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2006.11.03

大エルミタージュ美術館展のゴーギャン

534東京都美術館が今回の“大エルミタージュ美術館展”(12/24まで)でつくったチラシのフレーズ、“日本では初公開の至宝の数々によって。。。”などに踊らされないほうがいい。

エルミタージュ美にある絵画の質がルーヴル美術館に次ぐ世界トップ水準であることはまちがいないが、いくらお金を積まれても“至宝の数々”を一度に貸し出したりはしない。

絵画の制作された時期、例えば、ルネサンス、バロック、オランダ絵画あるいは印象派から近代絵画などに絞りこまず、今回のように“人間と自然の調和のとれた統一”というひとつのテーマを横串として作品を集める場合、本当にエルミタージュ美術館の凄さ(拙ブログ05/9/6)を伝えられるのか、観た人がこれを感じ満足するかというのははなはだ疑問。

ご存知の方も多いかと思われるが、エルミタージュのコレクションで評価が高いのはダヴィンチ2点を含むルネサンス絵画、ジョルジョーネ、ティツィアーノらヴェネチア派、ドイツルネサンスのクラナハ、バロックのカラヴァッジョ、ルーベンス、レンブラント、フラゴナールらフランスロココ絵画、そして印象派、マチィス、ピカソなどの近代絵画。

そのなかでも特に有名なのがレンブラントとマチィスのコレクション。そのつぎに粒が揃っているのがゴーギャンとルノワール。今回の展覧会で期待していたのが右のゴーギャンの“果実を持つ女”とルノワールの“扇子を持つ女”。正直に言って、テーマとか他の画家の作品への関心は薄い。8年前、ここを訪れて大感激したこの2枚に再会できたので、満足度は高い。

ビジネスの世界では、顧客の満足度評価をどうやってあげるかが業種を問わず大きな課題である。顧客は商品やサービスに対する期待値と実際を較べて“満足”、“不満足”を感じる。期待値を上回れば満足度が増し、逆に下回れば“不満足”、“不快”になる。美術鑑賞でも期待値をどこにおくかは人それぞれだから、満足度にも幅がある。

これからこの展覧会を見に行こうと計画されている方にひとつの情報を提供したい。現地の美術館に行くといくら旅行トランクが重たくなろうと、図録を沢山買い込む。エルミタージュでは、館全体のガイドブックとして販売している厚い英語版、別編集の日本語版ガイドブック、フランス絵画の印象派や近代絵画だけを掲載した日本語版冊子の3冊を買った。

英語版には今回出品されているエリンハの“オランダの室内”が載っている。大変いい絵で、光の表現が印象的。もうひとつゴーギャンの右の絵もある。英語版にのっているのはこの2点だけ。この本にない作品は質が低いといっているのではない。誤解のないように。ここにあるアンリ・ルソーは今回でている“リュクサンブール公園、ショパン記念館”ではなくて森の中で虎が水牛を襲っている絵。日本版にあるのはゴーギャンとルソーの“リュクサンブール公園”。フランス絵画には表紙の見返しにルノワールの“扇子を持つ女”、そしてゴーギャンの“果物を持つ女”、マティスの“ルクセンブルグの公園”がのっている。

この展覧会、どこが至宝の数々なの?といいたくなるのだが、エルミタージュに傷がつくというわけではない。ご参考に図録を紹介したように、エリンハの名作が入っているし、ベロットの超リアルな大作風景画があり、ドレの“山の谷間”、ライスダールの“森の中の小川”もある。そして、“かぐわしき大地”(拙ブログ9/16)とともにゴーギャンの代表作のひとつとされている“果実を持つ女”、ルノワールの“扇子を持つ女”といった館自慢の名画が展示されている。

いつも言っているように大きな美術館の場合、目玉の作品が2,3点あれば立派な展覧会である。チラシや宣伝の文句をもっと控えめに“ゴーギャンやルノワールの名画がやってくる。。”とかにしとけば期待値と実際のギャップがなく、好感度が増したのに。人様の感じ方は横に置き、ゴーギャン、ルノワール好きにとっては体があつくなる展覧会であった。

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コメント

人が入らないと困るのは理解できるのですが、お客さんを呼びたいがためにあまりにも品のない宣伝文句を並べている展示会は本当に残念に思います。
ここ数年日本で頻繁にルーブル展が開催されているようですが、中身はどうなのでしょうか。私は京都でおととし一つ見に行き、その時は小規模でしたがいいものが沢山来ていたと思いました。でもそれ以来あまりにもルーブル、ルーブルで「ルーブル」イコール絶対人が入るという方程式が出来上がっているのがここまで繰り返されている一つの理由ではないかと感じます。
タイトルだけで引き寄せられるのではなく、自分で見たいものを自分で選べる人がもっと増えればいいなと思います。

投稿: あかね | 2006.11.04 05:13

to あかねさん
エルミタージュやルーブルのような大美術館はコレク
ションの幅が広く、ものすごい数の美術品を所蔵
してますから、何に期待してみるかはある程度は決め
ていたほうがいいですね。そして、主催者は観る人が
焦点を絞れるように目玉の絵がどれかをはっきりす
べきでしょうね。

今回の場合、ゴーギャンとルノワールの絵が一番有名
な絵なのです。ですから、“目玉はこの2つと少ない
ですが、これは画集に入るほどの名画なので、観る価値
は絶対ありますよ!”という本音をもっと宣伝に出せ
ばいいものを、“至宝の数々により”などという嘘っぽ
いフレーズを使うから、主催者は何を考えているの?
になるのです。ブランドに弱い日本人心理をいいように
もて遊んでいます。こういう宣伝ばかりしていると、
見ている人も学習効果?が働きますから、いずれ入場者の
数にも響いてくるように思うのですが。。。でも
やはり、変らないでしょうね。

あかねさんが見られたルーブル展は私も横浜美術館で
見ました。ルーブルの図録にも収録され、皆が知って
いる有名なアングルの名画が3点もあり、ほかにもドラ
クロアなどいい絵がありましたね。ブランド美術館の
展覧会を評価する際、輝ける目玉の作品が何点あるかを
基準にしてます。教科書に載っているような名画が沢山
あることはわかってますので、そのなかのどれを見せて
くれるかですね。それが2,3点あれば大満足でしょう。

手元に93年ごろ発行された世界の美術館をコンパクト
にまとめた“ラミューズ”(500円、講談社)が50
冊全部あります。これを大変重宝してまして、海外の
美術館へ行くときは必ずもっていきます。昨年でかけた
ベルギー王立美術館のもあり、ここに載っている作品を
チェックしながら館内を回りました。

この美術館がはじめて日本で展覧会をするというので
期待して出かけたのですが、出品作のいくつかは現地で
買った図録やラミューズにでていることは出ているので
すが、おおきく取り上げられている作品ではないのです。
これにはがっかりしました。われわれは4時間かけて
名作をじっくり楽しんだので、なんともないのですが、
自慢の作品を出し惜しみしている美術館にたいして、
ちょっと憤慨しているのです。そして、こんな作品で
妥協した国立西洋美術館の企画力もたいしたことないな
と思いました。西洋美は前もプラド美展でも期待を裏
切りましたから、最近は信用してません。

大エルミタージュ美展はチラシの過剰文句には問題あり
ですが、輝けるゴーギャン、ルノワールの名画2点が
ありますから、ケチをつけようがないです。ほかにも
モネ、シスレー、アンリ・ルソーのいい絵がでてました。

投稿: いづつや | 2006.11.04 17:00

東京都美術館来年の四月から「ロシア絵画の真髄」、サンクトペテルブルク国立ロシア美術館の展覧会をやるようですね。
クラムスコイ、レーピン、スリコフ「移動派」というそうですがどんな展覧会になるものやらー。

投稿: oki | 2006.11.09 22:31

to okiさん
北海道を旅行してまして、返事が遅れましました。
すいません。

ロシアへ行ったとき、国立ロシア美ではなくモスクワ
にあるトレチャコフ美術館でレーピンらの絵をみま
した。以来、移動派には関心をもってますので来年の
展覧会、すごく期待してます。

投稿: いづつや | 2006.11.12 08:35

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