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2006.10.21

日本橋高島屋の安野光雅展

514会期が来週月曜(23日)までと残り少ない“安野光雅の世界展”(日本橋高島屋8F)をもっとはやく見に行って、取り上げればよかったと後悔している。

安野光雅の名前も顔も、そして絵本作家ということも知ってはいるが、肝心の絵をこれまで展覧会などでみたことがない。だから、あの絵を実際に見てみたいというインセンティブが強く働かなかったのである。

今年の2月、安野光雅が書いた“絵の教室”(中公新書、05年12月)を楽しく読んだ。これは手軽ないい本で、画家が絵について、日ごろどう考えていて、実際、どういう風に制作しているのかをゴッホなどの作品を紹介しながら、分かりやすく説明している。この本に使われている安野の絵、何点かが今回の回顧展でも展示してあった。

ことし80歳になる安野光雅が人気作家であることはうすうす気づいていたが、会場にいる大勢の人とこれまでの作品を見て、即座にファンの仲間入りをした。出展数は160点あまり。いろいろな絵がある。初期の作品はシュルレアリスト風の絵。こんなに頭がやわらかいのかとびっくりした。

現代数学のトポロジーにでてくる曲線や立体を意識して描いた“ふしぎなえ”シリーズがおもしろい。例えば、道路のうえにかかる陸橋は両サイドの階段があるところと真ん中の部分のつなぎがへんてこで、とんがり帽子をかぶって渡っている人たちは、下の車が走る道路へ滑り落ちるのではないかと錯覚する。次に飾ってある“もりのえほん”では木々のなかに動物を潜ませている。これはトロンプ・ルイユ(だまし絵)やダブルイメージの手法。6点あるが、キリン、パンダ、あらいぐま、かたつむりなどが登場する。とても巧妙に描かれているので、キャプションに書かれている動物の半分くらいしか見つけられなかった。

風景画が沢山ある。ヨーロッパではスペイン、ドイツ、スイス、オランダ、イタリアの都市が多い。海辺、山岳地帯、運河、城郭、古代遺跡の風景、また闘牛場やお祭りを楽しむ町の様子を俯瞰の構図で描いている。建物や寺院、家々、そして広場や市場に集う人々などが丁寧に描き込まれているので、日本画の“洛中洛外図屏風”をみているような気分。日本の山々や町並みを描いた作品では“倉敷”、“蓮華岳と爺ヶ岳”が気に入った。

絵本作家、安野光雅をイメージさせるのがメルヘンティックな絵、“野の花と小人たち”。つくしのなかにこれと同じ身長の子供がいたり、子供を背負ったお母さんがかわらなでしこに囲まれていたり、これはディズニー映画のような世界。

今回の収穫は“絵本 シェークスピア劇場”と“絵本 平家物語”。ヨーロッパ文学の古典であるシェークスピアの作品の一場面が、日本の画家によって息を呑むほど上手に絵画化されている。なんだか、嬉しくなった。“絵本 平家物語”は1996年に出来上がったらしい。迂闊にもこんな素晴らしい絵本の存在すら知らなかった。

構図のとり方、対象の細かい描写、バランスのいい色使い、状況にあわせた色調の変化、どれをとっても一級。こうした高い画技により描かれた作品の数々からは合戦の激しさ、惨さに、そして滅びゆく平家の悲哀が切々と伝わってくる。右は伴大納言絵巻の応天門炎上の場面を連想させる“奈良炎上”。すごい迫力の火焔表現に言葉を失った。

なお、この展覧会は高島屋のあと次のデパートを巡回する。
・そごう心斎橋本店:11/21~30 
・高島屋横浜店:07/2/21~3/5 
・松坂屋名古屋本店:3/24~4/10

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コメント

月曜までですか、これは行かないといけませんね、あすかあさって。
僕は明治神宮文化館宝物展示室を予定していましたが予定変更ですね。
高島屋とブリヂストンをはしごしましょうか。
確かにこの人は「絵本作家」としてあまりに名前が売れていて食指が僕も動きませんでしたね。

投稿: oki | 2006.10.21 22:50

to okiさん
この展覧会もっと早く出動すべきでした。シェーク
スピアと平家物語を絵本にしていたとは。大変感動
しました。是非ご覧になってください。まだ、2日
あります。

投稿: いづつや | 2006.10.21 23:33

デパート系の展覧会では安野展といえば常に満員御礼ですね。
主に大丸が多かったのです。
初期の頃の不思議な絵シリーズが丁度わたしの幼稚園の絵本にも入っていたので、かなり小さいときから色々見てきました。
平家物語シリーズは世に出た当時、かなり話題になりました。
もう十年も経っていたのか、とそのことにびっくりです。
須田さん亡き後しばらくしてから司馬サンの『街道をゆく』の挿絵もありますが、どの作品も本当に魅力が深いです。

投稿: 遊行七恵 | 2006.10.22 17:05

to 遊行七恵さん
安野光雅は人気がありますね。今回作品をみて、
その理由がよく分かりました。日曜美術館に
ゲストで登場するので、知らない作家ではない
のですが、メルヘンな童話の絵を描いていると
ばかり思ってました。シェークスピアや平家物語
を絵画化するのですから、幅が広いですね。

村上豊に、今度は安野光雅と発見が続いてます。

投稿: いづつや | 2006.10.22 22:26

最終日に行ってきました、展覧会情報ありがとうございました!
NHKプロモーションもかかわっているだけあっていい展覧会でした。
一枚一枚の絵の解説パネルを読むのに相当時間がかかりました。
カタログにはその安野の言葉が収録されていないので求めませんでしたが、巡回先を書かれておられるということはいづつやさんはカタログ求められたのかな。
お金払う価値がある展覧会でした。

投稿: oki | 2006.10.23 21:56

to okiさん
最終日はかなり混んでいたのではないでしょうか。
図録を毎日気持ちよく見てます。そして、“絵の教室”
(中公新書)をまた読み返しているところです。

投稿: いづつや | 2006.10.23 23:15

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