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2006.11.17

東博のミニ写楽展

548世の中、段々寒くなってきているが、東博の浮世絵コーナーだけは今、とても熱い。

写楽の大首役者絵が20点(全部重文)一挙に公開されているのである
(12/6まで)。写楽の大首絵をこれだけ沢山まとめて見たのは95年、東武美術館で行われた大写楽展以来。

昨年あった太田記念美術館の名品展やMOAや千葉市美の所蔵品展にも写楽の絵は何点か出品されたので、写楽が縁遠ということはないが、なにせ作品の数が少ないため、写楽作品の残像が体の中に長い期間とどまってくれない。でも、江戸庶民を驚かした新しい役者絵28枚のうちの20点が一堂に展示されるとなると、テンションは一気にプラトー状態になる。こういう機会はめったにないので、じっくり鑑賞した。

昨日の歌川豊国でも少しふれたように、東洲斎写楽は寛政6年5月(1794)、江戸三座夏狂言に取材した28枚の大首役者絵で鮮烈にデビューした。それまでの役者絵は複数の人物も描かれたり、豊国の役者舞台之姿絵シリーズのような“一人立ち役者”であったが、写楽はこうした描き方は用いず、一人の役者だけを、しかも上半身アップで描いた。

そして、役者の顔の描き方まで大胆に変えた。役者を美化して描くのではなく、鼻が大きいとか、目が小さいとか、素のままのキャラを茶化すように誇張して描いた。それが真に迫り、役者の心の内面までもつかみとるようだったので一時的には大いにもてはやされた。浮世絵の役者絵はスターのブロマイドだったから、描かれる役者は少しでもいい男、いい女に描いてもらいたいと願う。それなのに、写楽はそんなことはお構いなしに、役者自身が気にしているところを逆に強調し、デフォルメして描くのだから、役者にとっては煙たい絵師だったにちがいない。

ドアップの大首絵にはアクの強い役柄がぴったりはまる。だから、悪役を描いたのが一番グッとくる。お気に入りは“嵐龍蔵の金貸石部金吉”、“三代目坂田半五郎の藤川水右衛門”、右の“三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛”。大首絵の魅力はなんといっても目と手の表現である。奴江戸兵衛の“やるか”といわんばかりに、眉をつりあげ、口を真一文字にむすんで相手をにらみつける形相はすさまじい。

そして、ヤモリの足を思い出させる指を広げた両手は体はいつでも前に行くぞという気概を表している。市川男女蔵の演じる奴一平は刀に手をかけているが、江戸兵衛の迫力に負けて、内心ドキドキという様子がありありとみえる。こんな怖い顔をしてこられたら誰だって引いてしまう。緊張の瞬間をこれほど鋭く表現した絵師は写楽のほかにはいない。

こうした役者を躍動的に描いた絵とは対照的に、写楽の代表作として有名な“市川鰕蔵の竹村定之進”は名優、鰕蔵の静的でどっしりした風格のある演技を見事に表現している。安定感のある構図、大きな鷲鼻、そして鮮やかなうす茶色の衣装にいつも釘付けになる。20枚の役者絵に酔いしれた。今、写楽の役者大首絵の魅力が体全体に染みわたっている。

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