.08 09:39
to okiさん
千住博はモティーフを滝に変えて大成功ですね。水墨画
のようなモノトーンのほうがむいているような気がし
ます。
実は前回みた花鳥画、“四季・春”はあまり魅力を感じ
ませんでした。もっと美しい花鳥画を描く日本画家はたく
さんいますので。
でも、この“ウォーターフォール”はオンリーワンの画風
ですね。今回6点全部をここで見られるのですから、幸せ
です。
投稿: いづつや | 2006.12.09 00:11
to seedsbookさん
今回襖絵6点がでているのです。千住博の若いころの絵
もいくつか展示してあるのですが、襖絵がゆったり観
られるように長椅子もおいてありますので、じっくり楽
しめます。深い絵です。
この絵は近代日本画の水墨画、ベスト5に入れてます。
横山大観の“生々流転”、横山操の“越路十景”、加山
又造の“月光波濤”、千住博の“ウォーターフォール”、
王子江の大作“雄原大地”(順位は無し)
今回、千住博は滝の色ヴァージョン、“フォーリング
カラーズ”も制作しました。これもすごく美しい滝です。
seedsbookさんもいつか観れるといいですね。
投稿: いづつや | 2006.12.09 00:55
to あかねさん
ウォーターフォールに前々からぞっこんなのです。
この展覧会ではじめて知ったのですが、松風荘は
1954年、NY・MoMAの中庭にロックフェラー3世の
発意で建てられた純和風の日本建築だそうです。
これがのちにフィラデルフィアのフェアモント公園
内に移築されたのですが、今回あらたな襖絵をつく
ることになり、千住博に白羽の矢が当たり、制作の
運びとなりました。来年4月から永久展示になるら
しいです。ちなみに、最初のは東山魁夷の作だそう
です。
投稿: いづつや | 2006.12.09 01:18
to muhaさん
この絵を来年の3/4までと随分長く展示するのは
山種美が千住博の作品に並々ならぬ期待をしている
からでしょうね。襖絵6点全部がアメリカへ渡る
前にみれるのですから、有難いです。フィラデル
フィアへはなかなか行けませんので。
ウォーターフォールは近代水墨画の傑作と高く評価
しているものですから、初日に駆けつけました。
情報が大量にとびかい、心がざわざわする現代社会
にあっては、こういうモノトーンの滝の絵は大きな
力をもつのではないでしょうか。
投稿: いづつや | 2006.12.09 01:40
こんばんは、
私もこの展覧会行ってきました。
絵の持つ迫力に圧倒されて帰ってきました。
少し時間をおいて、また見に行きたいです。
投稿: イッセー | 2006.12.13 04:13
to イッセーさん
私も新日曜美術館をみました。絵の出来る制作過程が
垣間見えて面白かったです。心に映るイメージを消さ
ないために、画面から一瞬たりとも目をそらさない
というのが印象的でした。まさに魂をこめて描いた作品
ですね。
千住博とは一生付き合っていこうと思ってます。会期
中間あたりに、またでかけます。
投稿: いづつや | 2006.12.13 07:54
木曜日に朝一で観て来ました
この頃、理屈ではなくて観て嬉しくなる絵に出合えて嬉しく思っています
現地で観たらどう観えるのでしょうね いつか観れるかな・・・
大徳寺聚光院伊東別院の襖絵は現地で観たいものです
投稿: えみ丸 | 2006.12.17 17:36
to えみ丸さん
今回のウォーターフォールは全襖絵を展示ですから、
有難いですね。山種様々です。伊東別院のときは3点
だけで、うち2点がウォーターフォールでした。
絵は感じるのが一番ですね。それもあまり予備知識
を入れないで。絵を理解するためではなく、色やフォル
ムを感じるために出かけているのですから、わからなく
ても、感じられれば充分ではないでしょうか。
私は20年前から柳宗悦の言葉“見て知りそ、知りて
な見そ!”の精神で展覧会に通ってます。今回もずっと
見てました。本当にいい空間でしたね。伊東へはクルマ
で1時間30分くらいでつきますから、いつか別院を訪ね
てみようと思ってます。
投稿: いづつや | 2006.12.17 23:53