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2006.11.19

狩野芳崖の仁王捉鬼図

243東近美で15年も待ち続けた絵に出会った。それは現在行われている“揺らぐ近代展~日本画と洋画のはざまに~”(12/24まで)にでている狩野芳崖作、右の“仁王捉鬼図”(におうそっきず)。

91年に放映されたNHKの番組“フェノロサコレクション”でこの絵を知り、いつか本物に会いたいと願ってきたが、やっと夢がかなった。嬉しくてたまらない。

秋田市金足の大地主、奈良家が所蔵するこの絵はたしか00年ごろ?開館した東芸大美の記念展に出品されたが、当時は広島にいて展覧会情報のチェックを今ほどしてなかったので、貴重な機会を見逃してしまった。それから、5,6年たち漸くこの絵の前に立つことができた。まず、展覧会自体について紹介し、それからこの絵のことにふれたい。

洋画家や日本画家のなかには、自分の求めるイメージの絵を描くため、ふたつのフィールドにまたをかけて制作した画家がいる。こういうチャレンジをした作家は新しい試みだけに創作の過程で心は揺れ動き、近代洋画プラスα、あるいは日本画プラスβの作風が傑作として高く評価されるケースもあれば、それほどの効果は感じられず、中途半端に終わることもある。で、“揺れる近代”となる。

画家は“絵”を描いているという意識が強いから、それが洋画風に見られようが、日本画風に見られようが、たいして気にしないが、見る側は平面的な画面が特徴の日本画と陰影や遠近法を使い立体的な空間を表現する洋画が同じ画面の中に一緒にでてくると、不思議な感覚にとらわれる。が、はざまにある絵を味わうにはあまり難しく考えず、ぱっとみたときその絵がいいな感じられるかどうかで向き合ったほうがいいかもしれない。

日本画家から出発して、洋画の描き方や色をとり入れて作品を制作したのは、フェノロサの指導を受けた橋本雅邦・狩野芳崖、横山大観、菱田春草、速水御舟、土田麦僊たち。洋画を最初にやり途中から日本画に転じたのは小杉放菴、近藤浩一路、川端龍子。初見の絵で惹きつけられたのは御舟の緑の輝きが印象的な“デッドシティー”と池の水面のキラキラが眩しい近藤の“碧潭”。

洋画家の絵で楽しませてくれるのは浅井忠の“鬼ヶ島”。こんなユーモラスな日本画を描いていたとは知らなかった。大好きな岸田劉生はお馴染みの“道路と土手と堀”など9点でている。そのなかの首をちょっと横に傾け、笑っている“野童女”は前から見たかった作品。赤の着物の質感表現に麗子像と同様、引き込まれる。また、明るい色調で描かれた日本画“四季の花果実図”に心がやすまる。

今回の一番の収穫は狩野芳崖と橋本雅邦の名画に会えたこと。ボストン美術館からは雅邦の代表作のひとつ“弁天”(ビゲローコレクション)が里帰りした。遠近法と波文を幾重にもかさねてつくられた立体的な空間のなかを、弁天が毛と鱗が上品に描かれた龍の背中に乗り、こちらに向かってくる。狩野芳崖は“悲母観音”(重文、展示は12/3まで)と“仁王捉鬼図”の最高傑作2点が一緒に出ているのだから、いつになく興奮する。“悲母観音”はこれまで幾度とみたので、待望の“仁王捉鬼図”に全神経を注ぎ込んだ。

これはフェノロサが最後まで手放さなかった作品で、フェノロサは芳崖につきっきりで構図や色に注文を出して描かせたという。仁王の衣装の青や背後の緑の煙がドハデなのはフランスから取り寄せた絵具を使っているから。緑の煙のむこうにはうす黄色やピンクが見え、上からはシャンデリアのような照明具が垂れ下がり、床の菱形模様は西洋の邸宅のものをそっくり持ってきている。

まばゆい色彩表現と共に、目が点になるのが首がやけに太くて筋肉隆々の仁王が左手に捕まえている鬼の姿。これほど戯画的に描かれた鬼は見たことがない。苦しそうに手足をバタバタさせ、眼球は飛び出しそう。また、可笑しいのはピンクと青のパンツ。鬼はほかにもいて、後ろで柱の影に隠れたり、逃げ出そうとしている。色鮮やかで迫力のある仁王と滑稽な鬼の取り合わせに心底魅了された。

最初は狩野派の絵師として腕を磨いた芳崖が西洋絵具を使ってこんな面白い絵を描くのである。日本画家の体にはやはり鳥獣戯画や地獄草子を描いた絵師のDNAが受け継がれているようだ。これだから日本画はやめられない。後期(12/5~12/24)に展示される芳崖の“暁霧山水”や“不動明王”(重文)が待ち遠しい。

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コメント

僕も金曜の夜間開館で行ってきましたががらがらでしたね、宣伝していないのかしら。
僕的にあっと驚いたのは須田国太郎の「老松」、屏風形式で墨の黒を大胆不敵にも多用しているー。
一緒に行った人が「こんなの飾っておきたくない」といっていましたが、須田の深淵みたいのを垣間見た思いがしました。

投稿: oki | 2006.11.25 23:40

to okiさん
須田国太郎の“老松”は回顧展には出てなかった
ですね。こういう日本画のような絵を描いていたと
は驚きです。狩野芳崖の絵を長く追っかけている
ものですから、この展覧会は大変有難いです。
後期も出かけます。

投稿: いづつや | 2006.11.26 10:36

道真の絵にしろ、仁王の絵にしろ、本当にマンガチックでした。
思いがけず、すばらしい絵に多々出会えて、とても嬉しかったです。
空いていたのもよかったですし。この秋の穴場ですね。

投稿: 一村雨 | 2006.11.27 15:02

to 一村雨さん
こんばんは。揺れる近代展、予想以上にいいですね。
フェノロサは南画よりは狩野派好みで、これを軸に
日本画の復興を推進しましたが、小林や芳崖のあんな
戯画的な絵もきっちり評価してますね。外国人のほう
がまっとうに見てます。

後期にでてくる芳崖の“不動明王”が楽しみです。

投稿: いづつや | 2006.11.27 17:59


初めまして。突然のコメントで申し訳有りません。
今33歳の男です。
今、皆さん方存じ上げる西洋風の『仁王促鬼』と違うもう一枚の仁王促鬼が在るのを御存知ですか?
以前御世話になっていた方が大事に保管されて何度か拝見させていただきました。
現狩野派の方にもかかわらず鑑定していただいた狩野芳崖作と言っておられていました。

で、以前美術展で見た仁王促鬼と迫力は明らかに違う物でした。

当時の西洋風的文化のせいか迫力にかけるものがあった!その時世に出せないすごいものも近くにあるんだと実感しました。

なおこのコメントを信用されない方々は狩野派の方に質問でもしてみてください!もっとすごい仁王促鬼がこの世に存在するのか?っと…

最後に走り書きのコメントで大変申し訳有りません。
でも本物は鳥肌立ちます(泣)

投稿: 元気ですばぃ。 | 2009.03.15 19:15

to 元気ですばぃさん
別の仁王捉鬼図があるのですか?それは知り
ませんでした。芳崖は悲母観音も2点描いて
ますから、同じモティーフの絵が複数あっても
おかしくないですね。

個人蔵の世界は奥が深いですから、その絵は
知る人ぞ知る名画のたぐいかもしれませんね。

投稿: いづつや | 2009.03.15 22:04

閲覧させて頂きました。私もブログで芳崖について書いていたので検索したらこのサイトがすぐに見つかりました。
大変読みやすく面白い内容でした。勉強になりました。ありがとうございます。

投稿: なすび | 2015.04.26 02:33

to なすびさん
芳崖がお好きな方とお話ができるとは心がはず
みます。今東芸大美で開催中の‘ダブルインパクト
 明治ニッポンの美’(4/4~5/17)はご覧
になられましたか?

もしまだでしたら、是非お出かけください。芳崖の
傑作がボストン美からやってきてます。

投稿: いづつや | 2015.04.26 21:12

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秋のビッグイベントの展覧会の影で、あまり話題にのぼることのない展覧会ですが、これは近代美術館ならではの見応えのある素晴らしいものでした。そもそも日本画とは何か?洋画とは何か?というテーマにそって、展示は進んでいきます。知っている画家もいるし、はじめて名...... [続きを読む]

受信: 2006.11.27 14:57

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