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2006.12.10

映画「歌麿をめぐる五人の女」

582先月末、BS2で溝口健二監督の「歌麿をめぐる五人の女」(1946)を放映していた。

古い映画(白黒)なのでフィルムのコンディションが良好とはいえず、台詞がよく聞き取れない箇所がでてくるが、当代一の美人画絵師として人気を誇った喜多川歌麿のことを扱った映画なので興味深くみた。

歌麿がかかわる五人の女の物語は娯楽時代小説としてつくられたフィクションなので、とくに心が動かされるということはない。関心があるのは歌麿がどんな絵師だったかという点。溝口健二が解釈する歌麿像だから、実際の歌麿とは当然ギャップはある。でも、映画化にあたっては、それまでにつくられた歌麿のイメージや事実を参考にしているだろうから、歌麿の実像と大きくズレているとも思えない。

なるほど!歌麿だったらこれはありかもという場面が出てくる。これが収穫だった。難波屋おきたの恋敵である吉原の花魁、おまんの背中に刺青の下絵を描くシーンがある。ここで歌麿がはく台詞と行動に固唾を呑んだ。“俺は大勢の女の肌をみてきたが、お前さんの肌ほど美しいものはない。お願げえだから、絵を描く前に背中に触らせてくれ!”このとき、瞬時に先頃見た映画「クリムト」(拙ブログ11/5)のことを思い出した。クリムトは“モデルに触れないと描けない”画家といわれている。クリムトが描くエロスの香りがするなまめかしい美女を見るとそのことが腹にストンと落ちる。

歌麿もクリムト同様、観る者をうっとりさせる女性を描いた。歌麿の描く美人像はクリムトの細身で官能的な女とはちがい、ふっくらとした顔、切れ長の眼、肉付きのいい体をしたとびっきりの美人タイプ。右の絵のモデルとなった女は寛政5年(1793)ごろ、江戸で一番の美人といわれた難波屋おきた。超美人はおきただけではない。容貌を競った高島おひさ、富本豊ひなも一緒にして描いてしまう。ビッグ3の美人が一枚の絵に描かれているのだから、これはもう跳ぶように売れる。

映画では、もうひとつ面白い場面がある。これは明らかに鮑取りの海女を描いた“鮑取り”にヒントを得ている。海岸ちかくにある別邸で、大名が上半身裸の大勢の腰元が浜で魚とりをするのを満足げに眺めている。周りは下々の者には観られないように幕が張られているが、死角があり、その家の座敷から蔦屋重三郎や歌麿らが覗き見し、この光景を楽しんでいる。歌麿は一人の腰元を食い入るように眺め、“蔦三、あの女を描きたいから、なんとかして連れてきてくれ!”と懇願する。で、蔦屋重三郎のコネで連れてきたその腰元を歌麿は眼を輝かせて描く。それが“鮑取り”である。この映画で贔屓の歌麿にまた少し近づけたような気がする。

盛況だった江戸東博の“ボストン美蔵肉筆浮世絵名品展”は12/10に終了したが、次のビックな浮世絵展が迫っている。来年1/3から太田記念美術館ではじまる“ギメ美術館蔵浮世絵名品展”(前期:1/3~26、後期:2/1~25)。出展数190点のうち、歌麿の絵が19点あるという。手元にある歌麿の画集にはギメ美所蔵の名品がいくつも掲載されている。そのなかのどれがやってくるか、開幕が待ち遠しい。

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コメント

いづつやさん、こんばんは。
まったくタイムリーな記事に感激です。
つい先日、私も溝健のこの映画録画で、見たところです。
詳しいことはわからなかったのですが、
こちらで、はぁ、そう言うことだったのかと、教えて頂きました。
今日は、ギメが来る前に、太田記念美術館に行ってきました。
江戸博の浮世絵を見る前に、強行したのですが、
正解でした。
ずっと気になっていた、英泉がバッチリお気に入りとなりました。
絵師達が、芸者達の中で生活していたことが、
よくわかる映画でした。

投稿: あべまつ | 2006.12.10 22:48

to あべまつさん
ある事を深く理解しようとすると本の文字情報だけ
ではダメですね。映画やTVの映像情報は生の現場や
自然を観たりするのと同様、トータルの認識に役立
ちます。

ですから、芸術家を主人公にした映画やTV番組は
極力見逃さないようにしてます。この歌麿の映画は
美人画の生まれる過程を垣間見せてくれるので、
大変面白かったです。この映画をみると、歌麿も
クリムトやロートレックのように女たちの生活の
只中にいて、絵を制作していたことがストレートに
伝わってきますね。

投稿: いづつや | 2006.12.11 12:04

こんにちは
わたしは溝健ファンでして、色々資料集めたりしていましたが、この映画は封切り当時あんまり評判もよくなかったそうです。
しかし何十年もたった今の眼で見ると、悪くないと感じたりします。
衣装とか風俗考証は甲斐庄楠音でしたし、そこここににじむ美意識にときめいたりしています。
原作は邦枝完二でしたか、装丁は小村雪岱だったように思います。

投稿: 遊行七恵 | 2006.12.11 12:39

to 遊行七恵さん
この映画の衣装や風俗考証を甲斐庄楠音がしたの
ですか!なるほど々です。そして、邦枝完二の小説
の装丁が小村雪岱。雪岱の絵が観てみたいですね。

この映画で歌麿は狂言廻しのような役割りになって
ますが、なかなか面白かったです。

投稿: いづつや | 2006.12.11 18:13

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