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2006.11.04

世田谷美術館のアンリ・ルソー展

535_1現在、世田谷美術館で行われている“アンリ・ルソー展”(12/10まで)は10/7に開幕してからしばらくの間、行くかパスするかで迷った。

展覧会の情報を入手したときから、展示内容の詳細が判明するまでは海外の美術館から例えば、オルセーとかMoMAなどから代表作を何点かもってくるのだろうと期待をふくらましていた。が、途中から出品作は国内にあるルソーの絵だけということがわかったので、急速に関心度が小さくなった。

国内にある作品なら、これを主催する世田谷美術館の“サン=ニコラ河岸から見たサン=ルイ島”、“フリュマンス・ビッシュの肖像”などは既にみているし、東近美の“自由の女神”、ブリジストンの“牧場”、大原美の“牛のいる風景”、ひろしま美やポーラ美にある作品もお目にかかっている。で、アクセスの悪い世田谷美へ駆り立てるものが体の中になかなか涌いてこなかった。

それが出かけることになったのはチラシに使われている右の“熱帯風景、オレンジの森の猿たち”が気になったからである。このルソーの絵を象徴的に表す文化記号はひょっとするとすごくいい作品ではないかと予感した。果たして、イメージしていた以上にグッとくる絵だった。個人が所有しているものらしい。今回出品された17点のなかではベストではなかろうか。制作された1910年はルソーが亡くなった年だから、NY・MoMAが所蔵する代表作のひとつ、“夢”などと同様、亡くなる直前の作品ということになる。

国内でこういうルソーらしい名品に会えるなんて夢にも思わなかった。足を運んで本当によかった。森の草花や葉を表現した緑のグラデーションと沢山あるオレンジの色が鮮やかに溶け合い、そして茶色の毛をした猿と茶褐色の幹を観る者にくっきり印象づけている。緑の葉や花は実際より大きく、様式化されて描かれているので、装飾的で生い茂った感じがよく伝わってくる。

世田谷美蔵の“サン=ルイ島”に“フリュマンス・ビッシュの肖像”を重ねると代表作、“私自身、肖像=風景”(1890、拙ブログ7/23)と似た絵になる。前々からこの2点は日本にあるルソーの絵では一番いいかなと思っていたが、こうやって他の作品と一緒にみるとその感を強くする。

この展覧会にはルソーの作品のほかにルソーに影響された日本人画家の作品が沢山でている。これほど多くの作家がルソーから霊感を得ていたとは知らなかった。稗田一穂が描いた“豹のいる風景”(拙ブログ05/12/22)に驚いたが、今回みた“そよ風”も目を楽しませてくれた。松本竣介の大作、“立てる像”はこれまでルソーの絵との関連でみたことはなかったが、たしかによく観ると異常なまでに大きい若い男の後ろには小さな犬や帽子をかぶった向こうむきの男がいる。

岡鹿之助や有元利夫の絵がルソーに霊感を得て制作されたことは明らかなのだが、日本のシュルレアリストと違って、コピー画という印象がそれほどなく、作品に作家独自の個性が充分感じられるのは、われわれが日本画の平面的な構図に目が慣れているからかもしれない。はじめは行くのに躊躇したが、出かけてみると結構収穫の多い展覧会だった。

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コメント

今年の頭にパリのグラン・パレでルソーのリトロスペクティブがあり、それが東京に行ったのだと思っていたのですが、なるほど、違うのですね。ルソーはたしかパリの公務員だったのですよね。私は良くルソーの絵を「下手上手・へたうま」と形容してしまうのですが、好きな画家です。
いづつやさんの記事を読んでいると展示会に行きたくなります。今オルセーでモリス・デニス展が開催されているので観にいきたいと思います。

投稿: あかね | 2006.11.05 02:34

to あかねさん
日本にも緑の森がでてくるルソーらしい絵がありました。
“オレンジの森の猿たち”は個人蔵のため、一般の
美術ファンの目にはふれない幻の名画でした。私もルソー
が好きですから、グラン・パレであった回顧展をみられた
あかねさんが羨ましいです。

パリではオルセーとオランジュリーにある代表作を楽し
みました。また、プラハで“私自身、肖像=風景”を
見たのも一生の思い出です。この絵にでてくる男の顔を
みるといつも俳優のアンソニー・クイーンを思い出します。

素人の日曜画家として絵を制作していたのに、やがて
ゴーギャンを驚かし、ピカソや詩人のアポリネールなど
若手の前衛作家に敬愛され、そして多くの日本人画家にも
霊感を与えたのですから、ルソーは大きな画家ですね。

投稿: いづつや | 2006.11.05 11:13

有元もルソーに霊感を与えられたのですか!
僕はバロックに影響された画家とばかり思っていました。
ルソーの展示品ではやはりポーラがいいですね。
ポーラはいいコレクションしていますね、一度訪れたい。

投稿: oki | 2006.11.05 12:07

to okiさん
ルソーの絵ですぐイメージするのは緑のジャングルで
すが、日本にも個人蔵の“オレンジの森の猿たち”
やポーラ美の“”エデンの園のエヴァがあってよかっ
たですね。

有元利夫の絵はルソーのコピーという感じがしないで
すね。不思議な魅力があります。

投稿: いづつや | 2006.11.06 00:38

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